1999年8月27日金曜日
1999年8月27日金曜日、
屋根瓦を叩く雨音で目が覚めた。
僕は節子の寝顔をみる。
昨晩、
したたかに酔いながら眠りについた節子、
彼女の寝顔はこんなにもやさしかったのだったのかと思いつつ、
唇を重ねてみる。
あさは、きついから、だめなのよ、
と、節子がいうから、
よけいにもの欲しくなる。
部屋は2号室だった。
僕は「2」という数に縁があり、
好んでいる。
理由の一つには、
本当にこわいのは二番、じゃないかしら、
と向田邦子が書いていたからでもある。
彼女の本を読むようになったのは、
久世光彦の連載で、
二人が
遊郭の色はピンクではなく、
「桃色」だ、
と、意気投合する件や、
彼が森田誠吾が書いた「魚河岸ものがたり」の一節を読んで泣いてしまった、
と、述べるコラムの最後が、
「くすり指」の話だったからだ。
「紅差し指とはくすり指のことである」
と、そこにはあった。
それが記憶に残って、
親の家にあった向田邦子の本を数冊、
読んでみた。
これも本の終いの文で、
「最後に笑うのは、
二番手につけておいて、
土壇場に追い抜く人ではないだろうか」
と、あり、
その前段落に、
「怖いのは二番」
と、ある。
それが僕の中で熟成されて、
より「2」を好むようになった。
睦如が終わると、
いつもなら、
朝ごはんか、
はやい昼食をどこにするか、
それこそ、
紅を差しながらの会話になるはずが、
この日は彼女の身内に急病人が出て、
僕は節子を送っていき、
そこで別れることになった。
彼女はしきりに、
迷惑よね、本当に、
と嘆いていた。
背中のホックをとめる時には、
いつものように背骨に口付けた。
唇にしようとすると、
化粧がうつるから、
だめよ、
と言われるからだ。
車をだして、
十分ほどで病院についた。
黒いダウンのコートを着た節子を降ろした。
一度振り返り、
手をふった彼女の笑窪はいつも通りで、
今日の予定を失った僕は、
ひとまず南山荘に戻ってみた。
雨はもうやみ、
曇が覆っていた。
2号室の扉を開いた。
「おかえり」
少女の声がきこえた。
足を入ると、
乱れた掛け布団の上に小柄な少女が腰かけていて、
奥の二つの窓の間に置かれたティーテーブルを挟んで向かい合っている椅子の右側に、
髪の長い少女が座っている。
今は金曜日の11時だ。




