第469話 ミズーナ王女の観戦
結果から言えば、一回戦は楽勝だった。あっという間にレッタス王子の戦いは決着を見ていたのだ。
「まあそうでしょうね」
「王国騎士団の訓練を受けているんだもの。そこらの学生じゃ相手にならないわよね」
ミズーナ王女があまりにもあっさりとした試合内容にため息をついていた。隣に座るアンマリアも、あまりの呆気なさに淡白な反応である。
とはいえ、ここまで強いとは思ってもいなかったので、意外といえば意外なのである。
「これで明日の二回戦に進んだけど、相手は今度は誰なのかしら」
「次の試合の勝者とだけど、子爵家同士の戦いみたいね」
じっと対戦会場を見つめるアンマリア。
ただ、去年までは自分もあそこで戦っていたかと思うと、ちょっと懐かしさに感情が複雑そうである。
「アンマリアもあそこに立ちたいですか?」
ひょこっと横から顔を出すフィレン王子。その顔を見てため息を吐くアンマリアである。
「まさか。もう戦わなくていいと思うと気が楽でいいですわ」
そう言い返すと、フィレン王子はくすくすと笑っていた。これには表情を歪ませるアンマリアである。
このやり取りの間に、次の戦いも終わってしまう。どうやら髪の長い方の学生が勝ったらしい。
「あの学生が、お兄様の次の対戦相手ですか。相手をあっさり倒していたから、それなりに手練れのようですね」
「あら、あれはカールですね。以前見たことがあります」
対戦相手を見たアンマリアが驚いたように反応している。
「アンマリア、知っているの?」
「私の侍女のスーラの甥っ子ですよ。カール・イース子爵令息よ」
ひと目見た時は思い出せなかったものの、ようやく思い出せたようだった。
アンマリアの侍女スーラの実家であるイース家は、そういえば子爵位だった。どうやら、甥っ子もそういう年になっていたようなのだ。
「甥っ子が頑張っているとなると、スーラも喜ぶでしょうね。これは後でちゃんと教えてあげなくては」
アンマリアはにっこりと微笑んでいた。
そうやって話しているうちに、いよいよリブロ王子の出番となった。
「あら、お兄様の応援だけで戻るつもりでしたが、リブロ殿下の出番になってしまっていますね。相当話し込んでしまったみたいですね……」
思ったより時間が経ってしまっていたことに、ミズーナ王女は正直驚いていた。
「これはリブロ殿下の試合も見ていかないといけませんね。フィレン殿下がここにいらっしゃるのですから、ここで去るのは失礼ですよ」
「むむむ……、そうですね」
アンマリアに言われて、仕方なく居残るミズーナ王女だった。
「リブロ殿下の剣の腕前ってどんなものですかね」
そう尋ねるのはアンマリアだった。
「そうですね。私ほどではないけれど、騎士団とならそこそこ打ち合えるくらいの実力はありますよ」
フィレン王子が答える。話の内容からすれば、結構な腕前のようだった。
「よくあんなハンデがありながらも、そこまでになられましたね」
「まあ、君のおかげかな、アンマリア」
二人の会話に首を傾げるミズーナ王女。
「あっ、そうか。ミズーナは知らないんだっけか。殿下、話しても構いませんでしょうか」
「構いませんよ。知見は広めておいた方がいいでしょうからね」
「ありがとうございます」
フィレン王子の許可が出たことで、アンマリアはミズーナ王女に魔力循環不全という病気のことを話す。
全身の魔力のめぐりが悪くなり、最悪死に至るという恐ろしい病気の話に、ミズーナ王女は顔を青ざめさせていた。
「そのような病気が……」
「実はいとこのタミールも患っていたんですよ。無事に勝てたようで安心はしましたが、その病気のせいで半年学園生活を棒に振りましたからね」
アンマリアのする話に、言葉を失ってしまうミズーナ王女である。
「まあ、そんな大病を患いながらも復活したリブロの試合だ。しっかり見てやって欲しい」
「はい、そうですね」
フィレン王子の言葉に、試合会場へと視線を向けるミズーナ王女たち。
中央にはリブロ王子と対戦相手となる男子学生が立っていた。
「さて、あそこでは魔法の一切が使えませんが、リブロの実力をしっかり見せてもらいましょうかね」
フィレン王子も身を乗り出して覗き込むくらいだった。さすが身内といったところだ。
「そういえば、フィレン殿下がこうやってリブロ殿下の戦いを見るのは初めてですものね」
「そっか、去年まで参加側でしたものね」
アンマリアの言葉にハッとするミズーナ王女。そう、去年まではフィレン王子も剣術大会の参加者だったのだ。なので、リブロ王子が出ていてもその姿を見ることができなかったのである。
それに、フィレン王子とリブロ王子が当たることもなかった。おそらくはタンかサクラと当たって負けていたのだろう。アンマリアにもまったく記憶がないのである。
さてさて、フィレン王子もアンマリアも初めて見るリブロ王子の実戦。
はたして、リブロ王子の実力のほどはいかがなものなのだろうか。緊張の戦いが、今始まろうとしていた。




