66話 思惑が交差する蓬莱編Ⅷ
---3時間程前・沖縄ISEA発足式典会場---
松平は、夜の帝国による式典での大胆な宣戦布告、そしてそれに伴うISEAの緊急対策会議と、息つく暇もないほど多忙な時間を過ごしていた。
そんな中、ようやく得られた束の間の休息。松平は珈琲を片手に、窓の向こうに広がる穏やかな海を見つめていた。
その時、手元のSDにメッセージが届く。
松平は横目で表示された内容を確認すると、しばらく黙って海を見つめた後、一呼吸置いて口を開いた。
松平「黒羽、紅蓮、水織……居るか?」
黒羽「こちらに。」
松平の背後から、音もなく片膝をついた緑髪の女性が応える。
紅蓮「はい、ここに!」
壁に背を預けていた赤髪の女性も、すぐさま返事をした。
水織「私はこちらにいますよ!」
開け放たれた窓際には、いつの間にか桃色の髪をした女性が姿を現していた。
三人の返事を聞いた松平は、珈琲を片手に持ったまま、淡々と指示を出す。
松平「仕事だ……黒羽はヴァルキリーズに出撃準備を整えて待機、号令を待てと伝えろ。」
黒羽「は!」
松平「紅蓮はF国のO部隊に要請しろ。かの聖女様は遅れてでも行くと言っていたからな……。誰が聞いているかわからん、咄嗟の隠語を使ったが、どこの誰かわかるな?」
紅蓮「はい、問題なく。」
松平「水織は沖縄の海上及び地上部隊に、ヴァルキリーズと共に戦闘準備を整えて待機するよう伝えろ。」
水織「はい!」
松平「以上だ! 行け!」
三人はそれぞれの命令を受けると、瞬時に散開した。
つい先ほどまで三人がいた場所には、もはや誰の姿もない。
松平が再び海へと視線を戻そうとした、その時だった。
???「忍者ですね?」
背後から不意に声がかかる。
松平は驚く様子もなく、ゆっくりと振り返った。
松平「やはり聞いていたか……何の用だ?」
???「我々も参加させていただきたい。」
その言葉に、松平は考え込むように黙り込んだ。
???「大統領より貴方の指示に従うようにとの命もありますので、部隊を準備し待機させております。貴方の指示次第ですぐに空母を含め、出撃できます。」
松平「ほぉ?」
松平は相手の言葉を受け、わずかに目を細めた。
---神木フバ外部根本---
神木フバ内部で晋作たちの戦闘が終わる、およそ一時間前に遡る。
神木フバの外部根本では、セレナ、晴明、クー・フーリンの三人が、変貌したサマエルと対峙していた。
邪神の力を取り込んだサマエルの姿は、もはや以前の天使の面影を残しながらも、禍々しさを増している。
その異様な姿を前にしても、セレナは一歩も退くことなく、真っ向から相手を見据えていた。
サマエル「人の力を俺に見せると言ったな?」
セレナ「そうよ? 何か不満?」
サマエル「ならば人間が下等生物という事を証明してやる。」
言い終えると同時に、サマエルの手元に光が集まり、一本の槍を形作った。
次の瞬間、光の槍を構えたサマエルが、セレナ目掛けて突撃する。
セレナは迫り来る槍を見据えながら、空中に三つのルーンを素早く描いた。
身体強化、浮遊、加速。
それぞれの力を自身に付与すると、セレナはサマエルの攻撃を迎え撃つ。
互いの武器が激しくぶつかり合い、金属音にも似た衝撃音が響き渡った。
その光景を見ていたクー・フーリンが、隣にいる晴明へと声をかける。
クー・フーリン「晴明、セレナはいつからルーンを使い始めた?」
晴明「数ヶ月前くらいからだ。」
クー・フーリン「へぇ……そうなのか。初歩的だが、使うルーンは間違ってねぇ。」
晴明「彼女はやはり才能がある……」
クー・フーリン「違いねぇな。俺らも加勢するぞ、晴明!」
晴明「もちろん!」
晴明はすぐさま術の準備に入り、力強く詠唱した。
晴明「五行相生・土蛇……急急如律令!!」
晴明の詠唱を耳にしたセレナは、切り結んでいた槍を払い、そのまま上昇する。
直後、地面が大きく揺れた。
土が盛り上がり、そこから無数の大蛇をかたどった土塊が出現する。
大蛇たちは地面を這い、あるいは上体をもたげながら、次々とサマエルへ襲いかかった。
サマエルは飛行しながらそれらを回避し、光の槍で一体ずつ確実に突き貫いていく。
貫かれた土の大蛇は次々と爆発し、そのたびに土煙が舞い上がる。
しかし、土の大蛇がサマエルの動きを制限している間に、セレナとクー・フーリンは反撃の機会をうかがっていた。
二人は土の大蛇の頭を次々と足場にし、空中を駆け上がるようにしてサマエルへと迫る。
そして、クー・フーリンが先に間合いを捉えた。
クー・フーリン「そこだ!」
ゲイ・ボルグが鋭く突き出される。
その一撃は、サマエルの肩を掠めた。
サマエル「惜しかったな。」
クー・フーリン「そうかよ……セレナ!!」
クー・フーリンの声に応じ、セレナはゲイ・ボルグへと魔力を込める。
槍を包み込む魔力が螺旋状に回転し、鋭い渦を巻き始めた。
セレナ「リーサル・エンブレイス!!」
螺旋状の魔力を帯びたゲイ・ボルグが、サマエルの正面から突き出される。
しかし、サマエルは迫る槍を見ても動じなかった。
サマエル「遅いな。」
サマエルは横へと移動し、その一撃を紙一重でかわす。
セレナの身体が、そのままサマエルの真横を通過した。
だが、セレナは攻撃をかわされたことに動揺することなく、すぐさま左手に持つ天野逆鉾へと神力を込める。
そして、横へ抜けた勢いを殺さぬまま、天野逆鉾を横薙ぎに振るった。
セレナ「蒼穹の一閃!」
天野逆鉾から放たれた斬撃が、横一線にサマエルを襲う。
回避直後のサマエルを捉えた斬撃が、その身体を斬り裂いた。
たちまち大きな爆発が起こり、辺り一帯を煙が覆い尽くす。
クー・フーリン「やったか?」
セレナ「まだよ……」
セレナは煙の向こうを見据え、警戒を解かなかった。
やがて、その煙の中からサマエルの声が響く。
サマエル「いい連携だったが、それで終わりか?」
セレナ「どうかしらね?」
サマエルは周囲へと視線を巡らせた。
そこで初めて、自分の周りにいくつもの札が浮いていることに気づく。
晴明「東方青龍、木気を生じ、
震の理をもって天雷を招く。
陰陽交わり、天地応ず。
雷霆降臨、邪気を祓え!
五行雷法・天震……急急如律令!!」
晴明の詠唱が終わった瞬間、サマエルを雷が直撃した。
轟音が響き渡り、雷撃の衝撃によってサマエルの身体が地上へと叩き落とされる。
セレナはその隙を逃さず、すかさず後を追った。
ルーンの力によって浮遊したまま、落下するサマエルを見下ろす。
セレナ「地に落ちる気分はどう? 堕ちた天使さん?」
サマエル「このくらいで勝ったつもりか? 片腹痛いわ!!」
セレナは表情を変えることなく、サマエルを見据えた。
セレナ「そう、なら私も……私達も本気をだすわね!」
サマエル「本気だと? 笑わせる。その前に消し去ってくれるわ!!」
その言葉を口にした時、サマエルはすでに魔力を溜めていた。
次の瞬間、彼の手元から魔力球が放たれ、セレナたち三人へと向かっていく。
晴明「不意打ち!? 危ないセレナ!!」
晴明はセレナに向かって駆け出すと、彼女を抱きしめ、魔力球に背を向けた。
晴明(ダメだ、LINKも間に合わない!)
クー・フーリン「チッ、野郎、平気で不意打ちをするのかよ!?」
魔力球が三人に迫り、次の瞬間、凄まじい爆発が巻き起こった。
爆風が周囲を呑み込み、轟音とともに辺り一帯を揺るがす。
サマエルはその様子を確認する間もなく、大きく翼を広げて空へと飛び上がった。
そして、勝ち誇ったように声高らかに笑う。
サマエル「やはり人間は下等生物! 騎士道精神などにこだわるからこういう事になる!!」
その時だった。
???「そっちがその気ならこっちもだ!」
背後から響いた声に、サマエルは振り向いた。
そこには、浅葱色の羽織をはためかせる男の姿があった。
サマエルは目を見開き、驚愕する。
サマエル「お前は!? あの時消したはず!!」
総司「無影……三段突き!!」
総司の技が炸裂する。
その直後、別の方向からも声が響いた。
???「避けろよ沖田!! デュランダル聖剣モード……ホーリースラッシュ!」
白い斬撃がサマエルに向かって飛ぶ。
総司はサマエルの背を蹴り、その反動で斬撃を回避しながら降下した。
一方、サマエルも斬撃を避けようとしたが、完全にはかわしきれなかった。
白い斬撃が背中の翼を切り裂き、三枚の翼が切り落とされる。
サマエルはそのまま地上へと落下していった。
落下する最中、サマエルは先ほど仕留めたはずの三人へと視線を向けた。
そして、目にした光景に再び驚愕する。
そこには、二つの氷の塊があった。
爆発の衝撃を受けたセレナと晴明は、目を瞑ったまま動かなかった。
やがて衝撃が収まる。
セレナ(傷も何も無い?)
セレナは瞬時に目を開き、立ち上がった。
目の前に広がっていたのは、自分と晴明を丸く囲うように形成された氷の壁だった。
セレナ「氷の……壁!?」
直後、氷の壁はゆっくりと溶け始めた。
溶けきった氷の向こうには、見覚えのある姿があった。
新選組の浅葱色の羽織をまとい、長い青白い髪を風になびかせながら、前を向いている女性。
セレナ「みゆ……き?」
美雪「お待たせ……セレナ!」
そして、上空から総司も降り立った。
セレナ「総司……」
総司「うん……ただいま、セレナ!」
その言葉を聞いた瞬間、セレナの身体から力が抜けた。
目に涙を浮かべながら、その場に膝をつく。
セレナ「生きてた……無事だった……」
そんなセレナを見て、美雪はそっと抱きしめた。
美雪「心配させてごめんね……」
晴明もまた、総司のもとへと駆け寄った。
晴明「本当に無事でよかった……」
総司「俺たちも死んだと思って……気づいたら神楽さんが神木の中に助けてくれてた。」
晴明「それで姿がなかったのか……。私達もてっきり……」
総司の無事を確認し、晴明もようやく安堵の表情を浮かべた。
そんな一同の様子を、クー・フーリンは微笑ましく見つめていた。
すると、そこへルシウスがデュランダルを肩に担ぎながら近寄ってくる。
その姿を見たセレナ、晴明、クー・フーリンは、すぐさま身構えた。
ルシウス「待て待て、俺は今は敵じゃない。むしろ目的を同じとしている側だ……」
晴明「さっきの斬撃は貴方が?」
ルシウス「ああそうだ……それで水を差すわけでは無いが……感動の再会のところ悪いけど……奴はやる気満々だぜ……」
その言葉を受け、全員がサマエルの方へと視線を向けた。
サマエルは膨大な魔力を発しながら立っていた。
先ほど切り落とされた三枚の翼も、すでに再生している。
サマエル「どういう奇跡を使ったか知らんが生きていたとはな!! それにあの攻撃を一度ならず二度までも防ぐとはなぁ!!」
サマエルはそう言うと、ルシウスへと視線を向けた。
サマエル「それにルシウス、お前までそちらとはどういう了見だ? 良いのだな? 皇帝と女王がどうなっても。」
ルシウス「サマエルよぉ、お前がそれを言えた義理か? 本来の目的ではなく邪神の力を自らに取り込み、自分の思惑を優先させて堕天使の序列を上げようとした。これって帝国へのれっきとした裏切り行為だぜ?」
サマエル「問題ない! この力のまま帰っても誰も俺に手出しはできん! 例えアザゼルでもだ!!」
ルシウス「今のお前よりもアザゼルは強いと思うがね! そのまま帝国に帰ってもお前は反逆罪だ!」
サマエル「吐かすなよ半端者の魔族風情が!! お前たちは元は人間! 下等生物に毛が生えた程度の力しか持たん半端者! それが天使を愚弄するか!!」
総司「口調も姿も、天使とは言えないけどね。さすがは堕天使と言ったところか……いや、姿的にも堕天使でもなく鬼だな……。」
サマエル「醜いオーガたちと一緒にするな! 俺は高貴な存在なのだ! 崇め讃えられる存在だ! 下等なゴミ虫どもが粉砕してくれるわ!!」
セレナは涙を拭い、サマエルを睨みつけた。
セレナ「高貴だとか、崇め讃えられる存在とかよく言うわね! 自信過剰も行き過ぎたら醜いだけ、現に姿も怨念の塊の力で醜くなってるじゃない! 角まで生やして本当に落ちたところまで落ちた存在よ! 今のあんたはね!」
サマエル「お前らは許さん、特にセレナ・マク・リアスお前だけは絶対に許さん!」
セレナ「お生憎様、あんたに許して欲しいなんて微塵も思っちゃいない! これ以上は無粋よ! 私たち人の力、仲間の力、絆の力を思い知るが良いわ!」
セレナの言葉が響き渡る。
それに応えるかのように、サマエルが両手を広げた。
周囲に数多の転移魔法陣が形成され、そこから悪魔、堕天使、スカル兵、魔物が大小さまざまな姿で次々と出現する。
瞬く間に、周囲は無数の敵で埋め尽くされていった。
サマエル「お前らは六人、対してこちらは……!?」
サマエルが言葉を続けようとした、その時だった。
出現した魔物たちが、一瞬にして氷結した。
次の瞬間、氷に閉ざされた魔物たちが一斉に砕け散る。
あまりにも一瞬の出来事に、サマエルは言葉を失った。
その光景を前に、美雪が静かに口を開く。
美雪「私たち六人を甘く見ないでもらえるかな? サマエル。」
サマエル「一瞬でこの数を……まぁ良い、無尽蔵に魔界から呼び出せるのだからな!」
再び転移魔法陣が開き、魔界から新たな魔物たちが出現する。
サマエルはさらに両腕を広げ、邪神へと呼びかけた。
サマエル「邪神よ! 怨念の力、今一度我に……怨念の力を!!」
青黒い炎がサマエルの身体を包み込んだ。
晴明「さらに邪気が増した! 出現した魔物もその邪気に強化されている。」
総司「邪気……鬼か。なら……」
総司は菊一文字を鞘に収めた。
美雪「総司くん?」
総司は腰紐から鞘に収めた刀を外し、SDに格納する。
そして、新たに一本の刀を取り出すと、腰紐に挿した。
その刀を見て、晴明が声を上げる。
晴明「童子切!」
総司「うん。酒呑童子や茨木童子を斬った刀ならと思ってね!」
晴明「確かに、魔族相手には有効な宝刀……」
クー・フーリン「お前ら四人は奴を叩きな! 周りは俺とコイツでやるからよ!」
ルシウス「コイツって俺がか?」
クー・フーリン「あ? 他に誰がいるよ。」
ルシウスは頭を掻きながら、やれやれといった様子で答えた。
ルシウス「しゃあない、お前らの周りは任せろ!」
クー・フーリン「さっきのあの斬撃はまだ使えるのか?」
ルシウス「使えても三発だ。あれはこのデュランダルが持つ聖剣の力を使用したんだ……元は人間といえ、バンパイアだからな、聖剣をおいそれと何発も使えん。魔剣側の力ならいくらでも使えるぜ!」
クー・フーリン「なら問題ねぇな!」
総司と美雪、晴明、そしてセレナは頷いた。
それぞれが武器を構え、サマエルへと意識を集中させる。
サマエルの身体から青黒い炎が消えた。
しかし、それと引き換えに、禍々しい邪気と魔力が膨れ上がっていく。
周囲の空気が重くなり、膨大な力が辺りを覆い尽くした。
サマエル「この島ごとお前らを消しとばしてやる!」
総司「最初からやるよ、美雪ちゃん!」
美雪「うん、そのつもり!」
セレナ「晴明! 私達も出し惜しみは無し!」
晴明「分かった! 四人で全力で行こう!」
総司×美雪「LINK!」
セレナ×晴明「LINK!!」
まるでシンクロしたかのように、四人の声が同時に響き渡った。
総司と美雪は全身に氷のオーラを纏い、二人の周囲には澄んだ冷気が渦巻く。
一方、セレナの背後には五行を表す五芒星が浮かび上がり、その中心には陰陽太極図が現れた。晴明もまた、神力が増大すると同時に、背後にルーン文字が浮かび上がる。文字の一つ一つが魔力を帯び、淡い光を放っていた。
同時に四人はそれぞれに違和感を覚えていた。
いつものLINKとは何かが違う。
総司「何だろう……いつもと違う……美雪ちゃんとのLINKだけじゃない感じ……」
セレナ「私もよ……なんかこう、四人が繋がっているような……」
美雪「それ……私も!」
晴明「パートナーだけじゃないのだろうね……。セレナの言っていたように、私たち四人の絆が具現化した感じだ」
美雪「温かい……。晋作と茜、千代女さんと恒一君も繋がると思う……8人全員が…」
セレナ「美雪の言うように、きっとそうね!」
四人の間に生まれた新たな繋がり。
それは、単にパートナー同士の力を高め合うだけではない。仲間同士の絆までもが結びつき、互いの力を引き出しているかのようだった。
サマエル「それがお前たちの本気というやつか? 真正面から叩き潰す!」
サマエルは両手を掲げ、無数の光の槍を生成した。
そして、四人に向けて一斉に掃射する。
美雪も即座に澄んだ氷柱を生成し、迫り来る光の槍に向けて放った。
氷柱と光の槍が激突する。
光の槍は氷柱に先端を捉えられた瞬間、次々と爆発を起こした。
いくつもの爆風が重なり合い、周囲には大量の砂煙が舞い上がる。
視界が遮られる中、サマエルは地上での戦闘を避け、地理的優位を得るために空へと飛び上がろうとした。
しかし、その動きを晴明が見逃すはずもなかった。
晴明「逃がさない! オン・シバリソワカ……急急如律令!」
晴明の術が発動し、サマエルの身体が金縛りにあったかのように動きを止める。
だが、それも一瞬だった。
サマエルは膨大な力を無理やり叩きつけるようにして術を解き、再び身体の自由を取り戻した。
サマエル「こんな物で縛れると思ったか?」
その瞬間、砂煙の中から声が響いた。
総司「いや、一瞬で十分!」
土煙を突き破り、総司が勢いよくサマエルの目の前へと飛び出した。
柄を握ると、童子切の鞘を淡い蒼光が這い上がっていく。
刀身が抜かれるたび、鞘の縁には霜の結晶が咲き、刃が走る軌跡には氷の粒子が連なっていった。
そして鋼が完全に姿を現した瞬間、凍てつく剣気が周囲を支配する。
総司はそのまま童子切を振るい、サマエルの胴を斬り裂いた。
サマエル「ぐっ……!」
傷口から瞬く間に霜が広がり、サマエルの身体を凍てつかせていく。
サマエル「その程度の傷、すぐに再生……しない!?」
傷口が再生するどころか、凍結が身体の奥へと進行していた。
総司「この刀はかつて大妖怪……酒呑童子を斬った刀。……怨念が主体の鬼と変わらない力を持ったお前には有効なはず! その力と共に氷雪の力も上乗せしてあるから尚更。」
総司が言い終えると同時に、美雪が足元に氷の壁を出現させた。
その壁を足場に氷を蹴り、さらにサマエルへと迫る。
左下段から右上段へ。
童子切が鋭い軌跡を描きながら振り抜かれた。
しかし、サマエルもすぐさま光の槍を生成し、その一撃を受け流す。
サマエル「当たらなければ良い話だ。」
サマエルは光の槍に怨念と魔力を込め、即座に薙ぎ払った。
槍から放たれた斬撃が、総司へと飛んでいく。
総司は童子切を構えて斬撃を受け止めたが、その衝撃を完全には殺しきれず、押し負けて地上へと落下していった。
それを読んでいたかの様に、晴明が声を張り上げる。
晴明「東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武、四方を守護する神々よ、天の理を受け、地の気を集め、我が声に応え給え! 四気相応じ、陰陽の理、ここに成就す、天地四方の結界を開き、神威をもって顕現せよ! 四神降臨! 急急如律令!!」
晴明の詠唱が響き渡る。
戦場の東西南北、それぞれの方角に亀裂が走った。
その亀裂を突き破るようにして、四体の神獣が姿を現す。
東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武。
いずれも普段より大きく、神々しい気配を放っていた。
美雪「いつもより四神が大きくて神々しい……」
晴明はすぐさま指示を飛ばす。
晴明「白虎、総司を受けとめよ!」
その声に応じ、白虎が地を駆けた。
大きく跳躍した白虎は、落下してくる総司を背中で受け止め、そのまま地上へと滑るように着地する。
晴明「朱雀はセレナと共に、青龍は朱雀の援護! 玄武は全員の防御結界を展開!」
晴明の指示が次々と四神へと伝わる。
セレナは朱雀の背へと飛び乗った。
セレナ「よろしくね、朱雀、青龍!」
朱雀はセレナを背に乗せると、青龍と共にすぐさま飛翔した。
四神がそれぞれの役割を担い、戦場を縦横無尽に駆け巡る。
その様子を、離れた場所で戦っていたクー・フーリンとルシウスも目にしていた。
ルシウスは敵を斬り伏せながら、デュランダルを肩に担いだ。
ルシウス「こりゃぁ、怪獣大決戦じゃねぇか……」
クー・フーリン「晴明の奴、こんなのを隠し球で持っていたのかよ……」
二人が驚くのも無理はなかった。
四神の顕現によって、戦場の様相は大きく変わり始めていたのだ。
一方、サマエルは四神を見上げ、忌々しげに口を開く。
サマエル「方角を司るとされる東洋の神か……。だが、神は唯一無二! その存在を神たらしめる者のみ! 信じるに値しない神など神ではない!」
セレナ「よく言うわね! その神を信じなくなったからこそあんたは堕天使となり、今のあんたがあるんじゃない!?」
セレナは朱雀の背から飛び降り、天野逆鉾をサマエルへと突き立てた。
サマエルは刃をかわすと、天野逆鉾の柄を掴む。
そして、セレナごと槍を振り回し、投げ飛ばした。
サマエル「神など憎き存在なのは確かだ! だからこそ神と名乗る者は敵でしかない!」
投げ飛ばされながらも、セレナは天野逆鉾に霊力を込め、槍を振るった。
セレナ「鎌鼬!!」
振るわれた槍から鋭い風が吹き荒れ、サマエルへと襲いかかる。
サマエルは即座に自身の周囲へバリアを展開し、鎌鼬を防いだ。
その間に、セレナは朱雀の背へと着地する。
そして、ゲイ・ボルグを構えた。
魔力と霊力を込めると、二つの力がゲイ・ボルグの周囲を螺旋状に回転し始める。
十分に力を蓄えた瞬間、セレナはその槍をサマエルへと投擲した。
ゲイ・ボルグは一直線にサマエルへと飛翔する。
サマエルはバリアとなる壁を何重にも重ねて展開しながら、上空に無詠唱で魔法陣を展開した。
しかし、ゲイ・ボルグは勢いを衰えさせることなく、重ねられたバリアを次々と突き破っていく。
その一方で、上空に展開された巨大な魔法陣が淡く光り始めていた。
直後、ゲイ・ボルグがサマエルの肩を貫く。
サマエル「ぐ……」
苦悶の声が漏れる。
だが、上空の魔法陣は止まることなく、さらに大きく広がっていった。
サマエル「……愚かな人間どもが。己の身の程も理解できぬか」
サマエルが漆黒の六翼を大きく広げた。
その背後では、青黒い光が天へと伸びていく。
次の瞬間、幾重にも重なる円環には異形の文字と逆転した聖印が刻まれ、互いに異なる方向へと回転を始めた。
魔法陣の各所に、無数の青黒い光点が灯る。
それらは瞬く間に巨大な光槍へと姿を変え、切っ先を地上へと向けた。
サマエル「跡形もなく消し飛べ――アポカリプティック・サークル!」
サマエルが片手を振り下ろした。
天を埋め尽くす無数の光槍が、一斉に地上へと降り注ぐ。
晴明「玄武!」
晴明の指示に、玄武が即座に反応した。
玄武は全員に防御結界を展開し、降り注ぐ光槍から仲間たちを守る。
セレナは朱雀と共に飛行しながら光槍を回避する。
総司は白虎の背に乗り、地上を駆けながら次々と降り注ぐ光槍を避けていく。
晴明と美雪は玄武を盾とし、結界の内側から戦況を見極めていた。
サマエル「ちょこざいな……」
サマエルは右手を総司へ、左手をセレナへと向けた。
それぞれの前方に魔法陣が展開され、青黒い魔力が中心へと凝縮されていく。
サマエル「アビス・カノン」
小さく呟いた直後、二つの魔法陣から極太の光線が撃ち出された。
発射と同時に周囲の空気が弾け飛び、凄まじい破壊の奔流が二人を襲う。
セレナ「降り注ぐ槍を避けつつ、これを避けるのは難しいわね! だったらこれしか無い!」
セレナは迫り来る破壊の奔流を前に、天野逆鉾を両手で構えた。
セレナ「その力で、私を屈服させるつもり?」
穂先が淡い黄金色に輝く。
セレナ「――天の理よ、邪なる流れを覆せ! 神座返し!」
天野逆鉾を中心に、幾重もの神聖な紋様が展開された。
アビス・カノンが光の結界に激突する。
その瞬間、青黒い奔流に亀裂が走った。
砲撃を構成していた魔力が逆流し、次々と光の粒子へと変わっていく。
やがて轟音とともに、邪神の砲撃は完全に消滅した。
一方、総司も迫り来る砲撃を前に、童子切を構えていた。
総司「回避できないね……」
総司はLINKによって繋がった美雪の力を童子切へと乗せる。
刀身から蒼白い冷気が立ち上り、周囲の空気さえ凍てつかせていった。
総司「絶刀・氷龍断!」
童子切から放たれた氷の斬撃が、龍のような形状を取る。
氷の龍は正面から青黒い砲撃へと突き進み、その奔流を飲み込んだ。
さらに、砲撃の内部から凍結させ、その力を封じ込めていく。
サマエル「馬鹿な! 人間如きに、ゴミ虫に打ち消されただと!?」
その直後、雨の如く降り注いでいた光の槍も止んだ。
戦場に、束の間の静寂が流れる。
しかし、サマエルは攻撃の手を緩めなかった。
すかさず掌の前に巨大な魔法陣を展開し、青黒い魔力球を形成すると、さらに圧縮を始める。
それを見た全員が、同時に危険を察知した。
全員(まずい、あの技が来る!)
全く同時に、全員が同じことを考えていた。
そして、四人は気づく。
他の三人も、同じことを考えていると。
セレナ(何で?)
総司(皆んなが考えてることが伝わってくる……)
美雪
晴明(これは違いないだろうね……)
全員(思考がLINKしてる!)
パートナー同士だけではない。
四人の思考が繋がり、互いの考えが瞬時に伝わっていた。
晴明(魔力圧縮中、サマエルは動けないはず! 今なら!)
セレナ「晴明が何かやる気ね! だったら」
美雪「セレナが晴明さんに合わせる気だ! 総司くん! 私たちも!」
総司「分かってる! 美雪ちゃんは晴明に合わせて! 俺はセレナに合わせるよ!」
美雪「分かった!!」
晴明「美雪さん、時間がない! 合わせられる?」
美雪「必ず合わせる!」
晴明はすぐさま術式の構築に取りかかった。
晴明「天地の理、陰陽の境。木火土金水、五行の巡りをもって此処に結界を成す」
「東西南北、四方の霊脈よ。我が術式に応じ、万象の流れをこの地に留めよ」
「陰陽封界――開門!」
晴明が五芒星の陰陽陣を展開する。
五行の力が巡り、周囲の空間が術式の支配下へと置かれていった。
その結界に、美雪の冷気が流れ込む。
美雪「白銀の世界よ、我が呼び声に応え、万物を覆う静寂となれ」
「凍てつく風よ、降り積もる雪よ。天より地へ、地より万象へ、その力を解き放て」
「氷雪顕現――絶対零域!」
美雪の詠唱とともに、結界内の温度が急激に低下していく。
晴明の陰陽陣を構成する紋様が蒼白い氷晶へと変化し、五行の術式と氷雪の力が一つに重なり始めた。
晴明「陰陽の理、ここに定まり――」
美雪「氷雪の世界、ここに満ちる――」
晴明・美雪「二つの力、ひとつの絆となりて、天地万象を凍てつかせよ!」
二人「――天凍陰陽界!!」
二人の声が重なった瞬間、巨大な陰陽陣が完成した。
空中には無数の氷晶が浮かび、結界内の大地や空気、さらには敵の魔力までもが凍結していく。
陰陽の術式と氷雪の力が重なり合い、逃げ場のない絶対零度の領域が広がった。
そして最後には、領域の中心に巨大な氷の結晶が形成され、サマエルを封じ込めた。
サマエル「なん……だと……まだ圧縮できてないが、こうなれば諸共道連れに……」
総司「させないよ!」
セレナ「最もその手の魔力、格段に出力落ちてるけどね! これで終わりよ、サマエル!」
氷の中で身動きを封じられたサマエルは、なおも抵抗を試みる。
サマエル「人間ごときが……この私を滅ぼせると思うな!」
その叫びを真正面から受け止めながら、セレナは天野逆鉾を握り直した。
セレナ「総司、合わせて!」
総司「ああ、任せろ!」
セレナの槍が黄金の神威を帯びる。
一方、総司の童子切には、周囲の空気さえ凍てつかせる蒼白い冷気が集束していった。
二人は互いの動きを感じ取り、同時に踏み込む。
セレナ「天の理よ、邪なる力を貫け――天逆・神威穿!」
総司「凍てつく刃よ、天を断て――零閃・凍天斬!」
黄金の閃光と蒼白い剣閃が、サマエルを挟み込むように交差した。
サマエル「なっ……邪神の力が――!」
天野逆鉾が魔力障壁を貫き、童子切の斬撃が六翼を凍結させる。
次の瞬間、二つの力が交差した一点から、凄まじい衝撃波が広がった。
凍りついた羽根が砕け、空中へと舞い上がる。
セレナと総司は、互いの背後を守るように着地した。
その背後で、サマエルの身体が地上へと落ちていく。
セレナ「これで終わったわね!」
総司「まだかな? 確認してからかな……」
セレナ「確かにそうね……」
二人はサマエルが落ちた場所へと向かった。
見下ろすと、サマエルは倒れたまま動く気配がない。
総司は警戒を怠らず、そっと近づいていく。
セレナ「気をつけなさいよ? また不意打ちを狙ってるかも……」
総司「そんときはとどめを刺すまでだよ」
総司は慎重にサマエルの首元へ指を当て、脈を確認した。
総司「脈はないか……うん、終わったね!」
美雪と晴明が駆け寄ってくる。
晴明「サマエルは?」
セレナ「終わったわよ!」
美雪は、ようやく安堵したように胸を撫で下ろした。
セレナは天野逆鉾を地面に突き刺すと、美雪に飛びついた。
美雪「ちょ、セレナ!?」
セレナ「本当に心配したんだから!!」
美雪「うん、心配かけてごめんね。」
美雪はそっとセレナを抱きしめた。
セレナ「怒りでサマエルと戦ってた……コイツがって……」
美雪「うん……」
セレナ「クー・フーリンに言われて改めて思い知ったんだけど、ここは戦場なんだって……私たちは命を奪う戦いをしてる。生きてて当然って訳ではなくて、本当に命を落とすこともあるって。」
美雪「セレナ……」
セレナ「多分これからも続いていく……一先ずは夜の帝国の問題が片付くまでは……」
総司「その時々の最善を尽くすしかないんじゃないかな? 仲間を信じながら、助け合いながら……」
セレナ「うん……そうね!」
クー・フーリン「粗方片付いたぜ!」
ルシウス「マジであの量はどうなるかと思ったよ……」
クー・フーリン「サマエルが倒れてからは統率が取れなくなったみたいで四方八方に散らばったけどな……」
ルシウス「あの数を追うのは流石に無理ってもんだ……」
晴明「なら、今からは掃討というかたちだね!」
クー・フーリン「そうだな……少し休んでからシラミ潰すしかねえな。そしてセレナ……」
セレナはクー・フーリンを見上げた。
クー・フーリン「コイツが俺のところに降って来たぜ!」
そう言うと、クー・フーリンはゲイ・ボルグをセレナに差し出した。
クー・フーリン「大分使いこなせて来てるみたいだが、まだだな!」
セレナはゲイ・ボルグを見つめる。
セレナ「そう……もっとこの槍との対話が必要ね……」
クー・フーリン「対話もだが、お前の恐れる気持ちかな?」
セレナはゲイ・ボルグから目を離さなかった。
クー・フーリン「安心しろ! お前なら大丈夫だ。俺も居るからよ! 自ずと使いこなせるはずさ。」
セレナ「うん……。」
晴明はセレナの隣に立ち、そっと肩を抱いた。
セレナ「晴明……」
晴明「もちろん、私もそばにいるから。」
セレナは頷きながら、晴明の腕に顔を埋めた。
全員が一息をついた、その束の間だった。
突然、島全体が地響きに襲われる。
美雪「なに!? 地震!?」
晴明「すごい揺れだ……」
総司「立ってらんないね……」
やがて地震が収まると、神木フバの中央付近に突然扉が出現した。
そこから、二匹の大きな白と黒の蛇が飛び出してくる。
ルシウス「何だ? 敵か!?」
セレナ「違う、あれは……」
晴明「大きな蛇だね……二匹の……」
二匹の蛇は、仲間たちの近くに降り立った。
千代女「良かった、合流出来た!」
セレナ「皆んな無事だった……良かった……」
茜は美雪のもとへ駆け寄った。
茜「美雪ちゃん……本当に無事で良かった……」
美雪「茜、千代女さんも、光一さんも!……心配かけたね……」
千代女「本当よ!」
恒一も、安堵したように頷いた。
一方、晋作はイカヅチから降りると、少し俯いたまま、ゆっくりと総司に近づいていった。
総司「晋作?」
晋作は何も答えず、腕を振りかぶった。
晋作「このやろう!!!!」
思い切り振り抜かれた拳が、総司の顔面を捉えた。
総司はその反動でのけぞり、尻もちをつく。
茜「ちょっと晋作さん!?」
総司は待ったと言わんばかりに、茜へ手をかざした。
晋作「お前、マジでどれだけ皆んなが心配したか分かってんのか?」
総司「すまん……」
晋作は総司の胸ぐらを掴んだ。
晋作「すまんじゃねぇ!! 急に勝手に単独行動すんなよ! しかもあんな高さから飛び降りやがって!! 挙げ句の果てに殺されかけてんじゃねぇよ!」
晋作は総司の胸ぐらから手を離しながら、続けた。
晋作「総司、お前の行動全部が間違ってるとは言わねぇ……次からは一言でも言ってからにしろよな!」
そう言い残すと、晋作は背を向けた。
晋作「とにかく無事で良かった! 美雪もな!」
一同は、そのやり取りを見つめていた。
茜が少し意地悪そうな笑みを浮かべる。
茜「とか言いつつ、さっきは『先に行く!』って飛び出して行ったじゃない! まぁ、ら言ってからだったけどさ……」
恒一はふっと笑った。
恒一「確かにそうでしたね! 似た者同士な気がする。」
千代女「でもまぁ、強がりながらでも生きてると信じるって言った時、この言葉には妙に納得したよね!」
茜「実際かなり心配してたしね。」
晋作「うるせぇ!!」
ほんの短い時間だったが、その場には皆の笑い声が響いた。
晴明「それで、中の状況は? 邪なる者との決着はついたのかな?」
晋作「いや、それが……」
すると、神楽が一歩前に出た。
神楽「私がかいつまんでお話しします!」
神楽は、神木の内部で起こった出来事、そして邪神と邪なる者の正体について、手短に説明した。
セレナ「海斗と海鈴が後継者……てか、色々驚きの連続だけど、ならまだ中に!?」
晴明「となると、さっきの地響きは……」
海斗「邪神・蘇我入鹿を藤原広嗣が全て引き込んだ。おそらくサマエルが倒されたことによって、そちらの力も……」
海斗が言い終えた、その時だった。
再び地響きが起こった。
ルシウス「またかよ!」
晴明「今度のはさっきよりも大きい!」
全員が神木フバを見上げる。
その時だった。
神木フバの中間あたりから上部にかけて、木っ端微塵に爆発した。
海鈴「ニライカナイを守って来た神木が……」
爆発の中から、邪神の怨念の炎を身に纏った、二本角の巨大な鬼が姿を現した。
鬼の中(蘇我入鹿)「ついに、ついに復活したぞ! 怨念となり彷徨い、この地に流れ着き力を得て邪神と呼ばれ封印され1300年! ようやくこの時が……復讐の時が!!」
鬼の中(藤原広嗣)「蘇我様、我らが悲願の成就ももうすぐでございます! まずはこの地で奴らを葬りながら、力を試してみるのも良いかと……。その前に、そこに倒れている堕天使の体を取り込むのも良いでしょう!! やつは 、膨大な魔力を持っており、異界より軍勢を呼ぶことができる故、さらなる力を取り込めるかと……」
鬼(蘇我入鹿)「ほぉ? 先ほど力を欲したやつか……心得た……」
その直後、サマエルの体内から突然黒い炎が湧き上がり、その身体が宙へと浮かび上がった。
美雪「サマエルが!!」
晋作「まずい、茜!」
茜「うん!」
茜は弓を構え、弦を引き絞った。
鬼(藤原広嗣)「小癪な!」
鬼は巨大な腕を振るう。
たちまち強風が巻き起こり、茜が矢を放つのを阻害した。
サマエルの身体は鬼の顔の前まで浮かび続け、鬼はそれをつまむように掴むと、口の中へと放り込んだ。
鬼(蘇我入鹿)「この者の能力、もらい受けたぞ!」
すると、鬼の背中に漆黒の六枚の翼が生え、手には光の槍が握られた。
鬼(蘇我入鹿)「さぁ、まずはこの地を破壊し尽くす!」
鬼はそう言うと、地上にいる者たちを見下ろした。
総司「来るぞ!」
開戦かと思われた、その瞬間だった。
???「この時を待ってたぞ! 邪神・蘇我入鹿! そして邪なる者、藤原広嗣よ!」
鬼の中から、聞き覚えのある声が響いた。
藤原広嗣「お前、死んだのではなかったのか!? サマエル!!」
セレナ「サマエルだって!?」
総司「さっき確認したら脈も息もなかったはず!」
サマエル「俺がこの者たちに殺されたと思ったか? 全てはお前らの力を我がものにするための芝居よ! 我の亡骸を取り込むと踏んでいたからな! 中からなら力を奪うのも容易い。」
蘇我入鹿「させると思うてか!!」
サマエル「問答は無用! 元は怨念ごとき相手に、天使が遅れを取るとでも思うか?……下等な人間の怨念は地獄に堕ちろ……」
そう言うと、サマエルは邪神の力を全て吸収した。
藤原広嗣「我らの……悲願が……」
蘇我入鹿「力が消えて……」
鬼の体内から、二人の声が消えた。
そして、額の中央にさらに一本の角が生え、鬼の顔がサマエルの顔へと変わっていく。
サマエル「ククク……ハハハ!! アハハハ! ついについに全て手にしたぞ! これでアザゼルもモロクも我には逆らえないほどの力を手にした!」
セレナ「笑い方も何もかも下品極まりないわね! 天使のとはかけ離れてるわね。」
サマエル「フン、喚いてろ……その減らず口、すぐに叩けないようになる。」
サマエルは、その巨体の手を掲げた。
サマエル「魔界の者共よ、堕天使の者共よ、我の元に集え!」
サマエルの巨体の周囲に、無数の転移魔法陣が出現する。
そこから次々と悪魔や堕天使、オーガ、ドラゴンなど、ありとあらゆる魔界の住人が姿を現した。
空を飛ぶ者、地上を駆ける者。
敵の軍勢は瞬く間に広がり、ニライカナイ全体を覆い尽くそうとしていた。
千代女「この数、さっきまでの比じゃないわね!」
サマエル「さあ、準備は整った! 魔界の者共よ! 強者どもよ! 手始めにこの地を蹂躙し、抵抗する者、逃げる者、全て消し、帝国に凱旋するとしよう!」
サマエルの咆哮が、ニライカナイの空に響き渡った。
その背後には、漆黒の六翼を広げた巨大な異形の姿。そして、その周囲から次々と現れる魔界の軍勢が、空と大地を埋め尽くしていく。
かつてニライカナイを守ってきた神木フバは無残にも崩れ去り、島には邪悪な魔力が渦巻いていた。
眼前に広がる圧倒的な敵の数を前に、誰一人として退くことはなかった。
総司たちはそれぞれの武器を握り直し、迫り来る脅威を見据える。
夜の帝国との戦いは、今まさに新たな局面を迎えようとしていた。
そして、ニライカナイ全土を巻き込む決戦の幕が上がる。
66話 完




