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それからステラは、まだ何かあるのか後ろにいた侍女の方に視線をやる。つられてルーナもその方向を見ると、イザベラの後ろに控えていた侍女が、丸められてリボンが結ばれた書類のような物を捧げ持って前に進み出た。
リボンには、貴族録で見たことのある家紋の封蝋がついていた。皇后陛下の生家、ガルシア公爵家の家紋だ。
アメリアが皇太子からの贈り物を机に置き、慌てて侍女より差し出された書類を受けとる。
ルーナが公爵家の家紋におののき後ろに一歩下がると、ステラは少し不満そうに片眉をあげた。
「これは私からのお詫びの品なんだけど、受け取れないってことは許す気はないってことかしら?」
「いえいえいえ!ありがたく拝受いたします!」
あまり貴族同士の交流をしたことはなかったけれど、些細な行動が命取りになることを忘れていた。ただあまりにも詫びる態度ではないので、仕方なく来たというのがありありとわかる。
とりあえず、喜んでる風を装ってニコニコと書類をアメリアから受けとり、封蝋を剥がすと、補足説明をするようにステラが告げた。
「母の生家が経営している、ガルシア商会への紹介状よ。1着ドレスをプレゼントするわ。」
「え!ガルシア商会の!!」
ガルシア商会は、ステラが言った通り、皇后陛下の実家であるガルシア公爵家が経営している商会のことだ。幅広く品物を取り扱っているけれど、メインはドレスと装飾品。
ただ公爵家が取り扱っているだけあって、かなりの高級品。
ルーナの家では到底手が出せない品物ばかりを取り扱っていて、名前を聞くだけで背筋が伸びてしまう。
「だって………貴方の服、古いんだもの。ダサいわ。」
そう言って、ステラは上から下までルーナを値踏みすると、大きくため息をつく。
ステラの抉るような一言に、ルーナは固まった。
ルーナの着ているドレスは、亡くなった母が着ていたものを自分のサイズに直している品で、10年以上前のものだ。
とはいえ、流行のものを購入できるような資金もなく、一応首都で流行しているものを姉がお茶会などで情報として仕入れてくれたのを参考に、ベネット領の衣料品店で多少リメイクしてもらってはいる。
ただ遠い領地なので、首都から情報が入ってきたときには、首都では違う流行ができてしまったりしているので難しい。
ルーナがダサいと言われたドレスの裾を掴み口角をひくつかせると、ステラは続けた。
「その無駄についたフリルも貴方には似合わないわ。もっとシンプルなものの方がいい。そのドレスの色も貴方の顔の色とはあってない。とにかく、似合ってないの。ドレスに着せられているみたい。合ってるのはサイズだけね。」
ステラは襟ぐりにあったレースのフリルを掴むと、ルーナのドレスをさんざん酷評した。
ルーナはぐうの音もでず、乾いた笑いだけが口から漏れる。
「そんな格好で父と母が参加する晩餐会に行ったら笑い者よ。とりあえず商会にあるドレスを何着か持ってこさせるから、サイズが合うものを着るか、私のを貸すわ。貴方みたいな格好の人がお兄様の后候補ですなんて紹介されたら、お兄様が恥をかくもの。」
自分は自領に帰るつもりなので自分が恥をかくのはかまわないけれど、皇太子に恥をかかすと言われたら流石に悩んでしまう。
ただルーナとしては、相手が皇姫と知らずとはいえども、はるかに身分の高い相手に思い切り啖呵を切ってしまったので、髪飾りと一緒にドレスまでいただいてしまっては、たとえお詫びとはいえ気が引けてしまう。
「あ、ありがとう存じます。そこまでしていただかなくとも……私もいろいろ言ってしまいましたし。」
売り言葉に買い言葉ではあったけれど、相手の身分を考えて話すべきだった。よくよく考えたら黒歴史3つ目だ。
ルーナがしおしおと身を小さくすると、
「いいのよ。お兄様との会話を聞いてたと思うけど、わざと后候補に上の立場から嫌みを言って后候補を辞退させてきたのは私だもの。それにお兄様もその情報を仕入れていたから、わざと後宮に行かないって情報を流して私を泳がせて、貴女を囮にしてその現場をおさえた。それを悪いと思ったからこそのお詫びよ。貴女は気にすることなく受けとるべきなの。被害者なんだから。」
ステラにそう言われてしまっては、受け取らないわけにはいかない。書類を胸元でぐっと掴み、頭を下げた。
「ありがたく頂戴いたします。」
「ちなみに、今回は晩餐会に間に合わないから急場しのぎで商会の既製品を贈るか、私のドレスを下賜するけど、お詫びとしては1着貴女に合うものを誂えるからそのつもりでね。」
「え!」
それではいただくドレスが増えることになるし、割に合わないはずだ。
ルーナが驚き顔をあげると、ステラはフフンと得意そうに笑った。
「私の嫌みに対して反論してきたのは貴女だけよ。だから、気に入ったの。妃候補として認めてあげる。でも、そんなダサい妃候補なんてお兄様にふさわしくないから、貴女に似合うドレスを用意したいってだけ。要は自己満足。拒否は認めないわ。」
相手を誉めたいのか貶めたいのかいまいちわからない言葉に、ルーナは苦笑した。ただルーナとしては、すぐベネット男爵領に帰るつもりだったので、あまり喜ばしい状態でないのは確かだった。
こうなったら皇太子の方に嫌われて、帰る理由を作るより他ない。
平穏無事に領地に帰るのだ。
心の奥底で、ルーナは誓った。
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