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「嘘から出た実(まこと)」

 ——キーンコーンカーンコーン


「よっ! それ何読んでんの?」

 朝のホームルームが終わると、陣内が俺の机にやってきた。

 相変わらずのさわやかオーラを振りまいて、明るく話しかけてくる。

「……浅井ゴロロの『伊勢丹いせたん牡丹ぼたん、トンタン』って小説」

 そう言って俺は、前に俺が読んでいた小説の名前を陣内に紹介する。

 緻密ちみつな構成、細かい心理描写が特徴の、浅井ゴロロの最新作である。


 実際のところ、セイラの手元には彼女が楽しめるようなもう少し内容の優しい小説がある。文字の読めないセイラのために、俺がそれを音読するのだ。

 しかしまさか児童向けの小説を読んでいるとは言えないため、俺は自己紹介の意味も込めて最近読んだ面白かった小説の名をあげたのだ。

 まあブックカバーもしているし、大丈夫だろ。


「へえ! 浅井ゴロロ読むんだ! ウチのじいちゃんも好きなんだよな」

 普段返事をしない俺が素直に答えたことに対してはあまり反応せず、陣内はそのまま話を広げてくる。

 その反応を見て、俺も自然体のまま話を広げていくことにした。

「……へえ。陣内は何か読まないの?」

「俺? 俺はこういう小説あんまり得意じゃなくてさ、でもライトノベルなら結構読むよ!」

「俺も、ライトノベル読むよ。」

「マジ⁉︎ 例えばどんなの⁉︎」

「ん〜、最近だと『ロッカールームに俺、おっさん、ヤンキー』とか……。」

「それ俺も読んだ! 良いよなぁ!」


 ——キーンコーンカーンコーン


 一限が始まるチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。

「あ、もう一限始まる。残念だな……、また後で続き話そう! じゃあな!」

 そう言って、爽やかな笑顔を残し陣内は自分の席に戻っていった。

「……おう」

 俺は小さくそう言った。

 思いのほか会話は盛り上がり、俺自身もそれを楽しんでいたことが驚きだった。

「良いスタートじゃん! ニカッ」

 セイラが、小声でそう言ってきた。

「……かもな」

 俺は、呟くようにそう言うと、窓際まどぎわの席の陣内を見た。

 奥の方に居たさきが、俺の方を見てなんだか満足げな表情をしている。

 俺は前に向き直ると、少し笑った。




「海斗くん、嬉しそうだった」

 毎度のごとく、中庭のベンチでおにぎりを食べている俺たちのもとに咲が現れてそう言った。

 結局あの後、陣内は休み時間の度に俺のもとに訪れ、俺と陣内は何かしらの話をした。

「……そりゃ良かったな」

「急にあんなに喋るようになるんだもの、びっくりしたわ」

「別に頑張って喋ろうとしてたわけじゃない。……まあ、俺もあそこまで盛り上がるとは思わなかったが」

 今まで会話らしい会話をしてこなかったのにも関わらずあの盛り上がり。それはひとえに、陣内のコミュニケーション能力の高さのおかげだろう。

 つくづく、イケメンな奴だ。

「これでマサも、ぼっちめしを卒業できるかもね」

 フフ、と笑いながら咲が言う。

「お前な……」

 そう呟いたところで、ふとセイラと目があった。

 その目はいつもと変わらないように見えたが、それでも少し、どこかさびしそうに見えた。

 いや、もしかしたら寂しい目をしていたのは俺だったのかもしれない。


「……いや、」

 俺は一度目を閉じ、一息入れてから再びセイラの目を見て、ゆっくりと言葉をつむいだ。

「……俺はこの時間を、気に入ってるんだ。だから、飯はここで食べるよ」

 セイラは少し驚いたように目を丸くしていたが、すぐに俺の言葉を咲に伝えるために復唱した。

「何それ、まあ別に良いけど!」

 咲は少し呆れたような調子でそう言うと、

「じゃあね、私は戻るから」

と言って手を軽く振った。


「なんだよ、それを言うためだけにわざわざ来たのか?」

 俺はなんだか悪戯いたずらしてやりたくなって、咲を呼び止めた。

「ええ、そうよ。その用事も済んだから、もう戻るわ」

「……なんだ。てっきり俺は、陣内とデートに行くための相談でもしに来たのかと思ったぜ」

「——なっ⁉︎」

 俺がそう言うと咲はみるみる顔を赤くして、照れながらも怒った顔になっていった。

「そ、そんなわけないでしょ! 私が海斗くんと、デ、デートなんて‼︎」

「そうなのか? 良いんじゃないか? もうじき夏休みだし。陣内はバイク乗れるらしいから、海とか山に連れていって貰ったらどうだ?」

「バ、バイクを二人乗りなんて、そんな危ないことしない!」

 ツッコミ所そこじゃないだろ……。

「じゃあ花火大会でも行ってきたらどうだ? 浴衣姿で二人で歩く、最高だろ?」

「あなたねぇ……‼︎」

 流石にからかい過ぎたらしく、咲は鋭い目つきで俺をにらんできた。

「ま、まあ冗談だ! いつか、そんな日が来るといいな!」

「うるさいほっといて‼︎」

 そう言うと、咲はプンスカと校舎の方に戻っていってしまった。


「……やれやれ」

 これはまだまだ、時間がかかりそうだな。

 俺はその背中を見ながら、そんなことを考えた。

「……ねえマサ」

「ん?」

 振り向くと、ワイシャツの袖を掴んだセイラが真っ直ぐとこちらを見ていた。

 そしてその目の奥に、何やらキラキラしたものが見え隠れする。

 ……これはひょっとして。

「花火大会って、何? ズイッ」

「え、えーと……」

 セイラが顔を近づけながら尋ねてくる。

「な! あ! に⁉︎ ズイズイッ」

 ……やはり、俺の予想は的中したらしい。

「花火大会って⁉ 面白いもの⁉︎ 何なの⁉︎ 行くって何⁉︎ 私も行きたい⁉︎ キャー」

 こうして俺は、昼休みの残りの時間を使って、花火大会というものの説明を延々(えんえん)とさせられた。


 そしてこの夏休み、セイラの花火大会ゆきが決定した。


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