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11話 別府地獄侵攻編Ⅲ

11話 別府地獄侵攻編lll

――薄暗い部屋。


光源は、ひとつだけ。


壁に向けられたテレビの光が、空間をぼんやりと照らしている。


画面には――


上空からの映像。


報道ヘリによるLIVE中継。


赤黒く染まった大地。


血の池地獄。


その周囲を取り囲むように展開されたバリケード。


点滅するパトランプ。


走り回る人影。


緊張した空気が、画面越しにも伝わってくる。


やがて――


映像が切り替わる。


地上。


マイクを手にしたアナウンサーが、やや早口で状況を伝えている。


『現在、別府・血の池地獄では――』


背後には、自衛隊の車両。


警察。


消防。


規制線。


慌ただしく行き交う人々。


『自衛隊がバリケードを展開し、警察および消防と連携しながら対処にあたっております!』


一拍。


その表情が、わずかに強張る。


『しかし――』


『内部の状況については依然として不明!』


『中で何が起きているのか、詳細は確認されておりません!』


その時――


画面の奥。


一瞬だけ。


映り込む影。


黒槍を手にした女。


セレナ。


わずか一瞬。


だが、確かにそこにいた。


それを――


見逃さなかった者がいる。


テレビの前。


暗闇の中に佇む、一人の男。


西洋風の鎧。


黒の騎士。


静かに、画面を見つめている。


その口元が――ゆっくりと歪む。


「……やはり」


低く、呟く。


「その槍――まだ手放していなかったか」


一拍。


わずかに笑う。


「ゲイ・ボルグ」


視線は、画面の中のセレナへ。


「いずれ我らが手にする、と言ったはずだ」


くつくつと、喉の奥で笑う。


愉しむように。


確信するように。


「その時が、近づいているな」


静かに。


だが確実に。


狂気を滲ませながら。


――黒き門・内部。


血の匂い。


歪んだ空間。


AX班の六人は、すでにその奥へと踏み込んでいた。


足元は、ぬかるんでいる。


赤黒く濁った地面。


踏みしめるたびに、わずかに沈む。


「……気持ち悪いわね」


セレナが眉をひそめる。


「現世とは完全に切り離されていますね」


晴明が静かに言う。


視線は周囲へ。


「空間そのものが、歪められている」


「……匂いも違う」


美雪が小さく呟く。


「血だけじゃない」


「何か、混ざってる」


「瘴気だな」


晋作が吐き捨てるように言う。


「しかも、かなり濃い」


「長居はしたくないね」


総司が淡く笑う。


だが、その目は周囲を鋭く捉えている。


「でも――」


一歩、踏み込む。


「ここが本丸で間違いない」


その時。


――ズ……ッ


足元。


わずかに、脈打つ。


「……今、動いた?」


茜が不安げに声を上げる。


「ええ」


晴明が頷く。


「この空間自体が“生きている”ような状態です」


「はぁ……最悪ね」


セレナが肩をすくめる。


「地形まで敵ってわけ?」


「その認識で問題ありません」


一拍。


「むしろ、その可能性が高い」


その瞬間。


――ボコッ


地面が、膨らむ。


「来るよ」


総司の声。


次の瞬間。


――ガバッ!!


地面を破り、何かが這い出る。


餓鬼。


だが――


「……さっきと違う」


美雪が目を細める。


皮膚が裂け、黒い瘴気が滲み出ている。


目は完全に濁り、理性の欠片もない。


「強化されてるな」


晋作が構える。


「中に入った分、濃度が上がってるってことか」


「数、来ます!」


茜が叫ぶ。


周囲の地面が、同時に膨れ上がる。


次々と。


湧き出る。


「囲まれるわよ」


セレナが槍を構える。


「散らばらないで」


「うん」


総司が頷く。


一歩前へ。


「ここは――」


構える。


「まとめて捌く」


その瞬間。


餓鬼が一斉に飛びかかる。


「――来い」


総司が踏み込む。


だが――


その直前。


「待って」


美雪の声。


冷気が広がる。


「流れ、止める」


足元から一気に凍結が広がる。


だが。


「……速い」


完全には止まらない。


「内側の圧が強い」


「なら――」


セレナが踏み込む。


「押し返す!」


黒槍が唸る。


横薙ぎ。


一気に数体を吹き飛ばす。


その隙に――


「今だ!」


晋作が突っ込む。


斬撃。


さらに発砲。


前線を削る。


「援護します!」


茜の矢が飛ぶ。


正確に。


確実に。


弱点を射抜く。


「……いけるね」


総司が目を細める。


そのまま踏み込む。


崩す。


流す。


繋ぐ。


一体。


二体。


三体。


無駄なく処理する。


だが――


「……まだ来る」


美雪が低く言う。


その視線の先。


地面。


膨らむ。


脈打つ。


止まらない。


「キリがないな」


晋作が舌打ちする。


その時。


「……違う」


晴明が、静かに言う。


「この湧き方――」


視線が一点へ向く。


「集中している」


「……あそこか」


総司が視線を向ける。


わずかに色が濃い領域。


脈動が、強い。


「中心があるね」


「ええ」


晴明が頷く。


「おそらく――核です」


空気が変わる。


「叩く?」


セレナが口角を上げる。


「当然でしょ」


一歩前へ。


「ここで足止めする理由はない」


「行くよ、美雪ちゃん」


「うん」


「援護、続けます!」


「任せろ」


四人が、同時に動く。


前へ。


押し込む。


突破する。


だが――


その瞬間。


――ドクン


強く、脈打つ。


地面が、大きく波打つ。


「……っ!」


全員の足が、わずかに浮く。


バランスが崩れる。


次の瞬間。


――ズズズ……


地面の奥から。


“何か”が、せり上がってくる。


それは――


餓鬼ではない。


もっと大きい。


もっと濃い。


もっと、禍々しい。


「……来るよ」


総司が、静かに言う。


その視線の先。


地面が裂ける。


そして――


“それ”が、姿を現す。


地面を押し上げるように。


ゆっくりと。


だが確実に。


赤い巨体。


歪んだ角。


全身に刻まれた、黒い紋様。


「……来たか」


晋作が低く呟く。


「さっきの土地神ね」


セレナが構える。


「ええ」


晴明が頷く。


「この空間では、より強く侵食されています」


赤鬼が、顔を上げる。


濁った瞳。


だが、その奥に――


わずかな揺らぎ。


「……っ」


低く唸る。


苦しむように。


押さえつけられているように。


「……同じだ」


美雪が、静かに言う。


一歩、前へ。


「私と」


冷気が、揺れる。


「……戻すよ」


その一言で。


全員の動きが決まる。


「行くわよ」


セレナが踏み込む。


「前、取る!」


黒槍が唸る。


真正面から叩き込む。


赤鬼の腕と激突。


衝撃。


押し返す。


「今!」


「任せろ!」


晋作が横から入る。


斬撃。


黒い紋様へ。


「――っ!」


紋様が、削れる。


黒が、剥がれる。


「効いてる!」


「侵食部位だね」


総司が目を細める。


「そこを削る!」


踏み込む。


斬るのではない。


狙う。


紋様のみを。


正確に。


一閃。


さらにもう一閃。


黒が、剥がれる。


赤鬼が、わずかに動きを止める。


「今です!」


茜の声。


矢が放たれる。


破魔の光を纏って。


黒い紋様へ。


直撃。


浄化。


「グォォォォ!!」


赤鬼が咆哮する。


苦しむように。


だが――


その声は、わずかに変わる。


「……効いてる」


美雪が呟く。


「戻り始めてる」


「なら――」


両手を広げる。


冷気が集中する。


「止める」


足元を凍結。


動きを抑える。


さらに――


氷の鎖が絡みつく。


拘束。


「動き、止めた!」


「いいね!」


総司が踏み込む。


連撃。


黒い紋様を、的確に削る。


晋作も続く。


斬撃と銃撃。


侵食部分のみを破壊していく。


「あと少し!」


セレナが叫ぶ。


槍を構える。


「一気に削る!」


突き。


黒い紋様へ叩き込む。


その瞬間――


――ドクン


強く、脈打つ。


赤鬼の胸部。


黒い紋様が、集中している場所。


「……そこだ」


晴明が静かに言う。


「核が露出します」


黒が、剥がれる。


その奥。


赤い光。


脈打つ球体。


「見えた!」


総司が踏み込む。


だが――


「待って」


美雪の声。


一瞬、止める。


「最後は――」


一歩前へ。


「私がやる」


冷気が、収束する。


一点へ。


核へ。


「――凍てて」


完全凍結。


核の動きが止まる。


その瞬間。


「今だ!」


総司が動く。


最短距離。


一閃。


核を、断つ。


――静寂。


赤鬼の動きが、止まる。


黒い紋様が、完全に消える。


そして――


ゆっくりと。


その巨体が、崩れ落ちる。


「……終わった?」


茜が、小さく呟く。


その時。


赤鬼の体から。


淡い光が、溢れる。


苦しみはない。


ただ――静かに。


「……戻った」


美雪が、そっと言う。


その表情は、どこか柔らかかった。


「ええ」


晴明が頷く。


「浄化は成功です」


空間が、わずかに静まる。


だが――


「……まだ終わってないね」


総司が前を見る。


その視線の先。


黒く脈打っていた領域は――


ゆっくりと、その動きを止めていた。


「……いや」


晴明が、静かに言う。


「終わりです」


一拍。


「少なくとも、この地獄においては」


空気が変わる。


重く淀んでいた瘴気が、ゆっくりと薄れていく。


足元の赤黒い地面も。


脈動を止め、静かに沈んでいく。


「……消えてる」


茜が小さく呟く。


「さっきまでの気配が……」


「土地神が戻ったことで、空間が正常化しています」


晴明が続ける。


「この地獄そのものが、侵食されていた状態でしたから」


「ってことは」


晋作が肩を鳴らす。


「全部あいつの影響ってわけか」


「正確には」


晴明がわずかに首を振る。


「“あの状態にさせられていた”というべきでしょう」


その時。


背後から、気配。


振り返る。


そこに立っていたのは――


先ほどの赤鬼。


だが。


その姿は、すでに変わっていた。


黒い紋様は消え。


濁っていた瞳は、静かな光を取り戻している。


荒々しさは残る。


だが、その存在は――


“守護する者”へと戻っていた。


「……すまぬ」


低く、重い声。


「我は……この地を守る者でありながら」


一拍。


「侵されていた」


その言葉には、確かな意志があった。


「気にしなくていいよ」


美雪が、やわらかく言う。


一歩、前へ。


「戻れたんだから」


その言葉に。


赤鬼は、わずかに目を細める。


「……同胞か」


小さく呟く。


「その力……氷の気配」


「うん」


美雪が頷く。


「同じ側」


ほんの少しだけ、笑う。


「助けるのは当然でしょ」


静かなやり取り。


だが、その空気は穏やかだった。


その時。


晴明が一歩前へ出る。


「聞かせていただきたい」


視線を向ける。


「何が、あなたをあの状態にしたのか」


赤鬼が、ゆっくりと頷く。


「……異質な力だった」


低く語り出す。


「この地獄の奥」


「黒き門」


空気が、わずかに張り詰める。


「そこより流れ込む、異界の魔力」


「それにより、我は侵され」


「意識を奪われた」


「……魔術師か」


セレナが低く呟く。


「おそらくは」


晴明が頷く。


「人為的な干渉ですね」


「まだあるの?」


茜が不安そうに聞く。


赤鬼は、ゆっくりと視線を奥へ向ける。


「……この地だけではない」


一拍。


「この内側には、もう一つ門がある」


全員の空気が変わる。


「どこに繋がってるの?」


セレナが問う。


赤鬼は、静かに答える。


「……火の地」


「阿蘇」


その一言で。


場の空気が、さらに引き締まる。


「……マジかよ」


晋作が小さく呟く。


「地獄、もう一個あるってか」


「ええ」


晴明が静かに言う。


「繋がっている以上、同様の事象が起きている可能性が高い」


「つまり」


総司が、前を見る。


「まだ終わりじゃない」


「当然でしょ」


セレナが槍を担ぐ。


口角を上げる。


「むしろここからが本番よ」


「行くんですか?」


茜が小さく聞く。


その問いに。


全員が、自然と前を見る。


迷いはない。


「行くよ」


総司がやわらかく言う。


「放っておけないしね」


「うん」


美雪が頷く。


「同じだし」


「決まりだな」


晋作が笑う。


「次は火の地か」


「準備、整えてから行きましょう」


晴明が言う。


その視線は、すでに次を見据えている。


赤鬼が、静かに口を開く。


「門は、我が導こう」


一歩、前へ。


「償いとして」


その言葉に。


セレナが軽く笑う。


「頼りになるじゃない」


先ほどまでの禍々しさは薄れ、空間は徐々に静まりを取り戻しつつあった。


その中を――


AX班の六人と、赤鬼は歩いていた。


足元はまだ赤黒く濁っているが、先ほどのような脈動はない。


空気も、わずかに軽くなっている。


「……そういえば」


美雪が、ふと口を開く。


視線を赤鬼へ向ける。


「さっきまで、いっぱい出てきてた餓鬼」


一拍。


「あなたの眷属なの?」


静かな問い。


赤鬼は、ゆっくりと首を振る。


「……否」


低く、はっきりと。


「あれは、我が生みしものではない」


全員の視線が集まる。


「この空間が汚染されてから発生した“澱”」


「瘴気が形を成した存在に過ぎぬ」


「……つまり」


総司が静かに言う。


「自然に湧いたものってことかな」


「うむ」


赤鬼が頷く。


「我の意志とは無関係だ」


その言葉に――


「……よかった」


茜がほっと息をつく。


「ちょっと安心しました……」


「だな」


晋作が肩をすくめる。


「全部赤鬼の手下でした、じゃ後味悪ぃしな」


「ええ」


セレナも軽く頷く。


「救った意味がちゃんとあるってことね」


空気が、少し柔らぐ。


その流れの中で――


「……そういえばさ」


総司がふと思い出したように言う。


「さっきの、茜の技」


振り返る。


「上から降ってきたやつ」


「ああ、あれか」


晋作が口角を上げる。


「どうやったんだ?」


「え、あれですか?」


茜が少し照れたように笑う。


「その……」


少し考えて。


「霊力を込めて、分裂するイメージで放ってみたら」


一拍。


「できちゃいました」


「……できちゃいました、ってお前」


晋作が呆れたように笑う。


「センスでやってんじゃねぇか」


「でも、すごかったよ」


総司がやわらかく言う。


「ちゃんと全体に広がってたし」


「ありがとうございます!」


茜が嬉しそうに笑う。


「でも……」


少しだけ首を傾げる。


「技名、考えないとなーって」


「お、いいじゃねぇか」


晋作が乗る。


「それっぽいの付けようぜ」


「そうね」


セレナも頷く。


「どうせなら覚えやすい方がいいわ」


「うーん……」


茜が少し考える。


「雨みたいに降るから……」


一拍。


「“五月雨”とか、どうでしょう?」


「いいね」


総司がすぐに頷く。


「雰囲気合ってる」


「悪くねぇな」


晋作も笑う。


「和風でいい感じだ」


「いいじゃない」


セレナも納得したように言う。


「そのまま使えるレベルね」


「ほんとですか!?」


茜がぱっと表情を明るくする。


その流れで――


「じゃあさ」


総司が少し楽しそうに言う。


「さっきの美雪ちゃんの吹雪と合わせたやつ」


「……あれも名前つける?」


「え?」


美雪が少し驚いたように振り向く。


「必要かな……?」


「必要でしょ」


セレナが即答する。


「連携技は名前あった方が締まるのよ」


一拍。


少しだけ考えるように視線を上げて――


「“氷結地獄”とかどう?」


軽く言い放つ。


その瞬間。


「だーかーらー!」


美雪が即座に反応する。


「それもうまんまじゃん!」


少しむっとしながら。


「っていうか!」


一歩詰める。


「氷地獄にかけてるでしょ今!」


「ええ」


セレナがさらっと頷く。


「分かりやすくていいじゃない」


「よくないよ!」


即ツッコミ。


「だってそれ――」


一拍。


「まんま八寒地獄じゃん!!」


その言葉に。


「ははっ」


晋作が吹き出す。


「確かにそうだな」


「でも合ってるよね」


総司が少し笑う。


「現状、完全にそれだし」


「……うぅ」


美雪が言葉に詰まる。


「ちゃんと制御してるのに……」


小さくぼやく。


「でも名前としてはインパクトあるわよ?」


セレナが肩をすくめる。


「むしろ採用でいいんじゃない?」


「よくない!」


即否定。


そのやり取りに――


茜がくすっと笑う。


「でも、ちょっと好きです」


「茜まで!?」


さらに追い打ち。


「まあまあ」


晋作が笑いながら言う。


「仮でいいだろ、仮で」


「……仮だからね!」


美雪が強調する。


「絶対あとで変えるから!」


「はいはい」


セレナが軽く流す。


小さな笑いが広がる。


張り詰めていた空気は、完全に解けていた。


その中で――


赤鬼が、ゆっくりと前を向く。


「……この先に門がある」


その一言で。


空気が、再び引き締まる。


六人の視線が前へ向く。


歪んだ空間の奥。


わずかに揺らぐ、黒い影。


「……あれか」


総司が目を細める。


「ええ」


晴明が頷く。


「次の異界へと繋がる門でしょう」


「火の地だったっけか?」


晋作が軽く言う。


「阿蘇、だな」


「……また地獄だね」


総司が苦笑する。


「当然でしょ」


セレナが槍を肩に担ぐ。


「ここで終わりなわけないじゃない」


「うん」


美雪が頷く。


空間が歪む。


ゆらり、と揺らぐ黒。


その奥は、何も見えない。


「……入る前に」


総司が、静かに口を開く。


視線は門へ。


「一つ、確認しておきたい」


振り返る。


「この先って――」


一拍。


「また土地神の領域なのか」


「それとも、いきなり現実に出るのかな」


「……火口とかに」


その言葉に。


「いやそれ普通にヤバくない?」


晋作が即座に言う。


「いきなり溶岩の中とかだったらどうすんだよ」


「その可能性は否定できませんね」


晴明が静かに言う。


「異界の接続点が現世のどこに開くかは、術式次第ですから」


「ちょっと、それは勘弁してほしいわね」


セレナが肩をすくめる。


「さすがに準備なしで火口ダイブはしたくないわ」


「……聞こう」


美雪が赤鬼へ視線を向ける。


「あなたは分かる?」


赤鬼は、わずかに目を閉じる。


そして――


「……分からぬ」


低く、答える。


「だが」


一拍。


「確かなことがある」


視線が門へ向く。


「我が領域を侵食した力は」


「すべて、この門より流れ込んでいた」


空気が張り詰める。


「さらに」


続ける。


「この別府に点在する各地獄の力もまた」


「ここへと集められていた」


「……吸い上げてたってことか」


晋作が低く呟く。


「ええ」


晴明が頷く。


「明確な意図を持った術式です」


「つまり」


セレナが言う。


「誰かが意図的にやってるってことね」


「その通りです」


晴明が静かに言い切る。


一拍。


「誰かがこの二つの地を繋ぎ」


「魔術によって力を集めていた」


「……そういうことでしょう」


「……阿蘇も無事とは思えないね」


総司が小さく言う。


「ええ」


晴明が頷く。


「十中八九、影響は出ているでしょう」


その時。


赤鬼が、再び口を開く。


「……阿蘇の地には」


低く、重い声。


「我と同じく、地を司る存在がいる」


一拍。


「“健磐龍命たけいわたつのみこと”」


その名が、静かに響く。


「古き神」


「大地を裂き、水を導き」


「火の山を鎮める者」


「伝承では」


わずかに間を置く。


「巨大な大蛇として語られることもある」


「大地を這い、火を孕み」


「山の内に眠る存在」


「……スケール違うわね」


セレナが低く言う。


「ここより厄介そうだ」


晋作が笑う。


「だが」


赤鬼が続ける。


「その力は強大であるがゆえに」


「もし侵されていれば」


一拍。


「この地とは比べものにならぬ災いとなる」


沈黙。


その重さが、全員に伝わる。


その時――


「……待て」


赤鬼が続ける。


全員の動きが止まる。


視線は――美雪へ。


「同胞である、雪女の少女よ」


美雪が、わずかに目を見開く。


赤鬼が、一歩前へ出る。


手をかざす。


「わずかではあるが」


「我が妖力を――其方に託そう」


光が溢れる。


ゆっくりと、美雪へ流れ込む。


「……っ」


冷気が揺れる。


胸元のネックレスが、淡く光を帯びる。


静かに。


だが確かに。


「……これ……」


美雪が小さく呟く。


赤鬼は続ける。


「おそらくではあるが」


「集められた力は――」


「かの土地神を目覚めさせるために使われる」


「それならば」


視線が、美雪へ向く。


「其方の氷の力は、有効であろう」


「相手は、大蛇であり龍とも言える」


「火口にて眠り、力を蓄える」


「火の国の土地神」


「……相性最悪だね」


晋作がぼそっと言う。


「だからこそだ」


赤鬼が言い切る。


「相克の力は、時に最も強く働く」


一拍。


「この力をどう使うかは――」


「其方次第だ」


静寂。


美雪が、ゆっくりと顔を上げる。


ネックレスに触れる。


「……ありがとう」


静かに。


だがはっきりと。


「大切に使う」


一拍。


視線を上げる。


「――繋げる」


その瞳には、迷いがない。


赤鬼が、わずかに頷く。


「……いい目だ」


そして。


「ならば――行け」


その言葉に。


六人は門へ向き直る。


迷いはない。


黒き門が、脈打つ。


そして――


六人は。


その中へと踏み込んだ。


――黒き門・先。


視界が歪む。


一瞬の浮遊感。


そして――


足が、地を踏む。


「……っ」


次の瞬間。


目の前に広がったのは――


異様な光景だった。


地面一面に刻まれた、巨大な魔法陣。


幾重にも重なる円環。


不気味な紋様。


黒く、脈打つ光。


その周囲には――


無数の呪具。


そして、積み上げられた“何かの痕跡”。


瘴気が、濃い。


 「とりあえずいきなり火口じゃなくて助かったぜ」

 晋作がわずかに肩をすくめる。


「……この壁の紋様…西洋系ね」


セレナが低く呟く。


「黒魔術の祭壇ってところか」


晋作が吐き捨てるように言う。


その中心。


魔法陣の核。


そこに――


一つの影。


黒いフードを被った人影が、静かに立っていた。


そして。


ゆっくりと、顔を上げる。


「……おやおや」


不気味に歪んだ声。


「ネズミが入り込んだようですねぇ」


一歩も動かず。


ただ、こちらを見ている。


「各地獄からの魔力の流れを断ち切ったのは」


一拍。


「あなた方でしたか?」


沈黙。


その空気を切るように。


「……気味悪ぃのが出てきたな」


晋作が吐き捨てる。


「だな」


総司も静かに頷く。


「まともじゃなさそうだ」


その言葉に。


黒フードの男は、わずかに笑った。


「これはこれは」


「手厳しい」


ゆっくりと一歩、前へ出る。


「では、名乗りましょう」


フードの奥から覗く口元が歪む。


「我が名は――アザル・クロウ」


一拍。


「夜の家族に連なる者」


「その配下、とでも言いましょうか」


その言葉に――


「……っ」


セレナの表情が、わずかに揺れる。


「では聞きましょう」


晴明が一歩、前へ出る。


「何のために、ここまで大掛かりな術式を?」


その問いに――


アザル・クロウの口元が、ゆっくりと歪む。


「……ほう」


わずかに目を細める。


一拍。


「安倍晴明」


名前を、はっきりと呼ぶ。


「これはこれは」


くつくつと笑う。


「思っていた以上に、面白い舞台になりましたねぇ」


そして。


ゆっくりと、両手を広げる。


「決まっているでしょう?」


「この国の妖怪どもを――従えるためですよ」


一拍。


「手始めに、あの赤鬼」


「そして――この“大蛇”」


その瞬間。


背後の空間が、歪む。


――ズ……ッ


巨大な影が、浮かび上がる。


赤い鱗。


うねるような巨体。


「……っ」


茜が息を呑む。


「……龍か」


晋作が低く呟く。


「ええ」


アザルが笑う。


「もはや“大蛇”などと呼ぶには相応しくない」


「龍と呼んでも差し支えない存在」


その赤き巨体が、ゆっくりと蠢く。


完全ではない。


だが。


圧倒的な存在感。


「完全になるまで」


アザルが続ける。


「あと少しだったのですがねぇ」


わずかに肩をすくめる。


「あなた方のおかげで」


「最後の一押しが足りなくなりましたよ」


その声に、苛立ちはない。


ただ――愉しんでいる。


「せっかく」


軽く笑う。


「餓鬼どもに生贄を用意させようとしていたのですがねぇ」


その言葉に。


空気が、一変する。


「……そんなことのために」


総司が、低く言う。


一歩、前へ。


「この国の人を危険に晒したのか」


「……ふざけんな」


晋作も続く。


「遊びでやっていいことじゃねぇぞ」


その言葉に。


アザルは――笑った。


はっきりと。


愉快そうに。


「遊び?」


一拍。


「とんでもない」


その声が、低く沈む。


「我ら夜の帝国が支配するためには」


「その程度の贄など――当然のこと」


「……狂ってるわね」


セレナが吐き捨てる。


「ええ」


晴明も静かに言う。


「価値観が違いすぎる」


「ですが」


アザルが続ける。


「あなた方のような力を持つ者がいれば」


一拍。


「もはや贄など必要ない」


その口元が、大きく歪む。


「ここで大人しく――贄となってもらい」


一拍


「完全なる存在へと、至らせていただきましょうかぁぁぁ」


その瞬間。


――ドクン


地面が、脈打つ。


「……来るよ」


総司が低く言う。


次の瞬間。


――ボコッ!!


地面が弾ける。


そこから――


異形の存在が這い出る。


餓鬼とは違う。


歪んだ肉体。


異様な形。


次々と。


絶え間なく。


湧き出る。


「チッ……キリねぇな」


晋作が構える。


「数で押す気かよ」


「来るわよ」


セレナが槍を構える。


「全員、散らばらないで」


「はい!」


茜が弓を引く。


「準備できてます!」


「行こうか」


総司が静かに言う。


「うん」


美雪が頷く。


冷気が、わずかに揺れる。


晴明が符を構える。


「……全員、連携を」


一拍。


空気が張り詰める。


そして――


「――始めるぞ」


戦いが、再び始まる。


11話 完


11話となります!別府地獄侵攻編

中盤終了です!


ここまでお読みいただきありがたうございます!

ぜひご意見、ご感想など頂ければ幸いです。


明日も10時に12話更新いたしますよろしくお願いいたします。

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