第463話 穏やかな昼下がり
合宿にリブロ王子の誕生日パーティーも終わり、四週間ある夏休みも残り一週間。時間が経つのは早いというものだ。
残り一週間、ベジタリウス王国に戻るのもさすがに時間がないので、ミズーナ王女はサーロインの城でのんびりと過ごしていた。
「はあ、暇ですね」
学園の勉強も大体問題ないので、ミズーナ王女は暇を持て余していた。合宿にパーティーと忙しかったはずなのに、出された宿題はもう終わっているのだ。暇で仕方ないのは必然なのである。
「ミズーナ王女殿下、さすがにその姿勢はどうかと思いますよ」
「だって、暑いんですもの。今年はなんだか去年までと違って暑くないですかね」
「私はなんとも思いませんけれど、せっかく全属性を使えるのですから、ご自分でどうにかなさったらよいのではないですか?」
「それもそうね」
ミズーナ王女は、氷属性と風属性の魔法を使って、簡易の冷房魔法を発動させていた。
さすがは前世持ちというところだろう。いともたやすく魔法を組み合わせて作ってしまうのだから。
「私は冷たい飲み物でもお持ちしますね」
「ええ、お願いしますね」
メチルはそう言ってミズーナ王女の部屋を出ていく。
厨房へと移動していくメチルの目の前に、思ってもみなかった人物たちの姿があった。
「あれ、確かアンマリア様の妹といとこでは?」
そう、目の前にいたのはモモ・ファッティとタミール・ファッティである。お城の中にどうしているのか少々疑問である。
「えっと、メチルさんでしたっけか。こんにちはです」
ちょこんと挨拶をするモモである。タミールも小さく頭を下げている。
メチルたちが挨拶をしていると、部屋の扉が開く。そこからアンマリアがひょっこりと顔を出した。
「あら、メチルじゃないの。こんなところで何をしているのかしら」
「これはアンマリア様。王女殿下が暑いと仰るので飲み物を取りに厨房に向かっているところでございます」
アンマリアの質問に、淡々と正直に答えるメチルである。
「そうなのね。せっかくだわ、モモとタミールの二人でミズーナ王女殿下の相手をされてはどうかしらね」
「ええ?!」
アンマリアの提案に、タミールの方が驚いている。年頃の女性の部屋に入ることに抵抗があるからだろう。アンマリアは身内のようなものだから気にはならないが、さすがに他人となればそうもいかないのだ。
「それでしたら私も賛成ですね。学園の課題を全て済ませて、もう暇を持て余していらっしゃいますからね」
「あら、早いわね。さすがエスカと違って真面目なんだから」
感心した表情のアンマリアである。
「アンマリア様に褒めて頂けるとは恐縮です」
頭を下げるメチルである。すっかりメイド仕草も身に付いてしまっているようだ。
「では、私は飲み物を取ってきますので、もしよろしければ、アンマリア様がお二人を案内して頂けると助かります」
「それぐらいは構わないわ。朝から晩まで王妃教育を詰めらるかと構えていたんだけれど、思ったより自由な時間がありますからね」
アンマリアはそう言うと、モモとタミールの二人を連れてミズーナ王女の部屋へと向かっていった。
「ミズーナ王女殿下、遊びに来ましたよ」
「まあ、アンマリア。それとモモとタミールくんでしたっけ。お久しぶりですね」
「タミールとは合宿で一緒でしたでしょうに……。それに、誕生日パーティーでも挨拶をしたでしょう?」
「あっ、そうでした。申し訳ありませんね」
笑いながら謝るミズーナ王女。どうやら昨夜の一件でそこら辺の事がまとめて記憶から吹き飛んだようである。
「いえいえいえ、別に謝罪されるほどのことではありません。私は、アンマリアやモモほど目立ちませんから……」
両手と首を左右に振りながら、タミールは縮こまっていっていた。さすがに王族相手となると委縮しない方がおかしいというものである。
そのタミールの状態を見ながら、ミズーナ王女はくすくすと笑っていた。
「まったく、それだけの笑顔を見せるなんて変わっていますね、ミズーナ王女殿下」
ひょっこりと飲み物を持って戻ってきたメチルが口を挟んできた。
「あら、メチル。戻ってきたのですね」
「ええ、たった今ですけれど。まったく、そんな状態では殿方なんて見つかりませんよ」
「余計なお世話ですよ、メチル」
婚約者いないことを指摘されると、頬をぷくっと膨らませるミズーナ王女である。これでも前世持ちの転生者である。
「はいはい、口げんかはそのくらいにして、ゆっくりとお話でもしましょうか」
なんともいえない空気だったのを、二回の拍手であっという間に制してしまうアンマリア。さすがは王太子の婚約者となっただけのことはある。
現在王妃に最も近い存在ににっこりとした微笑みを向けられては、ミズーナ王女ですらも従わざるを得ない。全員で部屋に入ると、テーブルを囲んで座る。
今週末にはサキの誕生日パーティーも控えている。そのこともあってか、アンマリアが主導する形でメチルの運んできた紅茶をたしなみながら、大いに話は盛り上がったのだった。




