終焉と始原4
「人間(僕にとってはペイガン)の役割が<労働>と< 奉仕>」で、
それさえこなせば、
創造主は人間がどう生きようが無関心だ、
と、ある神話研究者が書いていたけれども、
僕が愛し、
永遠に出逢いつづける節子が始まりのペイガンなんだから、
無関心でいられるわけがない。
「節子さんて何歳?」
唐突に灯美子が上目遣いでみた。
「20代ですよ」
「そりゃないわ」
「25歳くらいですか?」
と、ノーラがいった。
節子が嬉しそうにしていると、
「薄化粧の年増っていうのよ、ね」
と、灯美子がいうものだから、
「それは芸者さんの話です」
と、節子はお冠だ。
一女子が長身を椅子から逸らして大笑いした。
まぁ、悪いたとえ話ではないけれど、
思い出してみれば、
百年余年前、
僕がまだ二十代後半で、
節子は三十代後半だった。
初めて一緒に朝を迎えた時は感じなかったけれど、
だいぶ経ってから、
初めて化粧っていいなと思った。
寝顔の可愛さも捨てがたいけれど、
化粧して綺麗になって素敵な服を着た彼女の姿は、
本当に綺麗だったからだ。
「レム、狸親父してないで、戻っといで」
薄く口元がにやけている僕をみながら、
背後で沈黙をつづけていたレムに一女子が話しかけた。
「そろそろ終わったんだろ。すごいのが飛んでったよ」
「みえちゃいました?」
「みえるよ、ね」
「改良の余地ありですか」
「仕方ないよ。この2人にみえないものなんて、この宇宙にはないんだから」
と、僕はレムを慰めた。
5枚葉の薬師、サラ、ガレノスの三人が非現実化シールドで「幽霊」化しても、
一女子と灯美子の「眼」は誤魔化せなかった。
じゃ、
と僕とレムは考えた。
「3(トリスメギストス)」は気づかれているかな?
自殺倶楽部の諜報部門「3」、
通称「三倍の偉大さ(トリスメギストス)」。
「美味しかった、ね」
灯美子がいった。
「散歩するか」
一女子がいった。
「どこへ?」
ノーラがいった。
「幽霊探し、ね」
「おばけがいるの? あたし、おばけ、大好き」
と、ノーラが身をのりだした。
「どこにいるの?」
「あっち」
と、一女子が指差した先にあるのは、
六本木ヒルズだった。
僕らは執事と、
午後用の黒と白の服に変わったメイドに見送られ、
店を出て左へと角を曲がって進んだ。
小径の左側にお寺と墓地がある。
「ここ?」
と、ノーラが言った。
「今日はいない」
長身の一女子が更に背伸びして塀の中を見渡して、
「あっち、かな?」
と、真っ直ぐ先の少し左が向いた。
そういえば、
さっきから節子は15センチほど低い場所にある僕の首に腕をまわしている。
最初は「薄化粧の年増」といわれて拗ねて黙っているのかと思ったけれど、
考えてみれば、
彼女は「お化け」が苦手だった。
そもそも、
ペイガンはお化けが苦手なんだ。
だから、
彼らは「演算的卜占」、
要するに星占いや、
お祓いなんかに熱中する。
僕は節子を見上げて、
頭を撫でた。
こういう可愛さも、
悪くない。




