生首
僕は自殺倶楽部の諜報部門「三」から送られくる映像をみがら、
節子と昼食のお蕎麦を食べている。
今日の蕎麦は東北の辻蕎麦で、
薬味のネギとわさびを少しずつ入れてすする。
喉越しのいい、
美味しい蕎麦だ。
節子も映像や情報を共有しているけれども、
彼女は一切、
それらには反応しない。
薬師えつこが後頭部を破壊されて、
頭部を切断されても、
節子の感情は動かない。
彼女が喜怒哀楽を表すのには、
僕に何かあった時だけで、
まぁ、
他にあるとすれば「お化け」や「占い」の類だ。
それにしても、
霞山と名乗ったらんちゅうや、
宗次郎と名乗っている沖田総司に無人と呼ばれている乃木希典や、
清河八郎に白蓮、
そして、
鞭女は鶴橋夫人。
実在の人物と架空の人物とが入り混じり、
まるで夢が現実に介入したようだ。
「どう思う?」
と、僕は節子に訊いた。
「ふーん」
と、節子はいった。
少し前から、
三から送られてくる映像は、
清河と白蓮の抱き合う姿に変わっていた。
二人は大通りを渡ると、
近くの公園に入った。
そこにある公衆トイレに入った。
白蓮が清河に薬師えつこの生首の汚れを落とそうと提案したからだ。
洗面台で顔についた泥と血とをおとし、
髪をとかして、
白蓮は自分のストールでグザクザに潰れた後頭部と細い首の切り口を包んで隠した。
「これでようございます」
と、清河に様変わりした生首を誇らしげにみせた。
「ふむ」
「それでは、次はわたしくの番」
そういうと白蓮は清河を抱きしめた。
それから二人の抱擁は、
僕たちがそばを食べ尽くすしても、
まだまだ、
続いていた。
夢とでもいうべき存在同士が肌を温めあって、
そこから誕生するものはあるのだろうか、
と考えていたら、
節子が我慢できなくなったらしく、
僕にしな垂れ掛かった。
「気にする必要がありますか?」
と、節子はいった。
僕は少し考えてからいった。
「胴体と切り離された頭は、
15分くらいは意識があるらしいんだよね」
「それがどうしました?」
「いや、なんとなくね。
首は取り戻してあげた方がいいかな、
と思って」
節子はもう答えなかった。
僕はレムに首の奪還を命令した。




