63話 思惑が交差する蓬莱編Ⅴ
洞窟の中にある、一室。
そこには家具らしい家具はなく、気持ち程度に置かれた粗末な椅子と、簡素な寝床があるだけだった。
海鈴は椅子の上で膝を抱えるようにして座り、俯いていた。
頭の中に浮かんでくるのは、宗玄と最後に会った時のこと。
海鈴
(あの時……回廊の階段を降りてきたのは誰だったんだろう……)
必死に記憶を辿る。
だが、あの時のことだけがどうしても思い出せない。
海鈴
(ダメだ……やっぱり思い出せない……)
その時だった。
ふと、海鈴の脳裏に比嘉との会話が蘇る。
比嘉
『行方不明だ……あの時、お前を逃した後からな』
海鈴
(……あの時?)
海鈴は顔を上げる。
そして、先ほどの言葉を頭の中で何度も反芻する。
海鈴
(宗玄様に連れられて島から出た時のこと……)
(あのことを知っているのは、私と宗玄様だけのはず……他の人たちは……私がいつ島を出たのかなんて知らないはず……)
そこで、もう一つの記憶が蘇る。
比嘉が見せた、一瞬だけ歪んだ笑み。
ほんの一瞬だった。
だが今思い返せば、あの表情には明らかに何かがあった。
海鈴の瞳が大きく見開かれる。
海鈴
(……まさか)
そして、ゆっくりと立ち上がる。
海鈴
(多分……間違いない……)
その時、さらに別の言葉が脳裏に蘇った。
比嘉
『この右側の通路。この先には入るなよ』
海鈴は部屋の外へ視線を向ける。
洞窟の奥へと続く、いくつもの通路。
その中でも、比嘉がわざわざ「入るな」と告げた通路があった。
海鈴
(……あの通路の先には、何があるの?)
海鈴はしばらく黙ったまま、その方向を見つめる。
胸の奥に、嫌な予感が込み上げてくる。
それは、かつて宗玄と別れたあの日の記憶と、比嘉の言葉が一本の線で繋がり始めたような感覚だった。
海鈴の中で、何かが確信へと変わり始めていた。
海鈴はゆっくりと椅子から立ち上がると、部屋の扉へ歩み寄る。
そして、扉の前で足を止めた。
海鈴
(どうしよう……もし、違っていたら?)
一瞬、迷いが生まれる。
だが、すぐに先ほどまでの記憶を思い返す。
海鈴
(でも……そうとしか考えられない……)
扉の向こうへ視線を向ける。
海鈴
(行って、確かめなきゃ……)
そう思う一方で、胸の奥には恐怖があった。
海鈴
(……でも、怖い……)
その時だった。
ふと、セレナの言葉が脳裏に蘇る。
セレナ
『国は違っても、もう私たちは仲間なんだから』
海鈴
「私たちは……仲、間……」
海鈴は小さく呟いた。
その言葉を胸の中で噛みしめるように、拳をぎゅっと握る。
海鈴
(そうだ……私一人じゃない)
(みんながいる……)
(だったら……)
海鈴は静かに息を吸い込む。
そして、意を決したように扉をそっと開けた。
ギィ……
僅かな音を立てて扉が開く。
海鈴は周囲を確認しながら、ゆっくりと部屋の外へ出る。
そのまま、比嘉から「入るな」と言われた通路へ向かって歩き始めた。
だが――。
海鈴の後ろから、小さな影がそっと姿を現す。
その影は、一定の距離を保ちながら海鈴の後を追っていく。
海鈴は、その存在に気づいていなかった。
やがて、海鈴は目的の通路の前まで辿り着く。
立ち止まり、暗闇の奥を見つめる。
そこから先は、ほとんど光が届いていない。
海鈴
(……この奥ね)
海鈴はゆっくりと息を吐く。
すると、通路の奥から何とも言えない冷気のようなものが漂ってくる。
海鈴
(何だろう……なんか、寒気のようなものがする……)
本能が、これ以上進むことを拒んでいるようだった。
それでも――。
海鈴は一歩、前へ踏み出す。
海鈴
(でも……足を止めちゃいけない)
(今、私にもできることをしないと!)
海鈴は恐怖を振り払うように顔を上げる。
そして、暗い通路の奥へ向かって歩き出した。
その小さな影もまた、静かに海鈴の後を追っていった。
階段は、さらに地下へと続いていた。
海鈴は一段、また一段と、足元を確かめるように踏み締めながら降りていく。
薄暗い階段には、足音だけが静かに響いていた。
やがて階段を降り切ると、その先に一枚の扉が現れた。
海鈴
(この奥に……一体、何が……?)
海鈴は息を殺し、扉の前に立つ。
そして、ゆっくりと手を伸ばし、音を立てないように扉を開いた。
ギィ……
扉の向こうは薄暗く、奥の様子まではよく見えない。
その時――。
???
「比嘉よ……何度来てもワシは話せんぞ……知らんものは知らん」
突然、暗闇の奥から声が響いた。
海鈴
「――っ!」
驚きに肩を震わせる。
だが、その声を聞いた瞬間、海鈴の表情が変わった。
弱々しく、かすれてはいる。
それでも――。
確かに聞き覚えのある声だった。
海鈴
「……宗玄……長老?」
その声と呼びかけを聞き、暗闇の奥にいる人物も気づいた。
宗玄
「……海鈴……なのか?」
海鈴の目から、涙がこぼれ落ちる。
海鈴
「はい……!」
そして、海鈴は宗玄のもとへ駆け寄った。
海鈴
「海鈴です! 宗玄長老!!」
宗玄
「戻ってきたのか……」
宗玄は弱々しく笑う。
宗玄
「そのまま外の世界で暮らせば良いものを……」
海鈴
「故郷ですし……私も守り人の一人ですから」
宗玄
「……そうか」
再会を喜ぶ間もなく、宗玄の表情が険しくなる。
宗玄
「それより……一人で来たのか?」
海鈴
「はい……」
海鈴は頷くと、ここへ来るまでに起きたことを宗玄へ話し始めた。
自分が島へ戻ってきたこと。
AX班と出会ったこと。
夜の帝国が侵攻してきたこと。
そして、比嘉真玄が自分だけをこの洞窟に残し、海斗を含めた他の者たちを追い出したこと――。
すべてを聞き終えた宗玄は、しばらく黙り込んだ。
宗玄
「そうか……そんな事が……」
そして、海鈴を見つめる。
宗玄
「今は、その仲間たちとは離れておるんだな?」
海鈴
「はい。比嘉が私だけをここに残して、海斗も含めて全員を出入り禁止にしたので……」
その時だった。
――ガチャッ。
背後から、扉が開く音が響いた。
???
「呼び捨てとは酷いな、海鈴……」
海鈴
「――っ!」
海鈴は振り返る。
そこに立っていたのは――。
海鈴
「比嘉……真玄!」
比嘉はゆっくりと笑みを浮かべながら、部屋の中へ入ってくる。
比嘉
「部屋に行っても居ないから探したぞ」
そして、海鈴を見据える。
比嘉
「ここへは来るなと言ってあったはずだが?」
海鈴は比嘉を睨みつける。
海鈴
「……やっぱり、貴方が……」
比嘉
「ほう?」
比嘉は楽しそうに口角を上げる。
比嘉
「知っていたような口ぶりだな……」
一歩、海鈴へ近づく。
比嘉
「いつ気づいた?」
海鈴
「私が『宗玄様はどこに?』と問いかけた時……貴方は『あの時、お前を逃した後だ』と言った」
海鈴は震えながらも、はっきりと言葉を続ける。
海鈴
「宗玄様が私をいつ逃したのかを明確に知っているのは三人……私と宗玄様。それに……あの時、階段を降りてきて宗玄様と言い合いをしていた人物だけです」
「それなのに貴方は……まるで、その場にいたかのように話していた」
海鈴
「それに……私が貴方に残れと言われて従った時……貴方は一瞬だけ、不気味な笑みを浮かべた」
海鈴
「よくよく考えたら……貴方だと確信したんです」
比嘉はしばらく黙っていたが――。
やがて、愉快そうに笑い始めた。
比嘉
「つい出てしまっていたか!」
そして、肩を揺らしながら笑う。
比嘉
「……まぁいい。今となってはな!」
比嘉の表情から、人間らしい温かみが消えていく。
比嘉
「もうすぐ……この体ともおさらばだ!」
海鈴
「……どういう事?」
その問いに答えたのは、宗玄だった。
宗玄
「……其奴は比嘉真玄であって、比嘉真玄ではない……」
海鈴
「え……?」
比嘉は口元を歪める。
比嘉
「邪なる者――本人よ!!」
海鈴
「――っ!」
その言葉を聞いた瞬間、海鈴の膝から力が抜ける。
海鈴
「そ……そんな……」
海鈴はその場に崩れ落ちる。
比嘉
「もう面が割れたところで、どうということはない」
そして、冷たい目で海鈴を見下ろす。
比嘉
「さぁ……珠の枝を渡せ!!」
海鈴
「嫌です!」
即座に拒絶する海鈴。
だが、比嘉は動じない。
比嘉
「ならば……これならどうだ?」
比嘉は宗玄へ視線を向ける。
比嘉
「宗玄の方を見てみろ」
海鈴
「……え?」
海鈴が振り向く。
すると――。
宗玄のすぐ隣に、異形の姿をした下級悪魔が立っていた。
鋭く伸びた爪を、宗玄の首元へ突きつけている。
海鈴
「――宗玄様!!」
比嘉
「珠の枝を渡せ!」
比嘉の声が、洞窟の中に響き渡る。
比嘉
「さもなくば……宗玄を殺す」
宗玄
「海鈴……ワシはどうなってもいい」
宗玄は首元に爪を突きつけられながらも、海鈴を見据える。
宗玄
「決して渡すな! それは……お前を守るための保険にもなる!」
比嘉
「……5」
比嘉がカウントを始める。
海鈴
「……!」
比嘉
「4……」
宗玄
「海鈴! 渡すな!!」
比嘉
「3……」
海鈴
「……っ!」
比嘉
「2……」
海鈴は唇を噛み締める。
そして――。
比嘉
「1……」
海鈴
「ちょっと待って!!」
海鈴は懐へ手を入れる。
海鈴
「珠の枝を……渡します……!」
比嘉
「……それで良い」
海鈴は震える手で、懐から大切にしまっていた珠の枝を取り出した。
長い間、守り続けてきた神具。
それを両手で握りしめ、名残惜しそうに見つめる。
そして――。
海鈴
「……」
ゆっくりと比嘉へ差し出した。
比嘉はそれを奪い取る。
その瞬間――。
比嘉
「ついに……」
珠の枝を掲げ、狂喜の笑みを浮かべる。
比嘉
「ついに手に入ったぞ!!」
「これで……目的に一歩近づく!!」
そして比嘉は、周囲にいる悪魔たちへ命じる。
比嘉
「下級悪魔たちよ!」
「海鈴はそのまま生きて捉えておけ!」
「全てが終わった後……ゆっくり楽しませてもらう!」
そして、宗玄へ視線を向ける。
比嘉
「宗玄は殺して構わん!」
海鈴
「――話が違う!!」
海鈴が叫ぶ。
海鈴
「宗玄様を殺さないって……!」
比嘉
「誰が殺さないと言った?」
比嘉は冷たく笑う。
比嘉
「私は『渡さなければ殺す』と言っただけだが?」
海鈴
「そんな……!」
海鈴は必死に訴える。
海鈴
「宗玄様を殺めれば……神器も、神々の加護も手に入れることはできない!」
比嘉
「……加護がなくても神器は使える!」
比嘉は手にした珠の枝を見つめる。
比嘉
「まぁ……多少は出力が落ちるかもしれんがな!」
海鈴
「……!」
その言葉に、海鈴は絶望的な表情を浮かべた。
宗玄はそんな海鈴を見つめながら、静かに首を横に振る。
宗玄
「……海鈴。ワシのことは気にするな」
海鈴
「宗玄様……」
洞窟の中に、重苦しい沈黙が落ちる。
その時だった。
――ドガァンッ!!
突然、扉が凄まじい音を立てて蹴破られた。
晋作
「大当たりだな!!千代女の蛇が海鈴の後をつけて助かった。それにやっぱりあんたが黒幕か。」
声が響いた直後――。
――バンッ!!
乾いた銃声が洞窟内に轟く。
放たれた銃弾は比嘉の頬を僅かに掠め、そのまま宗玄の首元に鋭い爪を突き立てていた悪魔を撃ち抜いた。
悪魔はその場に崩れ落ちる。
比嘉の頬には、一筋の赤い線が走っていた。
比嘉
「……お前たち、一体どうやって結界を……!?」
銃を構えた晋作は、僅かに口角を吊り上げる。
晋作
「通り抜けたのかって?」
「お前のことが気に食わない奴でもいたんだろうな?」
「人形型の鍵ってやつを受け取った奴がいてな?」
比嘉の脳裏に、先ほどの光景が蘇る。
海斗の周囲に、何人かの子供たちが集まっていた場面。
比嘉
「……あの時か……」
その隙に、茜が弓を引き絞る。
鋭い眼差しで比嘉を射抜きながら、静かに言い放つ。
茜
「そろそろ観念したらどう?」
比嘉
「それは……お前らがな!!」
比嘉が叫んだ瞬間――。
ズズズズズ……。
地面が不気味に揺れ始める。
次の瞬間、床のあちこちから何体もの下級悪魔が這い上がってきた。
海鈴
「――っ!」
宗玄
「……!」
瞬く間に、悪魔たちは海鈴と宗玄を取り囲む。
鋭い爪が二人へ向けられる。
比嘉
「動くなよ?」
「いくらお前ら二人が強くとも……この数を相手に、二人を守りながら戦うことなどできまい」
悪魔たちが海鈴と宗玄へ迫る。
その時――。
ヒュッ!
鋭い風切り音が響いた。
次の瞬間――。
ザシュッ!!
背後から飛来した苦無が一体の悪魔を貫く。
続けて――。
ザンッ!!
別の悪魔が、小太刀による一閃で斬り伏せられた。
さらに間髪入れず、二人の姿が悪魔たちの間を駆け抜ける。
苦無と小太刀による連続攻撃。
海鈴と宗玄を取り囲んでいた下級悪魔たちは、次々と地面へ倒れていった。
恒一
「……誰が二人と言った?」
千代女
「おあいにく様!」
千代女は小太刀を構えたまま、比嘉を睨みつける。
千代女
「この程度の悪魔どもで、私たちを倒せると本当に思って?」
比嘉
「……くぅ……」
比嘉は忌々しげに表情を歪める。
だが、すぐに薄い笑みを浮かべた。
比嘉
「……まぁいい」
手にした珠の枝へ視線を落とす。
比嘉
「目的は達した」
晋作
「逃げるのか?」
比嘉
「……今はな」
その瞬間――。
茜
「逃がさない!!」
茜が即座に弓を引き絞る。
そして、一瞬の迷いもなく矢を放った。
ヒュンッ!!
矢は一直線に比嘉へ迫る。
しかし――。
比嘉の姿は、矢が届く寸前に闇の中へと消えていた。
放たれた矢は空を切り、そのまま壁へ突き刺さる。
恒一
「どうする? 追いますか?」
茜
「追った方が良くない?」
晋作は比嘉が消えた方向を一瞥する。
そして、静かに首を横に振った。
晋作
「いや……深入りはやめておこう」
「サマエルたちと合流されると、こっちが劣勢になる」
そして、海鈴と宗玄へ視線を向ける。
晋作
「……それより、海鈴と元長老だ」
「二人を連れ出しながら、総司たちと合流する」
一同
「……」
全員が頷く。
千代女
「取りあえず、この洞窟の大広間かな?」
晋作
「いや……元長老の件もある」
「ここで他の避難民に知られれば、かえってパニックを起こす可能性がある。外へ出た方がいいだろう」
千代女
「それもそうね!」
千代女は周囲を確認する。
千代女
「そっと出ましょう」
そして、通信端末を確認する。
千代女
「とりあえず、総司や晴明たちにはメッセージを送ったから、洞窟の外で合流ってことで」
海鈴は、目に涙を浮かべながら四人を見つめる。
海鈴
「皆さん……本当にありがとうございます!」
晋作
「まだ礼はいらねぇよ!」
そして、いつものように軽く笑う。
晋作
「それどころか、俺たちはもう仲間だ」
海鈴
「……!」
海鈴の目から、再び涙がこぼれる。
海鈴
「はい!」
その返事を聞き、宗玄も四人を見つめる。
宗玄
「君たちが……神楽様の言っていた、絆を力に変えし者たち……」
「済まない……こちらのゴタゴタに巻き込んでしまった」
茜
「そんなの、いいですよ!」
茜は笑顔を向ける。
茜
「仲間の海鈴ちゃんのためっていうのもありますから」
「それに……私たち自身が、そうしたいって思ったんです」
千代女
「私たちは、いつもそういう感じよね!」
恒一
「違いありません」
晋作
「その神楽様ってのも気になるが……話は後だ、爺さん」
晋作は出口へ向き直る。
晋作
「今は、ここから出るぞ!」
その一声に、一同は頷いた。
海鈴と宗玄を囲むようにして、四人は洞窟の奥を後にする。
やがてその姿は、薄暗い地下通路から洞窟の廊下は消えて行った。
――――――――――
洞窟の外へ出ると、そこには総司、美雪、晴明、セレナ、海斗が待機していた。
晋作
「待たせたな……」
セレナ
「今着いたところよ!」
セレナは海鈴の姿を確認すると、ほっとしたように表情を緩める。
セレナ
「……海鈴は無事ね! 良かった……」
海斗も姉の姿を見た瞬間、駆け寄る。
海斗
「姉さん! 良かった……本当に……」
海鈴
「それはこっちのセリフよ! 追い出された時、どうしようかと思ってた……」
そして海鈴は、集まったAX班の仲間たちを見渡す。
海鈴
「皆さんも……なんて言って良いか……」
すると、美雪が優しく海鈴を抱きしめた。
美雪
「そこは『無事に会えて良かった』とかで良いと思うよ!」
そして、安心させるように微笑む。
美雪
「仲間なんだから。それにしても……よく頑張ったね! 海鈴ちゃん」
海鈴
「美雪さん……」
海鈴は美雪の胸元で、安堵したように小さく微笑んだ。
その一方で、海斗は宗玄へ視線を向ける。
海斗
「宗玄長老……真玄に捕まっていたのですか……」
宗玄
「あぁ。わしから神器のことや、他にも色々と聞き出そうとしたみたいだ」
晴明
「神器……とは、アマミキヨの神器ですかね?」
宗玄は驚いたように目を見開く。
宗玄
「其方ら……知っているのか!?」
総司
「先ほど、神楽さんにお会いしましたから」
その言葉を聞くと、宗玄は納得したように頷いた。
宗玄
「そうか……神楽様に……」
そして、AX班を見渡す。
宗玄
「やはり……其方たちが、絆を力に変え、世界の救済を担う者たち……」
セレナ
「それ、神楽様も言ってて聞きそびれたんだけど……どういうこと?」
宗玄
「詳しくは分からん……」
「わしは神楽様から、そう聞いておっただけだ」
宗玄は少し考えるように目を伏せる。
宗玄
「神楽様なら……何かご存じなのかもしれんが……」
総司
「神楽様にもう一度会ったら、聞いてみようか……」
その時だった。
神木フバの頂上付近から――。
バサバサバサッ!!
一斉に大量の鳥たちが飛び立った。
美雪
「何!?」
美雪が空を見上げる。
美雪
「え……鳥? あんなにたくさん……」
晋作も空を見上げながら、表情を険しくする。
晋作
「……何かヤバそうだぞ、これ」
そして、次の瞬間――。
ドォォォォォン!!
神木フバの頂上付近から、巨大な光の柱が天へ向かって立ち昇った。
その光景に、一同は息を呑む。
宗玄
「いかん……!」
宗玄が険しい表情で神木フバを見上げる。
宗玄
「奴ら……神具の木版を起動させた!」
晴明
「神具の木版……?」
宗玄
「神木フバの頂上には、五つの神具を備える木版がある……」
「そこに各神具をはめ込むと……」
晋作
「邪神と邪なる者の復活か!?」
宗玄
「あぁ……」
美雪
「でも、仏の御石の鉢はまだ神楽様が持ってるはず!」
「復活はできないんじゃ……」
総司
「いや……もしかしたら……」
千代女
「もしかしたら?」
総司は神木フバを見上げたまま、静かに答える。
総司
「……木を切るつもりなのかも……」
晋作
「は?」
巨大な神木フバを見上げる。
晋作
「こんな馬鹿でかい木を、真っ二つにか?」
総司
「多分……?」
宗玄
「奴らは……四つ集めたのだな?」
晴明
「はい。神楽様の持つ御石の鉢以外は……」
宗玄の表情が険しくなる。
海鈴
「宗玄様……?」
宗玄
「……四つの封印を解き、最後の一つは――」
「その封印の要となっている真鉱石と繋がるフバの根を切る……あるいは、そこに通じる部分を切る」
「そうすれば真鉱石との繋がりは消え、封印を破るつもりやもしれん……」
晴明
「繋がりが消えれば……」
晴明は神木フバと、島に配置された各祠の位置関係を思い浮かべる。
晴明
「各祠が壊されていたこともあって、かろうじて機能していた十芒星の封印そのものが消える……」
茜
「それって……ヤバくない?」
その直後――。
――ザザッ!
SDから通信が入る。
クー・フーリン
『どうなってんだ、これ?』
セレナ
「あんたねぇ! サマエルたちを見張ってたんじゃないの!?」
「封印、解けかけてるんだけど!!」
クー・フーリン
『見張ってたさ!』
『だが、微かにあった気配が消えたと思ったら……突然これだ!!』
晴明
「……サマエルは、おそらく空間魔法を使えるんだろう」
「式を射抜かれた時も、何もない空間から突然矢が出てきた」
「おそらく……空間そのものを移動している」
セレナ
「とりあえずクー・フーリン!」
「あなたはそこから頂上へ! 私たちもすぐに合流するから!」
クー・フーリン
『あいよ!』
通信が切れる。
晋作
「とりあえず……行くしかねぇな……」
海斗
「俺も行く!」
海鈴
「海斗が行くなら、私も!」
海斗
「姉さんはダメだ! ここで休んでて」
海鈴
「嫌よ! 海斗一人で行かせられない」
海斗
「何があるか分からないんだぞ!」
「姉さんを守りながら戦うなんて、俺には……」
海鈴
「私の身は私で守るから!」
「それに……行く末を見守らないと……」
総司
「良いんじゃない?」
二人のやり取りを見ながら、総司が口を開く。
総司
「俺たちも、できる限り君たちを守る」
晋作
「構わないが……海斗、お前も同じだぞ?」
「戦闘になった時、何かできるわけでもない。はっきり言うと、お前も危険だ」
「それを承知の上だろうな?」
海斗
「あぁ!」
海斗は迷いなく答える。
海斗
「俺が姉さんを守りながら、ついていくよ!!」
晴明
「二人の意思は固いようだね」
そして、静かに笑う。
晴明
「なら……皆で行こうか」
その時、千代女がSDを操作し始めた。
セレナ
「千代女、どうしたの?」
千代女は少しだけ口角を上げる。
千代女
「ちょっとね……」
そして、意味ありげに笑う。
千代女
「もしもの時のための……し・こ・み!」
セレナ
「……??」
――――――――――
海鈴
「宗玄長老……では、行ってきます!」
海斗
「長老は避難を!」
二人が駆け出そうとした、その時だった。
宗玄
「待て、海斗……」
海斗
「……長老?」
宗玄はしばらく海斗を見つめていた。
そして、意を決したように口を開く。
宗玄
「海斗……腕を出せ!」
海斗
「腕……?」
言われた通り、海斗は利き腕を差し出す。
宗玄は海斗の腕にそっと手を触れた。
宗玄
「ニライカナイの神々よ……」
「今この時より、この若者に加護を……」
「我、城間宗玄が、この者を新たな指導者と認めん……」
その瞬間――。
宗玄の腕に刻まれていた模様が、淡い光を放ち始める。
光は宗玄の腕から海斗の腕へと流れ込み、その肌に新たな紋様として刻まれていく。
海斗
「――!?」
海鈴
「長老……これは!?」
宗玄
「神々の加護だ」
「各長老が持つ……長の証よ」
海斗
「長老、それは……!」
「街の皆の総意で決まるはず!」
宗玄
「確かにそうだ」
「本来なら、皆の総意によって決めるべきことだ」
「だがな……緊急時故に、独断で継承させてもらった」
そして、宗玄は静かに自分の腕を見る。
宗玄
「それに……わしは、すでに長老ではない!」
海斗
「それって……まさか!?」
宗玄は穏やかに笑った。
宗玄
「海斗……今からは、お前が長老だ!」
「お前はまだ若いから……長老ではなく、『長』だな」
宗玄は笑いながら海斗の肩に手を置く。
だが、すぐに真剣な表情へ戻る。
宗玄
「此度の件……お前たちには苦労をかけた」
「事前に止めることができなかったわしが不甲斐なく……済まない」
「だが……お前たち兄弟二人なら、これからの困難もきっと切り抜けることができよう」
宗玄は二人を真っ直ぐに見つめる。
宗玄
「この地の行く末を……頼んだぞ!」
海斗
「宗玄様……」
宗玄
「さぁ、仲間が待っている」
「二人とも……行きなさい」
海斗
「宗玄様も避難を……」
宗玄
「分かっておる」
そして、穏やかな笑みを浮かべる。
宗玄
「また後でな!」
海鈴
「はい……必ず、また後で!」
海鈴と海斗は宗玄へ一礼すると、仲間たちのもとへ向かって駆け出していく。
宗玄はその背中を見送りながら、静かに呟いた。
宗玄
「……頼んだぞ、海斗」
二人の姿が遠ざかっていく。
その先には、巨大な光の柱を天へと伸ばす神木フバがそびえ立っていた。
――――――――――
海斗
「ごめん、遅くなった!」
海鈴もその隣で、仲間たちへ向かって頭を下げる。
美雪
「二人とも、準備はいい?」
海斗と海鈴は揃って頷いた。
晴明
「玄冥の空を翔ける者、黒羽にて穢れを覆い、陰の道を開け!」
「急急如律令――顕現せよ、大鴉!」
その瞬間、頭上から巨大な三羽の大鴉が舞い降りてくる。
夜天、黒翼、そして冥夜。
三羽の大鴉は地面へと静かに降り立った。
晴明
「皆、乗って! 一気に頂上へ行くよ!」
一同はそれぞれ大鴉へ飛び乗っていく。
その時、茜の肩にちょこんと乗っていたシンが、何かを訴えるように茜の顔を見上げた。
まるで――
『自分の出番は?』
とでも言いたげな表情だった。
茜
「シン、赤龍のあなたの力も、後で必ず借りることになると思う!」
「その時まで、力を温存しててね」
シンは茜の言葉を理解したように頷くと、そのまま茜の腰にあるポーチの中へと入っていった。
晋作
「海斗、乗れ!」
海斗は促されるまま、冥夜の背へと乗る。
美雪
「海鈴ちゃん!」
美雪が海鈴へ手を伸ばす。
海鈴
「はい!」
海鈴はその手を取り、黒翼の背へと乗り込んだ。
晴明
「全員乗ったね!」
晴明が周囲を確認する。
晴明
「行くよ!」
その掛け声と同時に――。
バサァッ!!
三羽の大鴉が一斉に翼を広げ、大空へと舞い上がった。
目指すは――神木フバの頂上。
――――――――――
【神木フバ・頂上】
巨大な神木フバの頂上付近。
そこには、サマエル、比嘉真玄、そしてルシウスの姿があった。
サマエル
「木版は起動した……」
巨大な木版から、凄まじい魔力が立ち昇っている。
比嘉
「ついに……」
比嘉は、狂喜に満ちた笑みを浮かべる。
比嘉
「ついに我が体と、邪神様の復活が叶う!!」
サマエルは木版へ近づくと、ゆっくりと神具を確認していく。
サマエル
「火鼠の衣……」
赤い光が立ち上る。
続いて――。
サマエル
「竜の首の球……」
青い光が立ち上る。
サマエル
「燕の子安貝……」
金色の光が立ち上る。
そして最後に――。
サマエル
「蓬莱の珠の枝……」
緑色の光が天へ向かって立ち昇った。
四つの神具が、それぞれ異なる光を放ちながら共鳴していく。
比嘉
「残る一つはどうするんだ?」
「ここまで来て、出来ないなどと言うなよ?」
サマエル
「分かっている」
「無論、それを言うつもりはない!」
そして、サマエルは振り返る。
サマエル
「ルシウス!」
「ここからはお前の仕事だ!」
ルシウス
「少し荒くなるとだけ聞いていたが……何をするんだ?」
サマエルは神木フバの下方を指差す。
サマエル
「ここから見える、あの真鉱石に繋がる太い根を斬れ」
ルシウス
「は?」
ルシウスが目を細める。
ルシウス
「あの太いのをか?」
サマエル
「そうだ」
「あの高さと、お前の魔剣デュランダルなら一撃目は届くはずだ」
「それに地上に降りてもお前の技を組 使えば……二撃、三撃あれば十分だろう」
ルシウス
「俺にここから飛び降りて、斬撃を叩き込めと?」
「無茶を言ってくれる」
サマエル
「お前はヴァンパイアだろ?」
「翼もある。問題ないはずだ」
ルシウス
「全く……俺は一応、お前と同格のはずなんだがなぁ?」
サマエル
「断れば……分かっているだろうな?」
その言葉を聞いたルシウスは、観念したように肩をすくめる。
ルシウス
「はいはい、分かったよ!」
「やりゃあいいんだろ?」
サマエル
「最初からそうしろ」
ルシウスは大きく息を吐き、呼吸を整える。
そして、背負っていた大剣をゆっくりと鞘から抜いた。
ルシウス
「目覚めろ……デュランダル」
瞬間――。
ゴォォォォッ!!
大剣から膨大な魔力が一気に放出される。
ルシウス
「なら、行ってくる……」
サマエル
「奴らが近くまで来ている」
「早くしろ……」
ルシウス
「チッ……」
ルシウスは舌打ちすると、頂上から身を躍らせた。
そのまま翼を広げ、神木フバの巨大な幹に沿って急降下していく。
比嘉
「なら俺は、自分の体の封印のところで待つことにする」
(体を手に入れた後……邪神様の力と神器を我が手にすれば、こいつらをも凌駕する……)
(ついに……だ!)
一方、サマエルは四つの神具が放つ光を見つめていた。
サマエル
「共闘はここまでだな」
「後は各々で動く」
「敵となった時には容赦しない。忘れるなよ?」
その時だった。
???
「ほぉ?」
「それぞれに思惑があるってことか……」
サマエル
「……やはり貴様が一番乗りか」
「ケルトの英雄」
比嘉
「コイツ……どこから……」
暗闇の中から、クー・フーリンが姿を現す。
クー・フーリン
「小童は引っ込んでろ!」
比嘉
「な……!」
「小童だと!?」
クー・フーリン
「自分で手を下すことなく、のうのうと裏で暗躍するだけの小童じゃないか?」
比嘉
「俺を愚弄するか……」
クー・フーリン
「本性が出てきてるぜ?」
比嘉
「……まぁいい」
「今はな……」
そう言い残すと、比嘉の姿は忽然と消えた。
クー・フーリン
「チッ……行ったか……」
そして、サマエルへ向き直る。
クー・フーリン
「ってことで……ここで排除させてもらうぜ?」
「堕天使さんよ」
サマエル
「ふん……」
「半神風情が粋がるなよ、小僧」
「俺はお前が生きてきた時代も見てきている」
「どう死んだかもな……」
クー・フーリン
「天使ってのは、やっぱり上から目線なんだな……その死んだのは俺であって俺じゃねぇ…」
槍を構える。
クー・フーリン
「胸糞悪い!」
槍の切っ先は、あえて下へ向けられていた。
サマエル
「こちらの攻撃を弾いて対応を遅らせ、その隙に急所を突く……」
「見え見えだ」
クー・フーリン
「そうかい」
「なら、これならどうだ?」
――瞬間。
クー・フーリンの姿が消えた。
一瞬で三歩。
凄まじい速度で間合いを詰め、サマエルの懐へ潜り込む。
そして、下から斬り上げるように槍を振り抜いた。
サマエルは僅かに上体を反らし、その一撃をかわす。
だが――。
クー・フーリンは槍を振り上げた勢いを利用し、切っ先とは反対側の柄を腰から大きく回す。
ドンッ!!
槍の柄がサマエルの身体を打ち抜く。
しかし――。
サマエルはそれを片手で受け止めた。
クー・フーリン
「俺の槍を止める……ねぇ……」
サマエル
「流石に、貴様の槍をまともに喰らうのはどうかと思っただけだ」
クー・フーリン
「へえ……そうかい」
「なら、これならどうだ!」
再び間合いを詰めようとした瞬間――。
サマエルが六枚の翼を大きく広げる。
バサァッ!!
そのまま一気に降下していく。
クー・フーリン
「逃げるのか?」
サマエル
「計画をしくじりそうな奴がいるからな」
「最後は……自分の手でってやつよ」
そう言い残すと、サマエルは闇の中へ溶け込むように姿を消した。
クー・フーリン
「逃したか……」
頭を掻きながら、苦笑する。
クー・フーリン
「セレナになんて言われるかなぁ……」
そう呟きながら、神木フバの下方へ視線を落とした。
――――――――――
【神木フバ・中間付近】
三羽の大鴉は、凄まじい速度で神木フバを駆け上がっていた。
その時――。
晋作
「光の柱が四本、昇ったぞ!」
晴明
「あぁ!」
「急ごう!!」
夜天、黒翼、冥夜がさらに速度を上げる。
一瞬の出来事だった――。
シュンッ!!
何かが高速で三羽の大鴉の間をすり抜けた。
セレナ
「今のって!?」
晴明
「分からん!」
「だが膨大な魔力量だった!」
その直後、総司が突然、声を上げる。
総司
「美雪ちゃん!」
「海鈴ちゃんをお願い!」
美雪
「え?」
「総司くん!? 何する気?」
しかし、美雪が言い終わるより早く――。
総司は大鴉の背から飛び降りた。
美雪
「ちょっ……この高さから!?」
美雪が動揺する。
海鈴
「美雪さん、行きましょう!」
美雪
「でも……頂上に……」
海鈴
「総司さんが心配なんでしょ?」
「それなら……一緒に行きましょう!」
セレナが黒翼の背へ乗り移る。
セレナ
「美雪、行きなさい!!」
「海鈴は私が責任を持って預かるわ!」
美雪
「セレナ……」
セレナはウインクする。
セレナ
「この高さから飛び降りるなんて……あんたの旦那も大概ね」
海鈴
「後でちゃんと二人で戻ってきてくださいよ?」
「仲間なんですから」
美雪
「分かった!!」
「ありがとう! 行ってくる!」
海鈴
「あ……でも、どうやって……」
海鈴が言い終わるより早く――。
美雪も大鴉から飛び降りた。
海鈴
「え?」
「え!? えー!?」
セレナ
「美雪なら大丈夫よ!」
「見ててごらん?」
美雪は風を切りながら、凄まじい速度で降下していく。
美雪
「雪の精霊の皆よ……!」
「私に力を貸して!」
その瞬間――。
空間を覆う大気が大きく裂けた。
裂け目の向こうから、巨大な氷の龍が姿を現す。
ゴォォォォッ!!
氷龍は空中で大きくとぐろを巻くように旋回し、美雪を受け止める。
美雪はその頭部へと乗り移った。
そして、氷龍の頭に手を添える。
美雪
「氷龍……」
「私を……愛する人のところへ連れて行って」
美雪の言葉に応えるように、氷龍が咆哮する。
――グォォォォォッ!!
そして、一気に速度を上げた。
氷龍は美雪を乗せたまま、総司が降下していった方向へ向かって飛翔していく。
その光景を、海鈴は呆然と見つめていた。
海鈴
「…………」
セレナはそんな海鈴の横顔を見て、少し微笑む。
セレナ
「ね?」
「大丈夫だったでしょ?」
海鈴
「はい……」
海鈴は氷龍を見つめながら、感嘆したように呟く。
海鈴
「あの龍……とても綺麗……」
「見惚れちゃいました!」
セレナ
「そうね!」
セレナも微笑みながら前方へ視線を戻す。
セレナ
「……よし!」
「こちらも急ぐわよ?」
海鈴
「はい!」
三羽の大鴉は再び速度を上げる。
巨大な神木フバの頂上では、四つの神具が放つ光が、空を染め上げていた。
――――――――――
【神木フバ・頂上】
セレナたちが神木フバの頂上へ到着すると、そこにはクー・フーリンが待っていた。
クー・フーリン
「来たか……」
セレナ
「奴らは?」
クー・フーリン
「小童は、自分の体の封印場所へ逃げた」
「堕天使とは戦ったが、そっちは『計画をしくじりそうな奴がいる』とか何とか言って、降下していった……」
セレナ
「つまり……取り逃したのね?」
クー・フーリン
「そうなるな……」
海斗が一歩前へ出る。
海斗
「我儘を言うかもしれないけど……俺と姉さんは、比嘉を……邪なる者を追いたい」
「ダメかな?」
晋作
「なら、俺と茜でそっちに行くかな?」
そして千代女と恒一を見る。
晋作
「千代女と恒一も、良いか?」
千代女と恒一は頷く。
セレナ
「なら、私と晴明でサマエルを追うわね!」
続いてクー・フーリンを見る。
セレナ
「クー・フーリンは悪いけど、総司たちの方に行ってくれない?」
クー・フーリン
「いいが……総司たちは?」
「来る途中に総司が飛び降りて、それを追って美雪は氷龍で降下したんだぞ……」
クー・フーリンは思わず下を覗き込む。
クー・フーリン
「この高さからか!?」
セレナは苦笑しながら答える。
セレナ
「後で総司は、美雪の雷が落ちるわね。きっと……」
晴明
「クー・フーリン、黒翼を使って降りてくれ」
「私たちは夜天で行く」
「冥夜は一旦、上空で待機させて、必要な時に呼ぶとしよう!」
クー・フーリン
「OK!」
セレナ
「なら、皆!」
セレナは全員を見渡す。
セレナ
「必ず生きて合流すること! 良いわね!!」
一同
「……!」
全員が力強く頷く。
そして、それぞれの目的へ向かうため、一同は分かれていった。
――――――――――
【数分前・神木フバ中間付近】
ルシウスは、神木フバの巨大な根の前に立っていた。
その時――。
ルシウス
(今、何かすれ違ったな……)
一瞬だけ上空へ視線を向ける。
ルシウス
(多分、奴らだろう……まぁ、いいか)
ルシウスは目の前にある巨大な根へと向き直る。
そして、魔剣デュランダルを構えた。
ルシウス
「ブラック・インパクト・スラッシュ!!」
――ズガァァァン!!
轟音とともに斬撃が走る。
大木の根は半分ほど大きく抉られ、そのさらに奥には深々とした斬撃痕が刻まれた。
ルシウス
「やっぱり一発では無理か……」
デュランダルを構え直す。
ルシウス
「なら、もう一発!」
魔力を込め、再び大剣を振り下ろそうとした――その瞬間。
――カチャッ。
直上から、鞘走りの音が響いた。
ルシウス
「――!」
次の瞬間、鋭い斬撃が襲い掛かる。
ルシウスは咄嗟にデュランダルを構え、その一撃を防いだ。
――ギィィン!!
ルシウス
「危ねぇ……」
「今、本気で殺す気だったろ……沖田!」
総司
「その二撃目を防ぐには、こうするしかなくてね」
総司は刀を構えたまま、巨大な根へ視線を向ける。
総司
「この根を斬るつもりだね」
ルシウス
「サマエルの命だ」
「俺は従うしかない」
総司
「そうはさせない!」
ルシウス
「俺を斬るか?」
総司
「あぁ」
ルシウス
「……本気らしいな」
二人は互いに武器を構える。
その間に、一瞬の静寂が生まれた。
そして――。
二人は同時に駆け出した。
――ガキィィン!!
刀と大剣が激しくぶつかり合う。
総司は刀の特性を活かした素早い連撃を繰り出す。
一撃、二撃、三撃――。
それをルシウスは大剣で受け止めていく。
互いに一歩も引かない。
その時だった。
上空から、巨大な氷龍の咆哮が響き渡った。
――グォォォォォッ!!
ルシウス
「……何だ?」
巨大な氷龍が二人の間へ割って入るように降下してくる。
ルシウス
「何だ!? このデカブツは!?」
氷龍から、美雪が宙を舞うように飛び降りた。
そして、そのまま総司の前へ着地する。
美雪
「総司くん……」
次の瞬間――。
――バチィン!!
大きな音が響いた。
総司の顔が右側へ大きくのけぞる。
左頬には、赤い手形が残っていた。
総司
「み、美雪ちゃん……?」
美雪
「何で何も言わずに一人で行くの!!」
「私が言ったこと、何も分かってない!!」
総司は目を丸くする。
美雪は目に涙を浮かべながら、総司を真っ直ぐ見つめる。
美雪
「良い?」
「私は貴方の伴侶で、パートナー」
「もっと頼ってよ! 相談してよ!」
総司
「……ごめん」
美雪
「いつもそう!」
「私もアストラルディアで、貴方のかつての仲間に……新選組の皆んなに、仲間として認めてもらったんだから!」
美雪は、自分の羽織へ手を添える。
美雪
「その証として、この羽織を近藤さんに貰ったんだから!」
「総司くんも……認めてよ!」
総司は少しだけ目を伏せる。
総司
「認めてるつもりでも……」
「護りたい気持ちが、強かったみたいだ」
そして、美雪を見つめる。
総司
「今からは一緒に……」
「側にいてくれるかな?」
美雪
「えぇ、もちろん!」
美雪は涙を拭い、氷龍を見上げる。
美雪
「氷龍、ありがとう……」
すると氷龍は淡い光に包まれ、その姿を光の粒子へと変えながら消えていった。
美雪は改めてルシウスへ視線を向ける。
ルシウス
「……そろそろ良いか?」
総司
「あぁ。待たせたね!」
ルシウス
「それはいい」
そして、先ほどの氷龍を思い出す。
ルシウス
「にしても……さっきの東洋のドラゴン、すごいな!」
「さすが『スノーホワイトの悪夢』って言ったところか……」
総司
「……始めようか」
再び、一瞬の静寂が訪れる。
そして――。
総司とルシウスは、同時に駆け出した。
――ガキィィン!!
刀と大剣が激しくぶつかり合う。
総司は素早い連撃を繰り出し、ルシウスは大剣でそれを受け止める。
その間に、美雪は自分の周囲へ無数の氷柱状の氷槍を生成する。
美雪
「総司くん、後ろへ飛んで!!」
総司は即座に後方へ飛び退く。
その瞬間――。
美雪
「行って!!」
無数の氷槍が一斉に射出された。
――ドドドドドドッ!!
ルシウスも大剣を振るって氷槍を防ぎながら、後方へと飛び退く。
ルシウス
「こりゃぁ……不利だな……」
その言葉に応えるように、どこからともなく声が響いた。
???
「ならば、手助けしてやろう……」
「お前も奴らも、フバの根諸共、塵になるがいい……」
突如として、空間に巨大な魔力球が出現する。
凄まじい高出力の魔力を凝縮した球体が、三人へ向けて放たれた。
美雪
「総司くん!!」
総司
「ダメだ……避けきれない!」
ルシウス
「チッ……俺もまとめてかよ……!」
次の瞬間――。
巨大な光が三人を包み込んだ。
――ドォォォォォン!!
轟音とともに、大規模な爆発が発生する。
爆発の衝撃が地上の神木フバの根一帯を揺るがし、辺り一面を光と爆煙が覆い尽くした。
やがて、爆発が収まる。
そこには――。
三人の姿も、周囲の景色も確認できないほど、凄まじい破壊の跡だけが残されていた。
63話 完




