第462話 二年越しの真実
魔王によって消し炭にされたネズミの中から出てきたのは、どうやら指輪のようだった。
「あら、何なのですかね、それは」
エスカが気になって、魔王に尋ねている。
「これは暴食の指輪だな。名前の通り、身に着けるとあれこれ際限なく食らおうとする呪いの指輪だ」
魔王はそのように説明しているが、どうも納得のいかない事情があるのか首を傾げるアンマリアたちである。
「あら、でしたらどうしてあのネズミは体が大きくなったのでしょうか」
そう、ネズミが巨大化した原因である。
「指輪の持つ魔力がそもそも大きい。その魔力の影響によるものだろうな」
アンマリアの質問に淡々と答える魔王である。
魔王の説明によれば、暴食の指輪の魔力が大きすぎて、それを飲み込んだネズミの体を膨れ上がらせたということだそうだ。
放っておいても魔力に体が耐え切れずに弾け飛んだ可能性があるが、その場合だといろんなものが飛び散って面倒になるために、それは避けたかったようである。
それを聞いてアンマリアたちは、思わずその状況を想像してしまい、吐きそうになっていた。まぁ仕方のない事だ。
「それはそれとして、魔王様。暴食の指輪についてもっと詳しくお願いできませんか?」
アンマリアたちの様子を見て、メチルは話題を切り替えようと必死である。さすがにさっきの話はメチルにもきつかったのだ。
「そうだな。では、効果のほどをとくと聞くといいぞ」
魔王は暴食の指輪の効果を話し始めた。
さっきも言った通り、際限なく食事をしようとする効果が付与されるのはもちろん、そのために新陳代謝がよくなるらしい。
つまりたくさん食べるが、そのために痩せられるようになるのだという。
これを聞いた時、アンマリア、ミズーナ王女、エスカの三人にはとあることが頭をよぎった。
「それってまさか……」
「間違いないですね」
「これが原因だったのね……」
そう、三人の頭に共通してよぎったのは、二年前の食堂騒ぎである。
「なんだ、お前ら。何を思い出したのか説明しろ」
魔王が迫ってくるので、ミズーナ王女たちは顔を見合わせる。そして、当時の話をし始めたのだ。
「なるほどな。その状況なれば、この指輪が原因だろう。いろいろと腑に落ちぬ点はあるが、この呪具を使いこなした人間がいたということだな」
事件のあらましをすべて聞いた魔王は、なんとも複雑な表情を見せている。そして、話を聞き終わると、呪具を懐に大切にしまい込んだ。
「まったく、テトロやつは任されたのをいいことにずいぶんとぞんざいに扱ってくれたようだな。お前たちが倒してなかったのなら、この我が直々に手を下していたところだ。しょせん、奴はその程度の魔族だったというわけだ」
魔王は淡々と語っていた。とはいえ、言葉の節々から怒りのような感情がにじみ出ている。好き勝手してくれたテトロへと、封印されていたとはいえそれを許してしまった自分への怒りだろう。その隣では、メチルがその感情をひしひしと感じて小さく震えている。
「しかし、あれから二年も経つといいますのに、よく何事もなく残っていましたね」
「これのことか?」
ミズーナ王女は不思議そうに、魔王が再び取り出した暴食の指輪を眺めている。
「おそらくは何か不思議な力によって隠遁されていたのだろうな。それなりに呪術に精通していれば、呪具の力をある程度コントロールできるようになる。そうなれば、存在を隠しておく事も可能になるというわけだ」
「なるほど、そんなご都合主義が……」
「うん?」
エスカが反応すると、魔王が眉をピクリと動かしていた。
魔王の反応に首を左右に激しく振るエスカである。今の視線にはちょっと恐怖を感じたらしい。
「とりあえずだ。この街にある呪具はこれだけだ。まったく、テトロのやつ、あちこちに呪具をばらまきすぎだ……」
肩を強張らせてギリギリと歯ぎしりをする魔王。よっぽど現状に腹を据えかねているようだった。
だが、当のテトロは既に討伐済みである。うっ憤の晴らし先がない。これには魔王も大きなため息を吐くしかなかった。
「さて、城の連中が騒がぬうちに戻って休むとするか。無用な騒ぎは起こさぬ主義だからな」
「賛成、もう眠くてたまらないわ」
魔王の言葉に賛同するエスカ。眠気を我慢していたのか、大きなあくびをしている。
よくよく見れば、ミズーナ王女たちは揃って寝間着姿である。気付かれないように着の身着のままに出てきた事がよく分かる光景だった。
「ええ、そうですね。問題が解決したのなら戻りましょうか」
ミズーナ王女がそう言うと、アンマリアと一緒に展開していた防護壁を解除して、それからアルーの放った火も消して、何事もなかったかのように瞬間移動魔法で城へと戻ったのだった。
だが、この時、崩れた小屋をしっかりと確認してこなかった事が、後々に影響を及ぼすなど一体誰が考えただろうか。
魔王ですら気が付けなかった小さな火種は、その時を静かに待ちながらくすぶっていたのだった。




