出会い.2
視線を上げたリリアナの目には、水色の髪が揺れている。
腰に剣を携え、軍服を着たその女性が自分を庇うように前に立ち、相手を睨みつけて立っていた。
「騎士様だ……」
「デルフォス精鋭部隊の騎士様だ」
周りの人々の中からチラホラとそんな声が聞こえてくる。
それにバツの悪そうな顔を浮かべた男性は、苦い表情を浮かべて睨み下ろしてきた。
「……っち。騎士ってのは随分偉いんだな」
「我々に問題があるのであれば後で話を聞こう。今はすぐに彼女から手を離すんだ」
怖気づくわけでもなく、女性は相手を射すくめるような鋭い目で男を見据えている。更に、威嚇するかのように片手を剣の柄に掛けた。
「……っ」
男は苛立ちながらも危機感を覚え、大人しくリリアナから手を離すと、悪態を吐きながらどこかへと歩いて行ってしまう。
男が去り、周りで見ていた人々もほっと安堵の色を見せて、まるで何事も無かったかのように、再び往来を始め、音楽隊は陽気な音楽を奏で始めた。
抜きかけた剣を戻した女性騎士は、ゆっくりとリリアナを振り返る。
「大丈夫ですか? 怪我は?」
痩身で背が高く、整った顔立ちは女性だと分かっていながら思わず見惚れてしまう。
先ほどの鋭い表情とは打って変わり、とても優しそうな笑みを見せた女性を見ていると、強張っていた体から力が抜けるようだった。
「だ、大丈夫、です……」
そう言いはするものの、今頃になってヘナヘナとその場にしゃがみこんでしまった。
自分でも思った以上に、怖かったようだ。
女性はリリアナの前に立てひざを着いてしゃがみこみ、そっと手を差し伸べた。
「今は祝賀祭で街を開放している分、色んな人間が出入りしています。あまり無茶をしない方がいいですよ」
「は、はい……」
「立てますか?」
「た、たぶん……」
差し出された手を取ろうとして、リリアナはふと、左手の手袋が脱げかかっている事に気が付いた。先ほどの男が手を捻り上げた拍子に外れてしまったようだ。
「……」
ペブリムはその手袋の下から覗く手の甲を見て、何かに感づいたような目を向ける。
リリアナは慌ててその手袋を嵌め直し、ペブリムの手を借りてよろよろとその場に立ち上がった。するとそこへ、血相を変えたゲーリが大慌てで駆け戻ってくる。
「リ、リリアナ!」
「ゲーリ」
人込みを強引に掻き分けて、大きな荷物を抱えたゲーリは肩で荒い息を吐きながらリリアナの前に立つ。
「大丈夫ですか? 騒ぎを聞いて……怪我はありませんか?」
「う、うん。大丈夫……」
蒼ざめたゲーリがリリアナの安否を気遣い、頭の先から足の先まで見て特別怪我がないと分かると心底安心したようにホッと胸を撫で下ろした。
「お連れの方がいらっしゃいましたか。良かった」
「……!」
ニコリと微笑むペブリムの姿に、話しかけられるまで気が付かなかったゲーリは、彼女の姿を見た瞬間顔を強張らせた。
リリアナは隣でそんなゲーリの様子を見て、不思議そうに首を傾げる。
まるで何かに怯えているかのような、そんな表情でゲーリは目の前の女性を食い入るように見つめた。
「では、私はこれで失礼致します。どうぞ、生誕祭をお楽しみ下さい」
硬い表情で固まってしまったゲーリの事などまるで気にも留めていないかのように、ペブリムは微笑んだまま深々と頭を下げると、くるりと踵を返してその場から立ち去っていった。
ゲーリは彼女の姿が完全に見えなくなるまで、まるで足に鉛でも付いてしまったようにその場から動けずにいる。
「ゲーリ?」
リリアナが不思議そうに声をかけると、呪縛から解かれたようにハッとなる。そして硬い表情のままゲーリは口を開いた。
「手袋……手袋は、ちゃんとしていますね?」
何かに焦っているかのように確認してくるゲーリに、リリアナはぎこちなく首を縦に振る。
「え……うん。してるけど……」
「良かった……」
さっき外れかけてしまっていたと言おうとして、ゲーリの言葉に遮られてしまった。
手袋が取れていないと分かると、ゲーリは安心したのか表情に柔らかさが戻ってきた。
「とりあえず、薬草店に行きましょう」
そう言うと、ゲーリは今度はしっかりとリリアナの手を掴み、二人揃って人ごみの中に消えて行く。
そんな二人の様子を少し離れた場所で見ていたペブリムは、隣に立っていた兵士に声をかける。
「……あの二人をマークしてくれ」
「了解」
兵士が二人の消えた方へ向かうと、ペブリムはぐっと拳を握り締める。
瞬間的に見えたあの左手の痣。あの痣に、女性は確信に近い何かを感じていた。
「彼女は、王女かもしれない……」




