受容
「……冷静、なのですね」
ふと、思いがけない言葉がかけられ、リリアナは目を瞬いた。
「そう、ですか?」
「はい。昨日とは別人のようです」
ペブリムのその言葉に、自分でも不思議だと言う表情で前を向くと、僅かに首を傾げ小さく唸る。
「なんて言うか……昨日から色々あり過ぎたからかも」
冷静に話が聞けたのも、今まででは考えられないことが怒涛のように押し寄せたことが、逆にリリアナの気持ちを落ち着かせていた。
「自分が王女さまだったって言われてから、村が襲われたり、急に知らない人が迎えに来たり、初めて馬に乗ったり野営したり……。おまけに、あたしの生まれ故郷だって言う国が昔は凄いことになってたり」
陽が高く昇り、いつの間にか出発してから半日が経っていることを実感しながら、リリアナは一度大きく息を吸い込み、へらっと笑う。
「これ以上何か来ても驚くどころか、すんなり受け入れちゃいそうな気がするんですよね」
「……殿下」
「あ、そう、あとそれ!」
リリアナはペブリムを振り返り、不満そうに眉間にしわを寄せて口を尖らせる。
「その呼び方、慣れないって言うか、違和感って言うか……あんまり好きじゃないんで、名前で呼んでくれませんか?」
「……分かりました」
「ありがとうございます」
リリアナは顰めていた顔を解き、ニッコリと笑ってみせた。その、まるで吹っ切れたかのようなリリアナの様子に、ペブリムは面食らう。
そんなペブリムの表情を見て、リリアナは僅かに笑みを残しながら視線を下げた。
「……戸惑いもあるし実感も全然湧かないし、寂しかったり怖かったりもするけど……。でも、ここまで来たら受け入れていくしかないじゃないですか」
「……」
「あと! 実はあたし、あんまり長く引き摺るのガラじゃないんで!」
元気よくそう答えると同時に、リリアナのお腹が盛大に鳴いた。リリアナは慌てて自分のお腹を庇うように僅かに身を屈め、苦笑いを浮かべながらぎこちなくペブリムを振り返る。
「……き、聞こえ、ました?」
耳まで真っ赤になりながら訊ねるリリアナに、ペブリムも耐え切れず思わず横を向いて笑ってしまう。その彼女の反応に、リリアナはムッと顔を顰めて頬を膨らませた。
「わ、笑わないでくださいっ!」
「申し訳ありません。ではこの辺りで、少し休憩しましょう」
怒られたペブリムは、笑みを崩すことなく近くに見えた小さな花畑の傍に馬を止める。そしてリリアナを降ろし、食料を入れている荷物を降ろした。
「あ、手伝います」
「いえ。リリアナ様はそちらで休んでいてください」
「それ言うなら、ペブリムさんこそ休んでください」
そう言うなり、リリアナはペブリムの手から鞄を取り上げてしまう。そして何も言わず鞄の中を覗き込むと、パンとハム、チーズを取り出す。
「使っていいですよね?」
そうとだけ言うと、返事を待たずリリアナは手慣れた様子でナイフを使い、サンドイッチを作ってペブリムに手渡してきた。
「まだまだお城まであるんですよね? だから、こう言う時くらい休んでください。こう見えて、あたしだって一応家事くらいしてきてるんですから」
ふふん、と得意げに笑うと、ペブリムもつられて笑みを浮かべる。
「……ありがとうございます」
「お礼を言うの、あたしの方です。色々教えてくれてありがとうございます。何も知らないでいるより、ちゃんと知っておきたかったから」
リリアナはそう言うと、鞄をペブリムに返しサンドイッチに噛み付いた。
口いっぱいに頬張り、美味しそうな笑みを浮かべている彼女の姿を見ていると、ペブリムもまた緊張感が解れていくのを感じる。
ただの強がりかもしれない。
そう思いはするものの、彼女なりに前を向こうとしている気持ちは、とても健気で尊ぶべきだと感じる。
――王女としてはまだ不合格だが、未熟とは言え、人としては文句の付け所が無い。
彼女を「村の太陽」だと言ったゲーリの言葉を思い出す。そしてそれは、あながち間違いではないと思った。
――ポルカ様も、リリアナ様にお会いになることで、良い方へ変わって行くかもしれない。
そう思うと、ペブリムはリリアナのこれからに、期待と安心感を覚えた。




