援軍
「リリアナ様、顔を上げないでください!」
「!」
ペブリムはそう言うと、自身もぐっと身を低くしリリアナを抱き込むような体制になる。
その瞬間、リリアナたちの上空を幾つもの何かが飛び去り、音が止んだ瞬間ペブリムが体を起こしたのにつられてリリアナも顔を上げた。
見れば、前方から同じくデルフォスの兵士たちが数人、流鏑馬で弓を構えている姿が見えた。
「ペブリム様! ご無事で!」
ペブリムはぐっと手綱を引いて馬の歩調を弱めると、デルフォス兵たちも馬の速度を落とし声をかけてきた。多少の怪我を負っているものの、他に異常がないことを認めると、兵士たちの顔に安どの色が出る。
「間に合って良かったです」
「少し油断をしていた。助かった」
兵士たちに声をかけると、兵士たちは嬉しそうに顔を紅潮させ頷き返した。そしてペブリムの前に座っているリリアナを見て、誰からともなく姿勢を正した。
「王女殿下もご無事でなによりです! お怪我はございませんか!?」
「え!? あ……はい。あの、ありがとうございます」
リリアナは一瞬面食らった。
面識のない彼らがこちらの情報をすでに掴んでいて、しかも王女だということも知っているとは思ってもみなかったからだ。
ぎこちなく返事をかけると、兵士たちの表情はパッと明るさを帯びにこやかな笑みが浮かぶ。
「ポルカ様も、ようやく浮かばれますね!」
「あぁ。私もそう思う。積年の想いが晴れるのだからな」
ちらりとペブリムを見上げると、彼女の顔も心なしか柔らかくなっている。
――ポルカ様って……、たぶん、あたしと関係ある人、だよね。
これだけ周りが嬉々としているという事は、余程王女のことに気を割いていたのだろう。それが、十七年という長い時間、こと欠かすことなく気にしていたのだとしたら、余程の想いが積もっているに違いない。
――誰だろう……名前の感じからしたら王妃さま、かな。
まだ見ぬ人物に、リリアナの興味が向く。
どんな人で、どんな姿をしているのだろうか。
――村の両親とは全然似てなかったから、あたしに似てるところとかあるのかな。
怖い人だったらどうしようか。
そんな思いを巡らせ始めると、兵士たちは敬礼してみせた。
「では、ここから先は我々にお任せください! ペブリム様は早く城へ」
「あぁ、すまない。あとは頼んだ」
そう言うと兵士たちは嬉々として、前方にいる目に見えない賊たちに目を光らせ馬を走らせる。
ペブリムが彼らを見送り、再び手綱を掴んで出口を目指して走り出した。
「あ、あの、さっきの兵士たちはどこへ行くんですか?」
彼らの馬には、たくさんの荷物が載せられているのを見た。途中野営する道具を省いたとしても、かなりの量の荷物に疑問が浮かぶ。
ペブリムはちらりとリリアナをみると、ふっと微笑み返す。
「あなたの村ですよ」
「え? ルク村?」
「彼らは救護班です。先に向かっている救護班と合流する手はずになっています」
「それって、あの時村に残ったあの二人、ですよね?」
「いえ? 私たちが村を出てから要請を出していた先発隊が十名ほど向かっていますよ」
いつの間に……。
リリアナはペブリムの仕事の速さに目を瞬く。自分が気付かないところで隊を動かしているとは、驚いた。
思わずぽかんとしているリリアナに、ペブリムはくすっと笑う。
「一つ良い情報をお伝えしましょう」
「?」
「村人たちの半数は、何とか命を繋げたようです」
「ほんと……!?」
リリアナは驚きと同時に歓喜の声を上げてペブリムを振り返った。
ペブリムはそんなリリアナに微笑みかけると、再び視線を前に戻す。
「ゲーリ殿のおかげですよ」
胸がいっぱいになる。
確かに、ゲーリが生きていたから繋がった命ももちろんあっただろう。だが、それ以上に迅速な対応をしてくれたペブリムと兵士たちによる貢献も大いにある。
「……良かった」
「……」
心底安心したのか、体から力を抜き、深いため息と共にいつもとは違う自然な笑みを浮かべた。
ペブリムはそんな彼女の表情を見て、一瞬言葉を詰まらせる。
――村を出てから笑うことも増えてきたが、年頃の娘らしい笑みを見たのは初めてかもしれない。
それだけ緊張感が抜けたのなら良かったと思うべきだろう。
見れば、森の出口が遠くに見え始めている。
「参りましょう」
「はい!」
リリアナはいつになく元気な返事を返した。




