↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後見人は均等に  作者: Quintet
第一章 雨のち晴れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/10

#2 山猫の宴

翌日の夜、俺は応接室の隠し扉を開けた。

壁の裏側には狭いが整然とした武器棚が広がっている。短剣、投げナイフに小型の弩、煙幕弾そして幾つかの小瓶。毒物と薬物。後見人から叩き込まれた戦術の基本は「戦わずして勝つ」ことだ。使わないで済むなら、それに超したことはない。だが、使わねばならないことも時にはある。


俺は迷わず選んだ。短剣二本。投げナイフを四本。煙幕弾を二つ。それから小さなガラス瓶を一本。中身は濃縮された睡眠薬だ。空気に触れれば急速に気化する。風向き次第では自分も巻き込まれるが、使う状況ならそんなことは言っていられない。そして、普段の出陣ならまず開けることのないケースからも武器を見繕う。


腰の後ろに短剣を差し、胸元の内ポケットに小瓶を忍ばせる。投げナイフは上着の内側に仕込んだ。動きを阻害しない程度の装備。これ以上は逆に目立つ。


編集室に寄ると、リネットの机の上は綺麗に片付いていた。今日は早めに帰してある。余計なことを聞いてこなかったのは、彼女なりの気遣いだろう。


窓の外を見る。雨は上がっていた。だが、路面はまだ濡れている。月明かりが水たまりに映って、街の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせていた。


俺は新聞店の裏口から出た。石畳を踏む足音を意識的に消しながら路地を進む。


会場は、王都の外れにある古い倉庫街の一角だった。表向きは廃墟同然の建物だが、中は山猫の根城の一つとして使われている。本拠地ではない。奴らは主要な拠点を複数持ち、定期的に場所を変える。リーダーである頭目自身も滅多に人前に出てこない。用心深い連中だ。


十分ほど歩いたところで、俺は建物の裏手に回った。見張りが二人。一人は表門の影、もう一人は裏口の脇。どちらも物陰に隠れており、普通に歩いていれば気づかない。だが俺はこういう場所で育ったようなものだ。後見人に叩き込まれた経験が、自然と目を肥やしている。


俺はわざと足音を立てて近づいた。


「誰だ」


「王都の鷹から来た。リック・ギャラガーだ」


暗がりから男が現れた。背は高いが痩せ型で、目の周りに隈がある。山猫の構成員にしては線が細い。おそらくは情報担当か何かだろう。


「入れ。グレンが待ってる」


男はそう言うと、裏口の扉を開けた。中は薄暗く燭台の灯りがところどころに置かれている。だが、その灯りは意図的に配置されている。影を作るためだ。侵入者を迎え撃つための設計。


俺は階段を上がった。二階は広間になっていて、三十人ほどの男たちが思い思いに酒を飲み賭け事をし、武器の手入れをしていた。


だがその誰もがどこか落ち着かない様子だった。目が笑っていない。興奮と緊張が入り混じった空気。血の匂いがする前の、獣たちの息遣いだ。


広間の奥、一段高い場所に椅子が一脚置かれていた。そこに座っている男がいた。


グレン。山猫のナンバー3。四十がらみの男で髪は剃り上げ、顔には古い傷跡がある。右耳が半分欠けている。騎士団の下級士官だったという話を聞いたことがある。


「よく来たな、新聞屋」


グレンは立ち上がり両手を広げて見せた。親しみを装っているが、目は笑っていない。


「頭目は?」


俺がそう聞くと、グレンは肩をすくめた。


「あいにく、来られなくなった。急用だ」


嘘だ。頭目は最初から来るつもりなどなかったのだろう。血気盛んな部下たちに好き勝手にやらせて、自分は「知らなかった」と言い訳するつもりだ。


約束を破るための方便。用心深いだけでなく、狡猾な男だ。俺はこっそりとため息をついた。だが、表情には出さない。


「そうか。残念だ」


「まあ、座れよ。酒でも飲め」


グレンは部下に目配せをした。一人の男が杯を持ってくる。俺は受け取ったが、口はつけなかった。こんな場所で出された酒を飲むほど、俺も馬鹿ではない。

広間を見渡す。三十人強。山猫全体の三分の一程度か。


だが、相当念入りに準備している。床の一部がわずかに浮いている。トラップだ。天井裏には物音。弓兵が潛んでいる。壁際には槍が立てかけてあるが、あれはすぐに手に取れる位置だ。


治安部隊を待ち受けて、興奮している。まるで祭りも待つような顔をしている。だが、その祭りでは多数の人が死ぬ。


約束は守られない。頭目が来ていない時点で、それは確定だ。この連中は後見人との約束など最初から守る気はなかった。頭目は部下に「好きにやれ」と暗に命じ、自分は安全な場所から成り行きを見守るつもりだ。


やれやれ、と俺は悟られないように再度ため息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。