↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後見人は均等に  作者: Quintet
第一章 雨のち晴れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/10

#4 煙と銀

広間に立っている山猫の構成員は、もう数えるほどしかいなかった。


十人いたか、いや、六、七人か。床には仲間の躯が折り重なり血の海が広がっている。燭台の灯りがその赤を照り返し、壁という壁が生々しい飛沫で染まっていた。


グレンは、その光景を見ていた。


そして、叫んだ。


「うおおおおッ!」


剣を抜き、彼は駆け出した。元騎士とナンバー3としての矜持と怒りが、恐怖を上回ったのだろう。


だがその足取りは無茶苦茶だった。怒りと絶望が、凄腕であるはずの男の剣筋を狂わせる。


女は静かにそれを受けた。


一合。二合。グレンの剣が火花を散らして弾かれる。三合目で、彼の剣は大きく流された。体勢が崩れる。


女のサーベルが、吸い込まれるように彼の首筋へと迫り、刃が一筋の閃光と化す。


俺は咄嗟に動いていた。投げナイフが指先を離れる。狙いは女の腕。武器を弾くだけにしたかったが、刃先は速すぎて視認できず。やむなく持ち手を撃つ。


女はナイフの方を――見もしなかった。ほんの僅かに腕を上げる。手甲が金属音を立ててナイフを弾いた。だが、その動きでサーベルの軌道が逸れる。


刃はグレンの首を捉えることなく、肩を深々と裂いた。頑丈な肩当てごと、だ。これがなければ腕ごと持っていかれたかもしれない。


グレンは悲鳴を上げて後ずさった。血が噴き出す。だが、致命傷ではない。


俺は間髪入れずに動いた。内ポケットから小瓶を抜き、床に叩きつける。ガラスが砕け濃縮された睡眠薬が空気に触れて急速に気化する。白い煙が爆発的に広がり、視界を覆い尽くした。


「退くぞ!走れ!」


うずくまっているグレンの腕を掴み、無理やり引き起こす。彼は呻きながらも抵抗しなかった。恐怖と痛み、出血で完全に戦意を削がれた男を半ば引きずりながら走り出す。


この騎士崩れの荒くれ者を始末する決断を下したばかりだったが、状況が一変した。死なせずに済むならそれに超したことはない。


グレンはナンバー3だ。生かしておけば交渉材料になる。山猫にも貸しをつくれる。後見人からの信頼に応えるためにも、より最善の選択肢を取る。


煙の中、俺たちは裏の出口へと走った。後ろから悲鳴が聞こえる。だが、振り返らない。今は逃げることが最優先だ。


出口に通じる階段まであと数歩。そう思った瞬間――


風が吹いた。


いや、今度も風ではない。背中越しでもわかる。これは斬撃だ。


煙幕が、一振りで吹き飛んだ。白い煙がまるで布のように真っ二つに裂け、瞬く間に消えていく。


俺は唖然とした。グレンを放し、振り返る。


女が数歩先に立っていた。サーベルを垂らし、静かにこちらを見ている。


ブラウンの瞳が燭台の灯りを映して僅かに輝く。銀の髪が、血の匂いを含んだ空気に揺れていた。


「……なあ」


俺は掠れた声で言った。


「あんた、一体何なんだ」


女は答えなかった。ただ一歩、前に進んだ。

その足音は、やけに静かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。