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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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 建前と本音~side.アレクサンダー~

サイドストーリー・アレクサンダー編。4/4

 

 誕生祭当日。




 やっときた。これでもう忙しさからしばらく解放される。




 会場には国中の貴族が集まっていた。僕を見るためだ。次期国王である僕に。




 今日は【次期国王アレクサンダー】としていなくてはならない。

 憂鬱ではあるが、それが僕の運命だ。

  会場に登壇すると、割れんばかりの拍手が巻き起こった。目線を全方位に動かすも心の中で無意識に彼女を探す。目が合った瞬間、向こうがすぐにそらす。ちゃんと見ててくれたんだと思い、少し嬉しくなった。



 貴族ごとの挨拶では父上が少々やらかしていたが、母上のフォローにより無事だった。まぁ父上は元々楽観的な人なので、母上はこうなることを事前に察知していたのだろう。



 一通りの挨拶を終え、会場に降りる。護衛と、同じ歳でこれから学園でも身の回りの護衛を兼ねるオリバーと一緒に会場を回る。あぁ、いつもの視線を感じる。我先にと、令嬢のいる貴族は僕に声をかけてくる。将来の婚約者候補にでもするのだろう。横では令嬢が頬を赤らめ、潤んだ目で僕に視線を向ける。

 まだ8歳の僕に婚約者とか言われても正直わからない。そんな目で見ないでほしい。どうせ親が決めるのだから。

 ふと視線を横にずらすと、ギルバートが見えた。目的の場所があるかのようにズンズンと人の波を避けて歩いている。その先に視線を向けると、そこにはドロレス嬢がいた。


 は?あいつ何をしようとしてるんだ?ここでまで何かやらかすつもりか?

 目の前の令嬢たちを爽やかにかわし、早歩きでその方向に向かう。なんなんだあいつは。こんなところでも無礼を振り撒くのか?

 ジェイコブから話をずっと聞いていた。人を人とも思わないあの非道な人間に苛立ちを抱えていた。さきほどのマクラート公爵家の挨拶でも言葉を遮ってやった。僕は嫌なやつかもしれない。だけど、目下の者に権力を振り撒く奴が一番嫌いだ。


 案の定、揉めている。

 近くで止まり、会話に耳を澄ませる。ギルバートはデビュー前の彼女にダンスを一緒に踊れと言っていた。

 何を言っているんだ。デビュー前の女性にダンスを誘うなど、マナーも常識もないのかこの男は。


「声をかけますか?」


 オリバーが訪ねてくる。


「いや、彼女ならきっと上手くやれるはずだけど……何かあるかもしれないからそばに行ってて」


「かしこまりました」


 念のためオリバーをすぐ横まで付けさせる。



 すると次の瞬間、怒鳴り声を上げたギルバートが手を上げた。




 なっ!?




 すかさずオリバーが手を掴んだため、大事には至らなかった。

 僕もそばに近づく。




 なんてやつだ。ルールも守れない上、自分の意見が通らないと手を上げるのか?こんなやつが次期宰相になってたまるか!よくもドロレス嬢に手を上げようとしたな!許せない!



「ドロレス嬢、大丈夫か?」


 思わず、近くにいる貴族が聞こえるくらいの声の大きさで、デビュー前である彼女の名前を出してしまった。これでは父上と同じではないか。

 思わず、かける言葉を探す。名前を呼んでしまったことをなんとか誤魔化さなければ……。


「君にお礼が言いたくてね。トランプのおかげで母上と側妃殿は良い好敵手になっている。クリスも遊びの時間を持つことによって、勉学にも一層力が入るようになった」


「いえ、滅相もございません。喜んでいただけて光栄です」


 我ながらよくやったとは思っている。少し焦っていたけど。

 彼女はいつも通りの冷静な言葉を返した。




 ふと、彼女に聞いてみたくなった。顔を近づける。彼女の表情に変化はない。


「……ダンスは踊れるのか?」


「そうですね、ほぼ完璧です」


「ならば、デビュー前の思い出となろう」


「えっ、なにを」


 彼女に返事を返さぬまま、ギルバートへ体を向けた。



「マクラート公爵令息殿。さきほどはジュベルラート公爵令嬢へダンスを誘っていたが、彼女はまだデビュー前だ。知らないはずがないな」


「……はい。おっしゃる通りです」


 わかっているなら、なぜこんなことをしたのか。自分の家に迷惑がかかるとは思わないのか。

 だからこそ、この男の目論見を逆手に取ってやった。


「だが、彼女のダンスの素晴らしさを皆に見せたい気持ちはわかった。しかし彼女はデビュー前。人前で踊った経験もない。ならば責任を持って私が彼女のパートナーとなろう。デビュー前に特定の男性と踊ったなんて話が広がっても令嬢は困ってしまう。そなたはデビューしている他の令嬢を誘って、二組だけで踊ろうではないか」


 彼女も、ギルバートも目を見開き驚いている。

 ギルバートが家で勉学やレッスンをサボっていることなど、ビリーから聞いている。社交界だってあいつはほとんどダンスを踊っていないと聞いた。そんな奴がダンスなんて出来っこないのに、よく彼女を誘えたな。自分よりできないとでも思ったのか。

 彼女は聡明だ。この無理難題にきっと答えてくれるという根拠のない自信があったのだ。



 もう逃げ道は1つだけだ。誰にも文句は言わせない。




「ドロレス・ジュベルラート公爵令嬢殿。私と一曲踊っていただけますか?」


「はい、よろこんで」



 彼女からも許可を得られた。彼女と踊ることが出来る。








 いや……考え直せ。

 僕は今なんのために彼女と踊るのか。ギルバートから助けるためのダンスだったはず。

 なのに何で今ギルバートのことなど全く頭になく、ドロレスと踊ることが出来る、という気持ちになったのだろう。


 他に逃げ道なんてたくさんあった。

 公爵のもとに返すこともできたし、ギルバートを無礼だと言ってつまみ出すこともできた。僕がギルバートに注意をして彼女と共に立ち去ることもできたのに、なぜよりによってデビュー前の彼女とダンスを踊る選択をしたのだろう。




 そうか、僕は……誰よりも早く彼女とダンスがしたかったんだ。


 社交界デビューしたときは家族と踊る人も多い。婚約者がいなければそうなる。当たり前だ。

 だけど、もし誰にも文句を言わせず、誰もが納得できるような条件で、彼女と踊れたなら……。そんなことを心の奥で思ってしまったがゆえにあんな建前の案を出してしまったのか。





「ごめん、これしか僕には方法が見つからなかった」


「いえ……。そういうことなら大丈夫ですわ」


 そんなの………。そんな心の奥の気持ちなど、彼女に知られたくない。思わずどうしようもない言葉を言ってしまった。そんなこととは露知らず、彼女は平然と答えている。



「助けてくださりありがとうございます。ふふ。楽しかった思い出にさせていただきますわよ。私、ダンスは自信がありますわ。殿下はどうかしら?」


「フッ。私を誰だと思っている?この国の王子だぞ。ドロレス嬢がついてこれるか見ものだな」


 皮肉めいた会話に、思わず笑ってしまった。僕にこんなことが言えるのは彼女だけなのではないか。






 彼女とのダンスはとても楽しかった。デビュー前とは言えないとても馴れた動きで、小さい頃から徹底的にしごかれた僕の動きにもついてくる。


 途中彼女は、笑顔を張り付けたまま別のことを考えいるような気がして、思わず手を強く握ってしまった。


 聞いても彼女は誤魔化す。もう僕は気づいてるんだけど。


「嘘が下手すぎるぞ。見破られないようにもう少し顔を作るんだな」


「……へへっ、失礼しました。さすが殿下」


 彼女が一瞬だけ見せた、その崩れた笑顔に、僕自身も一瞬だけ時が止まってしまったかのようになった。そのあのすぐにいつもの顔に戻した彼女だったが、僕にはあの一瞬の顔がずっと脳裏に焼き付いていた。

 今日を含めてまだ3回しか会っていない。でも、それでもあの崩した笑顔は僕の胸を高鳴らせる何かだった。今日のドレスもアクセサリーも、僕のために用意したのかと勘違いするくらい、今、鼓動が落ち着かない。






 これは、何だ。


 なぜこんなにも彼女の事が気になってしまうのか。



 なんなんだ一体。




 考えて考えて考えた。その結果が出る前に、ダンスが終わってしまった。あぁ、もっと踊っていたかったのに。



 ホールの中央から観客側へ戻ると、たくさんの人が僕のところへ来た。称賛の声を浴びせるが、正直僕ではなく彼女を誉めてほしいと思った。

 横にいる彼女は、僕と踊ったことを喜んでいる様子もない。



 だから思わず聞いてしまった。


「とてもいい思い出になったかな?」


 僕とダンスを踊ったことを、初めてのパートナーが僕だったことを彼女の中で最高の思い出として焼き付けたかった。







「えぇ。とっても記憶に残る初ダンスでしたわ」


 彼女はそう言った。

 最高でもなく、良かったでもなく、楽しかったでも嬉しかったでもない。彼女は『記憶に残る』とだけ言った。





 きっと彼女の中では、過去のひとつになるだけなのだろうか。【王子】である僕と特別な形で踊っても、良い思い出にはならなかったのか。




 常に言われ続けた、

 ──『次期国王となられるアレクサンダー殿下という存在は、すべての令嬢にとって最大の憧れであり、お慕いしたいと思う対象であり、誉れ』──



 この言葉は、彼女の前ではただの泡となって流れていくようだ。



 彼女にこう思ってもらえる日が僕には来るのか。




 僕がこれから出来ることといえば、【次期国王】になるための努力だ。


 もっと努力して、もっともっと周りから認められれば……。




 そうだ、これからもっと頑張ろう。







 そしていつか、彼女が僕のことを見てくれるように。






長くなってすいませんでした。笑


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