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寝ているだけで代理人が世界征服してしまった話  作者: ルリア
第3章 自殺俱楽部編
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終焉と始原5

六本木ヒルズには、

二つの坂がある。


右側の大きな坂の両側には欅が、

左側の小さい坂には桜が植わっている。


葉も落ちきった欅は寂しげだけれども、

桜はよってみれば春に咲くそなえをはじめた蕾が艶かしい。


<眠っている女の子の口に指を・・・>


<深あく眠っていて、何にも知らないんですわ>


つい、

連想するのは、

小説の冒頭だ。


眠っている女性に悪戯をしかけるのは、

気がひける、

というよりも閃きにかける。


僕を抱くように歩道をあるく節子を、

あっている時には日に三度は抱いたけれども、

寝起き気味に掛け布団から覗く胸元から下唇にかけてが、

今、

おきようとして(わら)い始めている時、

僕の奥から豊かさが浮かび上がる。


それは音を伴っていて、

その音に節子の体が気づいて、

精神は寝たままで

受け入れる準備を整えてくれるのだ。


桜の幹の中でも、

蕾の中では蓄えられた栄養分と、

根から吸い上げた水分とが混ざり合い、

人の臓腑や細胞で起こっているような腐敗と再生がけたたましい音をたてているはずだ。


それが人にきこえないのは、

生まれる前からききなれはしまっているせいだ。


人と人が完全な別種であり、

今、

アカーシャに居る二億人は、

二億種だ。


そして、

節子を始祖とするペイガンは、

何億いようとも一種類だから、

発する音も一種類だ。


だから、

人と人はお互いの音になれることがないから、

その距離に戸惑う。


もし、

霊子による繋がりが深い共感を人同士にもたらさなければ、

人と人は全く交流するのが不可能なくらいだ。


もっとも、

だからこそ、

様々な閃きが生まれるのだけれども。


僕がそんなことを桜の下を通り過ぎながら、

節子の腕の温もりに首と頰でたのしみながら、

坂の半分ほどで、

上に寺と墓地がみえてきた。


「あの辺にいそう」

と、ノーラが嬉しいそうだが、

なぜ、

一部の西洋人は幽霊屋敷やお化けが大好きなんだ?


「ひめちゃん、金魚だ、ね」

と、灯美子がいった。


僕は目を凝らした。


 レム、みえる?


 薄ぼんやりとですが、坂上の右奥のカフェに、

 赤と白? いや、銀色の何か?


確かに、この右側には昔、

金魚の養殖池があったけれども、

六本木ヒルズの建設で潰されてから、

六本木で金魚といえば、

ニューハーフのショーパブのことだ。


桜坂がけやき坂と斜めに交差する信号の手前左の角は、

六本木ヒルズができたはじめから、

花見のできるテラスがあって、

今もその名残で、

自由に座れる椅子とテーブルがある。


一女子が喋った。


「155箇所、金魚って出てくる小説なら昔、

よんだ記憶があるけど」


節子は伏せ目がちに、

「金魚の空耳です。誰もいません」

と僕に囁いた。


耳たぶにさわるふくよかな唇の隙間から、

体の奥へと続く世界から響く声だ。


無菌の胎内との境界で、

この刹那も生死が明滅している音だ。


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