似てる
部屋に入ってきた折り目正しいその男性は、水色の短髪に、新緑の瞳を持っていた。先ほど下で別れたペブリムも、彼と同じものを持っている。そして何より、彼が動くたびに香る香り……。それもペブリムが纏っていたものと同じだった。だが、身長も体格も声も、当然ながら性別も違う。
「あ、あの……ペブリムさんは?」
困惑しながら訊ねたリリアナに、男性は優しげに微笑み返す。
「彼女は火急の仕事が入りましたので、代わりに私が参りました」
その表情と同じく、彼の語る口調や声までも柔らかく心地よい低音だった。
男性はソファに座ったままのリリアナのそばまで来ると、立膝をついて手を差し伸べてくる。
突然のことにどうして良いか困惑していると、ドリーが背後からコソッと助け舟を出してきた。
『王女殿下、手を……』
「あ、は、はい!」
言われるままに左手を差し出すと、男性は何も言わずにその手を柔らかく握り返し、瞳を閉じて唇を寄せてくる。
「……ふぁっ!?」
指先に当たる柔らかく温かな感触にリリアナの胸は大きく跳ね上がり、指先から顔にかけて一気に熱が集まったのを感じた。その感触も握られた手もすぐに離れて行くが、全身を赤く染め上げて微かに震えるリリアナの思考は完全に停止してしまっている。
そんな彼女を見た男性は困ったように微笑むと、リリアナはその表情に我に返った。
――あ……その顔、凄くペブリムさんに似てる。
意図せず胸の高鳴りを覚えながら、ちらちらと遠慮がちに顔を見つめる。
「私はレルム・ラゾーナと申します。以後、お見知りおきを」
「あ、ああああの! レ、レ、レルムさんって、ぺ、ペブリムさんに似てるって言われませんか?」
余裕のない様子のリリアナに、レルムはどこか驚いたような顔を見せると、静かに笑った。
「似ているもなにも……ペブリムは私の双子の妹です。私と彼女は、昼夜に別れて軍の仕事を任されています」
笑顔も一緒。物腰の柔らかさも同じ。双子とはここまで似るものなのかと思ってしまう。唯一違うのは、レルムからは最初にペブリムの時に感じたような怖さや厳しさのようなものは、全くと言っていいほど感じなかった。
「ペブリムから話は聞いております。大変なご苦労と長旅でございました」
「……い、いえ。あの……。始めは怖かったんですけど、ペブリムさんと旅ができて凄く楽しかったです」
照れたようにそう言うと、レルムは意外そうな顔を浮かべた。
「さようですか……」
「色々教えてくれたり、励ましてくれたり、厳しいことも言われたりしましたけど……でも、ペブリムさんのおかげであたし、前を向いてられたって言うか……。凄く、頼れるお姉さんみたいで安心できました」
リリアナのその言葉に、レルムは一瞬言葉を飲み込んだ。だがすぐに笑みを浮かべると小さく頷き返す。
「……それは、とても有り難いお言葉です。彼女にも、そのようにお伝えしておきます」
「え!? つ、伝えるんですか?」
「?」
思いがけないリリアナの反応にレルムが驚いたような顔を浮かべると、彼女は顔を伏せ膝の上のドレスを弄りながら、顔を赤らめて僅かに視線をそらした。
「いや、えっと……そのまんま伝えられたら、は、恥ずかしいと言うか……」
そらしていた視線を下げて、もじもじと指が遊び始める。その様子に、レルムは小さく息を吐きながら笑った。
「承知いたしました。では、このことは内密にしておきましょう」
「あ、あの、はい。ありがとうございます」
レルムはゆっくりとその場に立ち上がると、僅かに腰を折って再びリリアナの前に手を差し伸べる。
「では、王女殿下。陛下があなたをお待ちです。そろそろ参りましょう」
「……は、はい」
リリアナは差し出された手におずおずと手を伸ばし、軽く引き上げられる動きに合わせてその場に立ち上がった。
――あ……。全然、目線が違う……。
立ち上がってみると、当然ながらペブリムの目線とは違う。
ペブリムは僅かに見上げる程度だったが、レルムはもう少し上を見なければ目線が合わず、思わずじっと顔を見つめると、レルムはニコリと笑みを返してきた。
「……っ!?」
リリアナはその笑みから咄嗟に目をそらす。
何より、その身長差と男性から受ける丁寧な対応に不慣れなリリアナは、始終止まらない胸の高鳴りと気恥ずかしさに、戸惑うばかりだった。




