ケロンボノ
「ーーー・・こんなところだな。まぁ、この辺は他のメンバーも知ってる情報になる。」
「...ぁ..う...あうあう...」
その後、才亮は鍛錬の賜物で嫌に冷静になった彼女にウッシーでの家畜召喚獣が暴走した事案、ダコウの蛇型変異種の事案がそのヒトガタが関わっている可能性が高いという話を聞き、そこでパンクしてしまった。
『...んなぁ?』
半目で虚な状態になっている彼女を心配して、クゥさんは彼女の首に巻き付いて心配そうに顔を覗き見していた。
「一仕切り嘆いたら、さっきのところに来い。」
「うぅ...はい..」
これまでの場数的にもこの程度で足踏みするような新人ではないため、才亮は先のスーツの警察官の方へと向かう。
「あ...これ道の駅のふちもちパンいるか?」
背を向けた所でポッケの中に入っていたものを思い出した彼は、圧力をかけると雲のように膨らむレーションっぽい限定パンを彼女へ渡す。
「うぅ...食べます。」
しっかりキャッチした彼女は八の字になっている柴犬のような顔になりながら、ふわふわパンを齧っていた。
「・・牧場の関係者は一旦、ここに止まってもらう。」
短髪スーツの施設内の関係者にそう告げる。
「えぇ...っと、私らはここから出れない形ですか?」
「お、おい」
「あぁ、協力してもらいたい。」
この中で一番若いであろう飼育員がそう聞くと隣にいた先輩社員が諌めるが、短髪スーツはその子の目をロックオンし、あくまで任意という程でお願いをした。
「いや、え..そんな、全然問題はないのですが...」
「すみません、こいつ一年目なので...」
他の牧場社員らは明らかにヤバい状況になっているとわかって大人しくしていたが、その辺に疎かった新人が声をあげてしまったため、先輩が彼の頭を下げさせて場を収めた。
「...必要なものがあったら言ってくれ、我々が調達する。業務は我々の管理下にはなるが隔離外であれば続けて構わない。以上。」
連絡と指示を終えた彼は上司らしい人から業務内の指示をしているのを確認し、さりげなく手鏡をしてから、小さく息を吐き喫煙スペースへと向かう。
「...スゥ、」
現場の羊舎から少し離れた喫煙スペースにて、36時間勤務中の太陽に温められたのどかな風に目を細め、ささやかな一服を堪能していた。
「....あー...大丈夫か?そいつ」
というのも束の間、短髪スーツは、金髪の管理官が連れてきたあうあうしている新人管理官に触れざるおえなかった。
「ぁ....ぅ.....」
「あぁ、こいつはもう立派な即応科隊員だ。」
補給食を食いながらにして虚の状態になっている時雨であったが、才亮は特段気にしている様子はなかった。
「?....そ、そうか」
才亮が連れてきている時点で新人といえども生半可な管理官ではないと、最後に深くタバコを吸って灰皿へと火種を押し付ける。
「人払いは?」
「済んでる。初動時からここは囲ってる」
短髪スーツは遅れて来た玄道の投げかけに短く答える。
「やっぱ、夜か?」
「あぁ...こっから増やせば怪しまれる。最悪の事態でも俺の囲いの中で封じ込め、足止めくらいなら全うできる。」
「妥当か」
「いやいやいやいや...え、サラッと私たち楔になる感じですか?」
才亮と彼、玄道らとの間で淡々と話が進む中、大分回復してきた時雨はツッコミを入れるが、彼らは面持ちは変わらずとも空気感がきょとんとしていた。
「無論だ。」
「その方が最小限で済むだろう」
「....Oh」
新人管理官、時雨千智が頭即応科の彼らの感覚に追いつくのはそう遠くなかった。
その後、夜まで待つ間に囲いの見回りとして時雨は短髪スーツと共に行動することになった。
「....」
「....」
追加の装備を受け取りを注文した彼らはそれを受け取りに行き、流れ的に時雨は短髪スーツと共にする事になったが、20分ほど経っても両者特に会話はなく、彼は黙々とウェアラブル端末と右手の甲に刻まれている印を重ねては離しを繰り返していた。
「...あの、そういえば。お名前は..」
「...あー、言ってなかったか、公安の杉山智宏だ。よろしくな。」
「あ、どうも。今更ですが、即応科隊員の時雨千智です。」
彼らは色々とバタバタしていて遅れた自己紹介と握手を交わした。
「あぁ、お噂はかねがね聞いている。」
「!...あれ、どこかで会ってました?失礼を?」
「会った事はない。ただ、初日にチーズ背負って囮になったり、暴走ウッシー相手にダンス踊ったとか、賑やかな一年目だな。」
前から知っているような言い草であったが、思ったよりガッツリ知られていた。
「っ..うぅ、間違いじゃないのが...納得なりません...」
大体事実なのと思い返せば一年目の新人にさせるような事じゃないなと眉間に皺を寄せていた。
「まぁ、関東庁には汐留もいるから多少はな」
「多少...」
死ぬ以外かすり傷みたいなニュアンスを感じ取り、公安も即応科クラスの任務が多いのだろうと嫌にわかってしまった。
「...才亮さんとは付き合い長いのですか?杉山さんから見てどんな人です?」
なんとなく同世代くらいの距離感であったため、何気なしにそう聞く。
「付き合いはそこそこだが....うん、俺もあんま知らんな。」
一度立ち止まり、彼女の問いに少し上を見上げた彼であったが、彼から見ても掴みどころのない人であった。
「そう、ですか..」
立場上諸々を抱え込まないといけないのも理解していたが、だからなのか一年目といえども彼におんぶに抱っこで居続けるのは嫌だった。
「心配するな。あいつは何があっても部下の味方だ。」
再び歩き出した彼は歩みを止めずに、顔だけ彼女の方を向いて呟く。
「....っ、はい。」
第一印象としては、短髪スーツこと杉山智宏に対し警察のスーツ組特有の隙のない雰囲気を感じていた。
とはいえど、才亮や玄道など特有の精神が締まっている空気がなく省エネで淡々としており、怖さはなかった。
「ただ....」
しかし、端目でこちらを見ながら声音を変えずにそういう彼は警察庁公共安全保障局の人間である事を思い出させた。
「...お前が工作員でなければ、の話にはなるな」
ーーーゾッツゥ
「っ!...は...」
幾何学的なモノが体を貫通し、彼女は直様貫通した胸を確認したが、幸い風穴は空いては居なかった。
『うペー...』
「わっ...ん、か、亀さん?」
嫌に残る先の心臓を触られるような違和感を嗜めていると、顔の目の前につぶらな瞳をした亀型召喚獣が現れた。
「あっ..おま、勝手に...」
『うペぇー』
おそらく召喚主であろう杉山は意図せずに現れた亀型召喚獣を捕まえようとするが、幾何学体の雲に乗っかり宙に浮かびながら時雨の頭上をくるくると回っていた。
「ふふっ...こーら、あんまり困らせたら、めっ!ですよ」
『...うぴぃ』
甲羅が足や額へと発足している小振りな亀型召喚獣は、時雨の注意にしゅんとしてしまった。
「うぅ...そんな目で見ないでください....許しますから」
『ぴぃ...うぴーっ』
うるうるとした瞳にやられた時雨は指の甲で亀型召喚獣ケロンボノの顎下を撫でる。
「ふふふっ...結構ひんやりしてますね」
『....スンスン...んぁ』
どこからか現れたクゥさんはケロンボノをクンカクンカしながら、肉球をペタペタと甲羅に押し付けていた。
「そうですよね、程よいひんやりさというか」
なんとなく通じているのか、時雨はクゥさんの感想に同調した。
(あれが、こいつの...)
無敵ではなくとも任意に制限をかけ、結界内の人数と召喚獣の数をカウントしているにも関わらず、無から現れた黒猫召喚獣を前に一歩引いて観察していた。
「...つぅ、やっぱり面食いだったか、ケロンボノ」
のだが、明らかに聞き分けができているパートナーの様子から、面の良い女には従順という特性の方に辟易していた。




