7話 始動、AX班
7話 始動、AX班
松平の執務室。
重厚な空気の中。
六人は、静かに立っていた。
机の向こう。
松平が、ゆっくりと視線を巡らせる。
一人ひとりを、確かめるように。
そして――
口を開いた。
「まずは、現状の整理から入る」
低く、落ち着いた声。
それだけで、場が引き締まる。
「約五ヶ月前」
一拍。
「異世界次元大戦への強制召喚が確認された」
視線が、全員へと向く。
「君たちはその召喚に巻き込まれ――」
一拍。
「それぞれの時代から強制的に参戦させられた」
静かに、言葉が続く。
「現地にて、セレナ・マク・リアス、弓月茜と合流」
一拍。
「さらに――」
わずかに、間。
「高杉晋作」
一拍。
「――安倍晴明」
「この二名とは、向こうの世界で初めて接触」
一拍。
「そして」
「先にこの時代で活動していた」
「沖田総司、雪城美雪を含め」
「六名で共闘し――」
一拍。
「現代へと帰還した」
「……ああ」
晋作が、短く応じる。
「ええ」
晴明も、静かに頷く。
松平は、わずかに頷き返す。
そして、続ける。
「続いて――約八ヶ月前」
一拍。
「沖田総司と共に出現した存在」
「雪城美雪」
名前を、はっきりと呼ぶ。
その一瞬。
「……」
ごくわずかに。
総司の視線が動いた。
だが――
何も言わない。
「そして――」
「高杉晋作、安倍晴明を含めた」
「君たち3人の戸籍登録、および身分証の発行が完了している」
一拍。
「これにより」
「この国において、正式な存在として認められた」
静かに、言葉が落ちる。
その意味は――軽くない。
そして。
松平は、残る二人へ視線を向ける。
「セレナ・マク・リアス」
「弓月茜」
名前を、正確に呼ぶ。
「君達は元よりこの時代の人間だ」
一拍。
「そして――」
「本日付で」
「全員、AX班の正式エージェントとしての登録が完了した」
静かに、だが確実に。
その言葉が、場に響く。
「……正式、ね」
セレナが、わずかに笑う。
「やっと肩書きがついたってわけね?」
「そういうことだ」
松平が、短く返す。
「……弓月」
不意に、名を呼ぶ。
「はい」
茜が、小さく応じる。
「これより先は」
一拍。
「“個人”ではない」
視線が、全員を捉える。
「AX班として――」
一拍。
「6名全員で行動してもらう」
静かに。
だが、確実に。
その言葉が落ちる。
「……了解」
総司が、低く応じる。
「ええ」
晴明も、続く。
「……ま、やるしかねぇな」
晋作が、軽く肩をすくめる。
「当然よ」
セレナが、迷いなく言う。
「……はい」
茜も、小さく頷く。
「……うん」
美雪が、静かに応じる。
六人の意志が、揃う。
その瞬間。
空気が、わずかに変わる。
松平が、それを確認するように。
ゆっくりと、息を吐く。
「――では」
松平が、言葉を続けようとしたその時。
「……待って」
小さな声。
だが――
はっきりと場を止めた。
全員の視線が向く。
「……美雪?」
総司が、わずかに目を細める。
美雪は、そのまま。
ゆっくりと顔を上げる。
「……さっきの」
一拍。
「“雪城”って……何?」
自分の名前を。
確かめるように。
その問いに。
一瞬、空気が止まる。
「……どういう意味?」
わずかに、不安が滲む声。
松平が、小さく息を吐く。
「……簡単な理由だ」
一拍。
「戸籍登録と身分証の発行には――」
「苗字が必要になる」
静かに、言葉を落とす。
「……」
美雪の視線が、わずかに揺れる。
「“雪女の美雪”では」
一拍。
「この国の制度上、登録ができない。伝承や伝説の存在を、人として登録した前例もない」
淡々と。
だが、確実に現実を突きつける。
「だから」
松平は続ける。
「こちらで便宜上、“雪城”という姓を与えた」
それだけだった。
「……そう」
美雪が、小さく呟く。
納得したようで――
完全には、飲み込めていない。
「……悪いが」
松平が、わずかに視線を逸らす。
「今はそれ以上の説明はしない」
一拍。
「必要なら、後で話そう」
静かに、告げる。
「……分かった」
美雪は、小さく頷く。
それ以上は、聞かない。
聞けない。
総司は、その様子を横で見ていた。
「……」
何も言わない。
だが――
その視線は、わずかに鋭い。
松平が、全員を見渡す。
「……では」
松平が、言葉を続けようとしたその時。
「……もう一つ、いいか」
総司が、静かに口を開く。
視線が、松平へ向く。
「何だ」
短く、返る。
「さっきの話だが――」
一拍。
「全体的に、命令口調に聞こえた」
その言葉は、冷静だった。
だが、芯がある。
「……これは」
視線が、まっすぐに向けられる。
「命令なのか?」
低く。
だが、はっきりと。
その問いは、揺らがない。
「……」
一瞬の沈黙。
松平は、総司を見据える。
逃げない視線。
「……違う」
短く、否定する。
一拍。
「これは命令ではない」
静かに。
だが、重く。
「“依頼”だ」
その言葉は――
以前と同じ。
だが。
今は、意味が違う。
「……そうか」
総司が、小さく頷く。
それ以上は、問わない。
だが――
納得したわけではない。
受け止めた、だけだ。
松平が、全員を見渡す。
「……だが」
一拍。
「状況次第では、命令として動いてもらうこともある」
視線は、外さない。
「君たちは公にできない組織の構成員だ」
「ある程度の自由は保証する」
「だが、危機的状況においては対処してもらう必要がある」
一拍。
わずかに、言葉を柔らげる。
「分かりやすく言えば――」
「通常は依頼ベースで動く、フリーランスに近い立場だ」
「だが、任務としての派遣や調査は受けてもらう」
現実的な説明。
「生活費も必要だろう」
「形式上は国家公務員扱いになる」
そして――
ほんのわずかに、口元を緩める。
「この部屋が、新選組の屯所」
「あるいは奇兵隊の本部のようなものだ」
一拍。
「この時代で言えば――君たちの“職場”だ」
「……なるほどな」
晋作が、軽く笑う。
「分かりやすいじゃねぇか」
「……了解した」
総司が、静かに返す。
「……了解です」
茜も続く。
「ええ」
晴明が頷く。
「問題ないわ」
セレナが肩をすくめる。
「……うん」
美雪も、小さく頷いた。
松平が、全員を見渡す。
「――では本題に入ろう」
一拍。
室内の空気が、わずかに張り詰める。
「今回の任務だが――」
視線が、わずかに落ちる。
「大分県・別府市で、異常事象が確認されている」
「別府……温泉地か」
晋作が、軽く呟く。
「ああ」
松平が頷く。
「観光地として有名な地域だが――」
一拍。
「ここ数日、“不可解な事案”が複数報告されている」
「不可解?」
セレナが、眉をひそめる。
「具体的には?」
「失踪」
短く、告げる。
「そして――」
わずかに、間。
「目撃証言だ」
空気が、静かに沈む。
「“霧の中に立つ影”」
「“異様な気配”」
「“人ではない何か”」
淡々と。
だが、確実に異常を示す言葉。
「……怪異、ですね」
晴明が、静かに言う。
「断定はできん」
松平は即答しない。
「だが――」
一拍。
「通常の事象ではないことは確かだ」
「……なるほどね」
セレナが、小さく息を吐く。
「観光地でそれは、厄介ね」
「だからこそだ」
松平が続ける。
「表沙汰にはできない」
一拍。
「君たちに任せる理由だ」
視線が、全員へ向く。
「まずは現地入りし、状況を調査」
「必要であれば――対処して欲しい」
簡潔な指示。
だが、その裏に重みがある。
「……了解」
総司が、静かに応じる。
「ええ」
晴明も頷く。
「温泉か……悪くねぇな」
晋作が、軽く笑う。
「観光気分で終わればいいけどね」
セレナが肩をすくめる。
「……頑張ります」
茜が、小さく気を引き締める。
「……うん」
美雪も、静かに頷いた。
松平が、一度言葉を切る。
そして――
「それと」
わずかに、間。
「君たちに渡しておきたいものがある」
視線が、扉の方へ向く。
「入れ」
静かな声。
直後。
扉が開く。
一人の女性が入室する。
整った所作。
無駄のない動き。
その手には、小さなケースと、数点の装備が収められていた。
「ご用意しました」
松平が受け取り、ケースを開く。
中には――
六つのブレスレット。
「これは――」
「魔術と現代技術を組み合わせた装備だ」
視線が、晴明へと向く。
「設計には、安倍晴明にも関わってもらっている」
「……なるほど」
晴明が、静かに口を開く。
「予定通り、問題なく機能しているようですね」
淡々と告げる。
「通信、生命反応の把握に加え――」
一拍。
「武装および戦闘装束の格納・展開機構、写真、サンプル保存、時計などが使用可能だ」
わずかに、ブレスレットへ視線を落とす。
「この短時間でここまで形になるとは」
「現代技術も侮れませんね」
松平が、続ける。
「通信、バイタルの確認は当然として――」
一拍。
「最大の特徴はそこだ」
ブレスレットを軽く持ち上げる。
「武器、及び戦闘装束の格納」
「ボタン一つで即座に展開できる」
視線が、総司へ向く。
「昨日の戦闘でも、武器の運搬に苦労していたようだからな」
「……ああ」
総司が、短く応じる。
「これは助かる」
「ええ」
晴明が、静かに口を開く。
晴明が、静かに口を開く。
「皆さんが、いざという時に困らない物をと――」
「相談させてもらいました」
「私も、今の時点では札を持ち歩くのに制限がありますので」
一拍。
「それと――通信は必要でしょうからね」
「……通信って」
茜が、少し不思議そうに口を開く。
「誰にでもできるんですか?」
松平が、静かに答える。
「基本的には――」
一拍。
「君たち6人と、私だ」
「……なるほど」
茜が、小さく頷く。
「ただし」
松平が続ける。
「新たに登録することも可能だ」
一拍。
「現地で協力者がいる場合などは、登録しておくといい」
視線が、全員を巡る。
「その場合は、スマートフォンの番号を紐付ける形になる」
「当然」
わずかに、間。
「メッセージの送受信も可能だ。ちなみにメッセージの内容はこちらで把握はできない様になっている」
「……便利ね」
セレナが、小さく呟く。
「思ってたより、ちゃんとしてるじゃない」
「最低限はな」
松平が、短く返す。
その時。
「……ねえ」
セレナが、ふと口を開く。
ブレスレットを軽く持ち上げる。
「これ、GPSとかは?」
一拍。
視線が、松平へ向く。
松平は、即答する。
「付けていない」
短く。
明確に。
「……へぇ?」
セレナが、わずかに目を細める。
「意外ね」
「監視するつもりはない」
松平が、静かに続ける。
「必要なのは連携と生存確認だ」
「……信用されてるってことかしら」
セレナが、小さく笑う。
「ええ」
晴明が、静かに口を開く。
「その点は保証します」
一拍。
「余計な術式や追跡機構は組み込んでいません」
淡々と。
だが、確実に。
「……ふーん」
セレナが、ちらりと見る。
「いつからあちら側に協力してたのよ」
軽く。
冗談めかして。
「……さて」
晴明が、静かに口を開く。
「皆さんが、いざという時に困らない物をと――」
「相談させてもらいました」
「私も、今の時点では札を持ち歩くのに制限がありますので」
一拍。
「それと――通信は必要でしょうからね」
(通信説明そのまま)
(中略)
「……さて」
晴明は、わずかに目を細める。
「皆さんの安全と効率を重視した結果です」
一拍。
そして――
ほんの少しだけ、セレナに顔を寄せる。
「……あなたを守るためでもあります」
小さく、囁く。
「……っ」
セレナが、一瞬だけ言葉を失う。
それから――
くすっと、小さく笑う。
「ほんと、そういうとこよね」
空気が、わずかに緩む。
「さらに――」
松平が続ける。
秘書が、もう一つの装備を差し出す。
「こちらは、各自に合わせて調整された戦闘服だ」
「チタン系繊維を含む複合素材で構成している」
「軽量かつ高い防御性能を持つ」
それぞれに手渡されていく。
「沖田総司」
「新選組の羽織と袴をベースに再現している」
「……悪くない」
「高杉晋作」
「奇兵隊を参考にした仕様だ」
「……面白ぇな」
「弓月茜」
「巫女装束をベースに調整している」
「……すごく、動きやすそうです」
「雪城美雪」
「……これは、いい」
「セレナ・マク・リアス」
「……一応もらっておくわ」
松平が、全員を見渡しながら
「このブレスレットの名称は暫定的に“SD”とする」
「Storage Deviceの略だ」
「……ネーミングセンス」
美雪が、小さく呟く。
松平が、わずかに苦笑する。
「そこは勘弁してくれ」
一拍。
「何なら君たちで決めても構わない」
軽く肩をすくめる。
「――以上だ」
静かに。
だが、確実に。
準備は整った。
「……行こうか」
総司が、やわらかく言う。
その一言で。
六人が、自然と動き出す。
新たな任務へ――
一歩、踏み出すように。
7話 完
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ついに本格始動しましたAX班!
これからどんなバトルが待ち受けてるのかをお楽しみに!
次回予告
大分での任務となりますが…別府に到着後の旅館での6人を描いております。少しこれまでと違い…初のギャグ回です!
温泉での出来、食事、そしてついに!!!
更新は4月4日10時予定です。




