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3話 影よりきたる者

3話 影よりきたる者

夜桜の下。


屋台の灯りが、ゆらゆらと揺れている。


そこへ。


「お、やっと戻ってきたか」


晋作が軽く手を上げる。


総司と美雪が、四人の元へと歩いてくる。


「遅かったわね」


セレナがくすっと笑う。


「ちょっとな」


総司は短く答える。


美雪は、どこか満足げに微笑んでいた。


「……何かあったんですか?」


茜がじっと二人を見る。


「別に?」


美雪がさらりと返す。


「ただ話してただけだよ?」


少しだけ、いたずらっぽく。


「ふーん……」


茜は納得していない様子で二人を見たが、それ以上は聞かなかった。


「まあいいじゃねぇか」


晋作が串をかじりながら笑う。


「無事戻ってきたんだしよ」


「そうですね」


晴明が静かに頷く。


「それに――こうして全員揃っているのが何よりです」


落ち着いた声に、わずかな柔らかさが滲む。


「……なんか、お父さんみたいですね」


茜がぽつりと呟く。


「ほう?」


晴明がわずかに眉を上げる。


「それは褒め言葉と受け取っていいのかな」


「え、あ……」


茜が少し慌てる。


「ち、違う意味じゃなくてですね……!」


「ははっ」


晋作が楽しそうに笑う。


「いいじゃねぇか、晴明“先生”」


晴明はわずかに肩をすくめる。


「それは、さすがに勘弁していただきたいですね」


淡々としているが、どこか冗談めいた響きだった。


「でも、年齢的には一番上ですよね?」


美雪がふと口を開く。


「見た目はそんなでもないけど」


「……さて」


晴明はわずかに視線を逸らす。


「年齢というものは、あまり気にするものではないですよ」


「出たわね、それ」


セレナが肩をすくめる。


「そういう言い方する人、大体年齢隠してるのよ」


晴明はわずかに目を細めた。


「……否定はしませんよ」


その言葉には、どこか含みがあった。


「しないんだ……」


茜が小さく呟く。


そのやり取りに、小さな笑いが広がる。


「でもよ」


晋作がふっと美雪を見る。


「美雪って、見た目通りじゃねぇだろ?」


「……え?」


茜がきょとんとする。


「雪女なんだろ?」


肩をすくめて続ける。


「ってことは、実際は結構いってんじゃねぇの?」


軽く笑いながら。


「……晋作?」


美雪の声が、わずかに低くなる。


その瞬間、ひやり、と空気がわずかに冷えた。


晋作の手に持っていた飲み物の表面に、うっすらと霜が浮かぶ。


「……っ」


晋作の肩が、わずかに震える。


「……な、なんでもねぇ」


何事もなかったかのように視線を逸らす。


「……あれ?」


美雪がきょとんと首を傾げる。


「もしかして、酔いが回ったのかな?」


どこか無邪気に。


「顔、ちょっと冷えてるよ?」


くすっと、小さく笑った。


「……あなたね」


セレナが呆れたように息をつく。


「女の子に年齢の話を振るなんて、どういう神経してるの?」


軽く肩をすくめながら言う。


「そうそう!」


茜がすかさず頷く。


「美雪さんは、女の子なんですよ?」


どこか得意げに。


「……いや、分かってるけどよ」


晋作が小さくぼやく。


「だったらなおさらよ」


セレナがぴしゃりと言い切る。


「不用意な発言は控えなさい」


「……へいへい」


晋作は軽く肩をすくめた。


だがその手の中の飲み物には、まだわずかに冷気が残っていた。


その時。


美雪の表情が、わずかに変わった。


「……どうした?」


総司がすぐに気づく。


「……何かいる」


小さく、だがはっきりと。


空気が、変わる。


笑いが止まる。


「……え?」


茜が周囲を見回す。


「……やはり、気づきましたか」


晴明の声が、わずかに低くなる。


「ええ」


セレナも杯を置いた。


「……嫌な感じね」


美雪が小さく呟く。


空気が、わずかに冷える。


ざわ、と風が止まる。


屋台の喧騒が、ほんの一瞬だけ遠のいたように感じた。


「……行くぞ」


総司が静かに立ち上がる。


「ここじゃ、まずい」


晋作も同時に立つ。


「人が多すぎるな」


「え、あ、ちょっと待ってください!」


茜が慌てて荷物をまとめる。


「片付けてからにしましょう」


晴明が冷静に言う。


「こういう時ほど、慌てないことです」


「分かってるわよ」


セレナが軽く笑う。


だが、その目は笑っていない。


「……行きましょう」


美雪が総司の隣に立つ。


自然に。


何も言わずに。


六人は動き出した。


夜桜の下を。


静かに、帰路へと向かう。


だがその空気は、先ほどまでとは明らかに違っていた。


夜道。


屋台の灯りから少し離れた帰り道。


提灯の明かりが、背後で揺れている。


「いやー、食ったな」


晋作が、軽く腹を叩く。


「お前、食いすぎだろ」


総司が、少し呆れたように言う。


「若いんでね」


「いや同い年くらいだろ」


「細かいことは気にすんなって」


軽く笑いが起きる。


その横で。


「……こういう時間、悪くないですね」


晴明が、静かに言う。


「でしょ?」


セレナが、くすっと笑う。


「たまにはこういうのもいいものよ」


「……はい」


茜も、小さく頷く。


そして。


「総司くん」


美雪が、ふと横を見る。


「さっき、何考えてたの?」


少しだけ、覗き込むように。


「……別に」


総司は、短く答える。


「ふーん……」


納得していない顔。


だが、追及はしない。


その代わり。


少しだけ、距離を詰める。


肩が、触れる。


「……ね」


「ちゃんと頼ってよ?」


静かに。


でも、どこか優しく。


「一人で抱え込まないで」


「……ああ」


短く答える。


その時だった。


「……」


美雪の足が、止まる。


「……どうした?」


総司が、すぐに気づく。


「……変」


小さく、呟く。


「……空気が」


その一言で。


場の空気が、変わる。


「……やはり」


晴明の声が、低くなる。


「気づきましたか」


「ええ」


セレナの目が、鋭くなる。


「……嫌な感じね」


「……え?」


茜が、不安そうに周囲を見る。


その時だった。


一つの影が――揺れた。


本体は、動いていない。


だが。


影だけが、波打つ。


「おい……」


晋作が、低く呟く。


影の輪郭が崩れ、歪み、そして浮き上がる。


そこから――


黒い腕が、這い出た。


「来るぞ」


総司の声と同時に。


影が、弾ける。


四体の悪魔が、姿を現した。


一斉に――襲いかかる。


「――来て」


美雪が、小さく呟く。


次の瞬間。


すぐ近くの影が、すっと揺れた。


音もなく現れたのは――白い雪豹。


だが、その出現と同時に地を蹴る。


一瞬で距離を詰め、悪魔の一体へ飛び込む。


鋭い爪が閃き、敵の身体を大きく弾き飛ばした。


さらにその勢いのまま、もう一体へ体当たり。


強引に押し返し、距離を作る。


「……っ!?」


悪魔たちの動きが、一瞬止まる。


その隙に。


雪豹は静かに後方へ跳んだ。


その背には――


刀、槍、そして弓が括りつけられている。


「……っ!?」


茜が目を見開く。


「え、ちょっ……!?」


「おいおい……なんだそりゃ」


晋作が、思わず笑う。


「それ、最初からいたの?」


セレナが呆れたように言う。


晴明は、わずかに目を細めた。


「……用意がいいですね」


「……プライベートでは?」


静かに問う。


美雪は、少しだけ視線を逸らす。


「……一応ね」


小さく呟く。


「何が起こるか分からないし」


どこか少し照れたように。


だが、その声に迷いはない。


雪豹が、静かに歩み寄る。


総司の前で止まり――菊一文字を差し出す。


総司は、無言でそれを受け取る。


一度、腰へ。


自然な所作で、帯びる。


――馴染む。


次の瞬間。


静かに、鞘から引き抜く。


月明かりを受けて、刃が光る。


その一動作だけで、空気が変わった。


次に、セレナへ――天の逆鉾。


槍を受け取り、軽く回す。


「……あら?」


「もう一本は?」


「……ごめん」


美雪が小さく言う。


「さすがに、全部は持たせてない」


一拍。


「目立ちすぎるし」


ほんの少し、笑う。


「このくらいで十分でしょ?」


セレナは、ふっと笑った。


「ええ、上等よ」


槍を構える。


「一本あれば――事足りるわ」


茜へ――梓弓。


「……っ」


一瞬驚きながらも、すぐに構える。


「いけます!」


晋作が、銃を構える。


「準備万端ってか」


口元に、笑み。


その一言に。


セレナが、ちらりと視線を向けた。


「……あなたね」


少し呆れたように。


「晴明は武器がほぼないからいいとして」


一拍。


「そう言う晋作も――ちゃっかり銃だけ持ってきてるじゃない」


「おいおい」


晋作が、肩をすくめる。


「これは“たまたま”だ」


「嘘つきね」


セレナが、ふっと笑う。


「こういう時のために持ってるんでしょ?」


「……まあな」


否定しない。


口元だけで、笑う。


そのやり取りを横で聞きながら。


晴明が、静かに口を開いた。


「備えあれば憂いなし、ということですね」


どこか、含みのある声。


「……だな」


晋作が、軽く頷く。


その空気を――


総司の一言が切り裂く。

 

「――いくぞ」


総司の一声。


その瞬間、全員が動いた。


「オン・シバリ・ソワカ……急急如律令」


晴明の声と同時に、二体の悪魔の動きが止まる。


見えない力に縛られるように、その場に固定される。


「凍てて」


美雪が静かに手をかざす。


残る二体の足元が、一瞬で凍りついた。


逃げ場はない。


「――今だ」


最初に動いたのは、晋作だった。


「っ、捉えた」


乾いた銃声。


弾丸が一直線に飛び、拘束された悪魔の頭部を撃ち抜く。


黒い身体が弾け、霧のように消える。


「遅いわよ」


セレナが踏み込む。


地面を抉る加速。


天の逆鉾が一直線に突き出される。


“貫く”のではない。


“抉る”。


内部から破壊する一撃。


二体目が崩れる。


氷に捕らえられた悪魔が、もがく。


だが――


「そこです!」


茜が弓を引き絞る。


放たれた破魔矢は淡い光を帯びて飛び、


突き刺さると同時に、浄化の光が広がる。


黒い瘴気がほどけ、悪魔は静かに消えていった。


残る一体。


「……終わりだ」


総司が踏み込む。


最短距離。


無駄のない一閃。


悪魔の身体が音もなく断ち切られる。


四体、全滅。


だが――


「……まだ、いる」


美雪の声。


影が、大きく歪む。


そこから現れたのは――


一人の男。


夜の闇を纏ったような、黒の軍装。


西洋の騎士を思わせる装いだが、重厚すぎない。


肩と胸にだけ施された軽装の鎧が、静かに光を受ける。


腰に帯びているのは――直剣。


片手でも扱えるが、本来は両手で振るうことを前提とした武器。


斬りも、突きも可能な実戦の剣。


その佇まいだけで分かる。


“戦うための剣”。


銀の髪が、月明かりに揺れる。


その奥で。


深紅の瞳が、静かにこちらを見据えていた。


ただ立っているだけで分かる。


“格が違う”。


空気そのものが、重く沈んでいた。


「……ほう」


低く、響く声。


「いい連携だ」


視線が、総司へ向く。


「特に――君」


「……何者だ」


総司が、静かに問う。


男は、わずかに口元を歪めた。


「名を問うか」


一拍。


わずかに肩をすくめる。


「この国では――人に名を問う前に、自ら名乗るものではなかったか?」


静かに。


だが、どこか余裕を含んだ声音。


そして。


「……まあ、いい」


軽く流す。


「ならば、少しだけ教えてやろう」


ゆっくりと、剣を肩に乗せる。


視線が、まっすぐに総司を射抜く。


「我は――とある夜の貴族社会に連なる者」


低く、響く声。


「その末席に名を連ねるに過ぎぬ」


わずかに、笑う。


「君たちの尺度で言えば……そうだな」


ほんの一瞬、間を置き。


「“吸血種”とでも呼ぶべきか」


その声音には。


軽さは一切なかった。


「来い」


男のその言葉と同時に。


総司が、地を蹴った。


一瞬で間合いを詰める。


最短距離。


迷いのない初撃。


刀が、閃く。


だが――


「いい初手だ」


直剣が、そこに“置かれる”。


受けるでもなく。


弾くでもなく。


軌道だけを、ずらす。


総司の斬撃が、流される。


次の瞬間。


男が消えた。


「――!」


背後。


振り向くより早く。


振り下ろし。


重い。


速い。


「……っ」


受ける。


だが、正面では受けない。


逸らす。


流す。


力を殺す。


腕に残る衝撃だけが、異質さを伝える。


「ほう」


男が、低く笑う。


そのまま。


追撃。


横薙ぎ。


広い間合いを一気に薙ぐ。


総司は――下がらない。


踏み込む。


刃の内側へ。


間合いを潰す。


「――はっ」


最短の斬撃。


だが。


「甘い」


直剣が、わずかに傾く。


受け流される。


そのまま。


返す。


切り上げ。


さらに突き。


淀みのない連撃。


西洋剣術の合理。


対して。


総司は――受けない。


流す。


逸らす。


躱す。


円を描くように。


必要最低限の動きで。


すべてを外す。


「……なるほど」


男の目が、細まる。


その瞬間。


「……」


総司が、動く。


一歩。


踏み込む。


守りではない。


先に出る。


刀が閃く。


割り込む一撃。


攻撃の“起こり”を潰す。


「……っ」


男の動きが、止まる。


初めて。


完全ではない。


だが、確かに崩れた。


「そこだ」


総司が踏み込む。


連続の斬撃。


最短距離。


無駄のない連撃。


畳みかける。


だが――


「いい」


男が、笑う。


直剣が動く。


すべてを受け流す。


それでも。


わずかに。


押されている。


「……ほう」


男の目が、細まる。


その瞬間――


「総司くん、今」


美雪の声。


足元が、凍る。


一瞬。


ほんのわずか。


踏み込みが、鈍る。


「――!」


その隙。


総司が踏み込む。


一閃。


今度こそ。


確実に捉える。


火花。


直剣が割り込む。


完全には通らない。


だが。


一歩、押し込む。


男の体勢が、わずかに崩れる。


「……いい連携だ」


男が、笑う。


初めて。


明確に。


“評価”の色が混じる。


静寂。


互いに構えたまま。


動かない。


夜風が、二人の間を抜ける。


総司が、口を開く。


「……沖田総司」


一度、名乗る。


そして――


脳裏に、よぎる。


“誠”の文字の旗。


一瞬。


だが、確かに。


息を吐く。


構え直す。


「――新選組一番隊」


一歩、踏み出す。


「隊長」


視線を、まっすぐに向ける。


「沖田総司だ」


空気が、変わる。


男が、わずかに目を細める。


「ほう」


ゆっくりと、剣を肩に乗せる。


「ならば、こちらも名乗ろう」


「我が名は――ルシアン・フォン・ナハト」


低く、響く声。


「夜に連なる家の者だ」


わずかに、笑う。


その視線が――セレナへ。


「……その槍」


「ただの武具ではあるまい、神具の類か…」


「もう一本あるはずだ」


セレナが、無言で睨み返す。

 

一拍。


「伝説の武具でもあり、呪いを宿した槍――ゲイ・ボルグ」


空気が、張り詰める。


「いずれ、それは我らが手にする」


静かに。


だが、確信を持って。


「その時まで――せいぜい、失くさぬことだ」


一歩、下がる。


「沖田総司」


名を呼ぶ。


「気に入った」


ふっと、笑う。


「今日は、この程度にしておこう」


影が、揺れる。


「次は――もっと深い夜で会おう」


そのまま。


闇に溶けるように。


姿が消えた。


総司は、すぐには刀を納めない。


気配を読む。


――もう、いない。


ふっと、息を吐く。


そして。


静かに。


刀を鞘へと納める。


それが――


この戦いの、終わりだった。


静寂が、戻る。


夜の空気が、ゆっくりと流れ始める。


「……行った、か」


晋作が、小さく呟く。


「ええ」


セレナが、静かに頷く。


その視線は、まだ影のあった場所に向けられていた。


「……でも」


わずかに、目を細める。


「厄介ね」


「“ゲイ・ボルグ”を狙っている……ですか」


晴明が、静かに言う。


「しかも、“我らが手にする”なんて言ってたし」


晋作が肩をすくめる。


「……あれ、そんなにヤバい槍なのか?」


茜が、不安そうにセレナを見る。


セレナは、少しだけ黙る。


そして――


「……ええ」


静かに、答える。


「下手をすれば、戦況を一変させるくらいにはね」


軽く笑う。


だが、その目は笑っていない。


「だからこそ――」


一拍。


「絶対に渡す気はないけど」


ほんの一瞬。


その表情に、影が差す。


「……私の過去にも関係する話だし」


小さく、息を吐く。


「そろそろ潮時かな」


視線を上げる。


「仲間だし」


「ちゃんと皆んなにも話しておいた方がいいわね」


空気が、少しだけ引き締まる。


「……重そうだな」


晋作が、ぼそっと言う。


「だからよ」


セレナが、軽く肩をすくめる。


「飲み直しながら話す」


一拍。


そして――


「場所は――」


さらりと。


「美雪の部屋に一時間後、集合ね」


「……は?」


美雪が、固まる。


「え?」


少し遅れて、声が出る。


「ちょっと待って」


「私の部屋?」


「ええ」


セレナが、当然のように頷く。


「ちょうどいいでしょ?」


「いや、ちょうどよくないよ!?」


少し慌てる。


「なんでそうなるの……?」


「だって――」


セレナが、にやっと笑う。


「気になるじゃない」


一歩、距離を詰める。


「美雪の部屋」


「どんな感じなのか」


「……っ」


美雪が、わずかに言葉に詰まる。


「別に、普通だってば……」


「絶対普通じゃないでしょ」


即答。


「やめてって……」


「いいじゃない」


軽く笑う。


「減るもんじゃないし」


「減るよ!」


即座に返す。


「色々と!」


「何が?」


「……っ」


言い返せない。


「……くくっ」


晋作が、肩を揺らす。


「もう決まりだな」


「いや、決まってないから!」


「まあまあ」


軽く手を振る。


「どうせ集まる場所必要なんだし」


「それに」


ちらっと、セレナを見る。


「こいつ、もう決めてる顔だぞ」


「当然」


セレナが、さらりと返す。


「……横暴よ……」


美雪が、小さく呟く。


その横で。


「……ふふ」


茜が、少しだけ笑う。


「私も、ちょっと気になります」


「茜まで……!?」


追い打ち。


「場としても問題ありません」


晴明が、静かに言う。


完全に、包囲される。


「……」


美雪は、ふっと視線を横に向けた。


隣にいる総司を見る。


ほんの一瞬。


助けを求めるように。


だが――


「……」


総司は、軽く肩をすくめるだけだった。


止める気は、ない。


「……そっち側なんだ」


小さく、呟く。


観念したように、息を吐く。


「……分かったよ」


「もう、好きにして……」


一拍。


そして――


少しだけ顔を上げる。


「……じゃあ」


小さく、言葉を整える。


「一時間後ね」


軽く周囲を見る。


「ちゃんと来てよ?」


その言葉で、場がまとまる。


「了解っと」


晋作が、軽く手を上げる。

 

「その前に、この戦闘で近隣には被害出てないけど音とかで後で問題になったりさないかな?」

総司が口を挟む。


「うーん、銃声もしましたし…警察呼ばれたりするかも?」

 茜も心配そうに銃声の張本人に視線を送る。


 「お、俺のせいか?」

 満場一致て全員頷く。


 「まぁ、AX班に連絡しとくね!一応は後処理が必要かもってぐらいで…」

 そういうとセレナはバッグからスマホを取り出した。

「連絡は私と晴明が買い物しながらしとくから1時間後に美雪の部屋ね!」


 「じゃ、解散だな」


それぞれが動き出す。


 残る二人。


総司と、美雪。


「……大変だな」


総司が、少しだけ苦笑して言う。


「ほんとだよ……」


美雪が、軽く肩を落とす。


少しだけ、間。


そして――


「……さっきさ」


ぽつりと、呟く。


「助けてくれてもよかったのに」


ちらっと、横を見る。


ほんの少しだけ拗ねた顔。


「……」


総司は、その視線を受けて。


わずかに表情を緩める。


「悪い」


静かに、言う。


「止めようとは思ったんだけどね…」


少しだけ、間を置く。


「多分、止まらないだろうなって思って」


「……うん否定してもダメだろうなーって感じてた…」


小さく、頷く。


「でもさ!」


少しだけ笑う。


「ちょっとくらい味方してくれてもよくない?」


「してるつもりだったよ?」


総司が、穏やかに返す。


「ちゃんと見てたし」


一拍。


「必要なら、すぐ間に入るつもりだったよ?」


少しだけ視線を落とす。


「無理はさせないつもりだったし」


「……」


一瞬、言葉が止まる。


「それ、ちょっとずるい」


でも、どこか嬉しそうに。


「見てるだけってさ」


「見てるだけじゃない」


やわらかく、言う。


「任せてる」


総司の一言。


押しつけない。


でも、ちゃんと伝える。


「……っ」


少しだけ、目を見開く。


そして――


「……そっか」


ふっと、笑う。


「じゃあ、信頼されてたってことでいい?」


「そう思っていいよ」


少しだけ、優しく言う。


少しだけ、間。


「……ありがと」


小さく、呟く。


今度は、ちゃんと聞こえる声で。


「どういたしまして」


総司が、自然に返す。


その一言に。


美雪が、少しだけ驚いたように笑う。


「……珍しい」


「そうか?」


少しだけ、肩をすくめる。


「うん」


くすっと笑う。


「でも、こんな感じもいいね」


そのまま。


二人は並んで歩き出す。


夜道を。


さっきまでより、ずっと柔らかい空気で。


「……行こっか」


「買い出し」


「……ああ」


自然に。


隣同士で。


静かな夜の中へと、歩いていく。


近場のコンビニ


自動ドアが開く。


明るい光が、二人を包む。


さっきまでの戦いが嘘のような、ありふれた空間。


「……何にする?」


冷蔵ケースを覗きながら、美雪が言う。


「お酒かな」


総司がゆるく答える。


「ざっくりだね」


美雪が小さく笑う。


「酎ハイ?それとも日本酒とか?」


「強すぎない方がいいかも」


総司は並んだ缶を見ながら答える。


「じゃあ酎ハイにしよっか」


美雪が頷く。


ガラス越しに並ぶ缶を見つめながら。


「レモンと……グレープフルーツ」


一本ずつ取る。


「あとこれも」


もう一本、軽めのものを手に取る。


「それ、甘いの?」


総司が少し首を傾げる。


「うん、飲みやすいよ」


振り返って笑う美雪。


「じゃあ、それもいいね」


「はい、これ」


一本差し出す。


「ありがとう」


総司が受け取り、そのままカゴに入れる。


「おつまみは?」


美雪が棚の方へ歩き出す。


「……これとかどう?」


手に取ったのは、柿の種。


「いいと思う」


総司が頷く。


「やっぱ定番だよね」


美雪が笑いながらカゴへ入れる。


「あとチーズも」


小さなパックを手に取る。


「それもいいね」


「でしょ?」


少し得意げに笑う。


「お酒に合うし」


さらに。


「……あ、これも」


ビーフジャーキーを手に取る。


「総司くん、こういうの好きそう」


「うん、好きだと思う…食べたことないけど…」


自然に返す。


「やっぱり!なら食べてみよう!」


くすっと笑う美雪。


「よし、これでいこ」


カゴの中を見て、満足そうに頷く。


「……こんなもんかな」


「足りそう?」


美雪が振り返る。


「足りると思うよ…みんな持ち寄りってなってるし」


総司が静かに答える。


「足りなかったら、また買えばいいしね」


 カゴを持って、レジへ向かう。


「いらっしゃいませ」


店員の声が、静かに響く。


美雪が商品を一つずつ置いていく。


酎ハイ、軽めの缶、柿の種、チーズ、ビーフジャーキー。


「……意外と多いね」


横で見ながら、総司が言う。


「人数いるし、多めに買っても損はないと思う」


美雪が軽く笑う。


会計を済ませる。


袋に詰められた商品を受け取り、美雪が振り返る。


「……持つ?」


「うん、持つよ」


総司が自然に袋を受け取る。


「ありがと」


小さく言う。


自動ドアが開く。


夜の空気が、二人を包む。


袋の中で、缶が小さく触れ合う音が鳴る。


並んで歩き出す。


しばらく、言葉はない。


「……ね」


美雪が、ぽつりと口を開く。


「総司くんってさ」


少しだけ横を見る。


「普段、何してるの?」


「普段?」


総司が少し考える。


「特に変わったことはしてないと思う」


「ほんとに?」


少し笑う。


「なんか、ずっと剣のこと考えてそう」


「……否定はしない」


「やっぱり」


くすっと笑う。


少しだけ、間。


「でも、今は?」


「今は……」


総司が、少しだけ視線を前に向ける。


「こういう時間も悪くない」


ぽつりと、言う。


「……そっか」


美雪が、小さく笑う。


そのまま少し歩いて。


今度は、総司が口を開く。


「美雪ちゃんは?」


「え?」


少し驚いたように振り向く。


「普段、どんなふうに過ごしてる?」


「……うーん」


少し考える。


「普通だよ?」


「普通って?」


「えっと……」


少しだけ迷って。


「部屋でのんびりしたり」


「あと、外に出るのも嫌いじゃないし」


「買い物とか、散歩とか」


「そういうの」


「……そうか」


総司が、静かに頷く。


「なんか、意外?」


美雪が少しだけ笑う。


「いや」


首を横に振る。


「想像通りかも」


「なにそれ」


少しだけ笑う。


そのまま。


二人は歩く。


同じ歩幅で。


やがて――


足が止まる。


「……ここ」


美雪が、小さく言う。


同じマンションの一室。


政府からあてがわれた、彼女たちの拠点でもある場所。


「着いたね」


総司が静かに言う。


「うん」


少しだけ息を整える。


「……なんか変な感じ」


小さく笑う。


「自分の部屋なのにさ」


一拍。


「人呼ぶの、初めてだし……」


少しだけ視線を逸らす。


「……そっか、なら俺が1人目だ」


総司が、やわらかく返す。


 「確かに総司くんが初のお客様だね…」

少し頬を赤くしながら美雪が鍵を取り出す。


カチャ、と音が鳴る。


ドアノブに手をかける。


ほんの一瞬、止まる。


その向こうを思うように。


「……」


小さく、息を吸う。


そして――


ガチャッ。

そして2人はドアを開けた。


3話完


続けての投稿となりました。

3話目です。


お楽しみいただければ幸いです。

レビューや評価など励みになりますので、コメントを含めいただければと存じます。


※次回は3〜5日以内に投稿できる様作成いたします。

よろしくお願いいたします

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