狂気への歴史2
場面は清潔なビルの一室に変わった。
そこでは13人の白衣をきた女性が作業をしている。
葦でつくられたナイフで皮が長方形に切りそろえられていく。
まだ、
葦なんかつかっていたのね、
と、節子が言った。
地上に最初に生まれたのが葦だからでしょうけど、
確かにペイガンらしい演算的卜占です。
と、レムが言った。
なぜ、人の皮を使うの?
と、ノーラが訊いた。
私たちが今、霊子と名付けている精霊現象を起こす本質を蓄積できるからです。
皮膚にそんな力があるの?
彼らは皮膚を生きたまま製本する技術を生み出したんです。
長方形に切り揃えられた人皮は、
別の部屋で製本されていき、
銀で出来た帙に一冊ずつ収められ、
さらに、
銅で出来た大きな箱に仕舞われていった。
ここで映像は終わった。
節子がノーラを連れて冷めた紅茶とコーヒーを持って出ていった。
「生きています」
とBGさんが言った。
「助けられる?」
「可能性はありますが、
とても困難です」
「製本されたあとも皮膚が生きているように処理されていたとは、
思いませんでした」
「で、もう一つの問題が、
現在進行中の計画だよね」
「ええ」
とレムが入り口を気にした。
「大丈夫。ノーラのことは節子に任して」
「はい。とてもきかせられませんから」
正直、
僕もききたくはない。
この手の話がいやで牛乳ものまないのに...。
「工場は稼働しているのですか?」
と、BGさんが言った。
「胎児工場自体は20世紀から存在していましたが、
その大半は破棄されたはずです」
「そうしますと、
今、問題なのは、
新規の施設ということですね」
「はい。
私たちの霊子の力を目の当たりにしたペイガンの科学者たちと、
その支援者たちは「養霊場」と名付けています」
「要するに、養鶏場の人版か」
第一段階では、
ペイガンの雌を人工授精させて胎児を生産し、
その生皮を剥いで人皮本を生産する。
大量の人皮本を高密度に製本することで、
多量の霊子を蓄積し、
霊子を生み出さない自分たちでも、
その力を使えるようになるはずだ、
と考えているわけか。
「魔術的自己と彼らは名付けています」
「それで本は相変わらずベラムと呼んでいるんだね」
レムは頷いた。
「このまま進めば、
このアカーシャに攻め込み、
人間の女性を拉致して胎児工場を作る計画になっています」
それじゃ、
12世紀の洗衣院や、
19世紀の動物園の再来じゃないか。




