表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デルフォス巡想記 ~リリアナの帰還~  作者: 陰東 紅祢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/21

旅立ち・2

 村を出て、どれくらいの時間が経ったのか。リリアナは徐々に馬の揺れにも慣れてき始め、体から少しずつ力が抜けてくる。

 閉じていた目を、そっと開くと柔らかな風が頬を撫でていく感覚に気付き、広大な土地を進んでいることに長いため息がこぼれた。


「……綺麗」


 遠く連なる山々は、太陽の光を受けて輝き、そばに並ぶ樹木は、心地よい音を立てて揺れている。


「落ち着かれましたか?」

「あ……はい。なんとか……」

「初めてでは無理もありません。しばらくはゆっくりこのペースで進みます」

「あ、ありがとう、ございます」


 何気なく視線を下に下げると、ペブリムの腕はリリアナの腰をしっかり抱き寄せ、落ちないように配慮しているのが見えた。


 ――うわ……嘘でしょ?


 リリアナは少し力が緩んだ体に、再び力が入る。


「王女殿下」

「な、な、何でしょうか」

「そんなに力を入れていたら、体が持ちませんよ」


 そうは言われても、どうしても緊張してしまう。

 リリアナは自分でも分かるほど顔を真っ赤にし、上げていた視線を再び下げた。


「……殿下」


 プルプルと肩を震わせるリリアナに、ペブリムは一度馬を止める。そしてリリアナの腰に回していた手を外し、鞍を掴んだままのリリアナの手に手を添えた。


「!」

「私の手を掴んでください」

「へ……?」


 いつの間にか、自分の両手を包み込むように添えられたペブリムの手は、温かく、そして少しゴツゴツしていた。


「は、離したら、落ちそうで怖いんですけど!」

「大丈夫です。絶対に落ちません。……私を信じてください」


 背後から落ち着いた、女性の割に低めの声で囁かれると無意識にゾクゾクとしてしまう。


「……!」


 恐る恐る鞍から手を離し、すぐそばのペブリムの手を掴むと、ペブリムはその手をそっと握り返す。


「深く息をしてください」

「……っ」


 頭の芯が痺れたような感覚になりながら、リリアナは大きく深呼吸をした。


「……そのまま、力を抜いて」


 静かな語りかけに合わせ、リリアナは肩からゆるゆると力を抜いていく。


「とてもお上手です」

「……っ!」


 クスッと笑いながら呟く褒め言葉に、リリアナは余分な力を抜きつつも顔を赤らめていた。

 ペブリムはそんなリリアナの顎に僅かに触れて、穏やかに前を向かせる。


「呼吸が浅くなると、余計な力が入ります。深く息をすることを意識してください。視線は遠くを見るように。視界が遮られると、恐怖を感じやすくなります」


 一つ一つ丁寧に話すペブリムに、リリアナはいつしか余分な力が体から抜けていることを実感する。

 ペブリムはリリアナの顎から手を離し、肩をそっと掴むと自分の方へと引き寄せた。


「わっ!」


 瞬間的に力が入ってしまう。


「大丈夫です。体はこのまま、私に預けてください」

「……」


 柔らかなクッションに包まれているような心地よさと、彼女から香る優しい香りにまた力が抜けていく。

 リリアナはペブリムにもたれかかるような体勢のまま、何となく視線を上げてじっと彼女の顔を見つめると、見下ろしていたペブリムがニコリと微笑み返した。


「!」


 その瞬間顔を赤らめ、リリアナは僅かに顎を引いて前を見た。


 ――深呼吸、深呼吸! それから、遠くを見る!


 忙しない心臓の音に戸惑いながら、先ほど教えてもらったことを心の中で何度も繰り返し呟き、意識をそちらに向けようと必死になる。


 ――な、なんか調子狂うんだよね! 慣れないことが続いてるからかもだけど、なんか、ほんとに調子狂う!!


 いつしかリリアナは憤りに似た感情になり、赤らんだ顔のままムッと頬を膨らませた。


「……」


 ペブリムはそんな一人百面相をするリリアナを見て、思わず笑ってしまう。

 それに過敏に反応したリリアナが、下げていた視線を再びあげて狼狽えながらも噛み付いた。


「な、なんですか!?」

「いえ、何でも……」


 クスクスと笑いながら、ペブリムは手綱を握ると、ゆっくり馬を方向転換させる。

 その視線の先には、だいぶ小さくなった村が見え、リリアナの怒りも落ちついていく。


「……また、会えるよね」


 村を見つめながら、リリアナが呟くその言葉に、ペブリムは静かに答えた。


「……そうですね。いずれ、再会できる日も来るでしょう」

「……」


 リリアナは、鞍を掴んでいた手に僅かに力を入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ