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61話 思惑が交差する蓬莱編Ⅲ

夕暮れの森。


巨大な真鉱石がそびえ立つ開けた場所で、総司たち五人とルシウスは、互いに一定の距離を保ちながら向かい合っていた。


先ほどまで戦場となっていたとは思えないほど、辺りは静かだった。


木々の葉が風に揺れ、微かな風が六人の間を通り抜けていく。


総司はルシウスから目を離さない。


総司「タイムリミットが三十分っていうのは、なぜ?」


ルシウスは少し空を見上げた後、総司へ視線を戻した。


ルシウス「この時間帯は、サマエルの野郎が誰かと交信してるんだ。」


「その間は、俺への監視が手薄になる。」


「交信には莫大な魔力を使うらしくてな。そこへ魔力を割いている間は、俺を監視する使い魔まで飛ばせない。」


「だから……俺が自由に動けるのは、その時間だけってことだ。」


総司「なるほど……。」


晴明はルシウスの話を聞きながら、静かに頷いた。


晴明「そういうことですか。」


「しかし、その話からも察することができますね。」


「あなた方夜の帝国は…一枚岩ではない。」


ルシウスは口元を僅かに吊り上げた。


ルシウス「薄々は勘づいてたみたいだな。」


「その通りだ。」


セレナは腕を組み、ルシウスを見据える。


セレナ「この前のルシアンもそうだった。」


「サリエルとは敵対しているように見えたわ。最終的には助けた感はあったけど…」


「おそらく帝国内でも派閥があって、それぞれ考え方が違う……ってところじゃない?」


そして、セレナは一歩前へ出る。


セレナ「それで?」


「ルシアンは、何のためにゲイ・ボルグを欲しがっているの!?」


ルシウスは少し意外そうな顔をした。


ルシウス「いきなりルシアンとサリエルの名前が出てくるとはな。」


「まあいい。」


「順番に説明していこう。」


ルシウスは腕を組み、ゆっくりと言葉を続ける。


ルシウス「まず、ルシアンと俺は従兄弟同士だ。」


セレナ「従兄弟!?」


ルシウス「ああ。」


「階級も同じ。」


「帝国の騎士団、その中核を担っている八人のうちの二人だ。」


セレナは驚いた表情を浮かべる。


ルシウスはそんな反応を見て、僅かに苦笑した。


ルシウス「だからってわけでもないが……。」


「俺とルシアンは、ある意味では同志でもある。」


その時、SDを通じて別の声が響いた。


晋作『その「同志」ってのは?』


ルシウスは一瞬、声の聞こえた方向へ顔を向ける。


ルシウス「ほぅ。」


「その機械の先には、変幻自在の風雲児もいるのか。」


「ってことは……浄化の巫女も聞いているな?」


晋作『何だよ変幻自在の風雲児って…早く話せよ。』


『時間、ねぇんだろ?』


ルシウス「ああ、そうだった。」


「順を追って説明する。」


ルシウスは一度息を吐く。


ルシウス「約二百年前まで……。」


「俺たちの帝国は、世界の裏側で『魔族特区』として成り立っていた。」


「表の世界へ極力干渉せず、魔族と人間、そして種族の混血……お前らの言葉で言えばUMAと呼ばれるような存在たちが、表との共生を目的として暮らしていたんだ。」


SD越しに茜が口を挟む。


茜『二百年前まで?』


ルシウス「ああ。」


「堕天使と、純粋な悪魔どもが介入してくるまではな。」


その言葉を発したルシウスの表情から、僅かに笑みが消えた。


ルシウス「奴らのトップについては、サタンだとも、アンラ・マンユだとも言われている。」


「だが、俺たちにも本当のところは分からん。」


「ただ……実行面でのトップは、モロクと呼ばれる大悪魔だ。」


美雪「そのモロクが……真祖であり皇帝?」


ルシウス「いや。」


「違う。」


ルシウスは首を横に振った。


「俺たちの皇帝は、お前らも一度は聞いたことがある名前だ。」


「ヴラド・ツェペシュ。」


セレナ「かの有名な串刺し公……。」


「ドラキュラ伯爵ね!」


ルシウス「そういうことだ。」


「そして、もう一人いる。」


「女王だ。…ミルカーラ・カルンシュタイン。」


セレナ「こっちも有名ね。」


「カーミラ伯爵夫人。」


「それで?」


「この二人とモロクは、どういう関係なの?」


ルシウスは頭を掻きながら苦笑する。


ルシウス「まあ、焦るな。」


「そこも順番に話す。」


「ヴラドとミルカーラ、この二人は東西に分かれて、それぞれ帝国を治めていた。」


「そこへモロクが、同じ魔族側の者として入り込んできた。」


「最初のうちは、特に問題はなかった。」


しかし、ルシウスの声は徐々に重くなっていく。


ルシウス「ところが、約五十年前から状況が変わった。」


「西の皇帝と東の女王が……姿を見せなくなったんだ。」


一同は黙ってルシウスの話を聞いている。


ルシウス「そこから、モロクと堕天使の長……アザゼルが、皇帝と女王の言葉を伝えるという形で実権を握り始めた。」


「そして、俺たち騎士団や術師たち……皇帝や女王に仕えていた側近たちが反乱を起こさないように、二人の命を盾にして操り始めた。」


「帝国としての世間体も関係しているのかもしれない。」


「だから俺たち騎士団長八人は、サマエルやサリエル、それに他の魔族幹部と同格の立場にありながら……。」


「奴らには逆らえないでいる。」


ルシウスはそこで言葉を止めた。


ルシウス「……そんなところだ。」


静かな風が吹き抜ける。


一瞬、誰も言葉を発さなかった。


晴明がその沈黙を破る。


晴明「魔族……。」


「いえ、分かりやすく『魔界族』とでも呼びましょうか。」


「その者たちの目的は?」


ルシウスは少し考え込んだ後、頭を掻いた。


ルシウス「正直、はっきりとは分からん。」


「ただ……。」


「奴らは、神や天使に対して強い憎悪を抱いている。」


「他の神話体系に対しても同じようだ。」


「それに日本では……妖怪たち、とでも言えばいいのかな。」


「噂程度だが、そいつらまで取り込む算段があるらしい。」

美雪「妖怪たちを…」


ルシウス「そう言えばスノーホワイトの悪夢も妖怪の仲間だったな…」


 美雪「さっきから私の事スノーホワイトの悪夢って呼んでるけど、一体何なの?」


ルシウス「帝国ではお前らは全員二つ名で呼ばれていてな…それが通常なもんだからついそれで呼んでしまう。悪いな…」


セレナは静かに息を吐く。


セレナ「帝国の現状は分かったわ。」


「それで……。」


セレナは自分の槍へ視線を落とし、再びルシウスを見る。


セレナ「私のこの槍を、ルシアンは狙っている。」


「それはなぜ?」


ルシウス「それは本人に聞くのが一番手っ取り早いんだがな……。」


「まあ、いい。」


「俺とルシアンは、今の帝国の中で反乱の機会を伺っている。」


「奴らに対抗するには、魔剣や魔槍、魔弓……そういった伝説の武器が必要だと考えている。」


「だから集め始めているって話さ。」


ルシウスは自身の魔剣へ視線を向ける。


ルシウス「俺のデュランダルと、あいつの魔剣だけじゃ厳しいからな。」


そして、セレナを見た。


ルシウス「あんたの槍……必中だろ?」


「ルシアンはゲイ・ボルグを使って、モロクを討つつもりなのさ。」


その時、SD越しにクー・フーリンの声が響いた。


クー・フーリン『ほぅ……。』


『ゲイ・ボルグでか……。』


ルシウス「ケルトの大英雄、あんたの槍でもあるゲイ・ボルグは、必中と同時に必殺も見込めるからなぁ。」


晴明「伝説上の武器を集めている……。」


「ならば、エクスカリバーやロンギヌスの槍、天叢雲剣なども?」


ルシウス「その辺を使えればいいんだけどなぁ。」


「俺たちはヴァンパイアだ。」


「混血種であるがゆえに、魔族の血が流れている。」


「聖剣や神剣……そういった類の武器は扱えないのさ。」


「そうなると、使える武器はどうしても限られてくる。」


ルシウスは少しだけ遠くを見る。


ルシウス「俺個人としては、そういう意味でもお前らと手を組むのはありだと思ってるんだがな……。」


セレナ「ISEAに宣戦布告した張本人なのに?」


ルシウスは苦笑する。


ルシウス「違いねぇ。」


「だが、あれはサマエルの指示だ。」


「流石にうちのトップを人質に取られてりゃ、従わざるを得ない。」


ルシウスはそこで言葉を濁す。


ルシウス「……表ではな。」


そして、ふと空を見上げた。


ルシウス「っと……。」


「そろそろ時間か。」


「サマエルの俺への監視が始まる。」


総司「まだ聞きたいことはあるんだけど……。」


ルシウス「悪いな。」


「俺にも立場ってものがある。」


「だが、最後に三つだけ教えておいてやろう。」


ルシウスは指を一本立てる。


ルシウス「一つ目。」


「このニライカナイを攻めているのは、サマエルが連れてきた悪魔どもだ。」


「俺の隊は連れてきていない。」


「だから……。」


ルシウスは不敵に笑う。


ルシウス「思う存分やっていい。」


そして二本目の指を立てる。


ルシウス「二つ目。」


「その目的だ。」


「サマエルは、この地に眠る邪神を目覚めさせ……。」


「その邪神を取り込むつもりだ。」


美雪「邪神を……取り込む?」


ルシウス「ああ。」


「邪神とそれに従う封印されしもの…それを自分の力にするためなのか、戦力として加えるためなのかまでは分からん。」


「ただ……。」


「邪神を目覚めさせるために、すでに五つある神具のうち三つを手に入れている。」


海斗『三つも!?』


ルシウス「そうだ。」


「竜の首の珠。」


「火鼠の衣。」


「そして、燕の子安貝。」


海斗の声がSD越しに響く。


海斗『……三つも。』


ルシウス「お前らは残る二つを守り切れるかどうか…」


「あるいは」


「その前にサマエルを倒せるか。」


「そこが問題だ。」


総司「……三つ目は?」


ルシウスの表情が変わった。


先ほどまでの軽さが消え、真剣な眼差しになる。


ルシウス「三つ目は……モロクに関してだ。」


「奴は、黙示録の四騎士を従えている…」


「奴らには気をつけろ。」


「下手をすると……俺たちでも敵わない。」


「なるべくなら、避けた方がいい。」


総司は真っ直ぐルシウスを見据える。


総司「そうも言ってられないでしょ……。」


ルシウス「お前たちからしたら、そうだろうな。加えて8人の騎士団長の中でも5人がモロクに同調し始めた。それを踏まえるとお前たちの道のりは茨の道どころではないな…」

 

ルシウスは小さく笑った。


そして、背を向ける。


ルシウス「じゃあ、俺はもう行く。」


「戦場で会った時は……。」


振り返り、最後に不敵な笑みを浮かべる。


ルシウス「お手柔らかにな!」


次の瞬間――。


ルシウスの身体を白い霧が包み込んだ。


輪郭が徐々に薄れていく。


総司たちが見つめる中、ルシウスはそのまま霧の向こうへ溶けるように姿を消した。


総司「……行ったか。」


誰も答えない。


巨大な真鉱石の前には、再び静寂が戻っていた。


木々の葉が風に揺れる。


しかし、先ほどまでとは違う。


夜の帝国の内部事情。


囚われた皇帝と女王。


モロクの企み。


そして、すでに三つまで奪われている神具。


総司たちは、それぞれにルシウスから告げられた言葉を胸に刻んでいた。


しばらくの間、誰も口を開かなかった。


巨大な真鉱石が静かに佇む森の中には、木々を揺らす風の音だけが響いている。


そんな静けさの中――。


SD越しに、晋作が口を開いた。


晋作『んで?』


『これからどうするよ……。』


『俺たちには拠点もない。どこかで野宿ってところだろ?』


セレナ「そうねぇ……。」


先ほどまでの緊張を少し和らげるように、セレナは周囲を見回した。


セレナ「今の話も踏まえて、一度整理して対策も考えたいし……。」


「どこかでキャンプってところかな?」


千代女「そうね。」


「道具ならSDに入ってるし。」


「今後のことを話し合いながら、少し休憩するのがいいでしょうね。」


総司「とりあえず、一度合流しよう。」


「話はそれからってことで……。」


SD越しに、晋作が尋ねる。


晋作『場所はどうするよ?』


その問いに、海斗が少し考えてから口を開いた。


海斗「この先に、昔よく雨宿りなんかで使っていた洞窟がある。」


「そこはどうだろう?」


「結界が放たれているなら、下手に屋外で休むより、そういう場所の方が身を隠しやすくないか?」


セレナ「なるほど……。」


少し考えた後、セレナは頷いた。


セレナ「なら、そこにしましょう!」


そしてSDへ向かって声を掛ける。


セレナ「晋作、今の聞いてたでしょ?」


「私たちは先に行って待ってるから、ゆっくりおいで〜。」


晋作『おいおい!』


『こっちは場所が分からねぇんだけど!?』


セレナ「何とかなるでしょ。」


「晋作なら。」


冗談めかして笑うセレナ。


すると、すぐさま晋作から抗議の声が返ってきた。


晋作『お前なぁ!』


『俺だけならまだしも、茜や恒一、クー・フーリンだっているんだぞ!?』


セレナ「冗談よ、冗談!」


総司「……ちょっとキツイ冗談だったね。」


セレナ「ん?」


「総司……何か言った?」


総司「いや。」


「何にも……。」


総司は何事もなかったように前を向く。


その隣では、美雪が口元を押さえながらクスクスと笑っていた。


晴明はそんな二人を微笑ましそうに見ながら、SDへ手をかざす。


晴明「なら、歩きながらマッピングデータをSDで送るよ。」


「それを頼りに来れば、合流できるだろう。」


晋作『分かった!』


『なら、また後でな。』


晴明「うん。」


それを最後に、SDの通信が切れる。


静けさが戻った。


美雪「私たちも移動を始めようか。」


「向こうはマッピング頼りになるんだし、あまりゆっくりしてると迷っちゃうかもしれないよ?」


セレナ「そうね!」


「なら、向かいましょう!」


海斗「こっちだ。」


海斗が先頭に立ち、森の奥へ続く道を歩き始める。


総司たちもその後に続く。


夕暮れの森には、少しずつ夜の気配が近づいていた。


一行は次なる拠点となる洞窟を目指し、静かな森の中を進んでいった。


 程なくして森を抜け、さらに数分ほど歩いたところで、一行は目的の洞窟へと辿り着いた。


海斗「ここだ……」


 海斗が足を止め、木々の間にぽっかりと口を開けた空間を指差す。


 洞窟というよりも、巨大な樹木の根元にできた空洞のようにも見える。周囲には太い根が複雑に絡み合い、まるで天然の壁のように洞窟を覆っていた。


千代女「なんか……洞窟というより木の洞って感じね。」


海斗「ここはこの島の中心にある神木フバの根の一部に当たるところなんだ。俺たちも、たまに雨宿りで使ってる。そうそう人は来ないから、拠点として使うにも良いはずだ。」


 海斗の説明を聞きながら、総司は洞窟の奥へと視線を向ける。


総司「神木の根……結構、深く続いてそうだけど。奥には何かあるの?」


海斗「奥には、根がびっしりと張り巡らされた扉がある。誰も入ったことがない。……というか、入れないんだ。」


総司「扉?」


海斗「ああ。何でも神話で語られている時代のものじゃないか、って話だが……詳しいことを知ってる人は誰もいないんだ。もしかしたら、長老は知ってるかもしれないがな……」


 海斗がそう言うと、セレナは洞窟の奥へ目を向ける。


セレナ「何かありそうね……」


 その時だった。


 洞窟の入り口付近から、聞き慣れた声が飛んできた。


晋作「宝物がありそう……」


セレナ「そうそう、お宝が……って、晋作!」


 セレナが思わず声を上げる。


セレナ「着いたのなら、もっと普通に声かけなさいよ! まるでお宝目当ての泥棒みたいな発言になっちゃったじゃない!」


 そこには、いつの間にか洞窟へ到着していた晋作たちの姿があった。


 晋作は悪びれる様子もなく、口元をニヤリと吊り上げる。


晋作「本心なんじゃ?」


 その一言に、茜がクスクスと笑った。


茜「晋作さん、唐突すぎ」


恒一「これで全員揃いましたね。」


晴明「お疲れ様! 道中、何もなくて良かった。」


クー・フーリン「結構歩いたぞ……」


 晋作が大きく伸びをした、その時だった。


 ぐぅぅぅ……。


 洞窟内に、妙に大きく響く音がした。


 全員の視線が一斉に音の主へと向く。


 そこには、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯く茜の姿があった。


茜「…………」


 しばしの沈黙。


美雪「揃ったところで、食事しながら今後の話にしようよ。私もお腹すいたし。」


クー・フーリン「そうだな!確かに腹減った。」


海斗「食事はいいが……何も備蓄とか無いぞ。ここには……」


 海斗が申し訳なさそうに言うと、美雪は笑顔を浮かべた。


美雪「それは心配しないで〜。持ってきてるから。」


海斗「……?」


 美雪はそう言うと、SDに手をかざす。


 すると、淡い光とともにSDの収納領域から、焼きそばの材料や調理器具が次々と取り出された。


美雪「本当に便利よね! SDって……何でも入れられる。晴明さん、火起こしお願いできる?」


晴明「承知……」


 晴明は炭の前にしゃがみ込み、静かに手をかざす。


晴明「火気よ、言霊に従い灯火となれ……急急如律令!」


 言霊が響いた瞬間、炭の中に赤い火が灯り、やがて勢いよく炎が立ち上がった。


 その光景を見た海斗は、完全に言葉を失っている。


 そんな海斗を横目に、セレナが感心したように美雪を見る。


セレナ「美雪……本当に準備良いわね。」


美雪「まぁ、備えあればって思ってたからね……一応、準備はしておいたの。」


茜「後は焼けるのを待つだけね!」


 茜が嬉しそうに鉄板を覗き込む。


 すると、晋作が呆れたように笑った。


晋作「食い意地張ってんな。」


茜「仕方ないでしょ! 昼から何も食べてなかったんだし……」


 その瞬間。


 耐えきれなくなったように、全員から笑いが溢れた。


 張り詰めていた空気が、少しだけ緩んでいく。


 それからしばらくして、香ばしいソースの匂いが洞窟いっぱいに広がった。


 焼き上がった焼きそばは人数分の皿に盛り付けられ、一人ひとりへと手渡されていく。


美雪「はい! 海斗さんの分。」


海斗「俺のもあるの?」


セレナ「あったり前でしょ! 1人だけ無しとか、するはずないでしょ? 協力してくれてるんだし。」


海斗「ありがとう……」


 海斗は少し戸惑いながら皿を受け取る。


 焼きそばそのものを見るのも初めてなのか、箸で少しだけ麺を持ち上げ、恐る恐る口へ運んだ。


 そして――


海斗「……うまい!」


 思わず声を上げる海斗。


茜「当然でしょ? ソース物にハズレはない!」


 なぜか茜が胸を張る。


晋作「作ったの美雪と千代女だよな? 何でお前がドヤ顔で言うんだよ……」


茜「もう! そこは乗ってよね!」


 茜が頬を膨らませると、またしても周囲から笑いが起こった。


 戦いの最中だということを忘れてしまいそうなほど、穏やかな時間だった。


 ほんの一時ではある。


 それでも、一行の間には張り詰めた緊張感のない、仲間同士の温かな団欒が流れていた。


 穏やかな団欒の時間は、しばらく続いた。


 だが、ひとしきり食事を終えると、セレナが表情を引き締める。


セレナ「そろそろ本題に入りましょうか……」


晋作「だな……んで? どうするよ、これから。」


セレナ「そうねぇ……千代女、結界の中の洞窟の状況はどうなってる?」


千代女「蛇たちには反応ないわね……。今、蛇たちの目を通して私も見たけど、これといって反応なし……。まだ海鈴ちゃんも見つけられずにいる。見つけたら、そっと一匹は海鈴ちゃんの側に居させるつもりだけど……」


クー・フーリン「もしかして……閉じ込められたか?」


千代女「あり得なくはないわね……。片っ端から探らせるつもりだから、安心して!」


晋作「これといって情報は無しか……」


総司「ん? 長州の風雲児も打つ手無し? あの頃は高杉の名を轟かせて、俺たちからも一目置かれてたのになぁ。外国の船とかに喧嘩売って退散させたりとか、突拍子もないくらいなことやってのけたのに……」


晋作「情報がないと、先回りも何もできねぇだろ? それに、あの時と今じゃ状況が全然違う! てか、総司……お前、そんなこと言うキャラだったか?」


 総司は少しだけ口元を緩める。


 普段の彼からはあまり出ないような、どこか楽しげな口調だった。


 するとセレナがパンッと手を叩く。


セレナ「はい! 幕末談義はそのくらいにしてー。続きをましょう!」


晴明「とは言ったものの……どうするかねぇ……」


 晴明が腕を組み、考え込んだ、その時だった。


 不意に晋作が口を挟む。


晋作「海斗、大まかで良い。この島の地図、描けるか?」


海斗「あぁ、そのくらいなら大丈夫だ。」


 茜がすぐに紙とペンを海斗へ差し出す。


茜「はい、どうぞ。」


 海斗は受け取ると、迷うことなく紙の上へペンを走らせ始めた。


 島の形。


 街の位置。


 湖や森、そして主要な場所。


 海斗は、この島で暮らしてきた者ならではの感覚で、それらを次々と書き込んでいく。


海斗「ざっと、こんなもんだ。」


 完成した地図を、全員が覗き込む。


晴明「島の全体像って、こんな形だったんだ……」


晋作「現在位置と街、皆が避難している洞窟、俺たちが最初に降り立った湖の場所。それと、残り四つの街の位置は?」


海斗「それなら、現在位置はここだ。中心にある神木フバの若干左側の根の下だ。それと、俺たちの街は……ここから南西の、この辺だ。そして湖は、現在地から南東寄りの、ここだ。」


 海斗が地図の上を指で示していく。


茜「湖は……神木のほぼ真下、島の中心……」


海斗「そうだ。海鈴が守ってる神珠……珠の枝が祀られていた祠が、この湖の中心にある。」


 その言葉を聞いた瞬間、セレナがちらりと晴明へ視線を向ける。


セレナ「……晴明?」


 だが、晴明は何も言わず、じっと地図を見つめていた。


総司「他の街は?」


海斗「神木フバを中心に、残り四箇所。南西に一つ、東に一つ、北に一つ、西に一つだ。」


茜「待って……それって……」


 茜は何かに気付いたように目を見開く。


 そして、海斗が描いた地図の上にもう一枚紙を重ねると、それぞれの街の位置を写し取っていく。


 さらに、その位置を線で結んでいった。


 それを見た晴明が、静かに呟く。


晴明「神木を取り囲むように歪んでるけど……五芒星だね。」


セレナ「これって、何かを意味してるんじゃない?」


晴明「有り得るね……。広範囲に及ぶ大規模な術式……。街で何かを行っている気はする。」


 晴明は地図を見つめたまま、さらに問いかける。


晴明「ちなみに、珠の枝が祠で祀られていたってことは……他の宝も?」


海斗「あぁ。それぞれの街から遠くない位置に、祠はある。」


晴明「その位置は?」


海斗「北東の位置に一つ、北西の位置に一つ。東西に一つずつ……」


 晴明は地図上の位置を一つずつ確認していく。


 そして、目を細めた。


晴明「珠の枝の祠は南……。もしかして、火鼠の皮衣は西の位置に祀られてなかったかな?」


海斗「その通りだ。」


晴明「だとすると……龍の首の球が東。北東に燕の子安貝。北西に仏の御石の鉢……な気がするけど、どうかな?」


 海斗は目を見開いた。


海斗「なぜ分かった……?」


晴明「やっぱり……。」


 晴明は確信したように頷くと、セレナへ視線を向ける。


晴明「セレナ、もう一枚使って。地図の上から、今の祠だけ写し取って線で繋いでみて。あ、五つの神具も、今私が言ったところに書き加えてね!」


セレナ「良いわよ! でも、これも五芒星でしょ? 描かなくたって分かるわよ。」


晴明「問題は、その位置だ。説明するから、書いてみて。」


セレナ「書いたわよ!」


 セレナが線を引き終える。


 先ほどとは異なる形の五芒星が、地図の上に浮かび上がった。


セレナ「……さっきとは逆の五芒星ね! こっちは歪んでないわね。」


晴明「問題は、その位置だ……。」


 晴明は地図を指差しながら、ゆっくりと説明を始める。


晴明「通常、正の五芒星は『相生』と言って、木、火、土、金、水……五行が正常に循環している。」


 指先が、五芒星の頂点を順番に辿っていく。


晴明「でも……各祠は逆の位置。五行の相剋……つまり、循環が反転した異常状態になっている。」


 晴明の表情が険しくなる。


晴明「本来の世界法則を逆流させる術式を表しているんだ。その五芒星を囲うように、街による正常な五芒星が配置されていて、流れを元に戻している……。おそらくは……」


クー・フーリン「邪神……あるいは、伝承にある不死の邪なる者の力が、その中心に眠っている……」


晴明「えぇ。この配置から考えるに、その可能性は高い……。」


 晴明は一度言葉を切る。


 そして、さらに別の可能性に思い至ったように続ける。


晴明「それに、もう一つの見方もある……。セレナ、茜。二人とも、今描いた紙をその向きのまま重ねてみて。」


セレナ「分かったわ。」


茜「うん。」


 二人は視線を合わせると、それぞれの紙を床に置いた。


 そして、二枚の地図を慎重に位置合わせしながら、ゆっくりと重ねていく。


 すると――。


茜「これって……十個の……」


セレナ「頂点!」


晴明「その通り。十芒星。」


 晴明は二枚の地図を見つめながら、さらに説明を続ける。


晴明「十芒星には、十全・完全に満ちた状態。二つの五行の統合。陰と陽の統合。そして、十個の原理・属性の統合……そういった意味合いがある。」


 晴明は二つの五芒星を交互に指差す。


晴明「つまり、五行相生と五行相剋の両方を組み合わせることで、完全性を持たせた術式と考えてもいいかもしれない。」


 そして、ふと顔を上げる。


晴明「海斗さん。もしかして……巨大な真鉱石の近くに街があるのでは?」


海斗「確認したことはなかったが……言われてみると、そんな気はする。」


晴明「位置を書き込んでもらえるかな?」


海斗「あぁ。」


 海斗は言われた通り、島に存在する巨大な真鉱石の位置を地図へと書き込んでいく。


 晴明は、その位置を一つずつ確認していった。


 やがて、その目が大きく見開かれる。


晴明「やっぱり……。街で表していた五芒星が歪んでいたのは、そのせいか……。」


晋作「と言うと?」


晴明「真鉱石の位置、全てを結ぶと……相生の五芒星そのものになる。」


 晴明は地図の中心にある神木フバへ視線を向けた。


晴明「おそらく、これが『相生』の要を成している。」


美雪「相生の要……でも、何で十芒星にする必要があったのかな? 邪神って、そこまで強力なの?」


晴明「仮に邪神が封印されているとしよう。もう一つは……」


セレナ「邪なる者の力?」


晴明「うん、鋭いね!」


 晴明は地図に描かれた二つの五芒星を見つめながら、考えを整理するように続ける。


晴明「最初は、相剋で邪神を封印して、相生で相剋の力を外に出さないようにしていると考えたんだけど……相生と相剋、それぞれで別々のものを封印して、互いに相入れないようにしている可能性もある。」


 晴明は二つの五芒星を指でなぞる。


晴明「あくまでも陰陽道に基づいて考えた仮説だけどね。五芒星だの五行だのっていうのは、このニライカナイの人たちからすると、知識として理解していたものじゃなくて、単純に地理的な位置関係によって生まれた力の流れなのかもしれない。」


 全員が黙って地図を見つめる。


晴明「でも、地理的なものから見えてきたのが、今話したような構造だ。もちろん仮説だけど……ここまで一致してくると、偶然とは考えにくい……。」


 しばしの沈黙が流れた。


 やがて、その沈黙をクー・フーリンが破る。


クー・フーリン「じゃあ、そこまで見えてきたところで……次の行動は?」


総司「夜の帝国……いや、サマエルは神具を三つ手に入れたって話だったよね?」


晴明「確か、火鼠の皮衣と龍の首の球……それに燕の子安貝の三つだ。」


総司「残るは、仏の御石の鉢……。この鉢は確か、行方不明になっているんだったよね?」


海斗「あぁ。守り巫女だった方と一緒に行方不明になっている。」


晋作「なら、まずはその守り巫女様と鉢の捜索だな……。」


クー・フーリン「位置的には、ここから祠はそう遠くねぇな……。まずは、そこに行くか?」


総司「うん。明日の朝から行ってみよう!」


晴明「いや、捜索は式にさせるよ。」


 晴明は地図から視線を上げ、周囲を見渡す。


晴明「敵はこの島を彷徨いている。こちらが動いて戦闘になって、サマエルたちが来ないとも限らない。今は極力、戦闘を避けるのが無難な気はする。」


 そして、晴明は美雪と千代女を見る。


晴明「とりあえず、私と美雪、千代女で、それぞれ捜索と偵察の式を放とう。」


セレナ「そうね! 他の街の状況も確認する意味も込めてね。」


総司「そっちの方向は決まったとして……セレナは、ルシアン関係の話をしなくて良いの?」


セレナ「うーん……まぁ、良いでしょ……。今考えても仕方ない。理由も分かったことだし、いずれ対峙する時でいいと思う。」


 セレナは一度息を吐き、真剣な表情で地図へ視線を落とす。


セレナ「それよりも帝国側よ。モロクに黙示録の四騎士……アザゼルに、それに付き従う好戦的な堕天使たち……正直、問題山積みよ!」


晋作「確かにな……。でも、一つ一つ片付けるしかねぇ。まずは目の前の事だな。」


晴明「さてと……なら、早速呼び出すよ。」


 晴明は形代を数枚取り出し、右手の人差し指と中指の間に挟む。


 それを口元へ寄せ、静かに目を閉じた。


晴明「天地神明、霊気発言……八咫烏、魂魄を宿し我が命に従え! 急急如律令!」


 次の瞬間、形代が淡い光を放ちながら宙へ浮かび上がった。


 紙片は次々と黒い羽根へと変わり、その姿を変化させていく。


 そして――


 バサバサバサッ!


 およそ二十羽ほどの鴉が、一斉に姿を現した。


美雪「私も!」


 美雪も立ち上がり、静かに手を掲げる。


美雪「雪の精よ……力を貸して……。」


 美雪の周囲に、ひんやりとした風が吹き抜ける。


 白い雪が舞い上がり、その中から次々と獣の姿が浮かび上がった。


 やがて、五体ほどの雪豹が姿を現す。


 雪豹たちは静かに地面へ降り立つと、美雪の周囲で身を伏せた。


千代女「こっちは、ちょっと数を多くするわね!」


 千代女は懐から一本の巻物を取り出す。


 巻物を地面へ広げると、封印を解くように印を結んだ。


千代女「封印……解!」


 瞬間。


 巻物から無数の蛇が次々と這い出してくる。


 大小様々な蛇が洞窟の中へと広がっていき、その数は瞬く間に増えていった。


茜「これだけ多いと……ちょっと苦手……かも……。」


 茜の顔が僅かに引きつる。


 それを見た晋作がニヤリと笑った。


晋作「顔、引きつってるぞ……。」


茜「もう、うるさい!」


 茜がむっとした顔をすると、千代女が楽しそうに笑う。


千代女「大丈夫よ。私たちには噛んだりしないから。」


茜「それなら……まぁ……。」


 茜は少し離れたところから蛇たちを見つめる。


 晴明は二人が準備を終えたのを確認すると、満足そうに頷いた。


晴明「準備はできたみたいだね!」


美雪「えぇ!」


千代女「いつでも良いわよ?」


晴明「それなら……捜索開始!」


 その言葉を合図に、鴉たちは一斉に洞窟の外へ飛び立っていった。


 雪豹たちは地面を蹴り、森の中へと駆けていく。


 そして無数の蛇たちも、それぞれ別の方向へと散らばり、地面を這いながら周囲の探索を開始した。


セレナ「何としても、サマエルたちより先に見つけないとね!」


総司「とりあえず、俺たちは休もうか。」


 総司の言葉を最後に、一行はそれぞれ休息を取り始めた。


式たちの捜索結果に備えるように、洞窟の中は次第に静けさを取り戻していった。


61話 完

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