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 その迫力美人はルーナに歩み寄ると、艶やかな髪をさらりとかきあげ、



「貴女が昨日来たというご令嬢ね。確か、ルーナさん?」



 そう言って、自分が一番美しく見える角度をわかっているかのように、頬に手を当てて小首をかしげて見せた。優しげな微笑みをたたえているけれど、その目は値踏みするようにルーナを一 べつする。



「ベネット男爵家の次女、ルーナと申します。失礼ですが貴女様は?」



 ルーナが昨日来たこと知っているということは、王室に関係がある令嬢に違いない。

 しかもルーナの名前を知っている辺り、後宮に来る予定の令嬢のリストのようなものを手に入れられるほどの立場だろう。

 そう察しがついて、敬意を込めて深く腰を下げて礼をすると、なるべく丁寧な言葉遣いを心がけて尋ねた。

 すると目前の令嬢は、そのままの格好で笑みを絶やさず答えた。



「初めまして。私はステラ・ガルシアよ。よろしく。」



 迫力美人ステラに自己紹介され、ルーナは慌てた。

 現皇后陛下の生家であるガルシア公爵家の令嬢ということは、皇太子ジュードのいとこにあたるはず。

 そこまでジュードの相手として良い家柄の令嬢がいるのなら、わざわざ他家の令嬢を招致する必要はなかったのでは。

 そんな疑問すらわくほど、ジュードの隣にならんだら美男美女として絵になる令嬢だった。



 ステラはルーナを上から下までわかりやすく凝視すると、クスッと嫌な感じの笑いを溢した。若干ばかにしたような笑いだった。



「少し小耳に挟んだ話だけど、ルーナさんは、デビュタントに参加していないんですって?」



 どうやらステラは、貴族としてマウンティングしているらしい。

 ばかにされるのはわかりきっていたので、そんなわかりやすいマウントはルーナに何の痛みも生じさせない。

 ジュードの言っていた迷惑をかける身内というのは、いとこのステラ嬢のことなのだと理解した。令嬢が来るたびに、このように相手の気にしていそうな点をつついて追い返しているのだろうか。



「ええそうです。我が家ではデビュタントに参加したのは姉だけです。」



 今さら隠しだてするつもりもなく、堂々とルーナが答えると、ステラは一度キョトンとした顔をしたが、気を取り直したようにまた意地悪い笑みを浮かべた。



「そんな人だから、品位というものがないのね。ジュード様からお聞きしたのだけれど、噴水の水を……飲まれたそうね?」



 ステラに痛いところを突かれ、うっと顔をしかめた。噴水の水を飲んだことを知っているのは、その場にいたジュードとイザベラくらいだ。

 いとこだということは幼い頃からジュードと交流があるのが想像がつく。ステラはジュードから直接、様々な話を聞けるほど、親しい関係なのだろう。

 恥ずかしい思いをしたのを思い出して、カッと顔が熱くなる。

 ステラはルーナが動揺したのに気づくと、更に畳み掛けるように続けた。



「そんな品性のない行動してジュード様の気を引くなんてね。そんな方の身内なんて、たとえデビュタントに参加していたとしてもたかがしれているわ。その領地も領民も、治める人間がそれでは………ねぇ。」



 気を引く?いや、そんなことはどうでもいい。たかがしれているって、何?

 大事な姉や領地、ましては領民すらもばかにする行為に、ルーナは我慢ならなくなり、鋭い目付きでステラに向けた。相手が高位の貴族だろうと、頭に血が登ったルーナには関係がなかった。ルーナは怒りを押さえもせず、低い声で淡々と相手に告げた。その目は完全に据わっていた。



「私のことなどどうでもいいです。いくら私がばかにされようがかまいません。でも、私の姉を、家族を、ましてや領民を蔑む言葉は直ちに撤回してください。」



 ルーナの怒りはとどまることを知らない。言わずにはいられなかった。



「私の家族も、領民も誇りをもって生きてきます。確かに私は品位のない行動をしたかもしれません。でも、何も知らない貴女に、好き勝手に言う権限はないと思いますが?」



 怒りが頂点に達して、逆に涙が出そうになった。領民までばかにされて、悔しくてたまらない。

 これ以上言葉を発すると、涙が溢れて止まらなくなりそうだ。

 ルーナがグッと唇を噛み締めて下を向くと、途端、ドンという大きな音が聞こえた。



「え……?」



 顔をあげると、目を大きく開けてルーナの背後の何かを凝視するステラの姿が見え、ルーナはゆっくりと振り向いた。

 するとそこには、今日は後宮には来ないと聞いていたジュードが、壁に拳をめり込ませているが見えた。

 壁は大きく凹み、侍女のアメリアが口許を押さえてその凹みを見て顔を青ざめさせていた。

 ルーナは怒りに我を忘れて、傍にアメリアがいたのをすっかり忘れていた。

 ジュードはつかつかとルーナの横を通りすぎると、ステラの手首を強く掴んだ。



「痛っ!痛いわ!」


「痛いわ、じゃない。早くベネット男爵令嬢に謝れ。お前がまた後宮に向かったと聞いて、連れ戻しに来たんだ。何度同じことを繰り返す気だ。」


「だって、お兄様の結婚相手は私の義姉あねでしょう?私にいびられたくらいでいなくなるような相手、お兄様に相応しくないわ。」



 ステラはなんとかジュードの手を己の腕からはがすと、赤くなったその手を擦ってみせた。

 2人で言い合いになっているところ悪いが、騒ぎで涙が落ち着いたルーナは、2人を見比べて口を開いた。

 2人を並んでみれば、美男美女だが確かに似ている。目とその鼻筋、唇の形も。



「え……と………お二人の関係は、もしかして兄妹ですか?」



 デビュタントに参加していたならば2人の関係性に気づいただろうけれど、生憎参加していないので全くわからなかった。

 ルーナの問いかけに、ステラは大きく息を吐き出すと、気を取り直すように笑顔を浮かべた。



「騙してごめんなさい。私の本当の名前は、ステラ・バルカス。皇太子ジュード・バルカスの妹よ。」



 ステラが舌を出すと、その反省の足りない態度に、ジュードはステラの片耳をぐっと引っ張った。



「痛い!もう、わかったわよ。ごめんなさい、ルーナさん!」



 耳を引っ張られた拍子に叫ぶようにステラが謝ったので、ルーナはジュードの腕を引いて止めた。

 相手の言葉にのせられたとはいえ、ルーナは少し怒りすぎたと反省していた。

 元はといえば、ベネット男爵家の代表として恥ずかしい行動をとらないように気をつけるべきだったのに、迂闊な行動をした自分が悪い。



「もういいです!わかりました!事情はなんとなくわかりましたから!」

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