未来
アカーシャは成層圏にある一辺が12キロの正立方体だ。
「霊子ネットワークを強化するために、
第二アカーシャの建造が必要かと思われます。
主さま」
と、BGさんはいった。
世界を統治するために文字通り世界中を飛び回っているBGさんが、
僕に直接会いにくる、ということで、
事態の重大さは理解できる。
僕が目覚めるまでは穏便な霊子的処理で擬似的に統治されていた世界は、
僕が目覚めてから起こった出来事によって混乱し始めている。
それをシステムとして制圧しようというのが、
BGさんたちの考え方なんだろう。
僕は節子の手を握った。
世界が、そう、僕たち一人一人の宇宙の寿命がどの程度なのか、
それは誰にも理解できていないから、
僕たちは統計や確率で僕らを考えられない。
これまで、百万回の人生を繰り返したとしても、
それは百京回の一部でしかないかもしれないからだ。
けれども、
BGさんのいうように、
地球をアカーシャの力で、
閉じた世界にすることで、
僕たちは偽りの安定を得られるかもしれない。
「アカーシャを増やしていのですか?」
と、節子が訊いた。
BGさんは少しびっくりしたようだった。
「必要があれば」
「まるで天人ですわ」
「天人、ですか。
確かに天には住んでいますが」
節子が笑って笑窪ができる。
「いえ、地上の人造人間の皆さんが、です。
これほどまでに気遣いをしてもらって、
まるで天人のよう」
と、節子が僕をみた。
「コウさんは、
彼らが好きですか?」
節子は返事を待たずに続けた。
「わたしは嫌いなのです。
わたしから生まれたくせに、
あなたを悩まし続けるあの人たちは、
全て消えてしまえばと思うのです」
僕は彼女のいうことをききながら、
それをいうなら、
僕という宇宙から生まれた人間もまた、
李賀のようにその本性は皆、
僕という人型とは似つかない異形の宇宙だ。
だから、
僕は僕に似た姿でペイガンをつくった。
けれども、
姿形は似ていても、
その中身はまたもや全くも似つかないもので、
彼らは世界の調和を崩し続けた。
だからこそ、
彼らを使えば新しい人間を創造だせる。
今まで、
今、
アカーシャに集めた二億の人間も同じように作り出した。
星という閉じられた世界で四苦八苦が極まった時、
まるで溶鉱炉の中で溶け合うようにして、
一人の人間が生まれる。
勿論、
僕たちが霊子を注ぎ込むことが不可欠だけれども。
だから、
僕はBGさんがアカーシャを次々に作り続けて、
地球を霊子炉にする未来を、
既にして夢に見ている。
だから、
僕はあらゆることへの感情をきかれても、
そこには僕の気持ちはないんだ。
そう思えば、
僕が未来の夢をみるのは、
もし、
夢をみないなら、
気が狂ってしまうな大量殺戮を繰り返さなければならない宿命への代償なのかもしれない、
とか思ってしまうが、
それすらただの感想にすぎない。
幾億の星霜を経ても、
僕は変化しないで、
移り変わるのは僕以外の全てだ。
僕は何か節子とBGさんが言い争うのを耳にしながら、
急に眠くなってしまった。
これが現実逃避なのは解っているけれども、
これも含めて全ては未来から組み立てられた道筋なのだ。
そう、
世界は決して僕らが考えているように、
過去から未来へと積み重ねられてはいない。
未来で決定されたことを実現するために、
未来から過去へと時間という触手が成長してくる。
まるで、
あの記号の霧の中から僕へと伸びてきた李賀の足のようにだ。
そして、
記憶とはその瞬間に生まれるだけだったな。
そこまで思った刹那に、
二人が僕を覗き込んでいる顔を最後に、
僕は眠ってしまった。




