正体
どうも彼は僕を「ヒトラーの尻尾」だといいたいわけではないらしい。
「あなたが生まれてすぐの1970年、
ヒトラーの蔵書がプロヴィデンスの大学へと寄付されることで隠蔽され、
そして眠りについてすぐの2001年に発見されたのは偶然でしょうか?。
あのプロヴィデンスでそのような偶然があり得ると、
私にはとても思えないのですが」
「偶然、じゃないかな?」
と、僕は先斗町を三条へと上っていくと、
景色は再び変わり、
そこは暖炉のある部屋だった。
二重の木枠窓からは冬山が見える。
「では、
ヒトラーが自殺した後、
アメリカ軍の先遣隊としてベルリンを訪れたアロンソンが、
ソ連兵から渡されたヒトラーの蔵書80冊の中に、
彼の手書きメモがあったのも偶然ですか?」
と、李賀が熱々のコーヒーを淹れながら問いかけてくる。
「うん、偶然だね」
と、僕は木椅子に座った。
「ヒトラーが1920年代にベルリンで購入した<死者は生きている(1922年刊行)>というオカルト本に、
ドイツ語で書かれたものが二枚と、
未知の言語が書かれた古紙が一枚、
隠されていました」
李賀は雰囲気を出して、
湯気の出たコーヒーを暖炉にあたりながらすすった。
「ふーん」
と、僕はいいながら、
そういえば「死者は生きている」って本には、
僕が子供時代に夢中だった宇宙戦艦物アニメに出てくる女性と同じ、
スターシアという15歳の少女の心霊写真が載っているけど、
今は言わずに我慢しようと思っていたら欠伸がでた。
「あの、飽きてきました?」
李賀が不安そうな顔になっている。
彼の欠点というか、
彼が生きていた当時の国家試験を落ちた理由は、
この辺にあるのだろうな。
「うん、もう、帰っていい?」
と、テーブルに飾ってあったリンゴを手に取った。
「えーーーー、
たまにしか来ないんですから、
もう少し愚痴をきいてほしいんですけど!」
「李ちゃん、五月蝿い」
「はい」
と、彼が僕の隣に座った。
「あのさ、そんな風だから、
中試に落ちたんだよ」
「はい」
と、彼が本格的に涙目になってしまった。
「僕がここにきたのは、
ヒトラーに実は僕が憑依していて、
巫山戯て古代文字を翻訳したメモを残して、
それをプロヴィデンス生まれの怪奇作家へと結びつける謎解きをききにきたんじゃないの」
「ちぇ、それでは、
本題はなんでしょうか?」
と、李賀はつまらなさそうにいった。
僕は今回、
無限図書館を訪れた動機を説明した。
それは地上で「夢」によって、
薬師えつこが殺害されたことと、
その首級を奪還する作戦が遂行されていることと、
それらが生み出す「法的」問題についてだ。
「要するに、
私に法律を作れ、
というこト良いのですね」
「ああ、その通り。
法に魂を吹き込むのは、
古来から詩人の仕事と相場が決まっているからね」
「レムリアの法律ですか?」
「そうだよ」
「なんだぁ、ツマラナイですわ。
そんなこと、レムにでもやらせておけばいいんですよ」
「ダメだって。
レムは何でもできるけど、
基本が僕の代理人だからね。
全ての理論は自伝だし、
自伝他伝共に信ずべからずっていうでしょ」
「うーん、でも、
どう考えてもヒトラーと古代神の戦いの方が面白いのに・・・」
「そっちはそっちでBGさんがやってるから」
実際、
ヒトラーの親衛隊隊長ヒムラーの娘が代表者をしていた元親衛隊隊員の互助組織の後裔、
「沈黙の友情」との間では「人皮本」の件で抗争状態だ。
「あと、
その死んだ娘の首、
大丈夫ですかね?」
「あー、それも心配だね」
と、僕は奪還作戦の進捗を気にしたが、
彼は全く別のことを心配していた。
「その変な<夢>たちの世界だと、
実体になってたりして」
と、いきなり李賀が正体をみせるから、
僕は椅子から転げ落ちた。
そして、
転げ落ちた僕に李賀が追い打ちをかけた。
「人間で、成長後も正体が人間の姿をしているのって、
結局、あなただけですものね。
あの人造人間も人間らしくはありますけど、
生まれた直後から腐り始めてますし」
「いきなり、その姿やめてくれるかな」
「だから、プロヴィデンスの話しましょうよ」
と、異形になった彼は蛸のような足を僕に振るのだが、
ダメだ、吐き気がする。




