ホームシック・2
「残してきた部下たちが、一人でも多くを救うために頑張ってくれているはずです」
「……」
「城に戻ったら、彼らから話を聞いてみてください。全てとは言えないでしょうが……。それに、あの村にはゲーリ殿もいらっしゃいます」
ペブリムがそう言うと、リリアナは僅かに肩から力を抜いた。
ゲーリは、深手を負っていたとは言え無事だった。彼が無事なら、他の人の命もどうにか繋いでくれるに違いない。
「……そっか。そうですよね。ゲーリは無事だったんですもんね」
「はい」
リリアナは、今朝ペブリムに言われた言葉を思い出した。
家族を信じないのか、という言葉は思いのほか効力がでかい。リリアナは小さく笑い、小さく息を吐いた。
「ペブリムさん、ありがとうございます」
「私は、何も……」
そう答えると、リリアナは首を横に振る。
「あたし、一人だったらずっとモヤモヤしてて、塞ぎ込んでたかもしれない。あんまりクヨクヨするの好きじゃないんですけど、今回のはさすがに、ことがことだったから」
「……」
リリアナは、へらっと笑うとペブリムの袖をもう一度摘まむように掴んだ。
「もう少し、わがまま言っていいですか?」
気恥ずかしそうにペブリムを見上げる。
「眠たくなってきたので、ちょっとだけ寝ようと思うんですけど、寝付くまでここにいてもらってもいいですか?」
「はい。そのお約束でしたから」
ペブリムが頷き返すとリリアナはころりとベッドに横になり、すぐにうとうととし始める。その間も袖を握ったまま離さない彼女に、ペブリムは仕方なくベッドサイドに腰を下ろした。
きちんと干された柔らかく温かな布団は、お日様の香りがしていた。それに相まってペブリムの香りに包まれていると、体の芯から力が抜けていくのを感じる。
リリアナは、あっという間にすやすやと寝息を立てて眠りにつく。その彼女の横顔を見ていたペブリムは目を細めた。
「……良い夢を」
ペブリムはそう囁くと、リリアナに布団をかけて静かに部屋を後にする。
***
誰かが部屋を出ていく気配に気付き、リリアナがふと目を覚ましたのは、日が暮れてからだった。
「……」
目を擦りながらむくりと起き上がると、鼻先を掠める美味しそうな食べ物の匂いにつられ、月明かりの差し込む窓の傍に置かれた机に目を向ける。
ベッドから起き上がりその食事の前に立つと、思い出したように小さくお腹が鳴きリリアナは苦笑いを浮かべた。
トレイの上に置かれていたのはサラダとスープ。それにパンと柔らかくグリルされた肉が、皿の上に乗っていた。
「届けてくれたんだ……」
誰かがわざわざ運び入れてくれたことに感謝する。
リリアナはテーブルに着くと、食事に手を付けた。
みずみずしいサラダのトマトを口に入れると、ほどよい酸味と甘みが広がり、ニンジンドレッシングがさらに旨味を引き立てている。
「ん! 美味しい!」
シンプルな食事が続いていたリリアナの食欲に火が付く。ニンニクと塩コショウがよく効いた肉も柔らかく、根野菜を入れたスープも、バターがたっぷり溶けた焼きたてのパンも、どれも満足のいく味付けだった。
「……美味しかったぁ!」
久し振りにお腹が満たった。同時に、気持ちにも少し余裕が出たような気がした。
リリアナは空になった皿を一階に下ろそうと、トレイを手に部屋のドアを開く。
「あ、召し上がられたんですね。あとで取りに伺うので、そこの机の上に置いておいてください」
リリアナに気付いた宿の店主が、明るい声で受付から顔を覗かせてそう声をかけてきた。
言われるままに、ドアを開けてすぐのところに置かれていた小さな机の上にトレイを置く。
「あ、ありがとうございます。ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」
リリアナが礼を言うと、店主は嬉しそうに「どういたしまして!」と笑った。
「あ、シャワー使いますよね。シャワーは一階にあるので、いつでもどうぞ!」
シャワーもある。それがリリアナにはとにかく嬉しかった。
「じゃあ、今から入ります」
そう言うとリリアナは部屋に戻り、着替えを手にして部屋を出た。
当たり前の営みが当たり前のようにできる。
この状況がいつもではないと分かっているからこそ、リリアナは感謝の気持ちでいっぱいだった。




