第37話「騎士達の交流」
ツルギトラを始めとした討伐された魔物は丸焼きなどにされて、聖女到着から二日目の夜は豪勢な食事となった。
特に昼過ぎから自主巡回を行なった不良騎士達が、魔物に出会っては連携して倒すを繰り返したことにより、当面の間は食べるものに困らないだろう。
浄化遠征隊の多くは人手と物資の流入を目的としており、追加の食べ物は必要物資として消費されていく。
「美味しい!」
「どんどん食べてくださいね」
ツルギトラの香草焼きの香しさは格別で、肉解体を見ていた聖女でさえ食べる手が止まらない勢いだ。
巡回を行なっていた騎士達も同様で、避難所の老人達も柔らかく煮込まれた肉のスープを喜んで食していた。
しかし人型スライムはスープや水は飲んでも、肉にはあまり手を出していない。野菜や果物を中心に、食事を進めていた。
「ライム殿、食べないと元気が出ないでござるよ」
「水分が摂取できればいい」
「なーに辛気臭いこと言ってんだよ!ほら、食え!」
不良騎士のヤンが人型スライムの小さな皿に肉を山のように盛る。面倒見がいいのか、男装女騎士や酔っ払い騎士の皿にも率先して盛りつけていた。
盛り付け用の食器を手離さず、少しでも皿が綺麗になると盛ってくる。間抜け騎士でさえも食べれないと判断したら俊敏に動いて皿を隠す、という芸当を身につけてしまうほどだった。
「ショウにやる」
「感謝でござる!拙者お肉大好き!」
「好き嫌いすんじゃねぇっ!」
皿ごと魔道具愛好騎士に手渡したところ、不良騎士に大声で怒鳴られてしまう。
イラついてきた人型スライムが洋燈の硝子扉に指を触れさせた矢先、蜜梨が入ったカゴを持っている冷や汗騎士が声をかけてきた。
「ケイジさんから、ライムさんは少食って聞いたぞ。あまり無理強いするな」
「でもせっかくの肉だぜ?食わなきゃもったいねぇだろうがっ!」
「魔導騎士団では嫌がる相手の皿に食事を盛るのがマナーか?」
「違うけどよ……」
冷や汗騎士に説教されているが、真面目に耳を傾けている。
その様子を目の当たりにした人型スライムは、洋燈からそっと手を離した。
小さい体ながら肉を食べ続ける魔道具愛好騎士は、口の中にものを入れたまま話し続ける。
「ヤン殿は貧民街生まれの孤児院育ち故、お兄ちゃん気質なのが困るでござる」
「どうしてショウが困るんだ?」
「拙者は大家族の末っ子で候。兄や姉はこれ以上増えない方がありがたきかな」
この家族という概念は人型スライムにはわからないものだった。
スライムは水から発生するが、同じ川の生まれだとしても同族意識など芽生えない。むしろ川が枯れかけた時、倒すべき相手となるものだ。
多くの魔物がそうである。生殖機能はない魔物達にとって、血縁や遠い親戚というのは無意味なものだ。
「ヒィヤ殿、食事前に祈る時間を設けることを提案したい!」
「具体的にどれくらい?」
「一時間!」
「却下だ。あと男物を着るのはいいが、採寸し直せよ」
糸車に針を突き刺したような造形。聖女からしてみれば十字架に酷似しているもので、それをペンダントとして胸元にしまっている男装女騎士。
冷や汗騎士の言う通り、裾が余っている。そのせいで時折動きが鈍ることが多く、布地が破けるたびに舌打ちをこぼして隠そうとしていた。
不良騎士に渡ししてみろと指示すれば、心底嫌そうに自分でできると反論している。
「レイみたいな女騎士は珍しいのか?」
「男装して男に混じっているのは、奇天烈でござるなぁ。
しかし神聖騎士団は女性騎士も多いので、専用の隊が設けられているで候」
貴族の多くは王宮騎士団を目指すが、それ以外の家庭出身や孤児院育ちなどの場合は神聖騎士団か魔導騎士団と絞られる。
その中でも魔導騎士団は魔法に関する知識や才能を求められるため、その素質を持たないもの達が神聖騎士団に殺到するのだ。
しかし神の御前を高らかに讃える神聖教会は、一度に大量の騎士を雇うことができた。ただし職務内容は過酷の一言。そのせいで信徒や牧師などの、教会運営側へ流れていき、人手を確保する。
王宮騎士団では女騎士はあまり歓迎されず、魔導騎士団では才能が全てを物語る。自然と神聖騎士団での女性登用が増えた結果として、今では女性専用隊が五つほどできていた。
そこでは女騎士らしい服や鎧が支給される上、身体都合による休暇も寛容に認められている。
男騎士との恋で家庭に落ち着く場合でも、祝い金によって育児などには困らない仕組みが成立していた。
だからこそ男装女騎士のレイ・ジンは異質である。
女騎士が認められた国で、男のように振る舞う必要はどこにもない。
専用の隊ごとに淡い色合いの騎士服が提供されるというのに、レイは神聖騎士団の白い騎士服を誇らしげに着ていた。
同じ白の騎士服を着ている間抜け騎士と比べても、綺麗に洗濯して大事に着ている印象だ。
「よくわからん」
この男女の違いについても、人型スライムは実感が湧かないものだ。
スライムには雌雄などないし、必要のない体である。余計な機能や差異が増えるのを面倒だと感じるほどである。
人類の体は天地の二柱を見本に形成された逸話を、他ならぬ天の女神に聞いてもピンとこない。
「なぁ、ドージぃ。ちょーっと酒をもらってきてくれよ」
「そ、それくらい自分でしてくださいよぉ……」
「わし、食用酒まで飲むから出禁なのよ。ぶはっは!」
間抜け騎士の首に手を回して、何度も酒の催促をする酔っ払い騎士。
見かねた冷や汗騎士が引き離すものの、酒が飲みたいと言って止まらないのである。
四十代ほどの男だが、筋肉のおかげで腹が出ている様子は見受けられないのが幸いか。
「こらっ!ツコネ殿が困ることをするではない!」
「へーへー。じゃあ代わりにお酌に付き合ってくれる?」
「断る!僕は酒に溺れる愚か者と一緒になりたくない!」
「あ、酒弱い?ごめんね〜」
気軽な挑発にあっさりと乗った男装女騎士の手により、樽が一つ運ばれてきた。
貴重な物資ではあるが、一つだけならば見逃してやると軽く警告をされた上での決断である。
そして人型スライムも含めた七人で飲み会が始まり、誰が一番多く飲めるかを競うことになった。
一番早く酔い潰れたのは魔道具愛好騎士のショウ・コトルヨであった。
たったひと舐め。それだけで地面に倒れ伏し、動かなくなった。健やかな寝息は聞こえるので、勝負に夢中な他のものは放置を決める・
次に潰れたのは不良騎士のヤン・キース。一杯飲んで泣き上戸。
孤児院にいるチビどもに肉を食わせたいと大泣きし、三杯目を飲んでいる冷や汗騎士を延々と付き合わせている。
そのためヒィヤもそれ以上飲むことはなく、辛抱強く溜まった愚痴を聞いてあげるのだった。
三番目は男装女騎士のレイ・ジンと酔っ払い騎士のサケグ・セーイ。
これはほぼ同時であり、二人ともコップを握りしめたまま幸せそうな顔で寝ている。
大地の上がひんやりとして気持ちいいようだが、冬目前である。愚痴を聞きながら、冷や汗騎士がそっと布地をかけてくれた。
最終的に残ったのは間抜け騎士のドージ・ツコネであった。
ゆっくりとした速度ではあるが、一人で樽の中身半分以上を飲み干す寸前である。
ほろ酔い気分の人型スライムが「むー」としか発さなくても、困り眉の笑顔で頷いていた。
「これ、ヨワズリンゴ水なんだけどなぁ」
子供でも気軽に楽しめるアルコール成分ゼロの果実水を、間抜け騎士はちびちびと飲み続ける。
ヨワズリンゴは発酵すると皮や果肉の表面に炭酸を発生させ、それを水に漬けることで酒に似た味わいの炭酸水へと変貌するのだ。
これを知らずに場酔いや気分酔いに陥る者は多く、ジャルネット村近辺では氷蜂の蜜と掛け合わせることで、夏でも冷たく美味しい果実水として親しまれている。
冷や汗騎士もそれに気づいていたが、人型スライムを含めた五人は全く気づいていない。
結局魔導騎士が異常に気づき、気分酔いした四人を簡易宿泊テントへと押し込む。
あとは間抜け騎士と冷や汗騎士に任せ、むーむーと歌う人型スライムに何度も酔っているはずがないと説明するのだが、馬耳東風状態。
最終的に上機嫌な人型スライムをベッドへ宿泊部屋に放り投げ、正体がバレなくて良かったと心底安堵するのだった。




