領地
僕はアカーシャの一番上にいる。
僕は二ヶ月前、
ここで百年ぶりに目覚めた。
一辺が12キロの正方形の周縁に満開の桜が植えられて、
真ん中には菜の花畑。
僕が一番好きな光景を、
レムが用意していてくれた。
今は、
ペイガンによる核攻撃で、
ど真ん中に穴が空き、
そこを池にしていることと、
桜は散り、
新緑に移り、
菜の花も終わり、
草原が広がっている。
僕は手に石を持ち、
投げる。
9歳の男の子の体だから、
十メートルほど向こうに、
放物線を描いた後、
落ちる。
同じことを四方にしてから、
僕は離れたところで待っていてもらっていた節子のもとへと駆け寄り、
「あの石を結んだ四角い土地が、
僕の領地だよ」
と、笑った。
「ゲームですか?」
と、不審がる節子に僕はいう。
「人が世界と遊離した瞬間の再現だよ」
僕らは草原に座った。
「気持ちいいね」
「ええ」
と、節子が僕の頰をぷにぷにする。
アカーシャ自体は成層圏にある。
僕らは成層圏から空を見上げているわけだから、
昼でも星がみえる。
「自分ものだって囲い込んだ途端、
囲えなかった世界全てが自分のものじゃなくなるのにね」
「そんなこと、
どうでもよくないですか?」
「そう?」
「ええ。
わたしにとっては、
わたしの話をきいてくれるあなたでいてくれればいいです」
「それって、
勝手に李賀のところにいったのを怒ってるってこと?」
「怒ってませんけど、
寂しいだけです」
「うーん、でもね、
あそこにいくっていうと、
ダメっていうでしょ」
「当然です。
あんな畸人、
あなたに近づけていいはずがありません」
「まず言葉ありきッていう意味じゃ、
神様みたいだからね、
李ちゃんは」
「そんな風にあなたがいうから、
つけあがるんです」
「そんな李ちゃんにも苦手はあるから不思議だよね」
「苦手?」
「知らないの?」
「また莫迦にしてますね。
わたしが人造人間だから」
「節子の半分は人間でしょ。残りの半分は世界から貰ったけど。
だから、
最初の一人にして永遠の命をもった始祖だから、
特別だよ」
と、僕がいうと節子はとても寂しそうだ。
「それで苦手ってなんですの」
「李賀はね、時間が苦手なんだよ」
「時間?」
「彼の得意な言語には、
時間やそれに伴う行動を明確に示す言葉が少ないんだよ」
節子は黙ってきいている。
「印欧語系はね、
時と数を一番重要視するんだけど、
僕たちや李賀の言葉は、
世界の真実性を一番、
重要視するように出来てるんだ」
「真実、ですか?」
「何かを話すときに、
一番大事なのは、
永遠の過去を受け継いでいる、
という事実を表現すること。
それが日本語の大前提。
だから、
単数とか複数とか、
いつとかは二の次なんだ」
「誰がいつなにをしたのかは、
どうでもいいということですか?」
僕は起き上がって、
さっき、石を投げた辺りをみた。
「いつ、誰が石を投げて、
あそこが誰の土地になったとかを記録するのは、
印欧語の方が楽かな」
「でも、
それならレムリアの法は他の誰かに任せた方が良いのでは?」
「僕の感覚だとね、
石を投げてここからここは今から僕の物っていった瞬間から、
石で囲まれた以外の世界を見捨てたような気がするし、
事実、そうなんだと思うんだ」
僕は寝転がる節子をみた。
「それだと、
多分、ダメになるんだよね」
そんな話をしていたら、
向こうからBGさんがやってきた。




