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二人目の聖女が頼りないため、転生失敗スライムが頑張ります〜愚かな人類は反省してください〜  作者: 文丸くじら
3束「転生失敗スライムの糸口」

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第95話「異議を唱えよ」

 降り注ぐ水の味は不味く、瘴気の森で味わった水とは程遠い。

 それは魔法で作られた水であることを、人型スライムは知っている。

 体の上にばらばらと砕け散って落ちてくるのは怒りの残骸。力を込めて上体を起こせば、壁際の魔導騎士のもとに多数の人間が集まっていた。

 

 気を失っているようで動く気配はなく、盾に使った剣の破片が周囲に散らばっている。

 令嬢が第二王子の手から離れて魔導騎士のそばでうずくまっており、聖女と男装女騎士が必死に声をかけている。

 間抜け騎士が盾で全員を隠しているが、迫ってくる第二王子に対してもガタガタと震えているのは目に見えていた。

 

「ケイジさん、起きてください!」

「ドラコー殿!」

「馬鹿め、そいつはもう再起不能だ!」

 

 優越の笑みを浮かべる第二王子のそばに処刑人はいない。折れた斧に代わる道具を取りに行ったらしく、今は数人の騎士を侍らせていた。

 扉から脅威が遠ざかったのを合図に貴族達も謁見の間に足を踏み入れ、大神官は神官長から少し離れて人型スライムに近い位置へと移動している。

 

「服をどうぞ」

 

 そっと小声で話しかけてきたのは老執事だ。誰かに見られても平気なように服装や髪型を変えており、燃えて全裸になった人型スライムに服を渡すとすぐに姿を消した。

 今さら服を着ても変わらないだろうと思いながらも、不躾な視線に晒されるのも不満だったので着替え始める。

 その間も聖女達は少しずつ追い込まれており、謁見の間の奥で逃げ場がない。青い瞳で映るのは、覆すのが難しい場面だ。

 

「さあ、聖女!その身を竜に捧げ」

「お待ちください。バラン王子」

 

 戦闘を終えたにも関わらず、骨壷騎士が剣を鞘に収めないまま第二王子へ話しかける。

 血を一滴も流していないというのに、吐き出される息が血潮のように熱がこもっていた。

 蒸気で満たされた室内は天井の穴のおかげで少しずつ冷えているが、骨壷騎士の周囲だけが異様な熱気に包まれている。

 

「な、なんだ……」

 

 指南役として育てられたことから、第二王子は骨壷騎士の言葉には必ずと言っていいほど耳を貸す。

 そんな彼でさえ初めて見る骨壷騎士の戦場帰りに近い雰囲気に圧倒され、若干腰が引けていた。

 

「何故、勝負の邪魔をされたのですか?」

 

 悔しそうに歯を食いしばる姿は、本気を出した戦いを邪魔されたことへの怒りを噛み砕いているようだ。

 血焼け戦争以降は大きな戦争は勃発せず、浄化遠征や魔物討伐等が騎士団の主な仕事だった。対人については経験不足が問題視されている。

 特に骨壷騎士のような強さが桁違いになれば、常時制限下という不自由を強いられている状態だ。

 

 本気を出せたのは何十年振りだろうか。

 しかも相手は魔法も使う、伝説の血筋。若い才能が花開き、怒りによって加減なしで勝利を掴もうとした。

 そのことに骨壷騎士も笑みを浮かべた。しかし負ける気は毛頭もなく、勝利の糸口を自力で掴み取ろうとした瞬間。

 

 魔導騎士の意識がブレた。

 それがあまりにも興醒めで、口惜しい。

 

「私の勝利を疑ったのですか?」

 

 第二王子の仕掛けた内容は稚拙で、骨壷騎士にとっては侮辱だった。

 身命全てを王族のために費やしてきたという実績を、国のために忠誠を誓った誇りを、踏み躙られた気分である。

 

「か、確実な勝利には必要不可欠だった!文句あるのか!?」

「それは私が二十代の若造に負けるとお考えになったのですね?」

 

 骨壷騎士の圧に負けかける第二王子の様子を、人型スライムはじっと観察する。

 羽虫を追いかけるように瞳がきょろきょろと動き、次は静かな国王へと視線を移動させる。

 誰にも気づかれないように少しずつ移動しているが、その真意を知るのはとても難しい。

 

「お前、こいつと仲良くしてたじゃないか!」

「監視という業務上、交流悪化による問題発生を防ぐためです」

「手加減するかもしれないじゃないか!」

「王族よりも優先することなどありえません」

 

 魔導騎士との戦いは、国王から「聖女を捕まえろ」と言われた際に妨害されたから発生した余分である。

 本筋は今も変わらないが、魔導騎士という戦力を失った彼女達に今から逃げる手段など限られている。

 だから第二王子に詰め寄って問いかけている。王族の信頼を、王宮騎士団の隊長へ正しい対応をしているか。

 

「私の命令は遂行できなかったくせに!」

「その件は説明申し上げたはずです。だから生贄として活用できるようになったのでは?」

 

 怒っている。骨壷騎士が第二王子に反発しているのだ。

 それを大勢の貴族に見られてしまったことに、第二王子の顔が赤くなっていく。

 意見を押しつけない奥ゆかしい性格を気に入っていたのに、何かが狂っていると歯噛みする。

 

「はいはーい、そこまで」

 

 砕けた口調に戻した国王が、骨壷騎士と第二王子の間に割って入る。

 すると骨壷騎士もそれ以上は言葉を続けず、王に対しての正しい礼儀である姿勢で頭を下げた。

 

「言っとくけど、ワシは生贄にするために捕獲を命じたわけじゃないし」

「え?」

 

 驚きで目を丸くする第二王子に対し、国王は呆れたように息を吐く。

 

「これ以上聖女捜索で人手とか割きたくないし、竜と貧民街の問題を抱えたまま放置したくないだけ」

「し、しかし竜は神子を探していて……」

「まあ第一王子の報告で竜は区別ついてないみたいだけど、悪手じゃん」

「……?」

 

 本気で理解していない第二王子の表情を見て、国王は呆れを通り越してしまう。

 第一王子を蹴落とすためにあらゆることを学んだせいで、物事の手段や目的に必要な過程――全てが未熟になってしまった。

 

「竜に生贄捧げて、貧民街の瘴気はどうするつもり?」

「それは……竜に……」

「竜に浄化の力はない。魔法使いを投入するとして、不足する分は他国に貸し作るわけだけど、どれくらいかかるの?」

「えーと……」

「その間に避難民の生活保障や食事については?財政だって苦しいじゃん」

 

 政治的な視点で責められて、第二王子の言葉は消えていく。

 状況が変わったのか、それとも別の思惑が動き出したのか。聖女達も黙って国王の言葉へと耳を傾ける。

 貴族達も一触即発の空気が和らいだことを感じ取り、それぞれの考えを小声で囁いては騒めきに変えていた。

 

「な、らば……竜には俺が、でます……」

「ケイジ様!?」

 

 婚約者の腕を縛っていた縄を取り払い、その華奢な体に支えられて上体を起こした魔導騎士が名乗りを上げる。

 壁に打ちつけられた衝撃で肋骨が折れているのか、胸を押さえながら苦しそうに息を吐いている。臓腑も傷ついたのか、口の端からは血が流れていた。

 

「竜はきっと浄化の力で神子を見分けます……俺ならば、力が弱まったと言えばある程度は……っ、納得してもらえるかと」

 

 咽せるだけで血の滴が絨毯を赤黒く汚していく。魔法に治癒という概念はいまだ遠く、魔力があっても術として確立していない。

 傷ついた体をそのままに、魔導騎士はどうにか言葉を紡いでいく。

 

「第二王子へ敵意を向け、王にも牙を向けました。

 罪人の処分として妥当かと思われます」

「それを罪人自ら告げるのやめときな?信じられないとか言われるよ」

「他に良案は?」

「特にない。ま、いいよ。じゃあ竜は……」

 

 魔導騎士の提案を採用しようとした国王の前で、腕が大きく伸びた。

 

「異議あり!!」

 

 元の世界で遊んでいたゲームの主人公のように、聖女は力強く流れを止めるのだった。

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