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55話 新たな繋がりの始まり

――深夜。


沖縄の海。


昼間の賑わいが嘘のように静まり返り、波の音だけが静かに響いている。


月明かりが海面を照らし、白い光の道を作り出していた。


その海辺を、一人の男が歩いている。


クー・フーリンだ。


「いやぁ……なんか、まだ寒いな……」


ぶるっと身震いする。


「沖縄に来て寒いってどういうことだよ……」


ぼそっと呟く。


すると。


「彼の国の大英雄も、やはり寒いのは苦手のご様子……」


少し離れた場所から、穏やかな声が聞こえた。


クー・フーリンが振り返る。


「晴明か……」


「はい……」


月明かりの下。


晴明が静かに歩み寄ってくる。


クー・フーリンが苦笑する。


「どうした?お前も寒さで寝れない感じか?」


「そんなところですよ」


晴明が、ふっと微笑む。


「てか、昼間と口調違ってないか?」


クー・フーリンが首を傾げる。


すると晴明は、小さく笑った。


「貴方とは知り合ってまだ日が浅いですから、敬意を持って接しているつもりですが……」


「そうか……そんなもん気にしなくていいんだがなぁ……」


頭を掻きながら言う。


「時期に、それもなくなるでしょう」


晴明が微笑む。


クー・フーリンも笑う。


「んで?」


一拍。


「俺に何か話があって来たって感じか?」


少し視線を向ける。


「さっきから小さな狐が俺の後をついて来てたから、もしやとは思ったが……」


すると。


晴明が、少しだけ目を細める。


「大したことではありませんが……」


「貴方の槍のこととか、色々ありますからね」


「あぁ……まぁな」


クー・フーリンが頷く。


「セレナは俺の槍を受け継いじまったからなぁ……」


そして。


にやっと笑う。


「恋人のお前が心配なのも分かる」


「察していらっしゃいましたか」


晴明も、少し笑う。


クー・フーリンが肩を揺らして笑う。


「そのくらい察することができなければ、英雄なんぞになってねぇよ」


そして。


少し意地悪そうに笑う。


「もしかしてお前……妬いてるのか?」


すると。


晴明は、穏やかに笑った。


「それは無いですかね」


「彼女を信頼していますから」


「そうか」


クー・フーリンが頷く。


「それならいい」


一拍。


「一応言っとくが、俺はそのつもりはないから安心しろ……」


「はい……もちろんそのつもりです」


晴明が頷く。


「貴方は彼女にとって師匠みたいな人だ……」


少しだけ夜空を見上げる。


「私は彼女の行く先を、一緒に歩くつもりですよ」


その言葉に。


クー・フーリンが、ふっと笑う。


「……そういう人が近くに居るなら安心だな」


そして。


ふと思い出したように聞く。


「そう言えば、お前はこの日本って国の有名な術師なんだろ?」


「一応は、後世でも名が語り継がれているみたいですね……」


晴明が苦笑する。


「術師か……」


クー・フーリンが海を見つめる。


「俺も魔術には精通しているが、晴明のとはちょっと違うみたいだな」


「そうですね」


晴明が頷く。


「陰陽術は、古代中国の陰陽五行思想を基盤にしています」


「世の中の全ては『陰』と『陽』、そして『木・火・土・金・水』の五行で成り立っているという思想からですね」


「対して、西洋魔術は貴方の使うルーンも含めて、人間の意志によって霊的存在や宇宙の法則へ働きかけ、現実に変化を起こす……」


「そこの違いですかね?」


そして。


少しだけ笑う。


「私のは若干ですが、封神術を取り入れてアレンジしていますがね」


「ほぉ……」


クー・フーリンが感心したように頷く。


「よく知ってるうえに、そんなことまで……」


そこまで言いかけて――


「……ん?」


足を止める。


「……あそこ、誰か倒れてないか?」


月明かりが、海岸を照らす。


波打ち際。


そこに、人影が横たわっていた。


「……っ!」


晴明の表情が変わる。


「行きましょう!!」


「あぁ!!」


二人は、一気に駆け出した。


近付く。


そこには――


十代後半と思われる少女が倒れていた。


晴明が、そっと上半身を抱き起こす。


「……息は、かろうじてしています」


表情が険しくなる。


「ですが、体が冷たい……」


「このままじゃ命が危ない!」


「連れ帰って、冷えた体を温めて様子を見よう!」


クー・フーリンが言う。


「ええ」


晴明が頷く。


「女の子ということもありますし、セレナ達にも話をしましょう」


「あぁ……」


クー・フーリンが少女を見る。


そして。


ぼそっと呟く。


「……なーんか、きな臭くなってきたな……」


「それは同感ですよ」


晴明も頷く。


「とりあえず、急ぎましょう!」


二人は少女を抱えながら、旅館へ向かって走り出す。


波が静かに寄せては返す。


まるで――


少女を、この場所へ導いたかのように。


沖縄の静かな夜。


だが。


新たな運命は、すでに動き始めていた――。


――旅館・テラス。


静かな夜風が吹いている。


遠くから聞こえる波の音。


深夜ということもあり、昼間の賑やかさはすっかり消えていた。


テーブルを囲みながら、総司たちは待っていた。


「……どうだろうね」


総司が呟く。


「ひとまず命に別状はなさそうだったがな」


クー・フーリンが腕を組む。


「でも、気になることだらけだね」


ラファエルも頷く。


「そうだな」


晋作が腕を組む。


「普通の遭難って感じでもねぇし」


「ええ」


晴明も頷く。


「違和感はありますね」


その時――


コツ、コツ……


足音が近付いてくる。


「みんな、起きてたんだね」


美咲が姿を見せる。


「おっ」


晋作が振り返る。


「どうだった?」


「ひとまず大丈夫かな」


美咲が微笑む。


「身体も温まってきたし、今はぐっすり眠ってるよ」


「……そっか」


総司が、小さく安堵する。


「よかった」


「セレナさん達も付いてるから、その辺は安心して大丈夫だと思う」


美咲が続ける。


「女の子のことだし、今はそっちに任せた方が良さそうかなって」


「だな」


晋作が頷く。


「こういう時は女子チームの方が頼りになる」


「ええ」


晴明も頷く。


「その方が警戒されにくいだろうしね」


一拍。


すると。


クー・フーリンが口を開く。


「そういや、あの子の服装なんだが……」


全員の視線が集まる。


「かなり古風だったな」


「白い小袖に袴みたいな格好だった」


「今の時代の服って感じじゃなかったな」


「うん」


晴明も頷く。


「私も同じ印象だね」


「しかも、どこか独特だった」


「独特?」


総司が聞き返す。


「そう」


晴明が頷く。


「日本のものに近いけど、少し違う」


「独自の文化が混ざっているような……そんな感じかな」


「へぇ……」


総司が少し考える。


すると。


晴明が、静かに口を開いた。


「沖縄には、ニライカナイという伝承があるんだ」


「ニライカナイ?」


総司が聞き返す。


「うん」


晴明が頷く。


「海の彼方に存在すると言われる幻の離島だね」


「離島?」


ラファエルが首を傾げる。


「神々の住まう場所とも、豊穣をもたらす聖域とも言われている」


一拍。


「ただし、異世界というわけじゃない」


「同じ世界のどこかに存在している……」


「だけど、普通の人間には見つけることができない島なんだよ」


「……そんな場所があるのか」


ラファエルが呟く。


「海流や濃霧、特殊な地形……色々な説はあるけどね」


「正確な場所は誰も知らない」


「ただ、一つ言えることがある」


晴明が、少しだけ海の方を見る。


「独自の文化を築きながら、外界とほとんど接触することなく存在していると語り継がれているんだ」


「なるほどな……」


クー・フーリンが腕を組む。


「隠れ里みたいなもんか」


「近いかもしれないね」


晴明が微笑む。


「もっとも、伝承通りならだけど」


すると。


美咲が、ふと口を開く。


「でも……」


「なんとなくだけど、その子からは少し不思議な雰囲気を感じたかな」


「不思議な雰囲気?」


総司が聞き返す。


「うん」


美咲が頷く。


「怖いとかじゃなくて……」


少し考える。


「懐かしい感じ……かな」


その言葉に。


全員が静かになる。


すると。


晴明が、ふと目を細める。


「……偶然とは思えないね」


「え?」


総司が聞き返す。


「今のところは、まだ推測だけど……」


一拍。


「もし、本当にニライカナイと関係があるとしたら」


「彼女は、何らかの理由で島の外へ出ることになったのかもしれない」


ザザァ……


波の音が響く。


総司が、水平線の先を見る。


真っ暗な海。


どこまでも続く海原。


そのどこかに――


まだ誰も知らない場所が存在しているのかもしれない。


「……なんか」


晋作が、ぽつりと呟く。


「休暇のはずだったのにな」


「そうだね」


総司が苦笑する。


「いつもの流れになってきた」


「ええ」


晴明も、わずかに笑う。


「どうやら、そうみたいだね」


静かな夜。


だが――


新たな運命は、すでに動き始めていた。


――翌朝。


食事処。


メンバーたちが朝食を囲んでいる。


すると――


コツ、コツ……


静かな足音が響く。


「おはよう、みんな。起きているな」


松平が姿を見せる。


「おはようございます」


全員が挨拶を返す。


松平が周囲を見渡す。


「……全員いるな。いや、茜は?」


すると、千代女が答える。


「昨日、漂流者を発見してね。今は保護してるから、様子を見てもらってるよ」


「漂流者?」


松平が、わずかに眉を上げる。


すると、晴明が静かに口を開く。


「昨夜のことだね」


「クー・フーリンと私が海辺を歩いていたんだ」


「すると、波打ち際に十代後半くらいの少女が倒れていてね」


「息はあったけど、かなり身体が冷えていた」


「このままじゃ危険だったから、ここへ連れ帰って保護したんだよ」


「……なるほど」


松平が頷く。


すると、クー・フーリンが続ける。


「ただの漂流者って感じじゃなかったな」


「服装も妙だった」


「今の時代のものとは少し違う感じだったな」


「うん」


晴明も頷く。


「私も同じ印象だね」


「少し気になるところではあるかな」


「……なるほどな」


松平が静かに頷く。


そして――


「漂流者の件は、ひとまず置いておいて」


一拍。


「昨日で休暇は終わりだ」


全員「え゛!?」


食事処に驚きの声が響く。


「えっ!?」


「はぁ!?」


「もう!?」


松平は、いつものように淡々としている。


「これから、日本とフランス、アメリカ、イギリス、EU諸国を含めた各国代表団との式典がある」


全員「は!?」


全員の動きが止まる。


「今、なんて……?」


総司が聞き返す。


「今言った通りだが?」


松平が真顔で返す。


「いやいや、唐突すぎるだろ……」


晋作が頭を抱える。


「てか聞いてねぇし……」


「今、言った」


松平が即答する。


「いやそういう問題じゃねぇ!!」


晋作が即ツッコむ。


その横で。


「いつもの事だけど、また唐突よね……」


セレナが呆れたように肩をすくめる。


「で?今度は何?」


すると。


松平が静かに全員を見渡す。


「AX班、そしてオルレアン部隊を含めた我々は――」


一拍。


「非公式ではあるが、今後、国際機関となる」


――沈黙。


「……は?」


総司が固まる。


「えっ……?」


美雪も目を瞬かせる。


「国際機関……?」


ラファエルが聞き返す。


「……」


晴明も、わずかに目を細める。


「規模が一気に大きくなったね……」


「いやいやいやいや!!」


晋作が立ち上がる。


「なんだよ国際機関って!!」


「昨日までBBQしてたんだぞ!?」


「そうですよ!?」


美雪も驚く。


「昨日まで普通に沖縄で遊んでましたよ!?」


「温泉で氷地獄になってましたし!?」


千代女も頷く。


「さすがに振り幅が大きすぎるね……」


クー・フーリンも苦笑する。


「英雄やってきたが、国際機関に所属するのは初めてだな」


ラファエルも腕を組む。


「俺もだ……」


すると。


松平が静かに言う。


「こちらとしても初めてだ」


全員「そこ初めてなんかい!!」


食事処に、総ツッコミが響き渡った――。


すると――


「……もしかして」


美咲が、ふと思い付いたように口を開く。


全員の視線が集まる。


「AX班の沖縄旅行と……」


「私たちヴァルキリーズの演習が沖縄になったのって……」


一拍。


「その式典に合わせて……ですか?」


すると。


松平が、いつものように淡々と答える。


「その通りだが?」


――沈黙。


全員「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


「最初から決まってたの!?」


総司が驚く。


「つまり、休暇も演習も建前だったってこと!?」


美雪も目を丸くする。


「そんなぁ……」


晋作が額を押さえる。


「最初から言えよぉ……」


「必要なかったからな」


松平が即答する。


「必要あるだろ!!」


晋作が即ツッコむ。


その横で。


セレナが呆れたように肩をすくめる。


「いつもの事だけど、相変わらずね……」


「全く驚かなくなってきた自分が怖いね」


千代女も苦笑する。


すると。


松平が静かに口を開く。


「まあ、そういうことだ」


「各国代表団も、すでに沖縄入りしている」


すると、晴明が静かに口を開く。


「ちなみに、漂流者の件は如何するおつもりで?」


松平が腕を組む。


「とりあえずは、回復するまで待つしかないだろう……」


一拍。


「身元も分からん以上、無理に話を聞く訳にもいかん」


「誰か一人だけでも付き添っておくべきだが……どうするか……」


すると――


ガラッ!!


食事処の扉が勢いよく開く。


「みんな!!」


一同が振り返る。


そこには、少し息を切らした茜が立っていた。


「その子が……目を覚ましたよ!!」


「!!」


全員が席を立つ。


「もうか!?」


晋作が驚く。


「思ったより早かったね」


総司も立ち上がる。


「容態はどうですか?」


美雪が尋ねる。


「まだ少し弱ってるけど、受け答えはできそうだよ!」


茜が答える。


すると。


松平が静かに立ち上がる。


「……好都合だな」


「本人から話を聞くとしよう」


すると、千代女が苦笑する。


「さっきまで誰か一人付き添うって話してたのに、結局みんなで行くんだね」


「まぁ、いつものことだな」


クー・フーリンが肩をすくめる。


「だな」


晋作も苦笑する。


「こういう時に誰か一人だけ残るなんて、今さら無理だろ」


「確かにね」


総司も笑う。


「じゃあ、行こうか」


一同は席を立ち、少女が眠る部屋へ向かうのだった――。


――旅館の女子部屋の前。


茜が襖の前で立ち止まる。


「起きてるから、あんまり驚かせないでね?」


「……了解」


総司が頷く。


すると、茜がそっと襖を開けた。


部屋の中には、昨夜保護した少女が布団の上に座っていた。


窓から差し込む朝日が、少女の姿を優しく照らしている。


少し長めの黒髪。


そして、昨夜見た古風な装い。


まだ顔色は少し悪いものの、意識ははっきりしているようだった。


少女が、襖の方を見る。


すると――


ゾロゾロと大勢の人が入ってくる。


総司。


美雪。


晴明。


晋作。


千代女。


ラファエル。


クー・フーリン。


松平。


そして茜。


その光景に、少女の目が大きく開かれた。


「……っ」


思わず身体を小さく強張らせる。


肩がわずかに震え、布団を握る手にも力が入る。


突然、見知らぬ人たちに囲まれたのだから無理もない。


すると。


総司が慌てて両手を軽く上げた。


「ご、ごめん!」


「びっくりさせるつもりじゃなかったんだ!」


その横で、美雪も優しく微笑む。


「安心してね」


少女は、まだ少し警戒した様子で一同を見つめていた。


すると、晴明が少女の視線に合わせるように少し腰を下ろした。


「昨晩、君は海辺に倒れていてね」


穏やかな口調で続ける。


「このままだったら命が危ないと思って、ここへ連れて来させてもらったんだよ」


すると、美雪も少女の近くへ歩み寄る。


優しく微笑みながら口を開いた。


「目が覚めたら知らない部屋なのに、いきなり大勢で押しかけて……びっくりさせてごめんね……」


「少しずつで良いから、あなたの名前とか……」


「何で海で倒れていたのかとか……」


「何があったのか聞かせてくれるかな?」


少女は、一同を見渡す。


まだ少し戸惑っている様子ではある。


だが――


先程までの強張った表情が、少しだけ和らいでいく。


敵意がないことは伝わったのだろう。


少女は、美雪と晴明の顔を交互に見つめる。


そして、小さく頷いたのだった――。


すると、晴明が少女の視線に合わせるように少し腰を下ろした。


「昨晩、君は海辺に倒れていてね」


穏やかな口調で続ける。


「このままだったら命が危ないと思って、ここへ連れて来させてもらったんだよ」


すると、美雪も少女の近くへ歩み寄る。


優しく微笑みながら口を開いた。


「目が覚めたら知らない部屋なのに、いきなり大勢で押しかけて……びっくりさせてごめんね……」


「私は雪城美雪…」


「少しずつで良いから、あなたの名前とか……」


「何で海で倒れていたのかとか……」


「何があったのか聞かせてくれるかな?」


少女は、一同を見渡す。


まだ少し戸惑っている様子ではある。


だが――


先程までの強張った表情が、少しだけ和らいでいく。


敵意がないことは伝わったのだろう。


少女は、美雪と晴明の顔を交互に見つめる。


そして、小さく頷いた。


少し深呼吸をする。


まだ緊張しているのだろう。


胸元で両手をぎゅっと握りしめながら、ゆっくり口を開いた。


「……私の名前は……」


一拍。


神凪かみなぎ 海鈴みすず……です」


すると、美雪が優しく微笑む。


「海鈴ちゃん……」


総司も安心したように微笑む。


「俺は沖田総司…改めてよろしくね」


海鈴は、少し戸惑いながらも、小さく頷くのだった


すると、総司が少し前に出る。


「そうだ」


「喉、渇いてたりとか、お腹空いてたりしない?」


「!!」


海鈴が少し驚いた表情を見せる。


すると、総司が慌てて笑う。


「あっ、ごめんごめん」


「色々聞きたいことはあるんだけどさ」


「まずは体調の方が大事だからね」


すると、美雪も頷く。


「うん」


「無理して話さなくても大丈夫だよ」


「少しずつでいいからね」


その言葉に、海鈴の表情が少しだけ和らいでいく。


そして――


「……お水……いただいても……いいですか?」


遠慮がちにそう答えた。


すると、晋作が少し前に出る。


「水でいいのか?」


「何ならジュースとか、お茶とか、遠慮せず好きなの選んでいいぞ?」


すると。


セレナがクスッと笑う。


「そうそう、まずは気持ちを落ち着かせる事からだからね」


そして、ニヤッと晋作を見る。


「てか晋作、珍しくまともな事言うじゃない」


「おい」


晋作が即座にツッコむ。


「俺を何だと思ってんだよ」


「策士でトラブルメーカー?」


セレナが即答する。


「即答すんな!!」


すると、部屋に小さな笑いが広がる。


その光景を見て、海鈴も少し驚いたような表情を浮かべる。


だが――


張り詰めていた空気が和らいだことに気付いたのだろう。


口元が、ほんの少しだけ緩むのだった――。


部屋の空気が少し和んだ、その時だった。


松平が静かに口を開く。


「和んだところ悪いが、そろそろ時間だ……」


すると、一同の表情が引き締まる。


「式典ですね」


晴明が確認するように言う。


「ああ」


松平が頷く。


すると、ジャンヌが海鈴の方を見る。


「海鈴ちゃんを一人にできないですし……」


「私が残りますよ?」


すると、松平が首を横に振った。


「ジャンヌはダメだ」


「オルレアン部隊の隊長という立場がある」


「今回は参加してもらう」


「……そうですね」


ジャンヌも納得したように頷く。


すると、恒一が静かに手を挙げる。


「なら、私が残りますよ」


「私は出なくても差し支えなさそうですし」


すると、千代女も口を開く。


「それなら私も残るよ」


海鈴の方を見ながら優しく微笑む。


「年頃の女の子だしね」


「身の回りのこととか、着替えとか色々あるかもしれないし」


そして、恒一の方を見る。


「そこは恒一君一人に任せる訳にもいかないからね」


「……そうですね」


恒一も静かに頷いた。


すると、海鈴が少し戸惑った表情を浮かべる。


自分のために、ここまで気遣ってくれている。


そのことに、まだ少し慣れない様子だった。


すると、美雪が少し申し訳なさそうに手を挙げた。


「あの……」


一同が美雪を見る。


「私も残りたいです……」


「海鈴ちゃんもまだ不安だと思うし……」


すると――


「美雪はダメだな」


松平が即答する。


「えっ?」


美雪が目を丸くする。


「AX班の代表格の一人だからな」


「今回は参加してもらう」


「そ、そうなんですね……」


美雪が少し残念そうに肩を落とす。


すると、総司が苦笑いを浮かべる。


「いつの間にか、すごい立場になっちゃったね……俺たち」


「全くだな」


晋作も苦笑する。


「昨日まで普通に休暇してたんだけどなぁ……」


「それはいつものことよ」


セレナが肩をすくめる。


すると、千代女が海鈴の方へ歩み寄った。


「改めましてだね」


優しく微笑む。


「私は望月千代女」


「こっちの静かな子が鷹宮恒一君」


すると、恒一も軽く会釈する。


「鷹宮恒一です」


「よろしくお願いします」


海鈴は少し戸惑いながらも、小さく頭を下げる。


「神凪……海鈴です……」


「うん、よろしくね」


千代女が優しく微笑む。


「今日は私たちが一緒に居るから安心してね」


「分からないことがあったら、何でも聞いていいよ」


その言葉に、海鈴も少し安心したような表情を見せた。


すると、松平が口を開く。


「では、行くぞ」


その言葉を合図に、一同は部屋を後にする。


部屋には、千代女、恒一、そして海鈴の三人だけが残ったのだった――。


――旅館を後にし、式典会場へ向かう一行。


移動中。


美雪が少し心配そうな表情を浮かべる。


「海鈴ちゃん……大丈夫かな?」


すると、茜が答える。


「千代女さんと恒一さんが居るから、何もないとは思うけど……」


すると、美咲も口を開く。


「私も残れれば良かったんだけどね……」


「ヴァルキリーズ部隊も全員参加だからなぁ……」


すると、ラファエルが少し気になったように聞く。


「それって、もしかして……正式にこちら側に配属ってことなのか?」


「どうもそうらしいのよね……」


美咲が苦笑する。


「でも所属自体は日本だから、そこはあんまり心配してないかな」


「ただ……」


少しだけ表情を引き締める。


「アメリカとかは元祖トップガンだしね……」


「……そういう感情もあるのか」


ラファエルが少し驚いた表情を見せる。


そして、続ける。


「というか、俺たちみたいなのって居るのか?」


「他の国にも」


すると、セレナが腕を組む。


「全く分からないわね……その辺は」


「でも、日本やフランスに私たちみたいなのが居るんだから、そういう人たちが居てもおかしくはないわ」


「ただ、そういう事って直前にならないと教えてもらえないし……」


「現状は未知数ね」


「確かにそうですね」


晴明も頷く。


「もしかしたら、今日初めて知ることも多そうだね」


すると、晋作が苦笑する。


「ここ最近、毎回そんな感じだけどな」


「毎回スケールがデカくなってる気がするぜ……」


「否定はできないわね」


セレナも苦笑した。


そして――


一同を乗せた車は、式典会場へと向かっていくのだった。


――沖縄某所 国際式典会場


大型のコンベンション施設の前に、AX班たちを乗せた車が到着する。


車から降りた一同は、思わず周囲を見渡した。


会場の周囲には各国の国旗が掲げられ、厳重な警備体制が敷かれている。


軍関係者やスタッフたちが慌ただしく行き交い、いつもの休暇の空気とは全く違っていた。


「うわぁ……」


美雪が思わず声を漏らす。


「思ってたより凄い規模……」


「これはまた……随分と大掛かりですね」


晴明も周囲を見渡す。


「いやぁ、こういうのは何度見ても慣れねぇな……」


晋作が苦笑する。


「同感だな」


クー・フーリンも腕を組んだ。


すると――


「松平さん」


少し離れた場所で待機していたヴァルキリーズの面々がこちらへ歩いてきた。


先頭に立っているのは神崎鷹也だった。


「お疲れさまです」


松平も軽く頷く。


「神崎、待たせたな」


「いえ、先程最終確認を終えたところです」


すると、速水が会場を見渡す。


「うわぁ……流石に緊張してきました」


「各国の代表団が集まるって、思った以上に凄いですね」


すると、霧島が笑う。


「お前が緊張するなんて珍しいな」


「いやいや、流石にしますって!」


速水が苦笑する。


すると、榊原も周囲を見渡した。


「まぁ、これだけの規模ですからね……緊張しない方がおかしいですよ」


すると、美咲が苦笑する。


「まぁ、松平さんのことだから、まだ何か隠してそうですけどね」


「否定はできねぇな」


晋作が肩をすくめる。


「ここ最近ずっとそんな感じだしな」


「毎回スケールが大きくなってるよね」


総司も苦笑する。


すると、松平が静かに口を開いた。


「……それも含めて、これから分かることだ」


その一言で、一同の表情が少し引き締まる。


「お前たちも今日初めて知ることが多いだろう」


「驚くこともあるかもしれん」


「だが、まずは各国の代表団と顔を合わせることになる」


「失礼のないようにな」


その言葉に、一同が頷いた。


「了解です」


すると、総司が苦笑する。


「失礼のないようにって言われても、いつも通りしかできないけどね」


「それでいい」


松平が即答する。


「変に取り繕う必要はない」


「ありのままのお前たちで臨め」


その言葉に、一同も少し肩の力を抜いた。


そして――


AX班、オルレアン部隊、ヴァルキリーズ部隊の面々は、式典会場の中へ足を踏み入れるのだった――。


――式典会場内


会場へ入ると、既に各国の代表団が談笑していた。


様々な言語が飛び交い、普段とは全く違う空気が漂っている。


「すげぇな……」


総司が思わず周囲を見渡す。


「なんかテレビの中みたいだね」


美雪も少し緊張した様子を見せる。


すると――


ジャンヌが立ち止まった。


「では、私たちは一度フランス代表団の方へ行ってきますね」


ラファエルも頷く。


「あぁ、流石にずっとこっちに居る訳にもいかねぇしな」


すると、総司が笑う。


「そっか、今はフランス代表って立場だもんね」


「ええ」


ジャンヌが微笑む。


「また後で合流しましょう」


「おう!」


「はい!」


一同も頷いた。


そして、ジャンヌとラファエルはフランス代表団の方へ向かっていく。


すると、晋作が周囲を見渡す。


「いやぁ……こうやって見ると、本当に国際規模なんだな……」


「そうね」


セレナも腕を組む。


「ここに居る人たち全員が、各国の代表ってことになるのかしら」


「恐らくそうだろうな」


クー・フーリンも頷く。


すると、速水が小声で話す。


「なんか……急に緊張してきたなぁ……」


「今さらか?」


霧島が笑う。


「いや、今までは話でしか聞いてなかったじゃないですか!」


すると、榊原も苦笑する。


「まぁ、気持ちは分かる」


すると――


松平が静かに足を止めた。


「……さて」


一同の視線が集まる。


「ここからが本番だ」


その言葉と同時に、遠くの扉がゆっくりと開き始めるのだった――。


――式典会場内


様々な言語が飛び交う中、松平がゆっくりと歩き始める。


「来たか、松平」


すると、一人の外国人男性が声を掛けてきた。


松平も軽く頷く。


「ああ、待たせたな」


その様子を見て、一同も少し緊張した表情になる。


「なんか……いよいよって感じだね」


美雪が小声で呟く。


「だな」


総司も周囲を見渡した。


すると、松平が振り返る。


「紹介しよう」


「これから共に活動することになる各国の代表者たちだ」


その言葉に、一同の表情も少し引き締まる。


すると、セレナが小さく笑う。


「共に活動するって言われても、まだ全然実感ないわね」


「それは俺も同感だ」


クー・フーリンも腕を組む。


すると、晋作が周囲を見渡した。


「なんつーか……みんな只者じゃねぇな……」


「ええ、独特の雰囲気がありますね」


晴明も頷く。


すると、松平が静かに口を開く。


「お前たちがAX班なら、彼らもまた各国を代表する存在だ」


「ただし――」


「誰が上で誰が下という話ではない」


「国や文化、思想が違うだけだ」


その言葉に、一同が静かに耳を傾ける。


すると、美雪が少し安心したように微笑む。


「そっか……」


「みんな違うだけなんだね」


「ああ」


松平が頷く。


「だからこそ、これから先、お互いを知っていく必要がある」


すると――


「なるほど……」


聞き慣れない声が聞こえた。


一同が振り返る。


そこには、見慣れない顔ぶれが立っていた――。


55話 完






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