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17話 京都編Ⅲ:血を呼ぶ夜

17話 京都編Ⅲ:血を呼ぶ夜

――夜。


宿の一室。


灯りが、静かに部屋を照らしている。


六人が、円を囲むように座っていた。


昼間の空気とは違う。


張り詰めた静けさ。


「……じゃあ、整理しよっか」


総司が、やわらかく口を開く。


だがその声には、芯がある。


「今日分かったこと」


一拍。


「まずは六角通」


視線が、自然と向く。


「……ああ」


晋作が、腕を組む。


「出てきたのは――田中新兵衛」


「間違いない」


短く、断言する。


「……うん」


総司も、静かに頷く。


「剣も、動きも」


一拍。


「昔と同じだった」


その言葉に。


空気が、少しだけ重くなる。


「でも」


セレナが、口を開く。


「完全に“生きてる”わけじゃない」


「ええ」


晴明が、静かに続ける。


「歪んだ形で引き戻されている」


「泰山府君祭、だったな」


晋作が、低く言う。


「……うん」


総司が頷く。


「死者の魂を引き戻す術」


「ただし」


晴明が、わずかに視線を落とす。


「本来、人が扱えるものではない」


一拍。


「成立させられる者は、ほとんどいない」


「失敗すれば――」


「術者が喰われる」


静かに言い切る。


その言葉に。


茜が、小さく息を呑む。


「……じゃあ」


「今回のは?」


「不完全だ」


晴明が、即答する。


「だが――」


一拍。


「それでも成立している」


その意味は重い。


「……厄介ね」


セレナが、腕を組む。


「中途半端に強いってことじゃない」


「ええ」


晴明が頷く。


「そしてもう一つ」


視線を上げる。


「“札”だ」


「……ああ」


総司が言う。


「人払いのやつ」


「六角通にもあった」


「ってことは」


晋作が、目を細める。


「術者が近くにいるってことだな」


「その可能性が高い」


晴明が静かに言う。


だが――


それ以上は語らない。


一瞬。


沈黙。


その中で。


「……ねえ」


セレナが、ふと口を開く。


視線は、晴明へ。


「一つ、聞いていい?」


軽く。


だが――


芯がある。


「この術」


一拍。


「“出来る人”、どのくらいいるの?」


部屋の空気が、わずかに変わる。


「……」


晴明は、すぐには答えない。


ほんの一瞬の間。


「……ほとんどいない」


静かに、答える。


「成立させられる者は、ごくわずかだ」


嘘ではない。


だが――


すべてでもない。


「……ふーん」


セレナが、小さく頷く。


それ以上は、追わない。


だがその目は――


何かを考えている。


「……とりあえず」


総司が、空気を戻すように言う。


「敵は一人じゃない」


一拍。


「田中みたいなのが、他にもいる可能性がある」


「ええ」


茜が、しっかり頷く。


「蛤御門の方も気になりますし……」


「だな」


晋作が、低く言う。


「こっちは“まだ一人”って保証もねぇ」


「つまり」


セレナが、まとめる。


「複数の死者を動かしてる術者がいる」


一拍。


「しかも、かなりの腕」


誰も否定しない。


「……面倒だな」


晋作が、ぼそっと言う。


「でも」


総司が、やわらかく笑う。


「やることはシンプルだよ」


一拍。


「止めるだけ」


その言葉に。


「ええ」


晴明が、静かに頷く。


「原因を断てば、すべては終わる」


その一言で。


空気が、定まる。


――だが。


誰もまだ知らない。


その“原因の手の者”が――


すぐ近くまで来ていることを。


夜は、深まっていく。


静かに。


だが確実に。


次の戦いへと、繋がっていた。


――夜。


宿の一室。


静まり返った空気。


その中で――


「……来る」


ぽつりと。


晴明が呟く。


「……え?」


茜が、顔を上げる。


「何か……感じるの?」


「ええ」


静かに頷く。


視線は、窓の外へ。


「強い気配だ」


一拍。


「しかも――」


わずかに目を細める。


「隠していない」


その一言で。


空気が変わる。


「……誘ってるってこと?」


セレナが、低く言う。


「その可能性が高い」


晴明が、静かに答える。


「場所は?」


総司が、短く問う。


「……三条河原」


その名が落ちる。


一瞬の沈黙。


「……なるほどな」


晋作が、口元を歪める。


「“舞台”ってわけか」


「行くしかないわね」


セレナが、立ち上がる。


「ええ」


晴明も、静かに頷く。


「……うん」


美雪も、小さく息を整える。


「行こう」


総司が、やわらかく言う。


だがその目は――鋭い。


――


夜の京都。


人気のない通りを、六人が駆ける。


風が、冷たい。


やがて――


視界が開ける。


川の音。


広がる河原。


だが。


「……」


誰もいない。


あまりにも――静かすぎる。


「……人、いないね」


美雪が、小さく呟く。


「札だな」


晋作が、即座に言う。


「完全に人払いされてる」


「ええ」


晴明が頷く。


「意図的です」


その時――


風が、止まる。


一瞬。


空気が、張り詰める。


「……来たか」


低い声。


川辺の奥。


闇の中から――


一人の男が、姿を現す。


ゆっくりと。


足音を響かせながら。


「待ってたぜ」


口元が、歪む。


「沖田」


その一言で。


空気が、一変する。


「……」


総司が、静かに前に出る。


視線は、まっすぐ。


逸らさない。


「……やっぱり」


小さく、呟く。


「お前か」


田中が、笑う。


「来ると思ってたぜ」


一歩、踏み出す。


「この場所ならよ――」


視線を巡らせる。


誰もいない河原。


静まり返った空間。


「邪魔も入らねぇ」


刀に手をかける。


「心置きなく、やれる」


その言葉に。


セレナが、わずかに目を細める。


「……やっぱり、狙いは総司ね」


「当たり前だろ」


田中が、即答する。


「こいつとケリつけるために来てんだからな」


狂気を孕んだ笑み。


「――だが」


一拍。


その瞬間。


空気が、変わる。


重く。


歪む。


地面が、軋む。


「……っ!?」


茜が、息を呑む。


黒い靄。


瘴気。


その中から――


巨大な影が、ゆっくりと姿を現す。


鬼。


異形。


圧倒的な存在。


「……は?」


晋作が、眉をひそめる。


「なんだ、ありゃ」


田中が、笑う。


「いいだろ?」


楽しそうに。


「“舞台装置”だ」


刀を抜く。


「邪魔はさせねぇ」


一歩、踏み出す。


「――沖田は、俺がやる」


その瞬間。


鬼が、低く唸る。


風が、荒れる。


夜が、牙を剥く。


「……来るよ」


総司が、静かに言う。


その声に。


迷いはない。


「ええ」


セレナが、槍を構える。


「派手にいきましょうか」


晴明が、静かに息を整える。


晋作が、笑う。


茜が、弓を引く。


美雪が、静かに力を込める。


六人。


同時に構える。


風が、荒れる。


鬼が唸る。


その中心で――


戦いが、始まろうとしていた。


「……行くよ」


総司が、静かに言う。


一歩、前へ。


田中へ向かって。


その瞬間――


「待って」


美雪の声。


総司の腕を、そっと掴む。


「……」


一瞬。


視線が交わる。


その様子を見て――


「美雪」


セレナが、静かに言う。


「総司の近くにいてあげて」


「え……?」


「前に出るのは私たちでいい」


槍を構えながら。


「フォローに回って」


一拍。


「総司のこと、見ててあげて」


その言葉に。


「……うん」


美雪が、小さく頷く。


そして――


ほんの少しだけ、嬉しそうに笑う。


「……ありがとう」


そのまま。


総司の隣へ。


だが――


「……美雪ちゃん」


総司が、やわらかく言う。


「今回も、手を出さないでもらえるかな」


「……でも」


即座に、言葉が返る。


「さっきだって――」


「うん」


遮らない。


否定もしない。


ただ――


少しだけ、笑う。


「お願い」


その一言。


やわらかいのに。


どこか、切実で。


真っ直ぐで。


「……っ」


美雪の言葉が、止まる。


視線が揺れる。


「……分かった」


小さく。


渋々と。


「でも」


一歩、近づく。


「本当に危ない時は、手出すから」


はっきりと。


言い切る。


そして――


少しだけ、目を細める。


「それに」


一拍。


「昼間言ったこと、分かってないみたいだし」


ふっと、笑う。


「後でちゃんと説教するから」


ほんの少しだけ。


優しくて。


でも、逃がさない笑顔。


「覚悟してね?」


その言葉に。


総司が、くすっと笑う。


「……うん」


短く、頷く。


そして――


一歩、前へ。


「――展開」


低く。


静かな声。


次の瞬間――


光が走る。


総司の身体を包み込む。


展開されるSD。


そして――


現れるのは。


新選組の羽織袴。


浅葱色。


その姿。


その象徴。


それを見た瞬間――


「……っは」


田中の表情が、歪む。


「それだ……!」


目が、見開かれる。


狂気が、一気に膨れ上がる。


「それだぁぁぁ!!」


叫ぶ。


「その羽織だ!!」


刀を握る手が、震える。


「俺らが……!」


一歩、踏み出す。


「恐れてた羽織だ!!」


狂気の雄叫び。


夜に響く。


だが――


総司は、動じない。


静かに。


刀を構える。


「……行くよ」


一拍。


「150年前の続きを」


まっすぐに。


田中を見る。


逃げない。


逸らさない。


その言葉に。


田中が、笑う。


「上等だ」


低く。


喉の奥で。


「決着つけようじゃねぇか」


――二人が、歩き出す。


ゆっくりと。


だが、確実に。


互いへ。


そして――


三条大橋。


橋の上。


夜風が、吹き抜ける。


その中央で。


二人は、止まる。


向かい合う。


刀を、構える。


沈黙。


張り詰めた空気。


その中で――


総司が、静かに口を開く。


「……一つ、聞いていいかな」


視線は逸らさない。


まっすぐに。


「なんで、ここを選んだ?」


一拍。


「三条河原なんて」


その問いに。


田中が、ゆっくりと口元を歪める。


「……はっ」


低く、笑う。


視線を、わずかに横へ流す。


暗い河原。


誰もいない空間。


そして――


再び総司を見る。


「決まってんだろ」


一歩、踏み出す。


「人が死ぬには――都合がいい場所だからだ」


静かに。


だが、はっきりと。


「昔からな」


その一言に。


空気が、冷たくなる。


田中が、さらに続ける。


「それに――」


口元が、歪む。


「ここなら邪魔も入らねぇ」


刀を、わずかに上げる。


「お前と、最後までやれる」


狂気と執着。


そのすべてが滲む声。


「――最高の舞台だろ?」


その言葉に。


総司が、静かに息を吐く。


「……そっか」


一拍。


「なら」


刀を、わずかに構え直す。


「終わらせるには、ちょうどいいね」


その瞬間――


空気が、張り詰める。


完全な静寂。


そして――


次の瞬間。


戦いが、始まる。


 ――三条河原。


橋の上とは別の場所。


河原の中心で――


鬼が、唸る。


星熊童子。


巨躯。


圧倒的な質量。


一歩踏み出すだけで、地面が沈む。


「……行くわよ」


セレナが、静かに言う。


手に握るのは――


ゲイ・ボルグ。


その瞬間。


空気が、変わる。


「おう」


晋作が、笑う。


刀を抜き。


もう片方の手には銃。


「派手にやろうぜ」


次の瞬間――


二人が、同時に踏み込む。


ドンッ!!


地面が弾ける。


一気に間合いへ。


セレナの動きが――変わる。


速い。


鋭い。


無駄がない。


それはまるで――


神話の再現。


クーフーリンの記憶が、身体に刻まれているかのように。


槍が、舞う。


流れるように。


刺突。


回転。


踏み込み。


一切の迷いがない。


「……っ!」


星熊童子が、腕を振り上げる。


だが――


「遅ぇよ」


晋作が、横から割り込む。


斬撃。


火花。


さらに――


バンッ!!


銃声。


弾丸が、鬼の身体に叩き込まれる。


だが。


「……っち」


晋作が、舌打ちする。


「硬ぇな」


「ええ」


セレナも、距離を取りながら言う。


「想像以上ね」


その瞬間――


鬼が反撃に出る。


腕を振り下ろす。


空気が裂ける。


だが――


ヒュンッ!!


矢が、飛ぶ。


正確に。


鋭く。


鬼の視界を切り裂くように。


「……今です!」


茜の声。


鬼の動きが、わずかに止まる。


その隙に――


「行くぞ」


晋作が踏み込む。


同時に――


周囲に白い影が走る。


狐の式神。


複数。


素早く、鬼の周囲を駆ける。


視界を奪う。


意識を散らす。


「撹乱は任せてくれ」


晴明の声。


落ち着いている。


だが、確実に支配している。


連携は、完璧。


だが――


決定打には、至らない。


「……硬いわね」


セレナが、低く呟く。


「何かで強化されてるのかしら」


「だな」


晋作が、肩を鳴らす。


「効いてねぇわけじゃねぇ」


一拍。


「だが、浅い」


視線を横へ。


「その槍の“因果”――使えねぇのか?」


その問いに。


セレナが、少しだけ笑う。


「使えるわよ」


一拍。


「なら」


目を細める。


「やってみましょうか」


余裕すらある声。


それに対して――


晋作が、にやりと笑う。


「いいねぇ」


刀を構え直す。


「俺が崩す」


一歩、前へ。


「一撃、叩き込め」


「了解」


セレナが、短く答える。


その後ろで――


「私たちは二人に合わせましょう」


晴明が、静かに言う。


「はい!」


茜が、力強く頷く。


弓を引く。


「敵の攻撃は、こちらで対処します」


一拍。


「存分にやってください!」


「必ず合わせる」


晴明が、短く続ける。


すべてが揃う。


「……OK」


セレナが、息を吐く。


口元に、笑み。


「なら――やりますか」


次の瞬間。


二人が、同時に踏み込む。


ドンッ!!


再び、爆発的な加速。


「おらぁ!!」


晋作が、正面から斬り込む。


鋭い一撃。


鬼が、それを受けようとする――


その瞬間。


バンッ!!


銃声。


右肘。


さらに――


バンッ!!


右膝。


正確な射撃。


両方、命中。


「――っ!?」


鬼の体勢が、崩れる。


その一瞬。


懐が、開く。


「……そこ」


セレナが、消える。


いや――


踏み込んでいる。


最短距離。


一直線。


ゲイ・ボルグが、赤黒く光る。


空気が、歪む。


因果が、収束する。


「――Lethal Embraceリーサル・エンブレイス


“致命の抱擁”


低く。


静かに。


確定した“結果”として。


槍が、突き出される。


ズンッ――


音が、遅れて響く。


貫かれている。


心臓が。


避けられない。


外せない。


因果の槍。


赤黒い光が、内部から弾ける。


「――っ!!」


星熊童子が、咆哮する。


その巨体が、揺らぐ。


崩れ始める。


だが――


まだ、倒れない。


夜が、震える。


戦いは、まだ終わらない。


――その瞬間。


三条河原一帯に――


不気味な声が、響く。


どこからともなく。


低く。


重く。


耳にまとわりつくような声音。


「――死せる魂よ、未だ朽ちることを許さぬ」


声が、空間に染み込む。


「血肉に還り、骨を繋ぎ」


空気が、歪む。


「断たれし命を、再びこの世に縫い留めよ」


地面が、軋む。


「黄泉と現世の狭間にて――」


瘴気が、渦巻く。


「我が命に従い、顕現せよ」


そして――


「――急急如律令」


ドクンッ


心臓が、打つ音。


星熊童子の身体が、脈打つ。


貫かれていたはずの箇所が――


蠢く。


赤黒い光が、逆流する。


肉が、再び繋がる。


「――っ!!」


鬼が、咆哮する。


完全に。


立ち上がる。


「……再生してる!?」


茜が、声を上げる。


「嘘でしょ……」


セレナが、低く呟く。


確実に。


仕留めたはずだった。


だが――


「……これは」


晴明が、目を細める。


静かに。


だが、確信を持って。


「再生の詠唱……」


一拍。


その視線が、わずかに揺れる。


「……やはり」


ほんの僅かに。


誰にも聞こえないほどの声で。


「裏でやっているのは――」


言葉を、飲み込む。


その瞬間。


異変が、起きる。


ドクンッ


ドクンッ――


星熊童子の身体が、不規則に脈打つ。


「……っ?」


セレナが、眉をひそめる。


「様子が……変よ」


再生したはずの肉が――


膨張する。


盛り上がる。


蠢く。


「おいおい……」


晋作が、低く呟く。


「再生ってレベルじゃねぇぞ、これ」


筋肉が、異様に肥大する。


血管が浮き出る。


皮膚が裂け――


その隙間から、赤黒い光が漏れ出す。


「――ッ!!」


星熊童子が、咆哮する。


その声は――


先ほどとは別物。


理性が、消えている。


「……制御できていない」


晴明が、低く言う。


「いや――」


一拍。


目を細める。


「最初から、制御する気がないのか」


「……使い捨てってわけね」


セレナが、舌打ちする。


次の瞬間――


ドンッ!!


鬼が、地面を踏み砕く。


速度が、違う。


さっきまでとは比べ物にならない。


「速――っ!?」


茜が、息を呑む。


振り下ろされる腕。


空気が、爆ぜる。


だが――


ヒュンッ!!


矢が飛ぶ。


軌道を逸らす。


「止めます!」


茜が叫ぶ。


だが。


止まらない。


鬼は、そのまま突っ込んでくる。


「……ちっ!」


晋作が前に出る。


斬る。


弾く。


だが――


重い。


「パワーも上がってやがる……!」


押し込まれる。


その横から――


「下がって!」


セレナが割り込む。


槍で受け流す。


衝撃。


足元が削れる。


「……っ!」


だが、止めきれない。


「これは……まずいですね」


晴明が、静かに言う。


「術が暴走している」


一拍。


「このままでは――」


言い切る前に。


鬼が、咆哮する。


空気が、震える。


周囲の地面が、ひび割れる。


「――っ!!」


瘴気が、爆発する。


視界が、歪む。


「……っ、く!」


セレナが、踏みとどまる。


槍を構え直す。


その目が、鋭くなる。


「なら――」


一歩、前へ。


「力でねじ伏せるしかないわね」


その言葉に。


晋作が、笑う。


「上等だ」


刀を構える。


セレナ!」


晴明の声が、鋭く響く。


「おそらくこの鬼には因果が通用しない!」


一拍。


「このままでは消耗戦になります!」


セレナが、目を細める。


「……やっぱりね」


「敵を消し飛ばすしかない!」


晴明が、言い切る。


「天の逆鉾を使用してください!」


その言葉に、空気が変わる。


「理を生み出す力を――使うんです!」


「……了解」


短く、応じる。


次の瞬間――


ドンッ!!


鬼が、踏み込む。


速い。


さっきまでとは別物。


振り下ろされる腕。


空気が、爆ぜる。


「――危ない!!」


茜が、叫ぶ。


矢が放たれる。


正確に。


だが――止まらない。


「これ……やばい」


セレナが呟く。


槍で受ける。


だが――


押し切られる。


「くっ……!」


その横から――


「任せろ!!」


晋作が、踏み込む。


刀で合わせる。


だが――


止まらない。


「……っ!」


ドンッ!!


二人まとめて、吹き飛ばされる。


地面に叩きつけられる。


土煙が、舞う。


「晋作!!」


「セレナ!!」


茜と晴明の声が、重なる。


――河原の端。


動けない二人。


「……やばいな、これは……」


晋作が、息を吐く。


「ええ……これは本当にまずいわね……」


セレナが、苦く笑う。


その時――


「晴明!!茜連れて退け!!」


晋作が、叫ぶ。


「俺らもなんとか退く!!」


「そんなの無理!!」


茜が、涙を浮かべたまま叫び返す。


鬼が迫る。


もう、目の前。


腕が振り上がる。


「――っ!」


防御――間に合わない。


その中へ――


晴明が飛び込む。


セレナを抱き寄せる。


符を展開。


「……っ、持たない……!」


同時に――


「晋作さん……っ!」


茜が、飛び込む。


そのまま。


強く、抱きしめる。


庇うように。


震えながら。


それでも――離れない。


「……っ」


晋作の視界。


涙の茜。


守ろうとしている。


自分を。


その瞬間。


カチッ


小さな音。


晋作の炎のネックレスと、茜の風のネックレスが――触れ、重なる。


光が、走る。


「……?」


一瞬の違和感。


だが――


考える暇はない。


晋作が、銃を構える。


「……だったら」


低く、呟く。


「守るのは、こっちだ」


引き金を引く。


バンッ!!


放たれた弾丸。


だがそれは――


いつもと違う。


光を帯びている。


神々しい。


純粋な力。


一直線に、鬼へ。


振り下ろされる腕を貫き――


消し飛ばす。


さらに――


そのまま頭部へ。


直撃。


「――ッッッ!!」


鬼の身体が、光に呑まれる。


崩れる。


溶けるように。


消えていく。


完全に――消滅。


――静寂。


煙だけが残る。


「……今の……」


茜が、震える声で呟く。


「……さあな」


晋作が、息を吐く。


銃を下ろす。


「……ただの一発にしちゃ」


一拍。


「出来すぎてるな」


視線が、わずかに落ちる。


ネックレス。


だが――


意味までは、まだ届かない。


セレナも、ゆっくりと立ち上がる。


「……助かったわね」


小さく呟く。


晴明は、何も言わない。


ただ静かに見ている。


――今、確かに。


“何か”が起きた。


だが――


まだ、誰もそれを知らない。


――三条大橋。


夜。


風が、静かに流れる。


遠く――


轟音が響く。


地を揺らすような衝撃。


「……向こうも、始まったみたいだね」


沖田総司が、小さく呟く。


一瞬だけ。


ほんの一瞬だけ、意識を向けて――


そして。


静かに、視線を戻す。


「でも――」


構えは崩さない。


「今は、こっちに集中するよ」


その言葉は、柔らかい。


だが――


揺るがない。


その視線の先。


田中が、低く笑う。


「はは……!」


楽しそうに。


狂気を滲ませて。


「いいなァ、その目」


刀を、ゆっくりと構える。


「ちゃんと“今”だけ見てやがる」


一歩、踏み出す。


「やっぱりお前は、そうでなくちゃなァ!!」


「……」


総司は、何も言わない。


ただ――


わずかに構えを深くする。


その空気を。


少し離れた場所から。


美雪が、見つめている。


「……っ」


息を呑む。


遠くで響く戦いの音。


目の前の、張り詰めた空気。


両方が――胸を締め付ける。


(……大丈夫)


自分に、言い聞かせる。


(総司くんなら……)


それでも。


足は、動きかける。


だが――


止める。


信じると、決めたから。


「……」


その様子を。


田中が、ちらりと見る。


そして――


にやりと笑う。


「どうした?」


わざとらしく。


「来ねぇのか?」


視線だけで、美雪を刺す。


「別れの挨拶でもしといた方がいいんじゃねぇのか?」


歪んだ笑み。


「心配すんな」


一歩、踏み出す。


「二人まとめて――同じ場所に送ってやるよ」


その言葉に――


空気が、冷える。


だが。


「……やめておけ」


総司が、静かに言う。


一切の感情を荒げずに。


「それ以上は」


わずかに、踏み込む。


「本当に戻れなくなる」


その一言。


だが――


田中は、笑う。


「ははっ!!」


刀を、強く握る。


「上等だァ!!」


その瞬間。


空気が、弾ける。


――ドンッ!!


同時に、踏み込む。


キィンッ!!


鋼が、ぶつかる。


火花が散る。


速い。


重い。


鋭い。


「――っ!」


一瞬で、数合。


互いに引かない。


一歩も。


譲らない。


「ははっ!!」


田中が笑う。


「やっぱりいいなァ!!」


狂気。


歓喜。


混ざり合う。


「その剣だ!!」


斬撃が荒れる。


だが――


総司は、崩れない。


流す。


逸らす。


踏み込む。


「……」


静かに。


だが確実に。


間合いを支配していく。


その時――


「……っ」


美雪が、息を呑む。


次の瞬間――


閃。


田中の斬撃が、走る。


総司の脇を――


わずかに掠める。


浅い。


だが――


確実に“急所を狙った”一撃。


血が、走る。


「総司くん……!」


思わず、声が漏れる。


その一瞬。


ほんの僅かな“揺れ”。


それを――


田中は見逃さない。


「――そこだァ!!」


踏み込みが、さらに深くなる。


殺意が、鋭くなる。


だが――


「……遅いよ」


総司が、低く呟く。


一歩、滑るように外す。


そして――


踏み込む。


空気が、止まる。


「――」


静寂。


一瞬。


世界が、切り取られる。


「――無影三段突き」


見えない。


速さ。


三つの突き。


同時に。


「――ッ!?」


田中が、受ける。


だが――


完全には止めきれない。


血が、飛ぶ。


距離が、開く。


「……っは」


田中が、笑う。


息を荒げながら。


「いい……!」


目が、見開かれる。


「最高だァ……!!」


その姿を見て――


美雪が、強く拳を握る。


遠くの戦闘音。


目の前の死闘。


すべてが重なる中で――


(……大丈夫)


もう一度。


自分に言い聞かせる。


(総司くんなら……)


だが――


胸の奥の不安は。


消えない。


――戦いは、まだ終わらない。


――橋の上。


風が、止まる。


「……っは」


田中が、笑う。


血を拭いもせず。


ただ、楽しそうに。


「やるじゃねぇか……沖田ァ」


息は荒い。


だが――


目は、死んでいない。


むしろ。


さっきよりも。


さらに、濁っている。


「……」


総司は、何も言わない。


ただ、静かに構える。


呼吸を整える。


視線は――一切、逸らさない。


「いいねぇ……」


田中が、刀を構え直す。


「やっぱりよ」


一歩、踏み出す。


「こうじゃなくちゃなァ!!」


ドンッ!!


地面を蹴る。


一気に、間合いへ。


速い。


だが――


「……」


総司は、動かない。


ギリギリまで、引きつける。


刹那。


斬撃が、届く――


その直前。


スッ――


わずかに、身体を逸らす。


紙一重。


風が、頬を裂く。


だが――


「まだだァ!!」


田中が、さらに踏み込む。


連撃。


重い。


速い。


狂気。


押し込む。


叩き潰す。


その剣。


すべてを断ち切るためのもの。


だが――


「……」


総司は、崩れない。


最小限で捌く。


流す。


逸らす。


一歩。


また一歩。


わずかに――下がる。


その動きに。


田中の目が、見開かれる。


「――逃げてんじゃねぇぞ!!」


叫ぶ。


さらに、踏み込む。


だが――


その瞬間。


「……そこ」


総司が、低く呟く。


止まる。


ほんの一瞬。


田中の踏み込みが――深すぎた。


「――っ」


気づく。


だが、遅い。


総司の足が、滑る。


懐へ。


最短距離。


「――」


静寂。


世界が、落ちる。


すべてが、遅くなる。


そして――


「終わりだね」


小さく。


やわらかく。


だが、確実に。


「――無影三段突き」


三つ。


見えない突き。


同時に。


心臓。


喉。


急所。


「――ッッ!!」


田中の身体が、止まる。


次の瞬間。


ズンッ――


衝撃が、遅れて届く。


刀が、手から滑る。


血が、溢れる。


「……っは」


田中が、笑う。


力なく。


だが――


どこか、満足そうに。


「やっぱり……」


息が、途切れる。


「お前は……強ぇな……」


膝が、崩れる。


そのまま――


ゆっくりと、倒れる。


橋の上に。


静かに。


「……」


総司は、しばらく動かない。


刀を構えたまま。


完全に――終わったことを確認する。


そして。


ゆっくりと。


刀を下ろす。


「……終わったよ」


ぽつりと。


小さく、呟く。


その声は――


いつも通り。


静かで。


やわらかい。


その様子を。


離れた場所から――


美雪が、見ていた。


安堵。


緊張。


全部が、混ざる。


戦いは、終わった。


静寂。


風だけが、静かに吹き抜ける。


「……総司くん」


美雪の声。


震えている。


次の瞬間――


駆け寄る。


迷いなく。


「……っ」


そのまま――


強く、抱きつく。


離さないように。


「無事で……よかった……」


声が、震える。


押し殺していたものが、溢れる。


総司は、一瞬だけ驚き――


そして。


ふっと、力を抜く。


「……うん」


やわらかく。


「大丈夫だよ」


そっと。


美雪の背に手を回す。


「心配かけたね」


「当たり前でしょ……」


顔を埋めたまま。


小さく。


「……ほんとに」


一拍。


「無茶するんだから」


その言葉に――


総司が、少しだけ笑う。


「……ごめん」


短い。


だが――確かな時間。


その時――


「おーい!!」


声が飛ぶ。


セレナたちが駆け寄ってくる。


「無事!?」


「うん」


総司が頷く。


美雪も、ゆっくりと離れる。


名残を残しながら。


「そっちも……なんとかなったみたいね」


セレナが、息を整えながら言う。


「ええ……なんとかね」


晋作が肩を回す。


「派手にやられたがな」


「でも……倒しました」


茜が、小さく言う。


まだ、少し震えている。


晴明は、静かに周囲を見ている。


「……ですが」


低く。


「終わったとは思えません」


その瞬間――


ククク……ッ


不気味な笑い声が、響く。


空気が、変わる。


「……っ!」


晴明が、鋭く反応する。


「道摩法師!!」


はっきりと、言い切る。


「やはりあなたか!!」


「……やっぱりね」


セレナが、静かに呟く。


次の瞬間。


声が、返る。


「久方ぶりよのぉ……晴明」


低く。


歪んだ声。


姿は見えない。


だが――確かに“いる”。


「何が目的で今回の件を!」


晴明が、鋭く問う。


「……ふん」


嘲るように。


「お前がそれを問うか」


一拍。


「復讐に決まっておろう」


声が、歪む。


「俺の場合は――お前だ」


空気が、凍る。


さらに――


「そしてこの三条河原」


声が、広がる。


「復讐の怨念は、数え切れぬほどある」


ざわり、と。


空気が揺れる。


「晴明、お前は知るまい」


低く。


這うように。


「この場所が、何であったかを」


一拍。


「誰がここで処刑され」


「どれほどの怨念が積み重なってきたかを」


声が、重く沈む。


「その身で――とくと味わうが良かろう」


――詠唱が、始まる。


だが。


先ほどとは違う。


重さが、違う。


空気が――沈む。


「……っ」


晴明の表情が、変わる。


「これは……!」


低く。


這うように。


声が、響く。


「――幽冥の門よ、今こそ開け」


空気が、歪む。


「魂魄の理を捻じ曲げ」


地が、軋む。


「死者を現世に縫い留めよ」


瘴気が、渦巻く。


「我が意に従い」


四方が、揺らぐ。


その瞬間――


「……っ!?」


晴明が、周囲を見る。


「どこかに祭壇があるはずだ!」


だが――


見えない。


そのはずなのに。


「……あり得ない……!」


次の瞬間。


地面が、光る。


四方。


三条河原を囲むように――


四つの祭壇が、浮かび上がる。


「なっ……!?」


晴明が、目を見開く。


詠唱は、止まらない。


「黄泉より引き上げ」


祭壇が、強く発光する。


「この地に顕現せしめん」


邪気が、濃くなる。


「――泰山府君、我が声を聞け」


空気が、潰れる。


重圧。


存在そのものが押し潰される。


「――急急如律令」


ドンッ――!!


四つの祭壇が、同時に爆ぜるように光る。


邪気が、奔流となって流れ込む。


倒れている田中の身体へ。


否――


その奥にある“魂”へ。


「――ッッッ!!」


咆哮。


だがそれは――


もはや田中のものではない。


「そこに居る派手な羽織の者は」


声が、歪む。


総司を指す。


「其方の怨敵」


「徳川に仕え、不貞浪士を斬った者」


さらに――


「相手にとって不足はない」


狂気が、滲む。


「その身を借り」


「存分に怨みをぶつけられよ」


一拍。


そして――


「石田三成どの」


その名が落ちる。


「……っ!?」


総司と晋作が、同時に反応する。


「石田……三成……!?」


「なんでその名前が……!」


だが――


晴明は、知らない。


(……平安の世にはいない……)


(それより後の時代……?)


思考が、繋がる。


「……まさか」


目が、見開かれる。


「道摩法師!!」


叫ぶ。


「其方――外法・御霊転生を行っていたのか!!」


笑い声が、響く。


「応よ」


愉しげに。


「貴様に負ける可能性があったのでな」


一拍。


「自らに施したまで」


空気が、歪む。


「さぁ――」


狂気が、満ちる。


「三成殿の、お目覚めだぁぁ!!」


高らかな笑い声。


響き渡る。


「晴明」


最後に。


声が、落ちる。


「そのうち術比べといこうではないか」


一拍。


「もっとも」


嘲るように。


「三成殿に斬られなければ、の話だがな」


笑い声が、消える。


――静寂。


だが。


空気は、完全に変わっていた。


邪気が、満ちる。


その中心で――


田中の身体が、ゆっくりと起き上がる。


その目は――


もはや、人のものではない。


17話 完




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