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57話 伝承の少女

黒い霧が晴れ、男の姿は完全に消え去った。


会場には重苦しい静寂だけが残る。


各国代表たちも、誰一人として言葉を発することができなかった。


総司は静かに刀を納め、男が立っていた場所を見つめる。


「……行ったか。」


誰も警戒を解かない。


その中で、晴明はゆっくりと男が消えた場所へ歩み寄った。


静かに床へ手をかざし、残留する魔力を探る。


数秒後、晴明は静かに目を開いた。


「……何かわかったか。」


松平が短く問う。


晴明は立ち上がり、小さく頷いた。


「転移術そのものは珍しい術ではありません。」


「ですが……残留している魔力が異質です。」


「サリエルやルシアンとも異なる。」


「底知れない気配を感じます。」


ノアも静かに歩み寄り、空気へ手をかざす。


「……ええ。」


「私の精霊たちも、この魔力を警戒しています。」


「自然とは相容れない力です。」


晴明は静かに頷く。


「我々がこれまで遭遇した夜の帝国の者とは、系統そのものが異なるのかもしれません。」


松平は男が立っていた場所を見つめたまま口を開く。


「分析は後だ。」


「まずは負傷者の確認を優先しろ。」


「各国代表の安全を確保する。」


その一言で、スタッフや各国の関係者が一斉に動き始めた。


会場内の安全確認が終わると、松平は各国代表へ視線を向けた。


「諸君。」


「夜の帝国による脅威は、今や一国の問題ではない。」


「直ちに緊急対策会議を行う。」


「各国代表は会議室へ移動してくれ。」


誰一人として異論はない。


ノアも静かに頷いた。


「承知しました。」


エミリーも敬礼を返す。


「了解です。」


松平は続けてAX班へ視線を向ける。


「総司。」


「お前たちは別任務だ。」


総司が一歩前へ出る。


「はい。」


「望月と鷹宮と合流しろ。」


「神凪海鈴からニライカナイについて詳しく話を聞け。」


「夜の帝国が狙う理由を洗い出す。」


「以上だ。」


「了解。」


総司は短く答えた。


美雪たちもそれぞれ頷く。


するとノアが静かに口を開く。


「松平殿。」


「もしよろしければ、我々も同行しましょう。」


「シャーマンとして、何か力になれるかもしれません。」


エミリーも続く。


「護衛も兼ねます。」


松平は答える前に、アメリカ代表団の責任者へ視線を向けた。


責任者も静かに頷く。


短い確認だけで十分だった。


松平はノアたちへ向き直る。


「気持ちはありがたい。」


「だが今回は別任務だ。」


「各国代表の護衛を頼む。」


「夜の帝国が再び動く可能性がある。」


「会議の安全確保を優先しろ。」


ノアは一瞬だけ考え、小さく頷いた。


「……承知しました。」


エミリーも敬礼する。


「会議室周辺の警備は我々が担当します。」


「頼んだ。」


松平は短く答える。


こうして各国代表は緊急対策会議へ。


AX班は望月と鷹宮の待つ神凪海鈴のもとへ向かうこととなった。


――その頃。


神凪海鈴を保護しているホテルの一室。


部屋には海鈴と望月千代女、そして鷹宮恒一の三人がいた。


緊張も少しずつ和らぎ、静かな空気が流れている。


千代女は海鈴の表情を見ながら、優しく微笑みかけた。


「お腹とか空いてない?」


海鈴は慌てて首を横に振る。


「はい、大丈夫で……」


――グゥゥゥ……


その瞬間。


静かな部屋に、小さく可愛らしい音が響いた。


「……っ!」


海鈴は耳まで真っ赤になり、慌ててお腹を押さえる。


「ご、ごめんなさい……。」


その様子に、千代女は思わず口元へ手を添え、小さく笑った。


「ふふっ。」


「やっぱりね。」


「何か食べるものを持ってくるわ。ちょっと待っててね。」


そう言って立ち上がろうとすると、恒一が先に腰を上げた。


「俺が行こう。」


「何がいい?」


突然聞かれた海鈴は困ったように俯く。


「えっと……。」


答えられずにいる海鈴を見て、千代女が優しく微笑む。


「まだ本調子じゃないものね。」


「消化の良いものの方がいいかな。」


恒一は頷いた。


「分かった。」


そう言うと、ホテルの部屋を出て行った。


部屋には千代女と海鈴だけが残る。


しばらく静かな時間が流れる。


千代女は海鈴の隣へ腰を下ろし、穏やかな口調で話しかけた。


「少しは落ち着いた?」


海鈴は小さく頷く。


「……はい。」


千代女は優しく微笑んだ。


「無理に話さなくてもいい。」


「でも、話せるようになったら教えてくれない?」


「あなたに何があったのか。」


海鈴は膝の上で両手をぎゅっと握り締める。


しばらく俯いていたが、やがて意を決したように小さく息を吐いた。


「……私は。」


「ニライカナイで生まれました。」


千代女は静かに耳を傾ける。


「ニライカナイは……外の世界から隔絶された島です。」


「私たちは、ずっとそこで暮らしてきました。」


海鈴の表情が少し曇る。


「あの日までは……。」


部屋の空気が静まり返る。


「ある日、突然……黒い鎧を纏った人たちが島へ攻めてきました。」


「島のみんなは……私を逃がすために戦って……。」


その声は少しずつ震え始める。


千代女は何も言わず、ただ静かに寄り添っていた。


海鈴は涙を堪えながら続ける。


「私は……『護り人』なんです。」


「代々、あるものを護る役目を受け継いできました。」


海鈴は膝の上で握り締めていた両手を、そっと胸の前へ重ねた。


「……見てもらった方が早いですね。」


小さく目を閉じると、静かに何かを唱え始める。


すると、何もなかった空間に淡い光が浮かび上がり、海鈴の両手の前へ集まり始めた。


「──解。」


その一言とともに光が収束し、一振りの枝がゆっくりと姿を現す。


千代女は思わず目を見開いた。


「それは……。」


海鈴は現れた枝を両手で大切そうに受け止める。


白木のように美しく伸びた一本の枝。


その先端には、淡く神秘的な輝きを放つ宝玉が静かに宿っていた。


「これは、神珠と呼ばれる玉が宿る枝です。」


「私たち護り人は、代々この神珠の枝を受け継ぎ、術で隠しながら護ってきました。」


海鈴は神珠の枝をそっと見つめ、表情を曇らせる。


「これが……奴らの狙っているものなんです。」


千代女は驚きを隠せないまま、静かに神珠の枝を見つめていた。


「だから……長老様たちは私にこの神珠の枝を託して……。」


「『生きなさい』って……。」


海鈴の瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。


「でも……私は……。」


「みんなを助けることができませんでした……。」


肩を震わせながら俯く海鈴。


千代女は何も責めることなく、そっと海鈴の肩に手を添えた。


「あなたは、みんなの想いを背負ってここまで来た。」


「だから、自分を責めなくていい。」


「きっと、その神珠の枝を託した人たちも、あなたに生きていてほしかったはずだから。」


海鈴は涙を流しながら、小さく頷いた。


千代女は神珠の枝を見つめながら静かに尋ねた。


「その神珠って、どんな力があるの?」


海鈴は神珠の枝をそっと抱き寄せ、小さく答える。


「元々は、豊穣を願う祭りの儀式で使われる神珠です。」


「言い伝えでは、この神珠には神様が宿っているとも言われています。」


「でも……。」


海鈴は少し表情を曇らせた。


「使い方を間違えれば、大きな災いを招くとも伝えられています。」


その時だった。


コンコン――。


部屋の扉が開き、恒一が戻ってくる。


「お待たせ。」


「流石にお粥はなかったから……食べやすそうなパンと飲み物を買ってきた。」


「食べられそうか?」


海鈴は聞き慣れない言葉に首を傾げた。


「パン……?」


恒一は少し驚く。


「もしかして、初めてか?」


そう言って、袋からクロワッサンを取り出し、海鈴へ差し出した。


海鈴は恐る恐る受け取り、少しだけ口にする。


「……!」


表情がぱっと明るくなる。


「美味しい……!」


恒一は安心したように微笑んだ。


「良かった。」


「他にもいろいろ買ってきたから、慌てなくていい。」


「ゆっくり食べるといいよ。」


千代女も優しく微笑みながら、コップへオレンジジュースを注ぐ。


その時――。


コンコン。


再び部屋の扉が叩かれた。


千代女が扉を開くと、総司たちAX班と、ジャンヌ、ラファエルの姿があった。


「戻ったぞ。」


晋作が部屋へ入りながら海鈴を見る。


「調子はどうだ?」


千代女は微笑みながら答えた。


「落ち着いてきたわ。」


「さっきまで少し話を聞いていたところ。」


「今は軽い食事中よ。」


セレナも海鈴を見て穏やかに微笑む。


「そう。」


「落ち着いたみたいで安心したわ。」


千代女は総司たちへ視線を向ける。


「式典はどうだったの?」


ラファエルが静かに息を吐く。


「夜の帝国が現れた。」


「……宣戦布告だ。」


部屋の空気が少しだけ重くなる。


晴明は静かに口を開き、式典で起きた出来事を一通り説明した。


話を聞き終えた千代女は静かに頷く。


「そう……。」


「こっちも彼女から少し話を聞いたわ。」


そして海鈴から聞いたニライカナイ、護り人、神珠の枝について説明する。


総司は腕を組み、小さく頷いた。


「ニライカナイ……。」


「やっぱりそうか。」


「それに神珠の護り人……。」


すると茜が首を傾げる。


「あれ?」


「その神珠の枝って……どこかで聞いたことがあるような……。」


晴明が静かに答えた。


「この国最古の物語とも言われる『竹取物語』だ。」


「かぐや姫が求婚者たちへ要求した宝の一つ。」


ジャンヌが不思議そうに首を傾げる。


「竹取物語?」


「かぐや姫?」


茜が手を叩く。


「あっ、それだ!」


美雪も思い出したように続ける。


「仏の御石の鉢。」


「火鼠の皮衣。」


「龍の首の珠。」


「燕の子安貝。」


「そして――蓬莱の玉の枝。」


晴明は静かに頷く。


「その五つだ。」


「そして、ニライカナイとは……蓬莱と同一の地だったと考えても不思議ではない。」


セレナが静かに呟く。


「蓬莱……。」


晴明は続ける。


「竹取物語だけではない。」


「古い文学には『蓬莱』『蓬莱島』という名が度々登場する。」


「現地ではニライカナイ。」


「本土では蓬莱。」


「長い年月を経て、それぞれ異なる名で語り継がれたのかもしれない。」


部屋は静まり返る。


晴明は神珠の枝へ視線を向けた。


「かぐや姫が求婚者へ与えた五つの難題。」


「どれも現実には手に入らないとされた伝説上の宝だ。」


「だからこそ、物語として語り継がれてきた。」


「だが――。」


晴明はゆっくりと神珠の枝を見る。


「その一つが、今ここに実在している。」


総司も神珠の枝へ視線を向ける。


「つまり……。」


「竹取物語は、ただの創作じゃない可能性があるってことか。」


晴明は小さく頷く。


「おそらく。」


「ニライカナイで実際に語り継がれていた出来事が、本土へ伝わる過程で物語となった。」


「その結果が竹取物語だったとしても、不思議ではない。」


晋作が腕を組みながら口を開く。


「ってことはよ。」


「海鈴って、かぐや姫の血筋だったりするのか?」


セレナは呆れたようにため息をつく。


「飛躍しすぎよ。」


しかし晋作は肩をすくめた。


「そうか?」


「蓬莱の玉の枝の護り人。」


「その宝は実在していた。」


「なら、かぐや姫って存在も何か元になった人物がいたのかもしれねぇ。」


「神として祀られた存在が、後の世で物語になった……そう考えてもおかしくねぇだろ。」


美雪は驚いたように目を見開く。


「つまり……。」


「フィクションじゃなくて、本当にあった出来事が物語になったってこと……?」


総司は腕を組みながら小さく首を傾げた。


「でも、竹取物語の舞台って関東だよね?」


「富士山も出てくるし。」


晴明は静かに頷いた。


「確かに、その通りだ。」


「だが、理由はいくらでも考えられる。」


一拍置き、穏やかな口調で続ける。


「例えば、ニライカナイで起きた争いから王族を守るため、本土へ逃れた者がいたのかもしれない。」


「あるいは、その子を人目につかぬよう竹林へ隠したという出来事が、後に物語として語り継がれた可能性もある。」


晴明は小さく微笑む。


「もちろん、これはあくまで一つの仮説に過ぎない。」


「現時点では確かなことは何も分からない。」


総司も小さく頷いた。


「そうだよね。」


「今は考えても答えは出ないか。」


セレナが一歩前へ出る。


「そうね。」


「竹取物語については、一旦ここまでにしましょう。」


「今、優先すべきなのは海鈴ちゃんと、夜の帝国の目的を把握することよ。」


部屋の空気が再び引き締まった。


ラファエルが腕を組みながら静かに口を開く。


「で、どうする?」


その一言に、部屋は静まり返った。


誰もすぐには答えられない。


神珠の枝。


ニライカナイ。


夜の帝国。


情報は増えた。


だが、決定的な答えはまだ見えてこない。


重苦しい沈黙が部屋を包む。


すると――。


総司が突然、海鈴へ笑顔を向けた。


「海鈴ちゃん!」


「ただいま!」


「……え?」


その場にいた全員が思わず総司を見る。


「お、おい……。」


晋作が目を丸くする。


「この空気でそれか?」


ラファエルも思わず苦笑を浮かべた。


セレナは小さくため息をつきながらも、どこか納得したように微笑む。


「あなたらしいわね。」


そんな総司の隣へ、美雪も自然と歩み寄る。


優しく微笑みながら海鈴へ声を掛けた。


「ただいま。」


「ちゃんとご飯、食べられてるみたいで安心したよ。」


海鈴は二人の顔を見つめる。


そして――。


張り詰めていた表情が少しずつ和らいでいった。


「……お帰りなさい。」


小さな声だった。


けれど、その表情には先ほどまでにはなかった安堵が浮かんでいた。


総司は嬉しそうに笑う。


「うん。」


「ちゃんと食べてるなら安心だ。」


その何気ない一言に、海鈴の肩から少しだけ力が抜ける。


千代女はそんな様子を見て、小さく微笑んだ。


(やっぱり……。)


(この子には、こういう空気の方が合ってるのね。)


晋作は腕を組みながら、総司と美雪、そして海鈴の様子を眺め、小さく笑った。


「……あの二人見てると、いよいよ夫婦って感じがするな。」


茜も思わず頷く。


「実際、夫婦だし……。」


少しだけ頬を赤く染め、勇気を振り絞るように小さく呟く。


「わ、私たちも……晋作さんと……。」


「ん?」


晋作が首を傾げる。


「何か言ったか?」


茜はハッと我に返り、慌てて首を横へ振った。


「な、何でもない!」


「気にしないで!」


「そう?」


晋作は深く気にする様子もなく肩をすくめた。


そのやり取りを見ていたセレナは、くすりと笑う。


「こっちはまだまだね。」


小さく呟きながら、隣に立つ晴明へ視線を向ける。


晴明も穏やかに微笑んだ。


「初々しい感じが、また青春だね。」


その場の空気が少しだけ和らぐ。


総司は改めて海鈴へ向き直り、優しく声を掛けた。


「海鈴ちゃん、もう少しお話を聞かせてもらってもいいかな?」


海鈴は小さく頷く。


「はい……。」


美雪は海鈴を安心させるように微笑み、そっとベッドへ腰掛ける。


「無理せずにでいいからね。」


そう言って、優しく海鈴の肩へ手を添えた。


その温もりに、海鈴の表情も少しだけ和らぐ。


総司は優しい眼差しのまま続ける。


「辛いことを思い出させるかもしれない。」


「でも、俺たちはきっと力になれる。」


「だから、出来る範囲でいい。詳しく話を聞かせてほしいんだ。」


海鈴は静かに息を吸い、小さく頷いた。


「はい……大丈夫です。」


「ありがとう。」


総司も小さく頷き返す。


「ニライカナイから逃げてきた時って、どんな状況だった?」


「もう一面火の海……って感じだったのか?」


海鈴は記憶を辿るように目を伏せる。


「……まだ、そこまでは……なかったと思います。」


「ですが、その後どうなったのかは……分かりません。」


言葉の最後は震えていた。


美雪はそっと海鈴の肩をさすりながら優しく微笑む。


「そっか……。」


「さっき千代女さんからお話は聞いたんだけど、海鈴ちゃんは『護り人』なんだよね?」


海鈴は静かに頷く。


「はい。」


美雪は少し考えてから続けた。


「……もしかして、護り人って海鈴ちゃん一人じゃないの?」


「他にも護り人の人たちがいたりするの?」


海鈴は小さく頷き、ゆっくりと言葉を続けた。


「はい……。」


「私の他にも、護り人は四人います。」


「それぞれが、異なる神物を授かり、その護り人として代々受け継いでいます……。」


その一言に、部屋の空気が変わる。


総司たちは互いに顔を見合わせた。


晴明は静かに目を細め、小さな声でセレナへ囁く。


「……繋がってきたね。」


セレナも小さく頷く。


「ええ。」


「竹取物語の話も、さっきまでは単なる雑談だと思っていたけれど……。」


「ここまで符合すると、偶然では片付けられないわね。」


晴明は静かに頷く。


「蓬莱の珠の枝だけでは終わらない……。」


「もし他の神物も、それぞれ伝承や神話として後世へ語り継がれているのだとすれば――。」


晋作が腕を組みながら呟く。


「竹取物語の五つの宝って話が、ますます現実味を帯びてきやがったな……。」


部屋には再び静かな緊張が漂い始めていた。


晴明は静かに海鈴へ視線を向けた。


「もしかしてだけど……。」


「他の四つの神物というのは――」


「仏の御石の鉢、火鼠の皮衣、龍の首の珠、燕の子安貝……じゃないかな?」


その言葉に、海鈴は驚いたように目を見開いた。


「えっ……。」


「だ、大体合っています!」


晴明は少し首を傾げる。


「……大体?」


海鈴は小さく頷いた。


「はい……。」


「一つだけ違います。」


「『仏の御石の鉢』ではなくて……。」


「『神の御石の鉢』です。」


「神の……御石の鉢。」


ジャンヌが不思議そうに呟く。


「同じ物ではないの?」


晴明は静かに首を横へ振った。


「いや、おそらく違わない。」


「ニライカナイは神々を信仰する地だ。」


「仏教とは本来、結び付かない。」


部屋の全員が晴明へ視線を向ける。


晴明は静かに続けた。


「仏教は、聖武天皇が国分寺を全国へ建立したことで急速に広まった。」


「私が生きた平安の世には、既に竹取物語は広く知られていた。」


「つまり、その頃には物語として成立していたことになる。」


晴明は少し考えるように目を閉じた。


「もし竹取物語の原型が、ニライカナイから伝わった話だとすれば……。」


「神の御石の鉢が、後の時代に仏教の影響を受け、『仏の御石の鉢』へと置き換えられたとしても不思議ではない。」


「そう考えれば、辻褄は合う。」


海鈴はきょとんとした表情で晴明たちを見つめた。


「……どうして。」


「皆さんが、他の四つの神物まで知っているんですか?」


総司は優しく笑う。


「あぁ、それはね。」


「『竹取物語』っていう、日本に昔から伝わる物語があるんだ。」


「その中に、今話してくれた宝が全部出てくるんだよ。」


「竹取物語……?」


海鈴は初めて聞く名前のように首を傾げた。


美雪は海鈴の隣へ座り直し、優しく微笑む。


「えっとね。」


「昔々、おじいさんとおばあさんがいてね……。」


「竹の中から、とても小さな女の子を見つけるところから始まるお話なの。」


そう言うと、美雪は海鈴にも分かるように、ゆっくりと竹取物語を読み聞かせ始めた。


美雪が竹取物語を最後まで読み終えると、部屋は静かな空気に包まれた。


誰もすぐには言葉を発しない。


海鈴はしばらく俯いたまま考え込んでいたが、やがてゆっくりと顔を上げる。


「……そのお話。」


「私たちに伝わる伝説と、よく似ています。」


その一言に、一同の視線が海鈴へ集まる。


海鈴は少しだけ困ったように微笑んだ。


「でも……少し違います。」


「私が知っている伝承では、そんな結末ではありませんでした……。」


「……!」


総司たちは思わず息を呑む。


晴明も静かに目を細めた。


竹取物語。


ニライカナイ。


そして、護り人たちが受け継ぐ五つの神物。


伝説だと思われていた物語は、少しずつ現実と結び付き始めていた。


そして今、その真実を知る少女が、彼らの目の前にいる。


夜の帝国が狙う理由。


神物に秘められた力。


そして、本当の竹取物語とは何なのか――。


誰もまだ、その全貌を知らない。


だが、一つだけ確かなことがあった。


新たな戦いは、日本に語り継がれる伝承と、その裏に眠る真実を巡る戦いへと変わり始めていた――。


57話 完

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