第17話 幕間 こちら市川、山形応答セヨ。
「あの、すいませんラストオーダーの時間なんですがご注文はございますか?」
私は、とても、とても悲しい。
昼間のハイタッチとは一体何だったのか。
時計を確認する。
「……23時28分か」
「あの、お客様?」
遅いなー。
山形くん、遅いなー。
おじさん涙出てきちゃう。
「聞いてます?」
最近の若い子の気持ちとは分からないものだ。
世間でいうこれがドタキャンってやつか。
「ご注文ないっすねーあざっしたー」
もしかしたら、山形はNOと言えない子なのかもしれない。
こちらの誘い方が悪かったか……。
……先ほどから、もしかして私は声をかけられてないか?
「はい?」
声を出して振り返ってみたが、誰も居なかった。
……なんだ幻聴か。
細かいことは気にしないで行こう。
それにしてもラストオーダーがいつも来る時間なんだが、今日は来ないな。
おじさんが一人お酒飲んでたから配慮してくれたのかな。
若い子にも見習ってほしい接客だな。
「すいませんビールお代わり!」
私はジョッキを掲げてお代わりを催促した。
「あー、もうラスト終わったんでー、無理っす」
あれ?
「へ? もう終わってた?」
「うっす」
終わってたらしい、なんて事だ。
私のエナジードリンク(酒)が切れてしまった。
それにしても。
「きみ若いね、いくつだい?」
「18っす」
先程から話してた茶髪の従業員は18歳だった。
山形とは6歳違いか。
……誤差だな。
「なあ、最近の若者はなんで覇気がないんだ?」
「知らないっす」
なるほど。
「これでも課長なんだけど、最近の子の気持ちがよく分からなくてね」
「はぁ、そうっすかー。 空きジョッキ片付けますねー」
この会話中も間髪入れずに仕事をする、素晴らしい。
「君みたいな働き者がいる会社は幸運だな」
「あ、うっす。 箸とかゴミ片付けますねー」
どこで私は間違えたのか。
「私は君から見てどんな感じだ」
「あと閉店時間まで15分って感じっすね」
もうそんな時間か。
「そうか、ありがとう」
「うっす、会計はあっちっすね」
…………。
「もうちょっと居るよ」
「そっすかー、かーしこまりました! 蛍の光ながしまーす!」
店内から閉店メロディーが流れてきた。
……いつもより早いな。
「今日はいつもより早いね」
「ありがとうございまっしたー!」
私の声は威勢のいい声に掻き消えた。
……。
………帰らねえよ?
「君、あと15分だよね?」
「いえ、厳密にはあと13分と42秒っす」
帰らねえからな?
18の小僧の視線なんて効かないからな?
「あー、明日大学一限からとかつれーわ、早く帰りてー」
……。
「おい小僧」
「なんっすかー?」
舐め腐ってるな?
「お客様に対してその態度はなんだ?」
「あ、何か間違えてっすか?」
これは教育だな。
「まずなんだその「すっすっすっ」て」
「え? 「です」っていってますよ?」
え?
は?
「じゃあ「うっす」はなんなんだ」
「それは「押忍」が変じてなった口語ですね」
そうじゃない。
「いやそれでも、可笑しい。 お客様に対しての態度ではない!」
「いやおっさん、じゃあなんて言えばいいんだ?」
「普通に「ありがとうございました」で良いじゃないか」
何を言ってるんだこの子は……。
「ありがとうの意味は「滅多にない」って意味っすよ? だから漢字にすると「有り難い」じゃないですか」
そうなの!?
「いやそれがどうした」
「いや、なんで感謝を示すのに「滅多にないですー」は可笑しいっすよ」
そうなのか?
……あれ? そんな気がしてきた。
「……君なんでそんな詳しいだ?」
「俺、大学の専攻が言語学なんっすよ」
言語学!?
「道理で」
「もう良いっすか?」
何か腑に落ちないが言語学が相手では仕方ない。
ん? じゃあなんて言えば良いんだ?
ふと、考え込んでると向こうから声を掛けてきた。
「そうゆう所じゃないっすか?」
「ん?」
なにがだ?
「おっさんいつも悩んでるけど、そうゆう俺が正しいんだって、考えが悪いんじゃないっすか?」
「は?」
まさか、18歳の子供に指摘されると思わなかった。
しばしポカンと口を間抜けに開ける。
「部下にブッチされたんでしょ? 見りゃわかりますよ、俺も部下なら来ないっすわ」
確信をついた指摘だった。
「な、なぜだ! なぜこない!」
どうして? それが知りたかった!
「雰囲気っす」
雑!?
「は? 雰囲気?」
「そうそう、なんか学校の個人面談みたいな雰囲気なんっすよ」
あ、そゆこと。
「おっさんも個人面談とか嫌だったでしょ? あれっすよあれ」
私は知らないうちに彼らを、部下たちを拒んでいたということか。
「だから、もっとフレンドリーにすれば来るんじゃないっすか?」
フレンドリーか、難しいことを言ってくれる。
部下と上司は友達じゃないんだよ。
まだまだ青いな。
「あー、今みたいな顔っす、今みたいな「これだから若い奴は」って顔、その顔がダメなんすよ」
はえ!?
「見下してんすよ、部下のこと。 そんな上司誰もよって来ないに決まってんじゃないっすか」
意識したことすらなかった……。
「どうすれば良い?」
「だからフレンドリーに行けばいいんすよ、ガミガミ怒ってばっかなんでしょ」
確かに、怒ってばっかな気がする。
気を付けないと。
「後褒めてますか? 部下は褒めないと育たないですよ」
「褒める?」
「はあ、未だに厳しく接していれば部下は付いてくるなんて思ってないでしょうね?」
違うの?
「ダメダメ全然だめ、今の子は褒めないと成長しないんですよ。 SNSで友達と主に何やってるか知ってます? 可愛い! とか凄い! とか褒め合いですよキモいくらいに」
「……そうなのか」
「日常的に褒められて暮らしてる子に叱っても逆効果、クソだりーって言われるのがオチっす」
褒める、か。
「分かった、ありが……あ、感謝する!!」
「いえいえーはーい八番様お帰りでーす!!」
「「ありがとうございましたー!!」」
元気な声がこだまする、良いお店だな。
「ご馳走さま」
「はーい、ありがとうございましたー!」
店の前まで送ってくれた、今の子も捨てたもんじゃないな!
褒める、なるほど。
明日は褒めちぎってやろう。
絶対に怒ったりしないぞ!
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「やっと帰りましたね」
「ああ、あのおっさんのせいで閉店作業遅れたし」
閉店2分前に帰りやがって、さっさと帰れよ。
「…………はあ、クソだりー」
市川課長の知らないところで行われるエゲツない会話。
頑張れ課長! 負けるな課長!
「なんだよ『感謝する』って笑笑。 武士かよ笑笑」
………………負けるな市川課長!!




