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18話 京都編Ⅳ:三条決戦

18話 京都編Ⅳ:三条決戦

――三条河原。


空気が、重い。


息を吸うだけで、違和感が残る。


「……」


目の前の男。


田中新兵衛の身体。


だが――


“中身が違う”。


黒い何かが、滲み出ている。


揺れながら、脈打つ。


生きているように。


「……徳川に連なる者、か」


低い声。


耳ではなく、頭に響く。


「ならば――ここで朽ちるが道理」


次の瞬間。


ドンッ!!


圧が落ちる。


「――っ!?」


セレナが受ける。


ガキィィンッ!!


喉元への一撃。


槍で逸らす。


だが――


ズンッ!!


足元が砕ける。


体勢が崩れる。


ドンッ!!


弾き飛ばされる。


地面に叩きつけられる。


「……っ!」


息が抜ける。


そのまま――


振り下ろし。


直撃。


「――っ!」


キィンッ!!


総司が割り込む。


受ける。


だが――


重い。


膝が沈む。


押し潰される。


ヒュンッ!!


横から走る斬撃。


「――っ!」


茜の足元が弾ける。


踏み込みが崩れる。


ドンッ!!


懐。


衝撃。


呼吸が止まる。


その背後――


バンッ!!


晋作。


「――っ!」


刀で受ける。


キィンッ!!


だが――


押し切られる。


ドンッ!!


地面へ。


叩きつけられる。


動けない。


(……何だ、これ……)


(全部、遅れてる……)


その間にも。


三成は止まらない。


総司が弾かれる。


セレナが崩れる。


茜が距離を奪われる。


美雪の氷が砕かれる。


晴明の式が弾ける。


同時に。


すべて。


「……」


三成が、止まる。


ただ立つ。


それだけで。


理解する。


――次で死ぬ。


誰も動けない。


「……これ……」


茜が、息を呑む。


その中で。


総司が立ち上がる。


血を拭う。


「……まだだよ」


小さく。


だが、揺れない。


「終わってない」


その一言。


わずかに、空気が変わる。


一拍。


そして――


「――潰す」


ドンッ!!!!


再び踏み込む。


逃げ場はない。


――戦場が、凍りつく。


ドンッ!!!!


踏み込み。


視界から、消える。


「――っ!?」


気づいた時には。


目の前にいる。


振り下ろし。


一直線に――総司へ。


(速い――)


違う。


(間に合わない)


身体が、動かない。


理解だけが先に来る。


この一撃は――


防げない。


その瞬間。


パキンッ!!


氷が、割り込む。


美雪。


両手で、受けている。


「……っ!」


止まらない。


刃が、押し込まれる。


ミシッ……と。


嫌な音が響く。


氷が、軋む。


(ダメ……)


分かっている。


持たない。


それでも。


「……総司くん……っ」


離さない。


一歩。


押される。


足元が削れる。


さらに一歩。


距離が、消える。


もう、避けられない。


完全に――詰んでいる。


そのとき。


バンッ!!


銃声。


横から。


晋作。


倒れたまま。


銃口だけを向けている。


「こっち見ろよ」


弾丸が、走る。


三成の顔面を、掠める。


ほんの、わずか。


視線が、揺れる。


ただ、それだけ。


だが――


それで十分だった。


キィンッ!!


総司が動く。


押し込まれていた刃を、弾き上げる。


その反動で。


身体が、後方へ跳ぶ。


受けたわけじゃない。


吹き飛ばされたに近い。


地面に叩きつけられる。


転がる。


「……っ!」


息が、吸えない。


肺が焼ける。


それでも。


生きている。


ほんの、紙一重で。


「はぁ……っ……」


誰も、動けない。


理解してしまった。


今の一撃。


あれは、防いだんじゃない。


“逸れただけ”だ。


もし、あの銃弾がなければ。


もし、あの一瞬がなければ。


確実に、終わっていた。


「……」


三成は、ただ立っている。


何も変わらない。


呼吸すら、乱れていない。


まるで。


今のすべてが、無意味だったかのように。


(……勝てない)


その感覚が、全員に落ちる。


静かに。


確実に。


だが――


それでも。


総司が、ゆっくりと立ち上がる。


血を拭う。


呼吸を整える。


視線は、逸らさない。


「……まだだよ」


小さく。


だが、確かに。


「終わってない」


その一言が。


わずかに、空気を押し返す。


「はぁ……っ……」


荒い呼吸だけが、残る。


誰も、すぐには動けない。


視線の先。


三成は、変わらずそこに立っている。


傷一つ、残っていない。


さっきまで確かに与えたはずの傷が。


まるで、最初からなかったかのように。


「……再生してる……」


茜の声が、震える。


「完全に、だな」


晋作が吐き捨てる。


銃を構えたまま。


だが、その表情は険しい。


「ただの再生じゃねぇ……」


「ええ」


晴明が、低く応じる。


視線は、三成ではなく――周囲へ。


「この場そのものに、術が組まれています」


一拍。


空気の流れ。


地の気。


わずかな“歪み”。


それを、読む。


「……四方」


小さく、呟く。


「……?」


美雪が顔を上げる。


「この三条河原一帯――」


晴明の声が、少しだけ鋭くなる。


「四つの“核”で支えられています」


その言葉と同時に。


微かに。


光が見えた。


遠く。


河原の端。


そして、対岸。


「……あれか」


晋作が、目を細める。


わずかに浮かび上がる、異質な気配。


「祭壇……!」


茜が、息を呑む。


「泰山府君祭の応用……」


晴明が続ける。


「この地に溜まった怨念を媒介に、肉体を維持している」


「……つまり?」


セレナが、ゆっくりと立ち上がる。


まだ、呼吸は荒い。


だが、その目は死んでいない。


「壊せば、落ちる」


晋作が、短く言う。


「ええ」


晴明が頷く。


「術の基盤を断てば――再生は止まる」


一拍。


だが。


「……問題は」


美雪が、前を見る。


三成。


動いていない。


だが。


“見ている”。


こちらを。


「近づかせてくれるとは思えないわね」


セレナが、静かに言う。


その通りだ。


今の攻防で、分かっている。


あれは――


近づく前に殺される。


「……っ」


茜が、弓を握る。


指が、わずかに震える。


それでも。


離さない。


その中で。


総司が、一歩前に出る。


「……やるしかないよね」


静かに。


だが、迷いはない。


「このままだと、確実に全滅だ」


その言葉に。


誰も否定しない。


事実だからだ。


「なら――」


晋作が、口元を歪める。


「やることは決まってる」


刀を構える。


銃も、同時に。


「道、こじ開けるぞ」


「任せて」


セレナが、槍を構える。


「突破役は得意なの」


「私たちは援護します」


茜が弓を引く。


晴明が符を構える。


「合わせます」


「……うん」


美雪が、静かに頷く。


その手に、冷気が集まる。


そして――


総司。


刀を握る。


静かに。


「行こうか」


その一言で。


空気が、変わる。


次の瞬間――


三成が、動く。


「――潰す」


ドンッ!!!!


地面が爆ぜる。


「来る!」


晴明の声。


次の瞬間。


三成が、消える。


「――っ!」


総司が踏み込む。


迎えに行く。


キィンッ!!


衝突。


火花が散る。


だが――


重い。


押される。


「総司くん、下がって!」


美雪の声。


パキンッ!!


足元だけじゃない。


空気ごと凍らせるように、氷が広がる。


三成の動きが、わずかに鈍る。


その瞬間――


「まだ……!」


無数の氷柱が、宙に浮かぶ。


「――行け!」


一斉に放たれる。


一直線。


だが――


ヒュンッ!!


斬られる。


砕ける。


それでも。


視線が、逸れる。


「今!」


晋作が横から入る。


刀。


キィンッ!!


さらに――


バンッ!!


銃。


至近距離。


連続で叩き込む。


三成の身体が、わずかにぶれる。


「行くわよ!」


セレナが踏み込む。


槍を振り抜く。


ドンッ!!


衝撃。


押し返す。


ほんの僅か。


だが。


十分だった。


「走れ!!」


晋作が叫ぶ。


茜と晴明が動く。


一直線に、祭壇へ。


「――っ!」


三成の視線が動く。


次の瞬間。


ドンッ!!


消える。


「させない!」


美雪が踏み込む。


パキンッ!!


氷壁が展開される。


横から。


振り下ろしが逸れる。


だが――


砕ける。


衝撃が抜ける。


ドンッ!!


美雪が弾き飛ばされる。


「っ……!」


止まらない。


ヒュンッ!!


横から叩き込まれる斬撃。


「――っ!」


セレナの足元が弾ける。


体勢が崩れる。


間合いが潰れる。


振り下ろし。


直撃コース。


その瞬間――


キィンッ!!


総司が戻る。


受ける。


だが。


押し込まれる。


「っ……!」


ミシッ……


腕が軋む。


その背後――


バンッ!!


晋作。


撃つ。


さらにもう一発。


バンッ!!


三成の視線が揺れる。


その一瞬。


「通します!」


茜。


矢を放つ。


一直線。


ドンッ!!


祭壇が砕ける。


「一つ!」


晴明が叫ぶ。


だが――


止まらない。


三成の気配が膨れ上がる。


空気が、重くなる。


「……っ!」


次の瞬間。


ドンッ!!


総司が。


セレナが。


晋作が。


同時に吹き飛ぶ。


地面を転がる。


「ぐっ……!」


息が抜ける。


立てない。


その隙。


三成が、消える。


標的は――茜。


「――っ!」


振り向く。


だが遅い。


距離、ゼロ。


振り下ろし。


確定。


その瞬間――


バチッ!!


符が展開される。


晴明。


「――急急如律令!」


無理やり割り込む。


だが――


砕ける。


止まらない。


「……っ!」


終わる。


その直前。


パキンッ!!


氷が走る。


地面から、鎖のように絡みつく。


三成の脚を、一瞬拘束する。


「まだ……止まって!」


美雪。


息を切らしながら。


さらに。


氷の刃が横から走る。


軌道が、逸れる。


その一瞬で――


茜が転がる。


回避。


「……っ!」


まだ生きている。


そのまま。


「行きます!」


矢を放つ。


二つ目。


ドンッ!!


祭壇が砕ける。


「二つ!」


晴明が叫ぶ。


だが。


まだ半分。


三成が、ゆっくりと振り向く。


「――潰す」


ドンッ!!!!


踏み込む。


今度は。


全員まとめて。


殺しに来る。


――止まらない。


ドンッ!!!!


圧が、叩きつけられる。


地面が砕ける。


逃げ場が、ない。


「――っ!」


総司が踏み込む。


受ける。


キィンッ!!


だが――


重い。


押し切られる。


ズンッ!!


胴に衝撃。


身体が浮く。


吹き飛ばされる。


「総司くん!」


美雪の声。


だが、届かない。


三成は止まらない。


ヒュンッ!!


横から叩き込まれる斬撃。


「――っ!」


晋作の肩口が裂ける。


踏ん張る。


だが――


ドンッ!!


蹴り。


地面に叩きつけられる。


「っ……!」


呼吸が止まる。


その隙。


セレナへ。


振り下ろし。


「くっ……!」


槍で受ける。


ガキィィンッ!!


だが――


押し込まれる。


足元が砕ける。


耐えきれない。


ドンッ!!


弾き飛ばされる。


「……っ!」


全員、限界。


それでも――


「まだ……!」


美雪が手を上げる。


冷気が集まる。


パキンッ!!


地面が凍る。


一気に広がる。


足場を奪う。


さらに――


無数の氷柱。


宙に浮かぶ。


「止まれ……!」


放つ。


一斉に。


ヒュンッ!!


斬られる。


砕ける。


だが――


一瞬。


視線が逸れる。


「行けぇ!!」


晋作が叫ぶ。


血を流しながら立つ。


銃を構える。


バンッ!!


バンッ!!


連射。


意識を引きつける。


その横。


「通します!」


茜。


矢を放つ。


一直線。


ドンッ!!


三つ目。


祭壇が砕ける。


「残り一つ!」


晴明が叫ぶ。


その瞬間。


三成の気配が膨れ上がる。


黒が溢れる。


空気が歪む。


「……っ!」


来る。


ドンッ!!!!


爆発的に踏み込む。


全員を巻き込むように。


その瞬間――


パキンッ!!


氷壁。


美雪。


正面に展開。


受ける。


だが――


ミシッ……!!


砕ける。


止まらない。


押し込まれる。


「……っ!!」


振り下ろし。


貫く軌道。


その直前――


キィンッ!!


総司が割り込む。


受ける。


限界。


だが――


「今!!」


晴明が叫ぶ。


式が走る。


「――急急如律令!!」


最後の祭壇へ。


ドンッ!!


砕ける。


――四つ。


すべて、破壊。


その瞬間。


空気が、変わる。


黒が、揺らぐ。


「……っ!」


三成の動きが止まる。


ほんの一瞬。


その“間”。


「――行くわよ」


セレナ。


静かに。


槍を構える。


「合わせろ」


晋作。


刀と銃。


同時に。


「……うん」


総司。


刀を握る。


その背に――


美雪が手を添える。


冷気が流れ込む。


菊一文字。


刀身に白い紋様が浮かぶ。


雪。


結晶。


「……いいね」


静かに。


構える。


三人。


並ぶ。


「――行く」


ドンッ!!


同時に踏み込む。


三方向。


交差。


キィィンッ!!


剣戟が爆ぜる。


一瞬。


その隙。


セレナが踏み込む。


距離が消える。


そこに“現れる”。


「――リーサル・エンブレイス」


低く、静かに。


その瞬間。


ゲイ・ボルグが脈打つ。


赤黒く。


ドクン、と。


空気が歪む。


狙いは、ただ一点。


心臓。


その瞬間――


結果が、先に決まる。


“この一撃は、心臓を貫く”


三成が動く。


避けようとする。


だが――


ズレる。


間に合っているはずの動きが、


ほんの僅かに遅れる。


刃が、届かない。


防御が、噛み合わない。


すべてが外れる。


「……っ!」


理解が追いつかないまま――


槍が、そこにある。


心臓の位置に。


「――ッ!」


貫く。


確定した結果をなぞるように。


その瞬間――


「――雪華三段突き」


総司が踏み込む。


一閃。


低く。


足元を払う斬撃。


凍気が走る。


動きが、鈍る。


続けて――


二閃。


逆袈裟。


胴を裂く。


氷が絡みつく。


防御ごと、崩す。


そして――


三閃。


最短。


一直線。


迷いのない突き。


雪が舞う。


因果で固定された“心臓”へ。


逃げ場は、ない。


「――っ!」


貫く。


完全に。


静寂。


時間が止まる。


誰も、動かない。


その中で――


ピキッ……


ひびが走る。


黒が、滲む。


崩れる、はずの肉体。


だが――


「……まだか」


晋作が呟く。


黒が、溢れる。


止まらない。


「来るぞ」


晴明が低く言う。


その瞬間。


黒が、爆ぜる。


ピキッ……


音が、広がる。


ひびが走る。


三成の身体。


いや――


“殻”。


「……っ」


誰も、動けない。


貫いたはずだ。


確実に。


心臓を。


それでも。


壊れない。


次の瞬間。


バキンッ!!


砕ける。


肉体が。


内側から、弾け飛ぶ。


黒が、溢れ出す。


液体のように。


煙のように。


それが――


形を成す。


「……なに、あれ……」


茜の声が、震える。


人の形をしていない。


腕が、歪む。


顔が、崩れる。


いくつもの“目”のようなものが、浮かぶ。


そして。


声が、響く。


「――足りぬ」


重い。


低い。


だが。


明らかに、さっきまでと違う。


複数の声が、重なっている。


「……まだ、足りぬ」


空気が、歪む。


地面が、軋む。


存在しているだけで、場が壊れていく。


「……っ!」


晴明が、歯を食いしばる。


「やはり……!」


その目が、確信に変わる。


「器ではない……!」


「これは――」


一拍。


「この地に溜まった怨念そのものだ!」


その言葉と同時に。


黒が、膨れ上がる。


三条河原一帯。


地面から。


空気から。


“何か”が吸い上げられていく。


怨念。


感情。


残滓。


すべてが、そこに集まる。


「……ふざけた存在ね」


セレナが、吐き捨てる。


槍を構える。


だが――


わずかに、手が重い。


「……っ」


総司も感じている。


身体が、重い。


動きが、鈍る。


まるで。


この場そのものに、押さえつけられているような感覚。


「これ……まずいな」


晋作が、低く言う。


銃を構える。


だが、撃たない。


分かっている。


“今までと同じじゃ通らない”。


その中で。


黒が、ゆっくりと形を整える。


歪んだ人型。


だが、明らかに人ではない。


「――喰らえ」


その一言で。


空気が、裂けた。


ドンッ!!!!


衝撃が、落ちる。


地面が抉れる。


「――っ!!」


全員が、吹き飛ばされる。


防御が、間に合わない。


意味を持たない。


桁が、違う。


「がっ……!」


総司が転がる。


起き上がれない。


「……っ!」


セレナも。


晋作も。


立てない。


その中で。


黒が、ゆっくりと動く。


迫る。


逃げ場はない。


完全に。


“次で終わる”。


その瞬間。


「……まだだよ」


小さな声。


総司。


血を流しながら。


それでも、立つ。


膝が震えている。


だが――


折れていない。


「終わってない」


その視線。


真っ直ぐに。


“それ”を見る。


その瞬間。


黒が、わずかに揺れる。


初めて。


反応する。


「……ほう」


低く。


歪んだ声。


「まだ、折れぬか」


一歩。


踏み出す。


地面が、沈む。


「ならば――」


黒が、収束する。


一点に。


「完全に、潰す」


次の一撃が来る。


晴明の声が、静かに落ちる。


次の瞬間――


地面に、光が走る。


細い線が、三条河原一帯へと広がっていく。


幾何学的に。


絡み合うように。


「……これは……」


茜が、息を呑む。


「かつて、この都に施した“守り”」


晴明の声は、静かだ。


だが、その奥に確かな重みがある。


「この地に流れる霊脈……」


視線が、地へ落ちる。


「そして、積み重なった怨念」


一拍。


「すべて――こちらで縛る」


空気が、変わる。


声が、低く落ちる。


「――ノウマク・サマンダ・バザラダン・センダ……」


真言が響く。


地面が応える。


光が脈打つ。


霊脈が逆流する。


「……っ!」


黒が揺らぐ。


「――マカロシャダ・ソワタヤ……」


空気が固まる。


動きが鈍る。


「――ウン・タラタ・カン・マン」


最後の音が落ちる。


「この地に刻む――」


指が、わずかに動く。


「――不動縛界」


バチッ――!!


結界が閉じる。


完全に。


霊脈が封じられる。


怨念が止まる。


再生が止まる。


存在が固定される。


「――ッ!!」


黒が軋む。


逃げ場はない。


その瞬間――


「今です!!」


晴明の声が、鋭く響く。


九字が重なる。


「臨――兵――闘――者――皆――陣――列――在――前」


力が流れる。


セレナへ。


「――急急如律令」


その瞬間。


セレナが、立つ。


ゆっくりと。


重さが、消えている。


「……なるほどね」


小さく笑う。


理解した。


今なら、届く。


手にしていた槍を、引く。


ゲイ・ボルグ。


その脈動が、静かに沈む。


「ここからは、あなたじゃない」


手を、空へ。


掴む。


光が、集まる。


形を成す。


白。


眩いほどに。


――天の逆鉾。


空気が、整う。


歪みが、正される。


理が、収束する。


「……これで終わり」


静かに構える。


その瞬間。


黒が、蠢く。


縛られながらも、抗う。


逃げようとする。


だが――


逃げ場は、ない。


「――行くわ」


踏み込む。


距離が消える。


“到達する”。


振り上げる。


だが――


わずかに、ズレる。


完全ではない。


その一瞬――


「……まだだよ」


総司。


踏み込む。


血を流しながら。


それでも。


迷いなく。


一閃。


ズレを、斬る。


空間ごと。


因果ごと。


その一太刀で――


すべてが収束する。


軌道が、定まる。


「行け」


静かに。


確かに。


その一言。


次の瞬間――


「――天理断絶」


振り下ろされる、天の逆鉾。


触れた、その瞬間。


黒が、揺らぐ。


斬れたわけではない。


壊れたわけでもない。


ただ――


“成り立っていたもの”が、外れる。


繋がっていた怨念が、


ひとつ、またひとつと解けていく。


「――ッ……!」


再生しない。


戻らない。


支えていた理が、消えている。


崩れる。


中心から。


外へ。


形が保てない。


存在が維持できない。


「……終わりよ」


静かに。


確定する。


最後の一片が、


音もなくほどける。


完全に。


消滅する。


――静寂。


風が、戻る。


音が、戻る。


そこにあるのは――


ただの三条河原。


誰も、すぐには動けなかった。


ただ。


終わったという事実だけが、


静かに、そこに残っていた。


「……終わった、のか」


晋作が、かすれた声で呟く。


「……ええ」


晴明が、息を吐く。


「断ちました」


セレナが槍を下ろす。


天の逆鉾の光が、静かに消えていく。


「……疲れたわ」


その瞬間――


ククッ――


笑い声。


どこからともなく。


「――まだ終わっておらぬぞ」


低く、歪んだ声。


姿はない。


「今日のところは退くとしよう」


一拍。


「だが――まだ終わってはおらぬ」


気配が、消える。


完全に。


「……っ」


緊張が、わずかに緩む。


――直後。


バンッ!!


銃声。


空気を裂く、一発。


「――っ!」


晋作の身体が、揺れる。


肩を、貫かれる。


ドサッ……


倒れる。


「晋作さん!!」


茜が駆け出す。


地面に膝をつき、


晋作の身体を抱き起こす。


そのまま、仰向けにする。


「しっかりしてください……!」


血が、広がる。


「……っ、悪ぃな……」


晋作が、かすかに笑う。


その間に。


全員の視線が向く。


銃声の先。


そこに、立っている。


一人の男。


見慣れた顔。


忘れるはずのない顔。


「……久坂……」


晋作が、呟く。


一拍。


そして――


「蛤御門の泰山府君……やっぱりお前か……」


低く。


確信を込めて。


久坂玄瑞は、わずかに目を細める。


否定はしない。


ただ、静かに銃を下ろす。


「……随分と派手にやってるな、高杉」


淡々と。


感情の見えない声。


「いきなり撃ってきて、その言い草かよ……」


晋作が、息を吐く。


だが、笑う。


「お前らしいな」


久坂の視線が、横へ流れる。


総司、美雪、セレナ。


そして、再び晋作へ。


「……で?」


低く。


「なぜ新選組と連んでいる?」


空気が、張り詰める。


「お前は徳川に抗う側だったはずだ」


晋作は、ゆっくりと笑う。


「……昔の話だな」


「何?」


久坂の目が、わずかに鋭くなる。


「時代は動いてる」


晋作が言う。


静かに。


だが、確かに。


「敵だ味方だって線引きで動けるほど、単純じゃねぇ」


「……逃げか?」


久坂の声が、低くなる。


「信念を捨てたか」


「違ぇな」


晋作は、即座に返す。


視線は逸らさない。


「変えただけだ」


一拍。


「守るもんのためにな」


空気が、わずかに揺れる。


「……守る?」


久坂が、低く繰り返す。


「新選組と組んでか?」


その瞬間。


総司が、一歩前に出る。


「……僕たちがどういう存在かは関係ないよ」


静かに。


だが、芯のある声。


「今やるべきことが同じだから、一緒にいるだけ」


久坂の視線が向く。


「……都合のいい理屈だな」


「そうでもないよ」


総司は、淡々と返す。


「ただ、目の前のものから逃げてないだけ」


一瞬の沈黙。


久坂の目が、わずかに揺れる。


だが、すぐに消える。


「……そうか」


短く。


そして――


再び晋作を見る。


「なら、確かめるしかないな」


一歩、わずかに前へ。


「お前がどこに立っているのか」


晋作が、息を吐く。


「……どこでやる気だ」


久坂は、わずかに間を置く。


「――俺たちの学び屋だ」


その瞬間。


晴明の目が、わずかに細まる。


久坂を見据えたまま――


「……まさか」


小さく、呟く。


「……その場所に……」


一拍。


「道摩法師も関わっているのですか」


静かに。


だが、鋭く。


問いかける。


空気が張り詰める。


久坂は、答えない。


ただ――


わずかに口元が歪む。


それだけで、十分だった。


「……そういうことですか」


晴明が、低く言う。


確信する。


この戦いは――


まだ終わっていない。


「……そこかよ」


晋作が、小さく笑う。


その横で――


「……学び屋って……」


茜が、不安げに呟く。


「あなたたちにとって、大事な場所なんですね……」


だが、久坂は答えない。


ただ、晋作を見る。


「来い」


短く。


「そこで、全部終わらせる」


「……ああ」


晋作も、短く返す。


それだけで十分だった。


その瞬間。


久坂の姿が、揺らぐ。


消える。


完全に。


風だけが残る。


「……っ」


静寂。


だが――


全員が分かっている。


「とりあえず晋作さん、動かないでください……!」


茜が、震える手で傷口を押さえる。


血は止まらない。


肩を貫通している。


「……っ、このくらい……問題ねぇ」


晋作が、苦く笑う。


だが、その呼吸は浅い。


「問題あります」


美雪が、静かに言う。


すでにその手は動いている。


冷気が、集まる。


傷口の周囲を、ゆっくりと凍らせる。


「一時的に止血します」


氷が、血流を抑える。


「……助かる」


晋作が、小さく息を吐く。


その間に――


晴明が、周囲を見渡す。


「……敵影はありません」


静かに。


だが、警戒は解かない。


「一度、撤退します」


判断は早い。


全体を見ている。


「よろしいですね」


落ち着いた声。


揺るがない決定。


「ないよ」


総司が応じる。


「……異論はないわ」


セレナも短く返す。


「私も……大丈夫です」


茜が頷く。


晋作を支えながら。


晴明が、手首のSDに触れる。


通信を開く。


「――こちらAX班」


一拍。


「作戦区域より報告」


ノイズの後。


低い声が返る。


松平。


「……状況を述べろ」


「対象の殲滅、完了しました」


淡々と。


「ただし――」


視線が、晋作へ向く。


「新たな敵性存在を確認」


「……続けろ」


「久坂玄瑞――そして、蘆屋道満」


その名に。


わずかな沈黙が落ちる。


「……そうか」


低く。


重みのある声。


「負傷者あり」


「高杉晋作、肩部貫通」


「……帰投を許可する」


即断だった。


「詳細は本部で聞く」


「了解しました」


通信が、切れる。


静寂。


「……帰りましょう」


晴明が、静かに言う。


一歩、間を置いて。


「全員、医療班での精密検査を受けてください」


視線が、全員へ向く。


「晋作はもちろんですが……今回の戦闘は通常ではありません」


「軽傷でも、見逃さない方がいい」


「……まぁ、そうね」


セレナが肩を回す。


わずかに痛みを感じている。


「見えないダメージもありそうだし」


「僕も少し、違和感あるかも」


総司が、軽く腕を動かす。


無理はしていない。


だが、確かに疲労が残っている。


「……はい」


茜が、小さく頷く。


晋作を支えながら。


美雪も、静かに寄り添う。


「無理はしないでください」


総司が、晋作の反対側に回る。


「肩、支えるね」


「……悪ぃな」


晋作が、苦く笑う。


足取りは重い。


それでも、歩く。


セレナが、後方を警戒する。


「……本当に、次から次へと」


小さく呟く。


だが、その表情には余裕が戻っている。


六人は、ゆっくりと歩き出す。


戦いの跡が残る三条河原を後にした。


――AX班本部。


白い照明。


静かな空間。


「高杉さん、こちらへ」


医療班の声。


晋作が、ベッドへと座らされる。


「……悪ぃな、世話かける」


「いえ、任務のうちです」


淡々とした返答。


すぐに処置が始まる。


消毒。


止血。


精密スキャン。


「貫通している分、内部損傷は軽度です」


医療班が告げる。


「ただし、筋繊維への損傷あり。数日は安静を」


「数日か……」


晋作が、苦く笑う。


その間にも――


「沖田さん、こちらへ」


総司が呼ばれる。


軽く手を挙げて応じる。


「はーい」


検査が始まる。


「軽度の打撲と霊的負荷が確認されます」


「問題はありませんが、無理は禁物です」


「やっぱりちょっと来てるね」


総司が、肩を回す。


「……マク・リアスさん、こちらへ」


セレナが、ゆっくりと歩み出る。


「ええ」


検査を受ける。


「同様に軽度の負荷あり。問題はありません」


「……見えないダメージってやつね」


静かに呟く。


「雪城さん、弓月さんもお願いします」


美雪と茜が並ぶ。


「はい」


茜が、少し緊張した声で応じる。


「異常はありません」


医療班が告げる。


「全員、軽症で済んでいます」


その時――


「ご苦労だった」


低く、落ち着いた声。


松平。


部屋の奥に立ち、


腕を組んでいる。


「報告は受けた」


一歩、前へ。


「久坂玄瑞――そして蘆屋道満か」


空気が、引き締まる。


「……厄介な組み合わせですね」


晴明が、静かに言う。


松平が、ゆっくりと頷く。


「今回の件は単独の事象ではない」


一拍。


「明確な意図がある」


その言葉は、重い。


「蛤御門……三条河原……」


晴明が、低く呟く。


「すべて繋がっています」


「その通りだ」


松平が、短く返す。


一拍。


わずかに視線を落とし――


「……だが」


空気が、わずかに引き締まる。


「今回の件は、“夜の帝国”とは無関係のようだ」


その一言。


情報として、重く落ちる。


「……別系統、ですか」


晴明が、静かに返す。


「そうだ」


松平は頷く。


「つまり――敵は一つではない」


沈黙。


その意味は、十分だった。


「奴らは次の舞台を用意している」


「……学び屋、か」


晋作が、静かに言う。


ベッドの上で。


その目は、すでに前を見ている。


その言葉に――


「……学び屋って、どこなんですか?」


茜が、戸惑いながら尋ねる。


少しだけ間が空く。


晋作が、息を吐く。


「……昔、俺と久坂がいた場所だ」


その声は、どこか遠い。


懐かしさと、


わずかな苦さが混じる。


「――あいつとの“始まりの場所”だ」


「……場所は?」


セレナが、短く問う。


晋作は、わずかに目を細める。


一拍。


そして――


「……萩だ」


静かに告げる。


「俺たちがいた松下村塾」


空気が、変わる。


過去と、今が繋がる。


「――全部、そこにある」


沈黙。


だが、その意味は重い。


「行くつもりか」


松平が問う。


「当然だ」


即答。


迷いはない。


その言葉に――


「……ダメだ」


松平が、静かに言う。


空気が、一瞬で引き締まる。


「今の状態での出撃は許可しない」


視線が、晋作へ向く。


「負傷者がいる以上、万全とは言えん」


一拍。


「勝ちに行くなら――準備を整えろ」


静かに。


だが、確実に。


「出撃は――4日後だ」


沈黙。


だが――


誰も反論しない。


それが、正しいと分かっているからだ。


「……了解」


総司が、静かに応じる。


セレナも、わずかに頷く。


美雪と茜も、視線を交わす。


そして――


「……待ってろよ、久坂」


晋作が、低く呟く。


その目は、揺れていない。


――次の戦いが、始まる。


 18話 完

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