54.5話 南国での休暇編おまけ
――女湯。
立ち込める湯けむり。
硫黄の香りが、ふわりと漂う。
静かな水音が、広い浴場に響いていた。
「はぁ〜……気持ちいい〜……♪」
美咲が、肩まで湯に浸かりながら大きく息を吐く。
「BBQの後の温泉って最高〜……」
「だね〜……」
茜も、気持ち良さそうに身体を預ける。
「いっぱい食べた後だから余計に気持ちいい〜」
「結構食べたものね」
セレナが、くすっと笑う。
「ラファエルなんて途中から完全に焼き係だったし」
「ふふっ」
ジャンヌも微笑む。
「とても楽しそうでしたね」
「クー・フーリンさんも凄かったよね〜!」
美咲が笑う。
「全然食べる量が減らなかったもん!」
「さすが戦士って感じね」
千代女も、穏やかに笑う。
「よく食べて、よく動く。健康的でいいと思うわ」
「……うん」
美雪も、小さく笑う。
「こういう時間っていいね」
一拍。
湯気が、ゆっくりと揺れる。
すると。
「……あら」
セレナが、にやっと笑った。
「改めて見ると、みんな綺麗よね」
「えっ!?」
美咲が慌てる。
「急に!?」
「だってそうじゃない」
セレナが肩をすくめる。
「湯気越しだと余計にそう見えるし」
「……そうですね」
ジャンヌも微笑む。
「皆さん、それぞれ魅力があります」
「ほんとほんと♪」
美雪も頷く。
「美咲ちゃんもスタイルいいし」
「えぇっ!?」
美咲が慌てる。
「そ、そんなことないよ〜!?」
「いや、あるでしょ」
セレナが即答する。
「ジャンヌも綺麗だし」
「千代女も大人っぽいし」
「茜も可愛いし」
「えぇ〜っ!?」
茜が顔を赤くする。
「ちょっと〜!急に何〜!?」
「美雪さんもすごく綺麗だよ〜!」
美咲も笑う。
「銀髪って温泉だと余計に映えるよね〜♪」
「……えへへ」
美雪も少し照れながら笑う。
「ありがと」
「ふふっ……」
千代女も、穏やかに微笑む。
「こうして並ぶと、それぞれ違った魅力があるわね」
「誰一人として同じじゃない。それがまたいいと思うわ」
「うん!」
茜が笑う。
「なんか家族みたいだよね!」
「……家族かぁ」
美雪も嬉しそうに笑う。
「悪くないわね」
セレナも、ふっと笑う。
「いつの間にか、随分賑やかになったわね」
千代女が静かに言う。
「こうして笑い合える仲間がいるって、素敵なことだと思うわ」
「……うん」
美雪も頷く。
「こういう時間、好き」
すると。
セレナが、にやっと笑った。
「でもさぁ」
一拍。
「なんか懐かしくない?」
「懐かしい?」
ジャンヌが首を傾げる。
「別府の時とか」
その瞬間。
「あっ!」
茜が、すぐに思い出す。
「氷地獄!」
「……ふふっ」
美雪も、小さく笑う。
「懐かしいね」
「氷地獄?」
美咲が、きょとんとする。
「何それ?」
「私も知りません」
ジャンヌも首を傾げる。
「どういうことなの?」
千代女も興味深そうに聞く。
すると。
茜が楽しそうに話し始める。
「別府の時ね〜」
「男湯に氷が浮かんだの!」
「……はい?」
美咲が固まる。
「温泉に?」
「うん!」
「しかも壁越しに会話してたんだよ〜」
「えぇ!?」
「最終的に晋作さんが悲鳴上げてたの♪」
「どういう状況なの!?」
「ふふっ」
美雪が少し照れながら笑う。
「ちょっと楽しくなっちゃって」
「ちょっと……?」
ジャンヌが苦笑する。
「規模がおかしい気がしますが……」
「温泉で氷を浮かべたの?」
千代女が、くすっと笑う。
「ふふっ、なかなか大胆なことしたのね」
すると。
セレナが、悪戯っぽく笑った。
「……ねぇ、美雪」
「ん?」
「せっかくだしさ」
一拍。
「――あの時のあれ、やろうよ♪」
「……え?」
美雪が目を丸くする。
すると。
茜が、すぐに察した。
「えっ!?まさか……!」
「そのまさかよ♪」
セレナが楽しそうに笑う。
「男湯、隣でしょ?」
「……っ」
美雪の口元が、少しだけ緩む。
「……楽しそうかも」
「ちょっと待って!?美雪さんまで乗り気なの!?」
「ふふっ」
千代女も、静かに笑う。
「たまには、そういう悪戯もいいんじゃない?」
「どんな反応するのかしら」
「私も興味があります」
ジャンヌも、上品に微笑む。
「どのような反応をするのでしょうか」
「私も見てみた〜い!」
美咲も、すっかり乗り気になる。
「えぇぇぇ!?」
茜だけが慌てている。
……けれど。
その表情は、笑っていた。
もう止める気はない。
六人の視線が、自然と壁の向こうへ向く。
すると。
セレナが、にやっと笑った。
「さーて……今回は誰が最初に悲鳴を上げるかしら♪」
女湯の空気が、一気に悪ノリモードへと変わっていく。
そして――
壁の向こうでは。
まだ何も知らない男たちが、のんびりと温泉を満喫していた。
-----2分前 男湯
立ち込める湯けむり。
広い湯船。
BBQを終えた男たちは、ゆったりと身体を休めていた。
「はぁ〜……生き返るな」
晋作が、大きく息を吐く。
「BBQの後の温泉は最高だな」
「そうだね」
総司も肩まで浸かりながら微笑む。
「こういう時間も大事だよ」
「うむ」
ラファエルも小さく頷く。
「皆でこうして過ごすのも悪くない」
「だな」
クー・フーリンも腕を組みながら言う。
「戦いの後だからこそ、こういう時間は必要だ」
「……」
晴明は静かに湯に浸かっている。
松平も、いつものように目を閉じながら身体を休めていた。
その時――
「あはははっ♪」
「それいい〜♪」
「やろうやろう〜♪」
壁の向こう。
女湯から、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「……」
「……」
「……」
男湯、沈黙。
そして。
晋作が、そっと目を閉じる。
「……デジャヴだな」
「……うん」
総司が苦笑する。
「完全にデジャヴだね」
「どうした?」
ラファエルが首を傾げる。
「何か問題でもあるのか?」
クー・フーリンも不思議そうな顔をする。
「嫌な予感しかしねぇ」
晋作が真顔で言う。
「問題しかねぇ」
「大袈裟じゃないか?」
ラファエルが笑う。
「いや、割と本気だよ」
総司が苦笑する。
「別府でも似たことがあってね……」
「ほう?」
クー・フーリンが反応する。
「何があったんだ?」
「……説明してやる」
晋作が壁を指差す。
「まず、女湯が盛り上がる」
「うむ」
クー・フーリンが頷く。
「次に、セレナが悪ノリする」
「なるほど」
ラファエルが腕を組む。
「その後、美雪が笑う」
「……なんだその危険人物みたいな説明は」
総司が苦笑する。
「そして、こうなる」
コトン……
湯船に、小さな氷が浮かぶ。
「……」
「……」
「……え?」
ラファエルが固まる。
「浮いたぞ」
クー・フーリンが眉をひそめる。
「そうなんだよ!!」
晋作が叫ぶ。
「これなんだよ!!」
コトン……
コトン……
さらに氷が増える。
「増えてるぞ!?」
ラファエルが飛び上がる。
「説明してる最中に実演されることあるのか!?」
「あるんだよ!!」
晋作が叫ぶ。
「こいつらはやるんだよ!!」
すると。
晴明が静かに口を開く。
「別府の時と同じ流れだな」
「分析するな!!」
晋作が即ツッコむ。
「女湯側が盛り上がる」
「うん」
総司が苦笑する。
「セレナさんが悪ノリする」
「おい」
晋作が反応する。
「そして、美雪さんが笑う」
「怖いな!?」
ラファエルが思わず叫ぶ。
「すると冷気が発生する」
ピキッ……
さらに氷が増える。
「増えたぞ!?」
クー・フーリンが声を上げる。
「……こうなる」
「締めるな!!」
晋作が叫ぶ。
「完成された現象みたいに言うな!!」
すると。
松平が静かに頷く。
「温泉の氷地獄化が始まったな」
「普通に言うな!!」
晋作が叫ぶ。
「なんだよその現象名!!」
「そんな当たり前みたいに言うな!!」
「場所は違うだろ!!ここは沖縄だ!!」
クー・フーリンもツッコむ。
「別府じゃないぞ!!」
「関係ない」
松平が淡々と返す。
「美雪がいる」
「納得できるようなできないような答えやめろ!!」
「もはや災害だな」
「追加するな!!」
「いや待て」
ラファエルが慌てる。
「つまり毎回こうなるのか!?」
「そうだ」
晋作が即答する。
「嫌すぎるぞ!!」
すると。
晴明が静かに補足する。
「正確には、美雪さんだけではない」
「……あ?」
晋作が振り向く。
「女湯全員の悪ノリが揃って完成する」
「共同作業みたいに言うなぁぁぁ!!」
すると。
松平も静かに頷く。
「分析結果は一致しているな」
「分析班が二人になるなぁぁぁ!!」
晋作が叫ぶ。
「被害者のくせに冷静すぎるだろ!!」
その瞬間――
ピキピキピキピキッ!!
湯船の半分が凍り始める。
「うわぁぁぁ!!」
ラファエルが飛び上がる。
「冷たっ!!」
クー・フーリンも慌てて立ち上がる。
「始まったぁぁぁ!!」
晋作が叫ぶ。
――その時。
『あはははは!!』
女湯側から、楽しそうな笑い声が響く。
晋作が壁へ向かって叫ぶ。
「おーーーい!!」
『はーい♪』
即返事。
「返事が早ぇんだよ!!」
『聞こえてるわよ〜♪』
セレナの声。
「それは知ってんだよ!!」
『あははは♪』
『楽しいね〜♪』
『懐かしいな〜♪』
「懐かしくねぇよ!!」
晋作が叫ぶ。
「被害者の前で言う台詞じゃねぇ!!」
すると。
美咲の声。
『今回は人数多いから楽しいね〜♪』
「イベントみたいに言うな!!」
クー・フーリンが叫ぶ。
『ふふっ♪』
ジャンヌも笑う。
『賑やかで素敵ですね♪』
「素敵じゃない!!」
ラファエルも叫ぶ。
『ねぇ、美雪♪』
セレナの声。
『もうちょっとやろうか♪』
『うん♪』
「うんじゃねぇぇぇ!!」
全員絶叫。
ピキピキピキッ!!
「増えたぁぁぁ!!」
「冷てぇぇぇ!!」
「沖縄なんだぞぉぉぉ!!」
すると。
恒一が静かに呟く。
「……沖縄で温泉が凍る経験って、人生で一回あるかないかですね」
「普通はねぇんだよ!!」
晋作が即ツッコむ。
「経験値にすんな!!」
すると。
松平が真顔で頷く。
「貴重な体験だな」
「乗るなぁぁぁ!!」
晴明も頷く。
「土産話にはなるね」
「いらねぇよ!!」
「誰に話すんだよ!!」
すると。
『聞こえてるわよ〜♪』
セレナの声。
「やべっ」
晋作が固まる。
『誰が土産話なの〜?』
『ねぇ美雪〜♪』
『うん〜♪』
『増やそうか♪』
「待て待て待てぇぇぇ!!」
全員絶叫。
ピキピキピキッ!!
「ぎゃあああ!!」
「また増えたぁぁぁ!!」
すると。
クー・フーリンが壁へ向かって叫ぶ。
「お前たちぃぃ!!」
『はーい♪』
「返事すんな!!」
『どうしたの〜?』
「どうしたのじゃない!!」
『楽しいよ〜♪』
「こっちは修行になってるぞ!!」
すると。
千代女の声。
『まぁまぁ、少しくらい涼しい方がいいじゃないか♪』
「少しじゃねぇ!!」
ラファエルが叫ぶ。
「北極だぞ!!」
『あははは♪』
『確かに〜♪』
「肯定すんな!!」
すると。
美雪の声。
『総司くーん♪』
「うん?」
『楽しいね〜♪』
「俺以外はね……」
『えへへ〜♪』
『旦那なのに助けてくれないの〜?』
「無理だよ!!」
『え〜冷たい〜♪』
「そっちが冷やしてるんだって!!」
『あはははは!!』
女湯側、大爆笑。
すると。
千代女が追撃する。
『ほら総司、嫁を止めるのも旦那の役目じゃないか?』
「無理だから!!」
茜も乗っかる。
『総司さん、頑張って〜♪』
ジャンヌも続く。
『応援しています♪』
美咲も笑う。
『ファイト〜♪』
「プレッシャーかけないで!?」
すると。
美雪が笑う。
『止める?』
『増やす?』
「だから二択がおかしいんだって!!」
『じゃあ増やすね〜♪』
「なんでぇぇぇぇ!!」
ピキィィィィッ!!
「ぎゃああああ!!」
「増えたぁぁぁ!!」
「南国返せぇぇぇ!!」
「暖かさ返せぇぇぇ!!」
「俺たちの癒し返せぇぇぇ!!」
すると。
ラファエルが叫ぶ。
「総司ぃぃ!!なんとかしろぉぉ!!」
「無理だって!!」
クー・フーリンも叫ぶ。
「旦那だろぉぉ!!」
「関係ないよ!!」
晋作も叫ぶ。
「嫁止めろぉぉ!!」
「無茶言わないで!!」
すると。
『あははははは!!』
女湯側、大爆笑。
その横で。
松平が真顔で呟く。
「……平和だな」
「平和じゃねぇぇぇ!!」
晴明も頷く。
「賑やかでいいね」
「良くねぇぇぇ!!」
すると。
恒一がぼそっと呟く。
「……なんでしょうね」
一拍。
「この修学旅行みたいな空気」
「分かるけど言うなぁぁぁ!!」
男湯全員の絶叫が、沖縄の夜空へ響き渡った――。




