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二人目の聖女が頼りないため、転生失敗スライムが頑張ります〜愚かな人類は反省してください〜  作者: 文丸くじら
2束「糸を束ねよ無縁の聖女」

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第39話「頭角魔物」

 一晩かけて作戦会議が行われ、即席護衛隊を筆頭に聖女を守りながら浄化を行われることが決定した。

 不良騎士達は緊張で体を硬くしたが、冷や汗騎士は若侍女に心配してもらえたことで元気百倍である。

 ハナヤ達など他の騎士は魔物の群れ退治と避難所の安全確保に努め、避難所の人間達には外に出ないよう強く言い聞かせる。

 

「ふひひ。拙者の新作が唸る時が来たでござる!」

「実際になんかうるさいが、どういう機能だ?」

「それはお楽しみに」

 

 ウィンウィンと動作音がする箱。側面の一つには丸い水晶玉が嵌め込まれており、人型スライムからしたら「また変な絵を作るのか」という具合だ。

 不良騎士と間抜け騎士はかちこちな動きをしているが、酔っ払い騎士が「気軽に行こうぜ〜」と腑抜けているので、男装女騎士が気合いを入れようと大声を出す。

 魔道具愛好騎士は新作を試行できる機会としか考えておらず、冷や汗騎士も好感度上昇の好奇到来と浮かれていた。

 

「お前達、騎士仲間と戦うことになるかもしれないが……いいな?」

 

 魔導騎士の問いかけは冷や水を打つように、六人を静かにさせた。

 一定の沈黙。死体が消えた二名は神聖騎士団と王宮騎士団所属であり、血塗れで息絶えたのは魔導騎士団所属の若い騎士だった。

 騎士服を着たスケルトン。その数が増えていくことを考え、緊張感を与える。

 

「聖女様!」

「はいっ!?」

 

 人型スライムの近くで両手を組んで緊張していた聖女に、不良騎士がズカズカと近づいて大声を出した。

 短い銀髪に、鋭い黒の三白眼。野生的な印象の青年で、年齢も近い。顔立ちが整っているので、楽観的な状況だったらイケメンだと思っていただろう。

 しかし真剣な表情で睨まれていると、失敗したら怒られる以上のことが起きそうだという迫力を感じ取る。

 

「信じてるっす!」

「……はい?」

「聖女様は成功する!俺達全員、その気持ちで貴方を守らせていただきます!」

 

 ざっ、と今までの素行からは感じられないほど美しい姿勢で跪く。

 それに倣うように残りの四人も同じ姿勢になり、聖女に向かって首を垂れた。

 

「俺のセリフを取んなって」

「いてっ」

 

 冷や汗騎士が肩から力を抜き、頭を下げる不良騎士を軽く小突いた。それでも姿勢が崩れることはない。

 即席護衛隊の代表として、一番前で冷や汗騎士も跪く。聖女が今まで見たことがない、彼の一番真剣で騎士らしい姿だ。

 

「我らは命を賭し、貴方のお力になります。

 どうか哀れなもの達のため、浄化を行なってください」

 

 淀みのない宣誓だった。

 しかし聖女は静かに異を唱える。

 

「哀れじゃないです」

 

 誰もが目の前で生き足掻いている。つらくて、悲しくて、託すことしかできないとわかっていても。

 弱音を聖女に見せなかった。祈るように声をかけて、期待を乗せてきた。

 それがあまりにも重いから、逃げ出すこともできないけれど。立ち向かっていく勇気と、踏みとどまる決意になった。

 

「私より強い人達です」

「……っ、ありがたきお言葉です」

「それに浄化成功は私のために必要なので、そんな気負わないでください」

「かしこまり……ん?」

 

 少し話がズレた気がするので、冷や汗騎士は顔を上げる。

 目前には照れ笑いを浮かべる少女が、ギラギラとした期待を栗色の瞳に宿していた。

 

「私、人を助けられる自分になりたかったんです」

 

 元の世界では普通の女子高生で、記憶の底には災害をテレビ越しに眺めていた小さな傷。

 それが異世界では聖女となってしまった。最初は馬鹿みたいに浮かれていたが、今は違う意味で熱を上げている。

 

「聖女として誰かを助けられるなら、やってみたいんです」

 

 心の底からの言葉だった。嫌になるほどの強い光を放つ感情は、夢ではなく野望に近い。

 だから誰かのためなど口に出せない。聖女は自分のために、異世界で人助けを行いたいのだ。

 記憶の底でうずくまっている幼い自分を救うのは、今なのだと感じながら。

 

「なので絶対に守ってください!私、めっちゃ弱いですから!」

 

 思考を掠めた魔物の群れの脅威。それに覚えた恐怖を振り払うように、即席護衛隊達に向けて大きく頭を下げた。

 その桃真珠色のローブマントがあれば大抵の攻撃は防げるのだが、それがなければ瓦礫一つでお陀仏確実な少女なのである。

 聖女という遠かったはずの存在が近くに来たことで、彼らはそんな当たり前のことをようやく自覚できた。

 

「エリ、行ってくるね」

「お気をつけて!」

 

 涙ぐみ、避難所から離れられない若侍女は小さく手を振る。

 その表情は不安と信頼がぐちゃぐちゃに混ざっており、人型スライムは静かに観察していた。

 視線の先はエプロンドレスのポケット。そこから伸びる糸の先と、色を確認しておく。

 

「ほら、いくぞ」

「わかった」

 

 魔導騎士に連れられ、足先を浄化の目的地へと向ける。

 避難所から響く声援が遠くなり、気配のない荒地へと行軍。ハナヤを先頭に、周囲への警戒を怠らない。

 男装女騎士と冷や汗騎士が聖女の馬車に同乗し、それ以外は馬車周辺を警戒。聖女の要望により、魔導騎士と同じ馬に乗っている人型スライムも馬車近くの配置となっている。

 

 緊張の重みで潰れそうなほど、静かな移動だった。

 それを打ち破ったのはハナヤの馬めがけて放たれた火矢が、ヒュッという音を立てた瞬間だ。

 一息で剣を鞘から引き抜き、火矢を払い落とす。しかし矢は空を埋め尽くさんばかりに降り注ぎ、魔導騎士団所属の者達が防護魔法で障壁を張る。

 強大な透明傘があるかのように、緩やかな弧を描いた障壁が矢を跳ね除ける。すると反対側から剣を持ったスケルトンの集団が襲いかかってくる。

 

 見事な奇襲だった。戦争を体験していない騎士達ならば、総崩れになる可能性だってあった。

 しかし遠征隊長であるハナヤは全て見通したかのように、王宮騎士団の精鋭達を隊列の殿に置いていた。

 矢が降り注いだ瞬間に走り出し、横という即時に反応できない方向からの突撃。骨が蹄に潰されて、粉々に砕け散る。

 

「先に行くのです、聖女様!」

 

 ハナヤの掛け声に押されるように馬車から飛び出し、聖女を守るように馬から降りた不良騎士達が矢印のような隊列で走る。

 瘴気で馬が変質してしまうと恐ろしい魔物になることが多い。人型スライムと共に馬から降りた魔導騎士も、聖女達を追いかける。


 瘴気の噴出とは大地の裂け目。地の男神の体が傷つき、血の如く混沌の海から瘴気が溢れ出たことを指す。

 浄化は大地の裂け目を塞ぐことが可能で、神子の仕事は瘴気の中心地である男神の傷を目指すことだ。

 

 聖女が両手を前に出すと、半径五メートルほどの距離が正常な空気へと戻る。

 それを見た不良騎士達は歓声を上げるが、魔導騎士は舌打ちしそうになる。どう考えても、一人目の神子よりも弱い。

 一人目の神子は半径一キロメートルすら余裕だった。そのため護衛の数も多く配備することができて、魔物に対応する余力があった。

 

 半径五メートルでは集団戦はおろか、聖女がそばにいる状態での戦闘など危険しかない。

 

「ショウ、ヤン!お前達も聖女様の補助を行え!」

「うっす!」

「承知!」

 

 魔導騎士団所属者の大半は浄化が使える。神子のように周囲に及ぼすほどではないが、自身の安全を保つことくらいはできる。

 先行する二人の目前に、スケルトンが五体。数的不利を前に間抜け騎士が悲鳴を呑み込んだ。

 浄化の力をまとわせた火の矢を五本、正確に射出。心臓があった場所に刺さり、服の下で骨の裏側に隠れていた生命核が燃えていく。

 

「魔物の生命核は浄化に弱い!聖女様のお力でっ!?」

 

 次の指示を出そうとした魔導騎士は、ゆらりと大きな影が瘴気の向こう側から迫ってくるのを感じた。

 異様な威圧。並大抵の魔物ではないことを把握する前に、剣を構えていた。

 振り下ろされた大剣は使い込まれた跡があり、それ以上に酸化してボロボロの状態だった。

 受け止めるだけで膝が折れ、地面へと近づく。その瞬間に見たのは骸骨兵士の群れを率いるに相応しい頭角魔物である。

 

 大きなスケルトンだった。

 二メートル近い巨体を赤の騎士服で隠している。胸には鈍色になった勲章が揺れており、その一つに見覚えがあった魔導騎士は息を呑んだ。

 剣戟の音は一瞬で、まともに打ち合えないと判断した魔導騎士が後退する。

 

 その間にも聖女が先に進もうとしたが、冷や汗騎士を始めとした騎士達の足が鈍る。

 人型スライムは魔導騎士の近くでトコトコと走っており、その速度は遅い。しかし瘴気の中でも浄化を使えるかのように平然としていた。

 

「ライム、先に行けと伝えろ!俺がこいつを抑える!」

「それが頭角魔物か?」

「おそらくな。ただ……」

 

 不良騎士達の視界では見えていない胸元。

 揺れる勲章に嵌め込まれた宝石は血のように赤く、千切れかけたリボンも夕焼けのような橙色。

 それは戦争の功績を讃えるもの。英雄として栄光を与えられた男を、魔導騎士は知っている。

 

「どうしてハナヤ殿が……」

 

 体の大きさも、騎士服も。

 全てが遠征隊長であるハナヤ・カーナにそっくりなスケルトンが襲いかかってきた。

 現在スケルトンの集団と戦っているのは、一体誰なのか。判断する前に再度大剣が体を両断しようと襲いかかってくる。

 

「とにかく浄化を優先しろ!」

「言われなくてもそうする」

 

 明らかに足並みは遅いが、人型スライムは聖女達に進めと告げる。

 そうして離れていく即席護衛隊を視界から外し、魔導騎士は目前の頭角魔物へと集中する。

 

「何が起きているんだ……」

 

 独り言。

 遠征隊長でありながら聖女の命を狙うハナヤと、スケルトンに変質したハナヤらしき魔物。

 増えた謎に翻弄されながら、魔導騎士は一人で頭角魔物との戦いを始めるのであった。

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