真実
人混みに紛れて、手を引かれたまま家へと駆け戻ったリリアナは、汗を流し強張った表情を浮かべて息を荒らげているゲーリを見る。
彼は真っ青な顔色をして、目を見開いたまま硬直していた。
「ゲーリ……?」
「!」
リリアナが恐る恐る声をかけると、ゲーリは突然弾かれたようにその場から駆け出し、部屋の窓のカーテンと言うカーテンを閉めてリリアナを振り返った。
「ここから出てはダメですよ」
ぐっと声を落とし、緊張感のこもる低い声でそう言うとリリアナは一層不安が膨らみ、眉根を寄せた。
外では人々が男たちに襲われている。危険だから出るなと言うゲーリの言葉が理解できないわけではなかったが、自分だけが逃げてもいいのかと感じてしまう。
「でも、みんなが……!」
「ダメです! 絶対に出ないで下さい! あなたの存在が知られたら、終わりだ」
顔面蒼白状態でリリアナの肩を掴んだゲーリの言うことに、リリアナは不自然さを感じ目を見張った。
『デルフォスの王女さまがここにいるんだろう?』
ふと、先ほど叫んでいた男の言葉が脳裏に蘇り、リリアナは目の前にいるゲーリを真っ直ぐに見上げる。
――あたしの存在が知られたら終わりって……。
リリアナは確信に近い思いに駆られ、不安に胸が鳴った。微かに震える唇を静かに開く。
「ゲーリ……」
「……」
「さっきあの男がね、ここにデルフォスの王女さまがいるんだろうって言ってたんだよね」
「……!」
その言葉を聞くなり、ゲーリの表情があからさまに変わる。その表情に、リリアナは小さく目を見開き、心拍数が上がるのを感じた。
「ま、まさかと思うけど、あの男の言った言葉と、ゲーリの今の態度と……。あたしが……関係あるとかじゃない、よね?」
リリアナも馬鹿ではない。突然様子の変わったゲーリに何かを感じないわけが無かった。
確証はない。確証はなくとも得も言われぬ確信があった。だから不安に駆られる。
「ゲーリ……」
関係はない。ハッキリとそう言ってくれさえすれば、気持ちは晴れる気がした。
「……」
外から聞こえてくる悲鳴に、恐怖心が煽られる。だが、それ以上に今、リリアナはこの話を聞き出せなければならないような気がしていた。
「か、関係なんか、あるわけないでしょう」
苦し紛れにそう呟いたゲーリだが、すぐに言葉を詰まらせる。リリアナはぎゅっと手を握りしめ、詰め寄った。
「じゃあ、あたしの存在が知られたら終わりって、どう言う意味?」
「そ、それは……」
「ゲーリ」
「か、隠している事なんか何一つありません!」
ゲーリは思わず声を張ってそれを否定した。否定しなければいられないほど、彼はパニックに陥ってる。彼が慌てれば慌てるだけ、不思議と冷静になる。
リリアナはきゅっと口を引き結び、肩に置かれていたゲーリの手を握り返して真剣な表情で彼を見た。
「嘘。ゲーリは嘘が下手だよね。そうやってうろたえるほど、何か関係があるって認めてるのと同じだって気付かない?」
「……っ」
「ブレディシアにいた時も、今みたいに何かに怯えてたよね? 気づいてないと思った?」
真っ直ぐに見つめるリリアナの視線はゲーリから逸らす事はない。
もう関係があると確信を得ている以上、話さない訳にはいかないのだろうが、それでもゲーリは否定していたかった。
眉間に皺を寄せ、僅かにリリアナから視線を逸らす。
「ねぇ。ホントのこと言って。あたし何聞いても驚かないって約束するから。何を隠してるの?」
「……それは……」
なかなか話を切り出そうとしないゲーリに、次第にリリアナは苛立ちを覚え始めた。
ここまで来て何も知らないでいる事などできるはずがない。
「ゲーリ!」
一喝するように声を張ると、彼はもう言い逃れは出来ないと諦めたかのように瞳を閉じて、唇を噛む。顔は俯いたまま、酷く寂しそうな顔をしていた。
「……本当に、何を聞いても驚かないと約束できますか?」
「うん」
「これから言う事が、あなたの人生が大きく変わる事だとしても?」
「……うん」
人生が変わる。そう言われると瞬間的に尻込みしてしまうが、このまま知らない振りができるほど自分は器用な人間じゃない。
ゲーリが抱える物がそれほどに大きく重たい物だと言う事を、言わずとも肌で感じ取れた。それでも、自分は聞かなければいけない。
リリアナはこれからゲーリが切り出す話を落ち着いて聞くよう、心してかかった。




