第475話 剣術大会決勝戦
そして、いよいよ始まる決勝戦。
対戦はリブロ・サーロイン王子とマーメル・ハラミールである。
王子と王国騎士団長の甥っ子という対戦カードは、会場を盛り上げるには十分すぎる。会場の中には、去年のフィレン王子とタン・ミノレバーの戦いを思い出して声を張り上がる者すらいた。
だが、会場の盛り上がりとは対照的に、試合会場の二人はとても落ち着いている。
「リブロ殿下との戦いとなるとは、このマーメル光栄に存じます」
「卒業したら、騎士団でもっと剣を交えられますよ」
「ははっ、確かにそうですな」
言葉を交わすリブロ王子とマーメル。
「ですが、こういう場で戦うのはやはり特別です」
マーメルはゆっくりと剣を構える。
「ですので、ここは持てる力でもって全力でお相手致します」
「それは楽しみですね。ボクも全力でいかせてもらいましょう」
二人とも同じように体の真正面で剣を構える。そのため、この試合会場の辺りだけがまるで空気が違うかのように冷たく張りつめている。
試合会場から、観客たちの声が完全に消え失せる。
「始め!」
審判の声が響き渡る。
「うおおおおっ!」
同時に二人揃って走り込んでいく。先手必勝と言わんばかりのダッシュ。
振りかぶった剣を相手の左側から斜めに振り下ろす二人。
カキーン!
試合用の模擬剣がいい音を響かせている。
「正面からぶつかり合うとは、思ってもみませんでしたね」
「王太子の地位は兄上になりましたが、ボクだって王子です。逃げたりはしませんよ」
「面白い」
剣を押し合っていても埒が明かないと判断したのか、一度距離を取って仕切り直すリブロ王子とマーメル。
二度目は構えが変わり、フェイントを入れるように動く。
魔法の使えない純粋な自前の体力体術だけで動く剣術大会だというのに、二人ともかなりトリッキーに動く。
二度目の攻撃はリブロ王子が先に放つ。だが、さすがに王国騎士団長を伯父に持つマーメル。その動きを読み切ったかのように躱す。
自分としては十分に捉えたと思ったリブロ王子だったが、マーメルの身体能力は思った以上に高いようだった。
「甘いですよ、リブロ殿下」
攻撃直後の隙を狙って反撃を繰り出すマーメル。だが、リブロ王子だって負けてはいなかった。
マーメルの反撃を体を捻りながらも躱す。互いに攻撃を躱したところで、もう一度距離を取り合った。
「さすがにお互いに一筋縄とはいきませんね」
「もう少し楽とは思ったんですけれどね。ここまで勝ち上がってきた実力は本物のようですね」
剣を構えて互いに笑顔を見せている。
「ならば!」
同時に叫ぶと、再び強く踏み込む。
甲高い音が再び響くと、先程までとは違って今度は激しい打ち合いになる。
さっきまでの一撃一撃の大きな動きとは違った素早い動きの応酬に、観客たちは興奮して盛り上がる。やはり、激しい剣の応酬は見た目に派手であり盛り上がるのである。
しかし、こうなってくると地力の差が大きく物を言い始める。
いくら王国騎士たちと訓練をしているリブロ王子とはいえ、魔力循環不全に陥って一時的に落ちていた身体機能では、いよいよ限界を迎え始めていた。
「どうなさいましたか、リブロ殿下。先程から防戦に徹しておられますね」
異変に気が付いたのか、マーメルはリブロ王子を煽るようなことを言っている。
だが、リブロ王子はその言葉に反応することなく、マーメルの攻撃を凌ぎながら反撃の隙を窺っている。とはいえ、相手は王国騎士団の団長の甥っ子だ。そんな隙が簡単に見つかるわけがなかった。
一瞬の判断で、後方へ跳んで少し距離を取るリブロ王子。だが、その程度の距離の確保など、今のマーメル相手では通用するものではなかった。
「後退は敗北の証ですよ、殿下!」
一瞬で距離を詰めたマーメルはすぐに決着をつけるべく、リブロ王子へと向けて鋭く剣を振り抜く。
決着はついた。誰もがそう思った。
だが、ただ一人、ここに諦めていない者がいた。他ならぬリブロ王子である。
マーメルの狙いはリブロ王子の持つ剣だ。根元に強い衝撃を与えて剣を叩き落とす作戦だろう。武器を落とせば拾い直すまでは無防備になる。つまり、剣を叩き落とせば実質そこで試合終了になるのだ。
その狙いを見抜いたリブロ王子は、わざと両手で持っていた剣から利き手である右手を離して上体を反らす。
「なんだと?」
狙いがずれたことで、マーメルの攻撃はそのまま空振り。リブロ王子の左手に持たれた剣がそのまま無防備となったマーメルへと振り下ろされた。
リブロ王子の剣はそのままマーメルの背中を強打する。利き腕ではない左とはいえ、力を込めればそれなりの威力になる。
不意を突かれた事もあり、マーメルはそのまま会場の地面へと両手両膝をついてしまった。
思わぬ逆転劇に、会場は一気にしんと静まり返る。
「勝者、リブロ・サーロイン!」
審判の声が上がり、リブロ王子は剣術大会で優勝を果たしたのである。
何気に王子が剣術大会で優勝したのは父親の時代以来であり、会場の中は大きな歓声に包まれたのだった。




