第476話 楽しいばかりじゃいられない
リブロ王子が剣術大会で優勝を決めた夜、学園長に許可をもらってささやかな祝勝会が行われた。
通常夜の学園は宿直の教官以外は全員帰ってしまっている。今回は久しぶりの王族の優勝と、学園祭の真っ只中という条件が重なった事、さらには聖女まで居るということで特別に許可されたのだ。
食事の準備はエスカとアンマリアが中心となって行っている。なんで王女と未来の王妃が準備なんてしてるのだろうか。
ところが、フィレン王子たちもまったくその事を気にしていない。まぁいつものことといったところなのだろう。
ちなみにではあるが、メチルとフィレン王子の護衛は城へと戻り、今日のことは伝えていたらしい。国王も王妃も笑いながら許可を与えてくれたらしく、戻ってきた二人はなんともいえない表情をしていた。
「お帰りなさい。その様子では外泊の許可が下りたようですね。さぁ、準備ができていますから、二人もこっちに来て下さい」
ミズーナ王女に見つかって呼ばれるメチルと護衛。招かれるがままに、宴の席へと混ざったのだった。
翌日、学園祭は片付けに入る。
剣術大会の決勝戦が最大の見せ場である以上、祭りの後なのだ。
夜が明けるとフィレン王子やリブロ王子、それとアンマリアとサキは城へと引き上げていった。
残ったミズーナ王女とエスカ、それとメチルの三人はボンジール商会の片づけを手伝っている。
エスカとメチルで作ったアロマキャンドルとせっけんが飛ぶように売れたので、ボンジール商会のギーモはとにかく満面の笑みを浮かべていた。
「ふはははは、笑いが止まらぬとはこのことですな。昔はテトリバー家の小麦だけでしたのに、今はこんなに稼ぐ手段があるのですから」
数年前まではテトリバー男爵領の小麦に助けられていただけの弱小商会だったボンジール商会。それがアンマリアたちの介入によって王国のトップクラスの商会に化けたのだ。
そんな状況だというのに、エスカまでが首を突っ込んできてこの有り様だ。それはもう笑いが止まらないというのはとても頷ける話なのである。
「あら、いやですわね、ギーモ」
だが、笑ってばかりのギーモにミズーナ王女がにこやかに話し掛ける。
「なんですかな、ミズーナ王女殿下」
笑いを止めて真面目な顔でミズーナ王女に声を掛けるギーモ。
「エスカとメチルがいなければ作れないですし、販売もあくまでも委託でございます。売り上げのいくらかは、私たちの方で回収する契約ですので、その事をお忘れにならないようお願い致します」
「ははは、そうでしたな。まったく、ちゃっかりなさっておりますな」
顔を引きつらせるギーモであるが、王族相手にそんな顔を見せていいのだろうか。メチルはなんとも複雑な表情を見せていた。
「ギーモ様、片付けが終わりました」
「そうかご苦労だったな」
部下の報告があり、ギーモは改めてミズーナ王女へと向き直る。
「ミズーナ王女殿下、エスカ王女殿下」
「何でしょうか、ギーモ」
頭を下げて発言するギーモに視線を向けるミズーナ王女。
「撤収の支度が完了しましたので、私どもは商会へと戻らさせて頂きます。今回用意いただいたせっけんのレシピも、いずれ売って頂けますことを願っております」
「まったく、強欲ですね」
「はははっ、商人はこうでないとやっていけませんよ。たとえ王族が相手でございましても、ね」
ギーモはこうだけ言い残すと、学園を後にしていった。
ギーモたちが立ち去り、残されたミズーナ王女たち。
「さて、私たちも城に戻りましょうかね」
「そうね。手伝うことも無くなっちゃったし、週明けまで暇だわ」
「では、中間試験に向けて勉強でしょうかね」
「うげ……」
メチルがさらりと放った言葉に、エスカが露骨に嫌な顔をする。
その反応を見たミズーナ王女。エスカに対して怖い笑顔を向けている。
「あら、まさかエスカってば、最後まで赤点ぎりぎりでいるつもりじゃないですよね?」
「あは、あはは、まさかぁ……」
ミズーナ王女がじっと顔を見つめると、エスカは少しずつ視線を逸らしていっている。どうやら相変わらず勉強がダメなようだ。
魔法実技こそ点数は高いものの、エスカの座学は壊滅的なのである。
まったく、エスカのこのダメダメ具合には同じ王女として頭の痛いかぎりのミズーナ王女である。
「メチル、エスカをしっかり捕まえておいて下さいね。今日からしばらく勉強漬けにします」
「承知致しました、ミズーナ王女殿下」
ミズーナ王女の命令に淡々と従うメチルである。
これにはがっくりと肩を落とすエスカではあるものの、さすがに王族としての威厳というものはちゃんと持ってもらわないと困るというものだ。
というわけで、城に戻った後のエスカは見事に城に閉じ込められてしまった。とはいえ、あまり根を詰めすぎてしまうとエスカは瞬間移動魔法で逃げ出そうとする。なので、アンマリアたちが時々気分転換できるように部屋を訪れて対処したのだった。
楽しかった学園祭が終わり、地獄の後期の中間試験は間もなくだ。
はたしてエスカは、赤点を逃れることができるのだろうか。




