食国
莫迦だった。
ここから出る方法をきいていなかったことではなく、
私の人生への感想だ。
あと、
あまりにも肉片が散り続けるの見すぎたせいで、
肉を食べられなくなった、
というか、
食べたいと思わなくなった。
まぁ、
それが一番の変化だな。
「そうだね」
「ああ、そうなんだ」
「でも、美味しいよ」
「ああ、」
と、そこまで話してから気がついた。
誰と話してるんだ?
横を向くと、
私より少し小さい男の子が座っていた。
「僕? 僕のことはコウってよんで」
「ああ、と。私は」
「君の名前は山田悠紀君。実年齢は20歳。肉体年齢は10歳、であってるかな?」
「そうだが、君はあの誰だ?」
「僕はただの少年だよ」
この時、
また、電車が母子をひいて血肉が飛び散った。
コウと名乗った男の子が真っ青になった。
そりゃそうかと思い、
「大丈夫か」
と、ダメ、というので、
私は彼をつれて駅の外に出た。
平凡な駅前の風景だが、
彼らは息を吸って吐いて、
少し楽しそうに辺りを見渡した。
「あそこ、行っていい?」
喫茶店か?
「ああ、いいけど」
私たちは古風な喫茶店に入った。
コーヒーの香りに浸され続けて、
部屋中からいい香りがする。
そういえば、
この世界に入ってから、
味わって食事をしたことがなかったな。
しかし、
子供二人でこの純喫茶ぽい店で向かい合わせで座っているのは、
とても奇妙だがいいのだろうか。
「ご両親と待ち合わせ?」
と、優しく店員が訊いてきた。
そりゃそうだうろな。
「うん」
と、彼が返事をした。
「僕はね、このパンケーキとレモネード」
言い終えると私をみた。
「あ、わたしはコーヒーを下さい」
大人っぽいのね、と彼女を笑いながらカウンターの中に入っていった。
「ほんとうにビックリしたよ」
と、コウがいった。
「どれだけ殺すのかなって」
「そんなに殺したかな」
「これまでで最高得点だね。断トツに」
そうなのか、と私は急に恐ろしくなった。
「わたしはこれから地獄へ行くのか?
それとも、もうここが地獄なのか?」
彼は頬杖ついて、
「君は莫迦なのか?」
と、私を観察するようにみた。
「それとも、
BGさんの機械が不完全で記憶障害でも起こしているのか?
だとしたら、
僕も壊れている可能性があるな」
「君も、」
「コウでいいよ」
「コウもここに入ったのか?」
「入ったとも、100年間ね」
「100年!?」
「ちなみに君はまだ一時間」
「そんなはずはない。私は何度も何度も殺したぞ」
「そうだね、本当によく飽きもせずに殺せたものさ。
でもね、
人間五十年ていうだろ。
ここの五十年は外の一日なんだよ」
なんだ、
この浦島太郎のような話は。
私の頭が真っ白になっていると、
パンケーキとレモネードとコーヒーがテーブルに並んだ。
「BGさん、
君に説明しなかった?」
「うん、いや、覚えがない」
「ただの手抜きかな」
と、コウはレモネードを飲んだ。
「私はどうなるのだろうか?」
「どうって?」
「いや、こんなに人を殺しておいてなんなんだが、
ここから出られるのかな」
コウはパンケーキを切り分けて、
その半分を取り皿に載せた。
「お食べ」
私が躊躇していると彼はいった。
「甘いものを食べないと、
頭がまわらないよ。
それに、
ロクなものを食べてなかったんだろ」
コーヒーを啜った。
火傷しそな熱さを感じた。
こんなのは、
ここにきてから初めてだった。
「昔の神様というか王様はさ、
世界が自分のもだと証明するために、
世界中のもを食べたそうだよ。
それをね、
食国っていうんだって」
私は渡されたパンケーキを食べながら、
コウの話をきいた。
彼曰く、
人間は一人一人が一つの宇宙で、
一つの宇宙の中には他の全ての宇宙が入っていて、
他の宇宙の中には私の宇宙も含めて全ての宇宙が入り、
私の中には他の全ての宇宙が入っているそうだ。
人の姿は壊れても、
宇宙としての人は壊れることなく永遠で、
人の喜怒哀楽も愛憎も、
肉体がある瞬間の貴重な経験らしい。
コウはいった。
悠紀君がしたくないと思うことが生まれると、
君の宇宙の中に虚空が生まれる。
虚空はいずれ大きくなって、
全て宇宙の虚空がより集まって、
あたらしい宇宙が誕生するんだよ。
彼の言葉が心に染み込んでいく感覚とともに、
私は目覚めた。




