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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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 楽しみは力に変わる~side.アレクサンダー~

サイドストーリー・アレクサンダー編。3/4

 秋ももうすぐ終わりかける頃。誕生祭兼お披露目パーティーの準備で王宮内は慌ただしい。式の手順、料理、貴族の名前の暗記、再度のマナーチェックなど、日々が確認作業で終われていた。




 疲れた。

 口になんて出さないが、今代の国王の子供では初めてのことなので、盛大にやるらしい。何度も変更がされる。





 またあのお茶会に参加できないかな?




 あの日、誕生日会というお茶会を初めて体験したあと、将来の有力な婚約者候補の貴族の家にお忍びでお茶会に行くことの許可をもらった。数カ月の間、何度か誕生日会や普通のお茶会に出向いた。同世代の人たちと交流することも将来のためだと、母上も許可してくれたし、僕自身も他のお茶会に参加することを楽しみにしていた。



 でも。僕の求めていたものではなかった。


 どこのお茶会も、僕が来た瞬間からずっと【王子】としてしか扱わなかった。僕の言うことにすべて賛同し、差し障りのないような少し変な意見を出しても、それすら称賛する。すべて僕の機嫌をうかがっている。参加した令嬢は自分を見ろとばかりに話しかけ、近づいてくる。

 お喋りをして、お茶とお菓子をつまむ。ただそれだけ。お菓子だってよくあるクッキーだ。


 いや違う、これが普通なんだ。これが貴族のお茶会。そして僕もこれを当たり前だと思って参加するはずだった。



 でも。

 またみんなでトランプをやりたい。

 トランプで勝って、ちょっと大きな声で叫んで喜びたい。

 プリンが食べたい。

 王子ということをその場だけでも忘れさせて楽しみたい。


 ジュベルラート公爵家に行きたい。







 王宮に仕事を手伝いに来るジェイコブは何回か彼女のお茶会に参加している。会うたびにその楽しそうな話を聞き、羨ましさが心の中を埋め尽くす。


「今日はチョコレートでアレンジしたクッキーが出たんですよ」


 いいなぁ。僕も王子でなければ、もっと参加できたのに。


「よろしければ、お土産にもらったので食べますか?」


「……いいのか?」


 ジェイコブからチョコチップクッキーを受けとる。

 いつものクッキーではあるが、口に入れるとチョコレートの甘味が広がり、新しい感覚で心を満たしてくれた。おいしい。これをみんなで楽しく食べるのか。みんなで食べたほうがより美味しいんだろうな。




 これはもうだめだ、遊びたいなんて、次期国王である僕がこんなことを言ってしまっていいのだろうか。

 でも……なんとか。なんとかならないかな……。ワガママになるのはわかっている。こんな自分勝手なことを言って良いのか、自問自答がおさまらない。


 今度父上に相談してみよう。

 もしかしたら彼女に迷惑をかけてしまうかもしれない。でもせめて、再度お茶会に行ける約束ができたなら、誕生祭の忙しさを乗りきれる気がした。いや、乗りきる。






 とは言ったものの父上に伝える勇気が出ず、気づけば11月が終わろうとしていた。もう12月になるのか。行きたかったな。



 父上の横で仕事の手伝いをしている。ひと息つくために紅茶を口にすると、父上も同じタイミングで手を休めた。


「トランプがそろそろ出来るそうだ。今度商会の人間に来てもらおう」


 僕のトランプは、黄色の背景に青いバラの模様をつけてもらった。髪と瞳の色を合わせた無難なものである。



「お忍びお茶会はどうだ?いい社会勉強になっているか?」


「えぇ。勉強になります」


 勉強にはなる。間違ってはいない。ただ、楽しいかと言われると別の話だ。



「そうか。……ジュベルラート公爵家のお茶会にまた参加したいのか?」


「えっ?」


 父上の目を見て話してはいたが、自分の心を読まれたのかと思い、思わず目をそらし動揺してしまった。

 父上はティーカップを置く。


「見ていればわかる。あのときのアレクサンダーは別人のように輝きながら私に話してくれたからな」


「あ……申し訳ありません」


「ジュベルラート公爵家のお茶会が楽しかったんだろ?」


「……はい」


 全部見透かされていた。そりゃそうだ。将来の婚約者候補の家に行くという理由で許可をもらったのに、他のお茶会の感想なんて父上に一言も言っていなかった。




「アレクサンダーは頑張っているし、公爵家には私の方から一筆書いておくか」


「えっでも、ご迷惑になりませんか?」


「あぁ、大丈夫。そのかわりトニーのやつが私たちの仕事を倍にして持ってくるだけだ」


 ……結局こちらに被害が来るじゃないか。そんなことを思いながらも内心喜んでいる自分がいた。忙しい日々が続いているが、ジュベルラート公爵家のお茶会に行けるなら頑張れる。参加できるなら、仕事が倍になっても頑張ればいいだけだ。



 こうして急に決まった、いやきっと無理矢理決まったのだろうお茶会に参加することができた。

 この話を聞いたクリストファーが、行きたい!と駄々をこねまくり、王子二人が行くことになってしまったことを心の中で謝りながら参加した。







 今回のお茶会も楽しかった。僕と勝負して、僕より先に勝っても僕の機嫌をうかがうことなく喜ぶ者たちだけのお茶会だ。こんなに心置きなく楽しめるのは嬉しい。

 普段はちゃんと王子としての威厳は出す。生活してるときだって気を抜いていない。


 だけど……彼女たちのお茶会だけは、【王子】ではないアレクサンダーとして参加してもいいかのような気がした。




 短い時間はあっという間に過ぎる。

 今日新しく食べたメレンゲクッキーも美味しかった。トランプの新しい遊びも楽しかった。





 帰るとき、お礼を言っていたクリストファーに


「クリストファー殿下、もしよろしければメレンゲクッキーをお持ち帰りになりますか?」


 と彼女が声をかけた。


「えっ、いいんですか?!わぁ!ありがとうございます!あの、いっぱい持って帰ってもいいですか?」


「ええ、大丈夫ですわよ。たくさん焼きましたの」


 クリストファーは喜んで、父上や母上に持っていくのだと大量に紙に包んでいた。それを彼女は笑顔で見ていた。




 それがなぜか気にくわなかった。僕に視線を合わせず、ずっとクリストファーを見ていることが気に障った。今日は僕が来たのに、全然僕の方を見ないじゃないか。クリストファーはついてきただけだぞ。

 僕には声をかけないのか?

 僕にも持ち帰るのかをなぜ聞かないのか?


 知らない感情が心の中をうごめく。そして思わず口にしてしまった。


「あ………、その、ドロレス嬢。僕には聞いてくれないのか?」



「えっ、あ、申し訳ございませんアレクサンダー殿下、よろしければ殿下もお持ち帰りください」


 ビックリはしていたが、慌てているのかいないのか、それでも彼女は丁寧な仕草と口調で僕の目を見てくれた。


「いや、謝らなくていい」


 思わず口角が少し上がってしまった。こっちを向いてくれて嬉しかったのが正直な気持ちだった。






 いくつか包んだ後、馬車に先に持っていってもらい、挨拶をして会場を出た。

 ついていた護衛と馬車に到着した時、僕はいくつか包んだメレンゲクッキーを、そこにいる護衛全員に1包みずつ渡した。包んでいたのを見ていた護衛はビックリしている。


「えっ。殿下?よろしいのですか??」


「私のワガママで連れてこられてるしな。ま、私が作ったものではないけど。とても甘くて美味しいから疲れたときにでも口に放り込んでくれ」


「はっ!ありがとうございます!」


 深々とお辞儀をした護衛を見て、たまには直接感謝を伝える方法も悪くないなと思いながら馬車へと乗り込み、王宮へ帰った。クリストファーは馬車内でもメレンゲクッキーをポリポリ食べていたせいで、夕飯が若干食べられなくなったのは内緒にしてやろう。









 そして誕生祭の慌ただしさに加え、トニーから本当に仕事を倍に増やされていた。僕も、父上も。











 クリストファーと共に参加したお茶会の後、彼は自分の母上に感想を伝えていた。それはそれは楽しそうに話すもんだから、勝負事だと聞いたトランプを義母上はやってみたくなったのだろう。めずらしく王妃とのお茶会を行ったのだ。


 僕とクリストファーも参加した。正直なところ母上同士の仲はあまり良くないのは知っている。父上も「なんとかならないか」とたまに口にしているのを見た。



「ローザリア様、【トランプ】というのは私も初めて聞きましたわ。勝負事ではありますが遊びですのよ。よろしければ一戦交えてみませんこと?」


 義母上であるエレオノールが敵意をむき出しにする。


「えぇ、いいですわよ。遊びですから?エレオノール様も負けても文句はなしですわよ?ほほほほ」


「まぁそれはこちらの台詞ですわ。ほほほほ」


 なんて会話をし始めた。届いたトランプを用意し、僕とクリストファーがやり方を教えながら、【魔物抜き】と【神経衰弱】のやり方を教えた。どうやら母上たちは【神経衰弱】のほうに熱を向けた。

 ただし僕たちが遊ぶような方法ではなく、きちんときれいに並べられたカードを、自分達は座ったまま、お付きのメイドに指示してめくらせるという非常に高貴な者たちの遊びみたいになった。高貴ではあるが。



 それからというもの、この忙しい中で二人でお茶を飲む時間を作り出した。それはお茶を飲むというよりトランプをやるためなのだが、誕生祭に関わるメイドたちは母上たちが毎日なかなかお茶から帰って来ないので顔を青くしていた。

 そのお茶会のおかげなのか、母上と義母上は良い意味で、面と向かって意見を言うようになった。それにより事がスムーズになることも多くなったのだ。


 気付けば、あのあとすぐに自分達もトランプを取り寄せるよう国王に頼んでいたらしい。二人で文句を言い合いながら。




 数回、僕やクリストファーも参加してトランプをしたが、その間だけは本当に楽しかった。王妃ではなく母上として、側妃ではなく義母上として、第二王子ではなく義母弟として。

 家族として遊べたことが何より嬉しかった。

 妹たちがもう少し大きくなったら、彼女たちも誘おう。







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