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第22話 うちの上司は平均より上だと理解する。

「あー、もう戻っちまったか」


 仕事場に戻った時、俺は若干の悔いを残していた。

 あのゲルスとか言う優男大丈夫だろうか?

 柄にもなく他人を心配した山形。


「まあ、悩んでも仕方ないか」


 だがそこは楽観的な男、なるようになるだろう思想の持ち主。

 思考をきっぱりと切り替えて日常へと戻るのだった。


 ちなみに。


「あれー? トイレットペーパーどこー?」


 左腕にサ◯コガンの如く装着していたトイレットペーパーが消えていた。


「まあ、悩んでも仕方ないか」


 ここも華麗に楽観スキルが発動してた。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



「やあ、山形君どこ行ってたんだい?」

「………….」


 ここも冷静に楽観スキルを発動す……。


「黙秘権かい?」


 チェーン魔法『黙秘権かい?』が発動。

 楽観スキルの効果が打ち消された。


「トイレットペーパーが……」

「ん?」

「………トイレットペーパーが無かったんです」

「……………」


 意味不明なカードが発動!


 文字通り意味不明だ。

 相手は困惑する。


「訳がわからないよ」


 上司の訳がわからないよ発動。

 相手はマミる。

 ちなみに、上司は魔法少女ではない。

 ただの中年だ。


「ほんとは?」


 意味不明なカードを切ったのに、上司の追求で元の状態に戻った。

 これはいけない。


「実はですね」

「うん」

「外回りに……」

「へー」


 上司の冷たい目が更に冷たくなる。

 これはしくったか?


「山形くん、最近の君はおかしいぞ」


 おっと? この流れ、まじか。

 行けるんじゃね?


「え、あの」

「本当に悩みがあるんじゃないか」


 そう言いながら心配そうな目をしてくれる。

 これ、マジだ。


「君が前から元気が無いのは知っていたよ、昔は元気だけが取り柄なんて言われてたしな」


 ん? あれ、俺も元気だけだったパターン?


「私はね、若いうちは元気さえ有れば良いと思ってるんだ、若く元気なだけで大抵のもんは乗り越えられる」


 ……。


「でも、1年過ぎれば元気なんてものは消えていく。 それが慣れなのか怠慢なのか分からない。 けどな、最近の君は何故か活き活きしてるんだ、何故かは知らないがな」


 そうなの? 気付かなかった。


「それが私には嬉しかった、乗り越えたと思った。 趣味でも見つけたのかと、でもなチグハグなんだ」

「チグハグ?」

「君のやる気と行動がだ」


 やる気と行動?


「あの意味が……」

「最初はサボりだと思った、けど君の勤務態度は前より良くなった。 何かに追われているように、必死だ」


 そりゃまあ、いつ召喚されるとも知れぬ身なので。


「だが君はコンスタントにサボる、そう定期的にな……もしかして平日の昼間に習い事始めた?」

「いや、流石にそんな非常識なことしません」

「そう、非常識なことしてる常識はあるんだ」


 あっれ? これ世間でいう誘導尋問ってやつだぞ。


「そんな常識を持った非常識な行動をする山形君に聞こう」

「はい」


 これ詰みってやつです。





「…………私はそんなに頼りない上司か」

「……」




 …………。


 …………あ、マジだ。


 マジも本気だ、真面目な顔だ、真剣な目で俺を見つめている。

 いきなり過ぎませんか、もっとこうムードとかありましたよね?


 笑って済ませるレベルを超えてきた。

 いや。

 市川課長は敢えて踏み込んで来た。


「なんでですか」

「何故とは?」


 俺はあんたにとっても会社にとっても取るに足らない人材なんですよ。

 窓ばっかり見つめて、やる事やらないで。

 惰性で出勤して、退勤まで暇を潰して。

 自分から望んでそうなって。でも気付けば刺激が欲しくて。


 妄想して、努力せず。


 そんな俺に何で気にかけるんですか。


 あと、いきなり過ぎます。


「俺なんかに目をかけても意味無いっすよ」

「それは無い、お前はやれば出来る奴だって知ってる」


 そんな無責任な。


「いやいや、そりゃ無いですって」

「そうか? 俺はそう思わない」

「……」

「俺はな課長だ、課長ってのは上司の愚痴を聞く係だ」


 いやな役目ですね。


「だけどそれだけじゃない、課長は部下の面倒をみるのも仕事だ」


 その部下は私です。


「山形の他にもいる、睡眠王三橋とか外回りと言う名の脱走王影井とかな。 あとマドンナにしては行き遅れた矢代とかな」


 碌なあだ名がいねえ。


「そして堕落王山形」


 俺そんなあだ名ついてたの?!


「お前は今変人王山形に変わりつつある」


 俺のあだ名大変なことになっとる!


「そ、それは知りませんでした」

「ああ、私が勝手にそう呼んでる」


 お前かよ!


「つまりだ、お前は変わろうとしている。 変化しようとしている! だから変人王だ」


 そっちの変わるかよ! 紛らわしいなあ!?


「そんなお前を、俺は見捨てない。 変わろうとしている奴に俺は協力を惜しまない」

「あ、はい」


 なんだろう、なんかすーと胸に入ってこないなあ。

 俺のA◯フィールドにいつの間にかシリコンが入ったみたい。


「だから、な?」


 俺の肩を叩いて課長が笑顔を浮かべた。





「徹夜しようぜ」



 俺はその日平社員にとって上司とは何かと言う問いに対して長年の疑問が解決された。


 山形にとって上司とは。



 鬼である。



 慈悲はない。



 山形、徹夜明けが決定。

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