龍川笄橋夢幻2
鞭女の歳は二十四、五というとろこだろうけれども、
どこで手習ったのか、
一見、
扱いにくそうな馬上鞭を意のままに曲げては、
あたしたちを責めてくる。
色白の青年が枝を剣のように構えて、
数度にわたって突きを繰り出したけれども、
間合いが悪い。
「なまってますね」
と、インバネスの男がいった。
「まぁ、みてな」
そうにいと呼ばれている色白いの男はさっきよりも腰を低めに構えた。
しゅッ、と空気が震える。
腕と一体になった枯れ枝が、
寄せまいとする鞭を先端から巻き取るようにして、
あっと言う間に、
女の喉元を掴み上げると男はいった。
「お前さんがどんな女か教えてれるかい?」
「あらあら、色白でいい子だね」
女は舌で出して唇を舐めた。
「あたしの鞭で生屍におなり」
枝に絡まった鞭がふるふると振動しだして、
枯れ木を砕くと、
青年の背中を叩こうと空に弧を描いた刹那だった。
「もう、遅いさ」
男が黒いコートの懐から銀色の盃らしてきものを取り出して、
なにやら二言三言呟くと、
女の姿が段々と薄くなり、
仕舞いには鞭ごと消えてしまった。
「年増はとしさんの領分さ」
汚れた手のひらを払いながら、
あたしに話しかけてきた。
「ところで、あんたは何者?」
それはこっがききたいところだ。
男二人か女を消し去った現場に居合わせて、
どうしろというのだ。
「観光客です」
「嘘ではないようですが」
と、盃を仕舞いながら男がいった。
「なきとがいうなら間違いないな」
こうみると、
青年は思ったより小さくて、
あたしと同じくらいの背格好だ。
「でもさ、
とりあえず、
一緒にきて」
有無をいわせない、
というか、
さっきの剣技をみたら、
いやというのも無駄だろうと思い、
頷いた。
あたしたちは鳥居に向かって右にいって、
次の四辻を右に曲がると大きな通りを渡り、
目の前の坂を進んだ。
人ごみに入るとき、
「あっ、そうだ。
もう周りに見えてるから、ぶつからないようにね」
と、コートの男の人が言ってくれた。
この人は思ったより大きい。
「俺たちはこの辺の生まれで、
こいつがなきと。
無き人って書く。
泣いてばかりだから、
泣き人でもいいよ」
ききながら彼は頭を掻いて苦笑いした。
「で、俺は宗次郎。
まぁ、苗字はいいか。
で、あんたは?」
「えつこ。
苗字はいいでしょ」
「ふーん」
「何?」
「知り合いの爺さんに雰囲気がさぁ、
似てるっていうか」
「爺さん?」
「いや、あんたも気を打てるのかな、と思ってね」
失礼返しにあたしは言ってやった。
「男のくせによく喋るのね」
そしたら、
無人と言う名前の男が大笑いした。
「宗兄は戦った後は多弁なんですよ。ついも」
坂上で付き合った通りを左に行くと、
見覚えのある景色が現れる。
一月ほど前に作戦を遂行した場所だ。
近づいていくと、
左側に鳥居がある。
桜田神社だ。
確か、
元々は警視庁の辺りにあった、
桜田門近くの社だ。
あたしたちは一礼して、
左足から鳥居を入った。
右足の踵がくぐり終えて、
あげた目線の上に現れたのは、
きらめくの金魚たちが遊ぶ世界だった。




