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デストロイクリミナル!  作者: さよなライオン


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第19話 絶対最強四天王ゾルガス!

「ぎゃあああああああああああああっ!!」


「ママーッ! ボクの人生、短すぎたよぉぉぉっ!」


「ヒャッハー! 風が、風が俺たちを切り裂いていくぜぇぇっ!」


「うるさいザック! これただの落下だから! 風圧で木箱がミシミシ言ってるからぁぁっ!」


絶対絶命のデス・ストームに飲み込まれた巨大な木箱の中で、俺たちは完全な無重力状態――つまり、絶賛フリーフォール中だった。

 漆黒の竜巻の内部は、雷鳴が轟き、紫色の不気味な閃光が走る異次元空間。上下左右の感覚は完全に狂い、胃袋が口から飛び出しそうなほどの浮遊感が俺たちを襲っている。


「ダイチ! どうする! このままじゃ地面に激突して俺たちの美しい筋肉がミンチになっちまうぞ!」


「お前の筋肉はともかく俺の折れた肋骨は完全に粉砕される! なんとか木箱の姿勢を制御しないと……!」


ぐるぐると回転する狭い木箱の中で、俺は必死に頭を回転させた。

 このまま落下すれば間違いなく全滅だ。どうにかして落下速度を落とすか、クッションになるものを探さなければ。


「マスター、ご安心を」


暗闇と轟音の中、クロエの氷のようにクールな声が響いた。

 彼女は木箱の壁に背中を預け、まるでティータイムを楽しんでいるかのような優雅な姿勢で腕を組んでいた(宙に浮いているが)。


「私に秘策があります。この『黄金のタヌキの置物(金貨三百枚)』に備わった隠し機能を使う時が来たようです」


「なんだと!? あのクソ重いだけのメッキタヌキに、パラシュート機能でもついてるってのか!?」


「いえ。購入した際、商人がこう言っていました。『このタヌキを強く抱きしめれば、心に羽が生えたように軽くなる』と」


「それただのポエム!! 精神論じゃ物理的な重力は相殺できねぇよ!! っていうかお前、タヌキ抱きしめたせいでさっきより落下速度上がってないか!?」


「気のせいです。私の心は今、大空を舞うペガサスのように軽やかです」


「心が軽くても質量(タヌキ30キロ)は増えてんだよバカァァッ!!」


絶望的なツッコミを入れたその時。

 バキィィィィンッ!!

 という凄まじい破壊音と共に、木箱の底面が風圧に耐えきれず吹き飛んだ。


「うおぉぉぉっ!? 底が抜けた!」


「ああっ! ボクの杖が! 杖が落ちていくぅぅ!」


「ダイチ、下を見ろ! 地面が……変な色の地面が迫ってきてるぞ!」


レオンの叫び声に、俺は吹き飛んだ底から下を覗き込んだ。

 雲を突き抜けた先に広がっていたのは、緑豊かなアルカナの街並みでも、険しい山々でもなかった。


赤黒い大地。

 天を衝くようにそびえ立つ、無数の骨のような奇怪な岩山。

 そして空には、血のように赤い月が不気味に輝いている。

 どう見ても人間界の景色ではない。


「……嘘だろ。これ、まさか……魔界か!?」


「魔界!? あの、魔王がいるっていう!?」


「やったぜお頭! 道中の面倒なダンジョンとか全部すっ飛ばして、いきなりラスボス戦だ!」


「喜んでる場合か! このままじゃラスボスに会う前に地面に激突してゲームオーバーだ!」


地面までの距離は、およそ五百メートル。数秒後には間違いなく激突する。

 俺は痛む胸を押さえながら、懐から『アンチ・マジック・ダガー』を抜いた。


「お前ら! 俺の体に掴まれ! 絶対に離すなよ!」


「おう! 命綱はダイチ、お前だけだぜ!」


「マスターの温もり……悪くありません」


「クロエお前はタヌキを捨てろ! 重いんだよ!」


四人が俺の体にセミのようにしがみつく。総重量とんでもないことになっているが、今は気合で耐えるしかない。

 俺はダガーを逆手に構え、迫り来る赤黒い大地を睨みつけた。


落下による運動エネルギー。

 それを殺すことは不可能だ。だが、このダガーは『魔法を斬る』だけじゃない。極限の物理法則に干渉し、あらゆるものを『切断』する。


「空気の……『層』を斬る!!」


地面激突の寸前。

 俺はダガーを横薙ぎに全力で振り抜いた。

 狙うのは、落下地点のすぐ上に圧縮された空気の層。ダガーの異常な切断力が空気を切り裂き、そこに一瞬だけ強烈な『真空のポケット』を作り出した。

 俺たちの体は真空に吸い込まれるように軌道を逸らし、真下への落下ベクトルが、強引に『横方向へのスライド』へと変換される。


「いななけ俺の筋肉ゥゥゥッ! 着地態勢ェェェッ!!」


レオンが空中で俺たちを抱え込み、自らの肉体をクッションにするようにして地面に突っ込んだ。


ズドォォォォォォォォォォォォォンッ!!!


強烈な衝撃と、土煙。

 俺たちは魔界の硬い大地を、まるで水切りの石のようにバウンドしながら数百メートルにわたって転がり続け……やがて、巨大な黒い岩壁に激突してようやく停止した。


「…………」


「…………」


もうもうと舞い上がる赤黒い土煙の中。

 俺たちは、全員で大の字になって倒れていた。


「……生きてるか、お前ら」


俺の掠れた声に、四人がピクピクと動き出す。


「あー……俺の、大胸筋が……悲鳴を上げてるぜ……」


「ボク、もうおしっこちびっちゃったかもしれない……」


「へへっ、転がりながら魔界の石ころ拾っといたぜ。売れるかな……」


「……マスター。タヌキのメッキが少し剥がれました。弁償してください」


「なんで俺が弁償するんだよ! お前が大事に抱えてたからだろ!」


見事なまでのポンコツ具合。だが、生きてはいる。

 レオンの規格外の頑丈さと、俺のダガーの無茶苦茶な軌道修正のおかげで、奇跡的に全員無事だった(俺の肋骨は限界を超えて軋んでいるが)。


俺はゆっくりと体を起こし、周囲を見渡した。

 荒涼とした大地。枯れ果てた黒い樹木。

 そして目の前には、見上げるほど巨大な、禍々しい漆黒の城がそびえ立っていた。城門には巨大なドクロのレリーフが彫られ、青白い炎が怪しく揺らめいている。


「間違いない……。ここ、魔王城の真ん前だ」


「マジかよ! 俺たち、奇跡の三連星がついにここまで来ちまったのか!」


レオンが興奮して立ち上がる。


「よし! じゃあさっそく乗り込んで、魔王をぶっ飛ばして……」


「――待て。貴様ら、何者だ」


地を這うような、恐ろしく重厚な声が響いた。


ビクッとして振り返ると、城門の前に、いつの間にか『それ』が立っていた。

 身長は三メートル近く。全身をマグマのように赤く発光する重装甲で覆い、手には身の丈ほどもある巨大なハルバードを握っている。

 兜の奥で燃えるような双眸が、俺たちを冷酷に見下ろしていた。


「人間の……それも、こんな下等な冒険者風情が、我が魔王城の庭に空から降ってくるとはな」


圧倒的なプレッシャー。

 ただそこに立っているだけで、空気が重くのしかかってくるような感覚。

 ザックがガチガチと歯を鳴らし、モグが白目を剥いて気絶寸前になっている。


「な、なんだコイツ……。神殿騎士団の団長なんか目じゃねぇぞ。殺気が物理的な重さを持ってる……!」


「我は魔王軍四天王が一人、『灼熱のゾルガス』。貴様らのようなゴミ虫が、我が主の御前に出るなど万死に値する。ここで灰にしてくれよう」


ゾルガスがハルバードを軽く振るうだけで、周囲の空間がぐにゃりと歪み、凄まじい熱波が襲ってきた。


「ヤバい! お前ら、下がれ!」


俺がダガーを構えて叫んだ時だった。


「――お待ちください」


俺の前にスッと進み出たのは、銀髪の騎士・クロエだった。

 彼女は氷のように冷たい、無表情のまま、ゾルガスを見上げている。


「なんだ、女。命乞いか?」


「いえ」


クロエは懐から、一枚の羊皮紙を取り出した。


「実は私、先ほど空から落ちてくる途中で、『絶対に魔族とお友達になれる魔界パスポート(金貨百枚)』というものを、すれ違った怪しい鳥の魔物から購入したのです。これを見せれば、魔王城のVIPルームに通してもらえるはずですが」


「なんで落下中に空中詐欺に引っかかってんだお前はァァァァッ!!」


俺のツッコミが魔界の空に虚しく響く。

 金貨百枚!? 借金さらに増えてんじゃねえか!


「馬鹿め。そんな紙切れ一枚で我が通すとでも――」


ゾルガスが鼻で笑った瞬間。

 レオンが、ゾルガスの背後に回り込んでいた。


「いななけ俺の筋肉ゥゥゥッ!! 背後からの不意打ちドロップキックゥゥッ!!」


「ぬぅっ!?」


大剣を捨て、純粋な筋肉の塊と化したレオンのドロップキックが、四天王ゾルガスの背中にクリーンヒットした。

 ガンッ! という鈍い音が響くが、ゾルガスは一歩も動かない。


「ふははは! 効かんな! 我が装甲は魔界の獄炎で鍛え上げられた絶対防壁! 物理攻撃など――」


「ザック! モグ! 今だ!」


俺の合図と共に、隠れていた二人が動いた。

 ザックがゾルガスの足元に滑り込み、その器用な手先で『ハルバードの柄の滑り止め用の革紐』を瞬く間に解いて奪い取る。

 そしてモグが、震える手で杖を突き出し、チャッカマンレベルの火球を放った。


「我が右手に封じられし炎よ! ええい、燃えろぉっ!」


小さな火球が、ゾルガスの装甲の隙間……『脇の下』の関節部分に飛び込んだ。


「熱っ!? なんだこの地味な熱さは!」


装甲の外側は熱に強くても、内側のインナーは普通の布だったらしい。ゾルガスがたまらず腕を振り上げた瞬間、革紐を盗まれてツルツルになっていたハルバードが手からすっぽ抜け、後方へと飛んでいった。


「おのれ、小賢しいネズミどもが! 我が究極魔法『ヘルファイア・バースト』で消し飛べ!」


激怒したゾルガスが両手を突き出す。

 周囲の空気が一気に沸騰し、頭上に巨大な灼熱の太陽のような火球が生み出された。

 これまでの魔法とは次元が違う。あれを食らえば、俺たちどころか岩山ごと蒸発させられる!


「死ねェッ!」


巨大な火球が、俺たちに向かって放たれた。


「マスター! 下がって!」


クロエが前に出る。彼女の手には、あの金メッキの剥がれかけた『黄金のタヌキの置物』が握られていた。


「私のタヌキの力、見せてあげます! 奥義――『大富豪のゴールデン・ガード』!!」


「ただタヌキを前に突き出してるだけだろ! 溶ける! メッキごと溶けるぞ!」


俺は叫びながら、タヌキの後ろに回り込み、全速力で踏み込んだ。

 狙うは、迫り来る巨大火球の中心。

 魔法の理を切り裂く、極限の短剣。


「うおおおおおおおおっ!!」


俺は『アンチ・マジック・ダガー』を、タヌキの置物の脇から突き出し、巨大な火球に向かって一閃した。


――キィィィィィィンッ!!!


甲高い金属音が魔界に響き渡る。

 次の瞬間、ゾルガスの放った究極魔法は、まるでスイカを叩き割ったかのように真っ二つに裂け、俺たちの両脇を通り抜けて後方の岩山をド派手に吹き飛ばした。


「な……馬鹿な!? 我が最強の魔法が、ただの短剣で……いや、待て。あの置物はなんだ!?」


驚愕するゾルガスの視線が、クロエの掲げる『黄金のタヌキ』に釘付けになった。


「あのタヌキ……まさか、魔界の伝承にある『全てを跳ね返す黄金の獣』!? あの短剣はその力を引き出す触媒か!」


「いや絶対違うから! ただの借金の塊だから!」


俺が否定するのも聞かず、ゾルガスは勝手に勘違いして戦慄していた。


「くそっ、ならば直接その置物を粉砕してくれる!」


ゾルガスが巨大な拳を振り上げ、クロエに襲いかかる。

 だが、クロエは無表情のまま、タヌキの置物を『ボウリングの球』のように構えた。


「いきます。ストライクです」


クロエがタヌキをアンダースローで全力投球した。

 推定30キロの鉛の塊が、ゾルガスの足元に向かってゴロゴロと恐ろしい勢いで転がっていく。


「ふん、そんな鈍足の攻撃が当たるか!」


ゾルガスがタヌキを避けようと横にステップを踏んだ、その瞬間。


「ヒャッハー! 足元お留守だぜ!」


いつの間にか背後に回っていたザックが、ゾルガスの足首に『先ほど奪ったハルバードの革紐』を巻きつけ、思い切り引っ張った。


「ぬおっ!?」


バランスを崩したゾルガス。

 そこへ、クロエの投げた黄金のタヌキが、まるで意思を持っているかのように軌道を変え(ただの石ころに当たって跳ねただけ)、ゾルガスの股間にクリーンヒットした。


――ゴアッ。


「…………ア、アァァァァァァァァァァァァァッ!!??」


魔王軍四天王、灼熱のゾルガス。

 その巨体が、股間を両手で押さえたまま、カエルのように見事な内股になって崩れ落ちた。

 魔界の強靭な装甲も、股間の急所だけは守りきれなかったらしい。


「レオン! トドメだ!」


「おうよォォッ! 魔王軍四天王、恐るるに足らず! 必殺、マッスル・メテオ・ストライクゥゥッ!」


レオンが岩壁を蹴って高く跳躍し、完全に無防備になったゾルガスの後頭部に向かって、全体重を乗せた両手パンチを振り下ろした。

 装甲の隙間にめり込む一撃。

 ゾルガスは白目を剥き、「我が……不覚……」という言葉を残して完全に気絶した。


「…………勝った」


俺はダガーを下ろし、荒い息を吐き出した。


「勝ったぁぁぁぁっ! 俺たち、四天王を倒したぞ!」


「やったぁ! ボクの火球が効いたんだね!」


「へへっ、こいつの鎧、高値で売れそうだな」


「マスター。タヌキの血を拭いてください」


「お前が拭け!」


信じられないことだが。

 筋肉バカ、ビビリ魔法使い、手癖の悪い盗賊、そして借金まみれのクール騎士。

 この絶望的にポンコツな寄せ集めパーティで、俺たちは魔王軍の幹部を無傷(俺の肋骨以外)で撃破してしまったのだ。


「よし、お前ら! 四天王を倒したってことは、もう後戻りはできないぞ! このまま魔王城に乗り込むぞ!」


俺の言葉に、四人が力強く頷く。

 もはや後には引けない。神殿騎士団も借金取りも追ってこないこの魔界で、俺たちのやるべきことはただ一つ。

 魔王を倒し、この理不尽な異世界サバイバルに終止符を打つことだ。


俺たちは気絶したゾルガスを放置し、禍々しい魔王城の巨大な城門へと足を踏み入れた。


ギギギギギ……ッ。


重々しい音を立てて開く扉。

 その先には、血のように赤い絨毯が敷かれた、果てしなく広い玉座の間が広がっていた。


「……よく来たな、人間の冒険者よ」


玉座に座る、巨大な影。

 漆黒のマント。頭から生えた二本の角。そして、底知れぬ魔力を放つ紅蓮の瞳。

 間違いない。あれが、この世界の元凶――魔王だ。


「我が四天王ゾルガスを倒すとは、見事だ。だが、この私に――」


魔王が立ち上がり、威厳に満ちた声で語りかけた、その時だった。


「あっ!!」


クロエが突然、氷のような表情を崩し、玉座に向かって指を差した。


「あなた! 私に『飲むだけで身長が3メートルになる奇跡のプロテイン』を売りつけた商人ですね! よく見たら角の形が同じです!」

「えっ」


魔王の動きが、ピタリと止まった。


「あのプロテインのせいで、私はお腹を下した挙句、金貨五十枚の借金を背負ったのです! クーリングオフを要求します!」


「お前……まさか、あの時のチョロい銀髪の……いや、違う! 我は魔王だ! 副業で怪しい通販などやっておらん!」


「嘘です! そのマントの裏に『魔界通信販売協会・優良会員』のバッジがついています!」


「あっ、これ見えてた!?」


魔王が慌ててマントを隠す。


「……おい」


俺はダガーを握り直し、ギリィッと歯を鳴らした。


「魔王。お前……もしかして、人間の世界で詐欺まがいの商売して資金集めしてたのか?」


「ち、違う! これはその、魔界の財政難を補うための……正当なビジネスモデルで……」


「問答無用!! クーリングオフの時間だァァァッ!!」


「いななけ俺の筋肉ゥゥゥ! 詐欺師に鉄槌を!」


「我が右手に封じられし炎よ! 燃えろぉっ!」


「魔王のパンツ盗んでやるぜ!」


怒り心頭のクロエを先頭に、ポンコツ四人組が魔王に向かって一斉に突撃していく。

 圧倒的な威厳はどこへやら、「待て、話せばわかる!」と焦りまくる魔王。


俺の異世界生活、最後の戦い。

 その幕が、今ここに切って落とされた。

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