表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デルフォス巡想記 ~リリアナの帰還~  作者: 陰東 紅祢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/19

過去の事実

 十七年前。

 リリアナはデルフォス王国に産まれた。王女生誕で祝いムードに包まれていた同じ頃、領地を狙い続けていたマージからの攻撃の手が勢いを増し始めた。


「当時、軍の指揮を執っていたのは、私の父でした」


 ペブリムは真っ直ぐ前を向いたまま静かに語る。


「いつもの奇襲。そう思った父はいつもと同じ陣形で迎え出たそうです」


 デルフォスには真正面から立ち向かっても刃が立たない。それは、鉄壁の騎士団――バッファの率いる軍隊がいたからだ。

 それを、何度隙をついて奇襲をかけても打ち破ることができなかった当時のマージは、違う手段に出たのだと言う。


「違う手段?」


 リリアナが聞き返すと、ペブリムは小さく頷き返した。


「生物兵器、と言えば分かりますか?」

「……生物兵器」

「クロッカ病です」

「!?」


 リリアナはその名前を聞き、驚きに目を見開く。

 クロッカ病は、今も特効薬のない不治の病として知られている。


 ――それって、確か……。


 リリアナは昔ゲーリから聞いた話を思い出した。


『クロッカは、感染すると数時間の内に毒素が体内に回り、自己免疫を暴走させる脅威の病です』


 そんな病魔がある日突然発生し、医学界でも早急な対応を強いられていると言っていた。


『症状の程度は個人差があるようですが、全ての患者に共通するのは、内臓の萎縮や癒着が起きて臓器に穴が開き、酷い苦痛を味わうことになると言うこと。最終的には吐血、下血を伴い、苦しみながら死に至る病です』


 王都だけでなく、僻地にいるゲーリの元にも解明努力の依頼が来ていたのを思い出した。


「クロッカはまだ新しいから、分からないことの方が多い病気だって、聞いてます」

「はい」


 マージはデルフォスには力では敵わないと悟り、得体の知れない病原菌に感染させた兵士を何人も前線に送り、彼らを筆頭に城に攻め込んできた。

 何も知らないデルフォス軍は、いつものように彼らを迎え撃ち、当たり前のように制圧していき、勝敗は明らかなはずだった。だが、二日目。病はここで絶大な効果を発揮する。


「デルフォス兵は次々と病に倒れ、瞬く間に戦力が削がれていく。そこを突いて、マージは更なる攻撃をしかけてきたんです」

「……酷い」


 謎の病で、一気に不利に追い込まれたデルフォスは、王と王妃、そして産まれたばかりの王女を逃がす動きを見せた。

 地下用水路からの脱出を試みたが、敵の手は思ったよりも早く回り、窮地に追い詰められたのだと言う。


「当時、陛下の護衛としてついていた父も、クロッカの病魔に侵され、外まで警護ができませんでした」

「……」


 デルフォス王は、動けなくなったペブリムの父に代わって剣を握り、王妃と娘を逃がそうとした。だが、王妃は娘だけを外に連れ出す役割を担った兵士に託したのだと言う。


 ――せめて、この子だけでも……。


 涙ながらに願いを託された兵士は、産まれたばかりの王女を抱き抱え、戦が落ち着いたら連れ戻ることを約束して、国の外へ脱出したのだ。

 その後、デルフォスは自国の兵と同じく、次々と病に倒れ伏していくマージ兵を何とか撃退することに成功した。


 リリアナはその話を聞き、無意識にも鞍を掴む手に力が籠る。息を飲み、その手元を食い入るように見つめた。


 手が震える。

 ペブリムの話す声が少し遠く聞こえるのは、気の所為だろうか。


「……あの、それで、その、王女さまは?」


 微かに震える声で聞き返すと、ペブリムは静かに話し出した。


「戻ると約束した兵は戻らず、国境の森の中で賊に襲われ息絶えていたとのことです。同時に、王女の消息はそこで不明になりました」

「……」


 だからだ。

 だから、ゲーリは王女を……自分を村へ連れ帰ることが出来た。

 どうやって賊からリリアナが守られたのかは分からない。それでも、兵士が体を張って守ったからこそリリアナは今日まで生き、ゲーリと言う家族に奇跡的にも巡り会うことが出来た。


 その話を聞き、リリアナは自分の手の甲を見つめる。


 ――この痣は……ただの痣じゃなくて本物だったんだ。


 そう思うと、一気に血の気が引くような気がした。


「その後、デルフォスは……どうなったんですか?」


 どこかショックを受けたような声をしながら、国のことを聞こうとするリリアナに、ペブリムは僅かに驚いたような顔を見せる。


「……国を最前線で守る軍の司令官と、国を統率する王が共に病に倒れ、デルフォスは情勢も何もかも傾いた国に成り果てました」

「じゃあ、今はもしかして……」


 リリアナが振り返ると、ペブリムはふっと目を細めて微笑む。


「その後は、私が父に代わり軍の指揮を執っています。国は王妃さまの御尽力により、情勢は立て直っていますよ」


 その話を聞いて、リリアナは肩から力が抜けた。


「ペブリムさんのお父さんや王様は、大丈夫なんですか?」

「父は故郷で療養し、陛下は別邸にて療養されております」


 病に侵されてはいるが、誰もいなくなっていない。

 それが分かると、リリアナはひとまずホッと息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ