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寝ているだけで代理人が世界征服してしまった話  作者: ルリア
第3章 自殺俱楽部編
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龍川笄橋夢幻1

「なきと!」

と、色白で細身だが、

服の上からでも筋骨の秀でているのがわかる柔軟な身のこなしで、

鞭をさけた青年が叫んだ。


「そうにい」

と、黒いインバネスの裾を跳ねあげながら叫んで、

間一髪で、

自らに襲いかかった黒い馬上鞭をよけた。


「あれが件の未亡人かい?」


「らしいですね、そうにい」


二人が対峙している相手をみて、

あたしは唖然とした。


黒地に朱の梅柄の着物に赤い帯をした、

色の白い品よさそうな女性が、

鞭を振るって若い男二人を追い詰めている。


それも、

神社の鳥居の前でである。


けれども、

ちらほらとすぎる通行人も車も、

少しも訝る様子をみせない。


すると、

これがみえているのは、

私と当事者の三人だけらしい、

と思った矢先に、

今度は矛先、

いや、黒く光る鞭先があたしに向いてきた。


ここは西麻布の交差点から広尾橋に向かい、

一つ裏路地に入ったところにある通りで、

神社の前だ。


歴史好きなあたしは、

命じられた任務を遂行する傍ら、

趣味の散策にも勤しんでいた。


今日は青山から笄川に沿って歩いてみようと、

楽しみにして笄橋までやってきた。


大昔には、

龍川といいわれて、

青山一体を水源にした流れで、

ちょうど神社と西麻布の交差点の間あたり、

牛坂の下に橋はあった。


龍の関、と呼ばれた時代もあるように、

江戸に数カ所あった「龍穴」の一つだ。


牛坂というのも、

牛滑り坂といわれて、

もともとは龍を怒らせて雨を降らせる時に、

牛馬を坂から転がして投げ込んだ大昔の生贄儀式の名残だ。


また、

龍川の水源の上にある六道の辻は冥府への入り口で、

はるか昔には身分のある者の墓所だった。


では、

身分のない者はといえば、

そのまま川に投げ入れにれて仕舞いだった。


それでは困るというので、

江戸では川の水源地近くに火葬場をもうけ、

周りに供養の寺社を集めた一例が今の四谷だ。


この笄橋あたりも、

神社と同じ笄町に麻布観音、

そして、

昔は夜久神という異石があった。


まぁ、

その辺の旧跡巡りも期待していた私だが、

そもそも、

なぜ、

あたしがこんな場所にいるのかといえば、

それは主さまが「金魚に褒められてたよ、君たち」

と「自殺倶楽部」の慰労会で話しされたのに、

つい、

「きつつきみたいですね」

と、余計なことを言ってしまったからだ。


「きつつき?」


「あたしの田舎では、

きつつきが突いてる木は虫が付いてて、

いずれ倒れるから用心しすようにっていわれるんです」


「うん」


「あの、その金魚さんも似ているな、と思って」


「面白いね」


その時は話はそれで終わったと思っていたら、

一月後に突然呼び出されていわれた。


「君、きつつきになって」


「きつつき、ですか?」


「前に言ってたでしょ。枯れそうな木にはきつつきが寄るって」


「そうですけど」


「地上にいってね、枯れそうな木をみつけて助けてあげて」


「あたしが、ですか?」


「そう、君。

薬師えつこさんね」

と、主さまがいわれた。


「場所は、

前に作戦活動をした六本木界隈ということで、

よろしくね」

と、いわれ今に至っているわけだが、

女に襲われるのは想像外と、

飛んできた鞭をどうしようかと思っていた刹那、

「嬢ちゃん、大丈夫?」

と、

色白の青年が割って入ってくれた。


腕にした一メートルほどの枯れ枝で、

凄まじい速さの鞭を弾いた。


「さずがだね、

そうにい」


「なきとも本ばかり読んでないで、

体動かせや」


「いやですよ。

また、右目を怪我しますから」


「あれは俺が悪かった」


そうにいとよばれている青年が、

平正眼に構えた。


女性は唇を歪ませて目は爛々と狂わせ笑った。


「あたしがどんな女がしらないんですね」

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