表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/28

6話 それぞれの夜、それぞれの想い

「ちょっと風に当たりながら、そろそろ戻るね」


セレナが、軽く伸びをする。


「明日も本部でしょ?」


一拍。


「今日はここで解散にしよっか」


その言葉に。


誰も、異を唱えなかった。


「だな」


晋作が、軽く立ち上がる。


「こういうのは嫌いじゃねぇが」


わずかに笑う。


「少し、頭を休める時間も必要だな」


「……はい」


茜も、小さく頷く。


「少し、整理したいです」


「そうですね」


晴明が、静かに続ける。


「今は一度、落ち着くべきでしょう」


「うん」


総司が、やわらかく頷く。


「今日は、ここまでにしよう」


「……」


美雪も、小さく頷いた。


そのまま。


全員が玄関へ向かう。


靴を履く音。


扉の前に、並ぶ。


「じゃあ、また明日」


セレナが、軽く手を振る。


「おやすみなさい」


晴明が、静かに頭を下げる。


晋作も片手を上げる。


「じゃあな」


「お、おやすみなさい」


茜も、小さく会釈する。


総司も、靴に手をかける。


「……じゃあ、俺も――」


その時。


「……あ」


小さな声。


ほんの一瞬。


誰にも向けられていないような、音。


総司の手が、止まる。


振り返る。


美雪が、少しだけ驚いたように立っていた。


自分でも、声が出たことに戸惑っているように。


「……なんでもない」


そう言いかけて。


少しだけ、間。


「……いや」


ほんの少しだけ、迷って。


「……もうちょっと、話してもいい?」


その声は、小さい。


でも――


確かに届いた。


「……」


総司は、わずかに目を細める。


それから。


「……うん」


やわらかく頷く。


靴から手を離す。


その仕草で。


一人だけ、流れから外れる。


「……あら」


セレナが、くすっと笑う。


「じゃあ、邪魔しないように帰るわね」


軽く手を振る。


「行きましょう」


晴明が、静かに促す。


「おーおー、青春だな」


晋作が、ニヤリと笑う。


「え、えっ……?」


茜だけが、少し戸惑ったまま。


「……違うよ、そうじゃなくて」

 

美雪が照れながら少し戸惑った様に補足する。


そのまま。

「まぁ、いいわ〜。また明日ね!」

セレナはニヤニヤからかうように言いながらドアノブに手を伸ばした。


扉が開く。


夜の空気が流れ込み――


四人が、外へ出る。


静かに。


扉が閉まる。


残されたのは――


二人。


玄関の空気が、少しだけ変わっていた。


夜の廊下。


静かな足音が、並ぶ。


セレナと晴明。


その少し後ろに、晋作と茜。


しばらくは、誰も話さない。


さっきまでの空気の余韻だけが、残っていた。


「……にしてもよ」


ふと、晋作が口を開く。


「さっきの連中」


一拍。


「普通じゃなかったな」


軽い言い方。


だが、わずかに鋭い。


「……はい」


茜が、小さく頷く。


「なんというか……」


少しだけ言葉を探す。


「嫌な感じが、しました」


曖昧な言葉。


だが、確かな感覚。


「だろ」


晋作が、短く返す。


「勘でも、外れてねぇことは多い」


そのやり取りに。


「……そうね」


セレナが、静かに口を開く。


前を向いたまま。


「ただの“異形”じゃないわ」


一拍。


「意志がある動きだった」


短く、断言する。


空気が、わずかに引き締まる。


「……ええ」


晴明が、静かに続ける。


「統率、あるいは指向性を感じます」


一拍。


「偶発ではない、ということでしょう」


それ以上は踏み込まない。


だが――


四人の中で、同じ認識が共有される。


やがて。


分かれ道。


それぞれの部屋へと続く通路。


「……じゃあ、俺たちはこっちだな」


晋作が、足を止める。


軽く手を上げる。


「また明日な」


「は、はい!」


茜が、少しだけ強く頷く。


「おやすみなさい」


晴明が、静かに応じる。


「おやすみ」


セレナも、軽く手を振る。


「……あんま一人で抱え込むなよ」


晋作が、最後に一言。


視線だけを少し向ける。


「面倒な顔してるぞ」


「余計なお世話よ」


セレナが、軽く返す。


だが――


否定はしない。


そのまま。


晋作は背を向ける。


茜も、その後を追う。


足音が、ゆっくりと遠ざかる。


静寂。


残されたのは――


二人。


夜の空気が、少しだけ変わった。


夜の廊下。


足音は、二つだけになる。


さっきまでの気配が遠ざかり。


静けさが、ゆっくりと戻ってくる。


しばらくは、何も言葉はない。


だが――


その沈黙は、どこか心地よかった。


「……ね」


セレナが、ぽつりと口を開く。


前を向いたまま。


「もう、逃げ場ないわよね」


軽く言う。


だが、その言葉は現実だった。


「……ええ」


晴明が、静かに応じる。


「退く理由もありません」


短く。


それで十分だった。


数歩進んだところで。


セレナが、ふっと足を止める。


ゆっくりと振り返る。


「……ほんと、面倒なのに目つけられたわ」


小さく息を吐く。


「ゲイ・ボルグに、天の逆鉾」


一拍。


「両方抱えてるなんて、我ながら笑えるわね」


少しだけ、自嘲気味に笑う。


だが――


その奥にある重みは、隠しきれていない。


「……それでも」


言葉を、続ける。


「やるしかないんだけど」


ほんの少しだけ、本音が混じる。


強さの奥にある、揺らぎ。


「……ええ」


晴明が、ゆっくりと頷く。


一歩、近づく。


「ですが」


静かに。


確かに。


「それは貴女一人のものではありません」


一拍。


視線を、まっすぐに向ける。


「私も――」


そして。


「皆も、同じように考えているはずです」


迷いのない言葉。


そこにあるのは、個人ではなく“繋がり”。


「だから」


声が、わずかに低くなる。


「背負う必要はありません」


「共に在ればいい」


その言葉は、優しく。


そして、揺るがなかった。


「……ほんと」


セレナが、小さく笑う。


だが、その目は少しだけ潤んでいる。


「そういうとこよね、あんた」


一歩、近づく。


距離が、縮まる。


逃げない距離。


「……ずるいわ」


ぽつりと呟く。


その瞬間。


晴明が、手を伸ばす。


迷いなく。


セレナを、静かに抱き寄せる。


強くはない。


だが――


確かに、離さないという意思がそこにあった。


「……心配いりません」


一拍。


わずかに、声が落ちる。


「私が側にいます」


静かに。


だが、はっきりと。


その言葉は――


誓いではなく。


“当たり前”としての約束だった。


「……」


セレナは、抵抗しない。


そのまま、身を預ける。


ほんの一瞬だけ。


力を抜く。


そして――


「……ありがと」


ほんの少しだけ。


声が、弱くなる。


その声は、いつもより少しだけ素直だった。


静寂。


二人の呼吸が、重なる。


やがて。


ゆっくりと、離れる。


だが――


距離は、もう変わらない。


「……行きましょ」


セレナが、前を向く。


その声は、もういつもの調子に戻っていた。


「ええ」


晴明が、静かに応じる。


そのまま。


二人は並んで歩き出す。


やがて。


セレナの部屋の前で、足が止まる。


「……ここね」


カードキーを取り出し。


扉を開ける。


「送ってくれてありがと」


軽く言う。


そのまま中へ入る――


が。


ふと、足を止める。


「……待って」


小さく、呼び止める。


背を向けていた晴明の足が止まる。


振り返る。


「……どうしました?」


「……」


セレナが、ほんの少しだけ視線を逸らす。


珍しく、言葉を選ぶように。


「……もう少しだけ、いて」


小さく。


でも、はっきりと。


「……ダメ?」


その一言は――


完全に、甘えだった。


「……」


晴明は何も言わない。


ただ、静かに頷く。


「……ええ」


それだけで、十分だった。


部屋の中。


明かりが灯る。


静かな空間。


セレナが、ゆっくりとベッドに腰を下ろす。


ふっと、力を抜く。


「……はぁ」


小さく息を吐く。


「さすがに、今日は疲れたわ」


ぽつりと、本音が漏れる。


「……ええ」


晴明が、静かに歩み寄る。


無理に近づきすぎない。


だが、離れもしない距離。


「無理もありません」


穏やかな声。


少しの沈黙。


「……ね」


セレナが、横目で見る。


「そこ、来なさいよ」


ベッドの隣を、軽く叩く。


「……では」


晴明が、静かに腰を下ろす。


ベッドの端。


わずかな距離。


触れそうで、触れない。


だが――


安心できる距離。


「……ほんと」


セレナが、小さく笑う。


少しだけ、身体を寄せる。


自然に。


「こういう時くらい、もうちょい分かりやすくしてくれてもいいのに」


「……と言いますと?」


「例えば――」


少しだけ顔を寄せる。


距離が近い。


「“大丈夫か”とかさ」


くすっと笑う。


「……言わなくても分かる、って顔してるのよね」


「……」


晴明が、わずかに息をつく。


「では――」


ほんの少しだけ、声のトーンが変わる。


「大丈夫ですか」


その一言に。


「……ふふ」


セレナが、満足そうに笑う。


「遅いのよ」


そのまま。


ゆっくりと、身体を預ける。


自然に。


当たり前のように。


晴明の肩へ。


「……でも」


目を閉じる。


「そういうとこ、嫌いじゃないけど」


ぽつりと、本音が落ちる。


「……それは何よりです」


晴明が、静かに返す。


そのまま。


受け止める。


何もせず。


ただ、そこにいる。


静かな時間。


呼吸が、重なる。


「……ね」


セレナが、うっすらとした声で言う。


「さっきの、ちゃんと覚えてるからね」


「……どの言葉でしょうか」


「……全部よ」


小さく、笑う。


「逃げられないからね、あんた」


「……望むところです」


短く。


だが、柔らかく。


その言葉に。


セレナが、ほんの少しだけ安心したように息を吐く。


そのまま――


ベッドにゆっくりと横になる。


だが、手は離さない。


指先が、軽く触れている。


それだけで、十分だった。


「……行かないでよ、勝手に」


半分、眠りに落ちながら。


小さく呟く。


「……」


晴明は、何も言わない。


ただ――


その手を、そっと握る。


「……大丈夫です」


静かに。


「眠るまで、ここにいます」


その声は、優しかった。


「……うん」


かすかに、返事。


それを最後に。


呼吸が、ゆっくりと落ちていく。


やがて――


完全に、眠りに落ちる。


「……」


晴明が、静かに見下ろす。


穏やかな寝顔。


わずかに。


表情が、緩む。


そっと、手を離す。


起こさないように。


ブランケットを整える。


一瞬だけ。


その姿を、見つめる。


「……」


それから。


静かに立ち上がる。


部屋の明かりを少し落とし。


足音を殺して、ソファへと移動する。


そのまま、ゆっくりと腰を下ろす。


背もたれに体を預ける。


視線は、自然とベッドへ向く。


「……」


小さく、息を吐く。


そのまま。


静かに目を閉じる。


眠りに落ちることはない。


だが――


意識は、そこにある。


“側にいる”という形で。


夜は、静かに続いていた。


 エレベーターの前。


そこにいたのは――


晋作と茜の二人だった。


扉が開く。


「……行くか」


晋作が、短く言う。


「……はい」


茜が、小さく頷く。


二人で中に入る。


扉が閉まる。


ゆっくりと、下降が始まる。


小さな振動。


静かな空間。


「……」


ふと。


茜が、じっと晋作の方を見る。


今度は、逸らさない。


「……なぁ」


晋作が口を開く。


「今日、結構動けてたな」


「……え?」


茜が、少し遅れて反応する。


「ほ、ほんとですか?」


「ああ」


軽く頷く。


「ちゃんと周り見えてた」


一拍。


「前より余裕あったな」


「……そっか」


ぽつりと呟く。


少しだけ、嬉しそうに。


「……なら、よかったです」


その声は、いつもより柔らかい。


「……さっきの」


ふと、続ける。


「金魚すくいの時の……」


少しだけ、笑う。


「……あれ、ずるいですよね」


「何がだよ」


「近すぎです」


はっきり言う。


でも――


少しだけ頬が赤い。


「……嫌だったか?」


晋作が、何気なく聞く。


その瞬間。


「……嫌じゃないです」


即答だった。


空気が、少しだけ変わる。


「……むしろ」


一歩。


ふらっと。


ほんの少しだけ、近づく。


ほろ酔いの足取り。


「今くらいの方が……落ち着きます」


距離が、近い。


視線が、逃げない。


「……」


晋作が、わずかに目を細める。


「酔ってんな」


「……ちょっとだけです」


否定しきれない。


でも――


引かない。


エレベーターが止まる。


扉が開く。


二人で外へ出る。


廊下を歩く。


足音が、並ぶ。


今度は――


最初から近い。


「……晋作さん」


「ん?」


「……手」


ぽつりと。


「繋いでもいいですか」


一拍。


逃げ道のない言葉。


「……」


晋作が、一瞬だけ止まる。


だが。


すぐに、軽く息を吐く。


「……しょうがねぇな」


ぶっきらぼうに言いながら。


手を差し出す。


「ほら」


「……はい」


茜が、少しだけ嬉しそうに笑う。


その手を、取る。


指先が、絡む。


少しだけ、ぎこちない。


でも――


離さない。


そのまま、歩く。


「……あったかい」


小さく呟く。


「……そうかよ」


晋作が、少しだけ視線を逸らす。


やがて。


扉の前で止まる。


手は、まだ繋がったまま。


「……ここです」


一拍。


それでも――


離さない。


「……離さねぇのか」


晋作が、少しだけ笑う。


「……もうちょっとだけ」


小さく言う。


視線は、逸らしたまま。


「……お前な」


呆れたように言うが。


手は、離さない。


数秒。


静かな時間。


やがて。


「……おやすみなさい」


名残惜しそうに。


ゆっくりと、手を離す。


「……ああ」


短く返す。


一拍。


少しだけ、間を置いて。


「……また明日な」


自然に。


当たり前のように。


その一言が、落ちる。


「……はい」


茜が、ふっと笑う。


柔らかく。


安心したように。


そのまま、扉が閉まる。


静かな音。


残ったのは――


ほんの少しの、温もり。


「……」


晋作が、自分の手を見る。


小さく、息を吐く。


「……やれやれ」


だが。


その表情は――


どこか、楽しそうだった。



 美雪の部屋のベランダ。


夜の風が、静かに流れていた。


手すりにもたれながら――


総司が、外を見ている。


遠くに広がる街の灯り。


その向こうに。


思い出すものが、ある。


ガラス戸が、静かに開く。


「……総司くん」


柔らかい声。


振り向かなくても分かる。


美雪だ。


「ここにいたんだ」


少しだけ、安心したように。


そのまま、隣に並ぶ。


同じ景色を見る。


少しの沈黙。


風が、二人の間を通り抜ける。


「……ね」


美雪が、ぽつりと口を開く。


「さっき、引き止めたの」


一拍。


「ちゃんと理由あるからね?」


少しだけ、視線を向ける。


「……理由?」


総司が、静かに返す。


「うん」


小さく頷く。


「ずっと、気になってたの」


その声は、優しい。


「総司くんの様子」


一拍。


「さっきから、少しだけ遠くにいるみたいで」


責めない。


ただ、見ていたことを伝える。


「……」


総司は、少しだけ目を細める。


否定はしない。


「だから」


美雪が、少しだけ笑う。


「ちゃんと隣にいようと思って」


その言葉は、自然だった。


押し付けでも、決意でもない。


当たり前みたいに。


「……そっか」


総司が、小さく息を吐く。


夜の空気と一緒に。


「……少し、考えてた」


ぽつりと。


「俺がいた時代のこと」


視線は、外のまま。


「新選組が……何のために戦っていたのか」


一拍。


「信念を持って、命を懸けて」


静かに。


「その先に――この時代があるってことを」


風が、少し強く吹く。


「……さっき、セレナの話を聞いて」


わずかに、間。


「みんな、それぞれの過去を越えて……今ここにいるんだって思った」


その声は、落ち着いている。


だが、深い。


「……なのに」


ほんの少しだけ、沈む。


「俺だけが、そこから切り離されたみたいでさ」


一拍。


「置いてきたものと」


「今いる場所の間で……」


言葉を探すように、少しだけ止まる。


「どう向き合えばいいのか、分からなくなる時がある」


静かに。


正直に。


少しの沈黙。


風だけが流れる。


「……でも」


総司が、続ける。


「ここにいる意味は、ちゃんとあるって思ってる」


短く。


だが、確かに。


「……まだ、全部は整理できてないけど」


ほんの少しだけ、笑う。


「ちゃんと向き合うつもりだ」


その言葉に。


美雪は、ゆっくりと息を吐く。


そして――


一歩。


さっきより、はっきりと距離を詰める。


肩だけじゃない。


腕に、そっと触れる。


逃げない距離。


「……うん」


小さく、頷く。


「総司くんらしいね」


優しく。


でも、まっすぐに。


「ちゃんと考えて、ちゃんと悩んで」


一拍。


「それでも前に進もうとしてる」


少しだけ、笑う。


「やっぱり、そういうとこ好きだな」


静かに。


でも、はっきりと。


「だからね」


続ける。


「一人でやらなくていいよ」


そのまま。


そっと寄り添う。


「一緒に背負う」


静かに。


確かに。


「過去も」


一拍。


「今も」


そして――


「これからも」


その言葉は。


選ばれていた。


「……」


総司が、ゆっくりと息を吐く。


ほんの少しだけ。


美雪の方を見る。


「……それなら、心強い」


静かに。


だが、確かに。


受け取った。


「……うん」


美雪が、やわらかく頷く。


そのまま。


ほんの少しだけ、距離が縮まる。


今度は――


自然に。


「……ありがと」


総司が、ぽつりと呟く。


「どういたしまして」


美雪が、柔らかく笑う。


夜の風が、静かに吹き抜ける。


その中で。


ふと。


総司が、美雪の方を見る。


「……美雪ちゃんとの約束」


静かに。


言葉を選ぶように。


視線は、まっすぐに向けられる。


「ちゃんと守るよ」


一歩。


わずかに、近づく。


「これから先も――」


そのまま。


目を逸らさない。


距離が、近い。


「一緒に進むってこと」


言い切る。


はっきりと。


ほんのわずかに。


手が、触れる。


意図的じゃない。


でも――


離れない。


「……うん」


美雪も、目を逸らさない。


小さく、頷く。


そのまま。


自分から、ほんの少しだけ距離を詰める。


逃げない。


「……私も」


静かに。


でも、確かに。


「総司くんとなら、大丈夫だと思う」


その距離。


その温もり。


もう、分かっている。


言葉にしなくても。


互いに。


大切に思っていることを。


夜は、静かに更けていく。


二人の時間も。


ゆっくりと、重なっていった。




 翌朝、10:00。


AX班本部――松平の執務室。


重厚な扉の向こう。


静かで、張り詰めた空気。


室内には――すでに四人の姿があった。


「……こういう場所は、やっぱり慣れねぇな」


晋作が、軽く肩を回しながら呟く。


「少し緊張しますね……」


茜も、小さく息を吐く。


「大丈夫だよ」


美雪が、やわらかく笑う。


「変なこと言わなければ平気」


「それが一番難しいんじゃねぇか?」


晋作が、軽く返す。


その時。


「……あれ?」


茜が、ふと気づく。


「セレナさん達、まだ来てませんね」


一拍。


「珍しいね」


美雪が、ぽつりと呟く。


「遅れるタイプじゃねぇだろ」


晋作も、腕を組む。


その直後――


コンコン、と。


軽いノック。


そして。


「悪い、遅れたわ」


扉が開き。


セレナが、自然な様子で入ってくる。


その後ろに、晴明。


「少し準備に時間がかかりまして」


落ち着いた声で、晴明が続ける。


「……へぇ?」


晋作が、にやっと笑う。


「“準備”ねぇ」


「何よその顔」


セレナが、じろっと睨む。


「別に?」


肩をすくめる。


「意味深に聞こえただけだ」


「気のせいよ」


セレナは、あっさり流す。


その余裕は、隠しきれていない。


「お待たせしました」


晴明が、軽く頭を下げる。


そのまま、二人も加わる。


これで――


六人、全員が揃った。


一瞬。


誰も、何も言わない。


その空気を――


割るように。


ガチャ、と。


奥の扉が開く。


足音が、ゆっくりと響く。


一定のリズムで。


迷いなく。


松平が、姿を現す。


そのまま。


室内を見渡す。


一人ひとりを確認するように。


そして――


小さく、頷いた。


「……全員揃っているな」


低く、よく通る声。


余計な言葉が、消える。


それだけで――


場の空気が、静かに引き締まった。


---


第6話 完




ご覧いただきありがとうございます。

次回からはついにAX班始動致します!


更新は4月3日午前中の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ